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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第七章 禍を断つ者
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エピローグ 鬼哭刀完成

 禍姫との戦闘から数日経過したある日、重傷を負った善綱の意識が戻ったという報せが届いた。


 雷牙達が病院に駆けつけると彼は親族に囲まれた状態で、非常に気だるげな様子で大あくびをかいていた。


 医師の話によると既に峠は越えているらしく、もうしばらく安静にしていればあとは自宅療養で事足りるらしい。


 当然のことながら刹綱を含めた親族は善綱の無事に胸を撫で下ろし、数日間張り詰めていた緊張感はようやく緩んだようだ。


 刹綱の表情からも不安感が消え、眼が覚めたばかりだというのにふてぶてしい態度を取っている祖父の姿にあきれていた。


 そして現在、雷牙と刹綱は病院の一階にある売店で善綱が注文した飲み物を買いに来ていた。


「まったくじーちゃんったら、起きて早々ジュースが飲みたいとか……。そこはお茶とかじゃないのかなー」


「いいじゃねぇか、元気な証拠だろ。医者も少量なら許したみたいだし」


「それはそうだけどさぁ」


 呆れた様子の刹綱だが、口元には僅かに笑みが浮かんでおり、昨日までと比べると精神的にかなり楽になっているのが見て取れる。


「お前も無理はするなよ。刀造りと霊力の消費で丸一日寝込んだわけだしな」


「それに関してはダイジョーブ。もう全快してるからねん!」


「ならいいけどな。あぁ、そうだ、鬼哭刀の仕上げはゆっくりやってくれていいぜ」


「え、出来ればすぐの方がいいんじゃないの? 別に今日からだってはじめられるよ?」


「せっかく善綱のじいさんが眼を覚ましたんだ。今日ぐらい家族で団欒してろよ。俺のことは気にしなくていいからよ」


 軽く刹綱の背中を叩くと、彼女は一瞬キョトンとしたもののすぐに微笑を浮かべた。


「……ありがと、雷牙くん。じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうよ」


「おう。鬼哭刀を仕上げることになったらまた連絡してくれ」


「うん。あ、忘れてた。お医者さんが言ってたんだけど、じーちゃんが助かったのは雷牙くんの治癒術が完璧だったからなんだって。だから、雷牙くんがいなかったらじーちゃんは助からなかった。……ありがとうね。雷牙くん。じーちゃんを助けてくれて」


