プロローグ 夏休みの終わりに
新章というより短編的な感じです。
戦ってばかりだったのでたまにはほんわか行こうと思います。
夏休み。
学生にとっては一年の中で貴重な長期休み。
海水浴やプール、花火大会にお祭等など、イベントにはことかかない。
学業から一時的に解放され、多くの学生は溜まったストレスを発散するように遊びまくるのが常だ。
しかし、ここに一人頭を悩ませる少女がいた。
「うーむ……さすがにこのまま終わるっていうのはなぁ……」
机にゴンっと額を押し付けた少女、柚木舞衣はそのまま首をひねって電子カレンダーを見やり、大きなため息をついた。
日付は八月二十三日の午前十一時。
はっきり言って八月も後半というかもはや終わりである。
五神戦刀祭はクロガネ襲撃事件によってうやむやになってしまい、イベントらしいイベントにはあれ以来参加できていない。
玖浄院の夏休み、というより育成校の夏休みは毎年行われている戦刀祭の都合上、普通の高校と比べると少し長い。
今年も九月半ば前までは休みがある。
けれど彼女の溜息は休みが残り少ないことに対する憂鬱からではないようだ。
「八月も残り一週間くらい……一応、各所のイベントはピックアップしといたけど……」
机に内蔵されている端末の電源を入れると、ホロモニタがヴン、と音を立てて舞衣の前に投影される。
投影されているのは残りの休み中に行われる祭りなどの大きなイベントの類。
そう、彼女の溜息が現していたのはこのイベントに行けるかどうかというため息だったのだ。
そんなもの一人なり友達数人を誘って行けばいいと誰もが思うかもしれないが、そういうわけにもいかない。
「約束はしてるし、瑞季なんかを誘ってもあいつがいなきゃ来ないだろうしなぁ……」
もう一度大きなため息をついた舞衣はメッセージアプリに通知が来ていないか確かめるが、特に連絡はない。
ネットの友人たちからはいろいろと誘いがあるものの、舞衣からすると今ばかりは約束した友人たちを優先したい。
「刀造りってやっぱり時間かかるのかなー。つーか、遅れるなら連絡の一つもよこせ――」
愚痴を言い切る前に端末の通知音が響く。
また広告でも来たかと特に期待もせずにアプリをタップしてトーク画面を開く。
「あ」
思わず間抜けな声が漏れてしまった。
トークのグループを見ずに開いてしまったので最初は気付かなかった。
通知は広告ではない。
画面にあった言葉は非常に端的というか、手短なものでただ一言のみ。
『戻ったぞー』
メッセージを送ってきた人物の名前は綱源雷牙。
待たせた割りにあまりにも簡素な言葉に思わず鼻で笑ってしまったが、舞衣はすぐに切り替えて手早くメッセージを送る。
『遅い! それと集まれるヤツ、このファミレスに集合!!』
友人たちが集まりやすいようにそれぞれの家から行きやすいファミレスのマップを一緒に送信し、下着同然だった格好から手早く着替えて鞄を引っ掴む。
そのまま階段を駆け下りて洗面所で身だしなみを整えると、彼女は玄関へ向かう。
途中でトーク画面を確認すると、現状で新都にいる友人たちは集まれるようだ。
無論、雷牙も含めて。
「舞衣ー。出かけるの?」
「うん、ちょっと友達と出かけてくる」
「気をつけるのよ。クロガネの一件から時間はたってるけどまだ物騒な話は聞くから」
「心配御無用! 集まる友達の中は戦刀祭に出場してる子だっているし、そのうちの一人は――」
言いかけたところで舞衣は口をつぐむ。
母はジャーナリストだ。
無論、娘のプライベートにまで押しかけるようなことはしないが、下手に教えてしまうのはあまりよろしくないだろう。
「――ま、まぁ強い子がついてるからそんじょそこらの連中なら余裕だって! それに私だって刀狩者の卵なわけだしね。じゃ、いってきまーす!」
これ以上声をかけられないように舞衣は勢いよく家を飛び出した。
背後では母が「遅くなる時は連絡するのよー!」と言っていたので、軽く手を上げてそれに答えつつ近場のバス停を目指す。
途中、玲汰にも声をかけようかと思ったが、やめておいた。
なにやら子供の声が騒がしく、下手に声をかけたら自分まで巻き込まれそうだったからだ。
残暑の暑さを感じながら久しぶりの集合に胸を弾ませながら舞衣は友人たちとの集合場所へ向かった。