 はにかみながら感謝の言葉を述べられ、雷牙は少しだけ気恥ずかしくなる。


 周りの眼は決して多いほうではない。


 ただ、面と向かって感謝されるというのはやはりどこかむずがゆさを感じるものだ。 


「気にすんな。刀狩者を目指すもんとして当然のことをしただけだ。それよかそろそろ戻った方がいいんじゃねぇか? じいさんが首を長くして待ってるぜ」


 雷牙は恥ずかしさを隠すように親指でエレベーターの方を指した。


 幸いなことに刹綱に気付かれることはなく、二人はそのまま善綱のいる病室へ向かった。



「ん?」


 善綱の病室に繋がる廊下で雷牙は足を止めた。


 視線の先には病室があるのだが、その前にハクロウの制服を纏った刀狩者が二人立っている。


 その片方の人物に雷牙は見覚えがあった。


 確かあれは京都に来た時に善綱の家まで案内してくれた女性、荒垣沙良だ。


「荒垣さん」


 雷牙が彼女を呼ぶと、沙良も「あ、綱源くん」と軽く手を上げてきた。


「なにやってんですか、こんなところで」


「いやぁ、ちょっと任務というか仕事でして」


「事情聴取でもやってんですか?」


「うーん、まぁそうなんだけど……。とりあえず中に入りましょう。その方がいろいろわかりやすいと思うので」


 沙良はもう一人の刀狩者のほうに視線を向けると「少しお願いします」と告げ、向こうが了承したのを確認してから病室の扉を開いた。


 中に入ると少しだけ空気が張り詰めており、雷牙は僅かに眉をひそめる。


 それに先程までいたはずの刹綱の両親と祖母の姿が見られない。


 どこかに出かけているのだろうか。


「あ……!」


 小さく声を上げたのは隣にいる刹綱だ。


 彼女の視線を辿ると、雷牙も思わず息を漏らした。


 二人の前にいたのは申し訳なさそうに俯いている銀磁だった。


 彼は禍姫から解放された後、同じように病院へ運ばれた。


 その後は面会などできなかったが、どうやら意識も回復し動けるようになったようだ。


「銀磁さん!」


 刹綱が声をかけると銀磁はハッとして彼女を見やった。


「刹綱ちゃん……よかった、無事だったんだね……」


「はい。銀磁さんも無事みたいでよかったです。面会できなくてずっと心配で……」


 刹綱の目尻にはかすかに涙が見えた。


 彼女からしてみれば銀磁は兄弟子にあたる存在で、苦楽を共にした仲でもある。


 禍姫から解放されたとはいえ、しばらく音沙汰なしでは心配になるのも無理はない。


「彼はつい先日意識が戻ったんです。精密検査などもあって連絡を入れる暇がなかったんですよ。それで今日大原さんが目覚めたという話を聞いて面会に来たんです」


 沙良の説明を聞くと、刹綱は涙を拭いながら納得したように頷いた。


 禍姫との繋がりは雷牙が断ち切ったとはいえ、一度乗っ取られている以上、体や精神に異常がみられないか検査するのは当然といえば当然か。


「にしたって意識が戻ったって連絡くらいしてもいいと思うっスけどね」


「それはすみません、こっちもいろいろとゴタついてしまっていて……」


 沙良は苦笑いを浮かべがながら頭をかいていた。


 若干張り詰めていた空気が僅かに緩んだものの、それを再び引き締めるような咳払いが病室に響く。


「それで俺に用とはなんだ。尾上」


 声はベッドに座っている善綱のものだった。


 彼の瞳は鋭く銀磁のことを見据えており、その場に居る全員が思わず緊張してしまうほどだ。


 明らかに口を挟める状況ではないことは刹綱も理解したようで、さっきからしきりに二人のことを見やっている。


 しばし沈黙が続いた後、銀磁は静かに呼吸してから意を決したようにふかぶかと頭を下げた。


「今回の件、本当にすみませんでした。体を乗っ取られたとはいえ、先生を刺してしまうなんて……。なんとお詫びをしたらいいのか……!!」


 謝罪の声は悔しさと師を刺してしまったという後ろめたさからか、かなり震えていた。


「どんな処分も甘んじて受け止めるつもりです。破門でも構いません……!!」


「ちょ、銀磁さん! なにもそこまで思いつめなくても!! 悪いのは銀磁さんじゃなくて禍姫ってヤツでしょ!?」


 刹綱が動揺しながら彼に声をかけるものの、銀磁はそれに見向きもせず善綱に対して頭を下げ続けている。


 すると「やれやれ……」と善綱が呆れたように額に手を当てるのが見えた。


「顔を上げろ。尾上」


 善綱に言われ、銀磁は恐る恐ると言った様子で頭を上げた。


「なにを言い出すのかと思えば、謝罪に詫び? それに破門だと? お前は何を言ってる。この傷はお前にではなく禍姫によってつけられたもの。お前が俺に謝ることなど何一つないだろう」


「し、しかしっ!」


「しかしもへったくれもあるか。いいか、俺がそう言っているのだからお前はなにも気にする必要はない! 次謝ったらぶん殴るぞ」


 大きく溜息をついた善綱からは先程までの威圧感のようなものは感じられなかった。


 その様子に雷牙と刹綱はそれぞれ顔を見合わせてホッと胸を撫で下ろす。


 あの雰囲気から一悶着起きるかと思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。


「もう、じーちゃん。変な空気にしないでよ。めっちゃびびったじゃん!」


「お前達が勝手にそう捉えただけだろうが。それよりもほれ、買ってきたもんよこせ」


 善綱に催促され、刹綱は「まったく……」と呆れた様子でかって来たジュースを放った。


 彼はそれをあけると少量と言われているというのに一気に煽ってしまった。


 その様子に銀磁も苦笑を浮かべており、謝罪したときよりかなり表情も柔らかくなった。


「てか、謝りに来ただけなら荒垣さんがついて来る必要あったんスか?」


「まぁ一応は重要参考人という扱いですから……。でも今回は本人の意志とは関係ない事件なので、罪に問われることはありませんよ。後日少しだけお話を聞くだけです」


「そりゃ当然だろう。もしもこいつを罪人にしようとしたら、ハクロウに乗り込んで直談判してやる」


「あ、あはは……。じゃ、じゃあ私は外で待ってますのでー……」


 善綱に睨まれ、沙良は引き攣った笑みを浮かべながら出て行った。


 最初の案内役にしろこの役にしろ、彼女も随分と難儀な立場である。


 雷牙が心の中で合掌していると「綱源くん」と銀磁が声をかけてきた。


「君にもまだお礼を言っていなかったね。ありがとう。君のおかげで僕はこうして先生に謝ることができたし、なにより生きることができた。本当に、ありがとう」


「礼はいいッスよ。それに俺一人だけじゃ尾上さんを助け出すことはできませんでした。助けられたのは、刹綱と刹綱が造った鬼哭刀があったからです」


「そうか……。じゃあ、改めて礼を言わせてもらうよ。ありがとう、二人とも」


 銀磁はうっすらを涙を浮かべながら頭を下げてきた。


 礼は言わなくてもいいのだが、彼なりのケジメというヤツなのだろう。


 雷牙はそれ以上何か言うことはなく、素直に銀磁からの感謝を受け止めた。


「さて、それぞれやることは終わったな。ならば、こんなところで油を売っておらんでやるべきことをすませて来い。尾上、お前はさっさと事情聴取を終えて独立の準備。刹綱、お前も雷牙の鬼哭刀をさっさと仕上げてしまえ。あとは磨きと銘打ちくらいだろう」


「それはわかってるけどさ。せっかくじーちゃんの意識が戻ったわけだし、もう少し家族の時間ってものを大切にしようよー」


「そういうのは仕事が全部終わってからだ。客を待たせている以上、鍛冶師ならばさっさと鬼哭刀を完成させるんだな」


「はいはい、わかったよ。……けどちょっと待って。仕上げるにしても工房が壊れてるんじゃ……」


「あー……確かにそうだな」


 雷牙は禍姫との戦闘の後に工房に戻った時のことを思い出す。


 尊幽と禍姫の激突によって、工房周辺はまるで天災が通り過ぎたかのような有様になっていた。


 二つあった工房もつぶれており、屋敷もほぼ全壊の状態だった。


「ど、どーしよ!? 研磨剤も砥石も、ノミも槌もないよ!? それに柄とか鞘の材料も!」


「落ち着け。ハクロウ関西支部に行けば鬼哭刀を整備する道具くらいあるだろう。まぁ少し遠いのが難点だが……」


「あの、だったら僕の工房を使ったらどうでしょう」


 銀磁の声に三人の視線が一気に集中する。


「尾上さんの工房って……もう持ってたんスか?」


「一応形だけはね。先生からなるべく早いほうがいいだろうってことで、あらかじめ決めておいたところがあるんだ。関西支部に行くよりは近いはずだよ」


「道具は揃っているのか?」


「ええ。ただ、刀装具の材料は少ないので、発注することになると思いますが……」


「それでも構わん。刹綱、ここは尾上の工房を貸してもらえ。材料の方は俺から業者に発注しておく」


「わかった。じゃあお言葉に甘えて使わせてもらいます!」


「うん。鍵は貸金庫に預けてあるから、ハクロウに戻る途中で寄らせてもらおう。ただ、やっぱり今日はもう遅いですし、作業は明日からの方が良いと思いますよ」


 銀磁の提案に善綱は僅かに眉間に皺を寄せた。


 刹綱を見やると、何かを頼み込むような視線を善綱に送っている。


 しばしの沈黙の後「はぁ……」と善綱が大きなため息をついた。


「まぁいいだろう。下手に根を詰めてもいいものはできんからな。お前達の好きなようにしろ」


 刹綱の無言の訴えと、銀磁のサポートによって善綱の方が折れる形となった。


「じーちゃんがそう言うなら作業は明日からだね。雷牙くんもそれでいい?」


「俺は別にいつからでも問題ないぜ。夏休みが終わる前だったらな」


「うん、だったら大丈夫! 磨きと銘打ちはすぐに終わると思うから!」


 グッと親指を立てた刹綱からは確かな自信が感じられた。


 もはや以前のような後ろ向きな様子は微塵も感じられない。


「とりあえず決まったならさっさと鍵を取りに行け。それと刹綱、智綱達は一階のロビーに居るはずだ。屋敷と工房の建て直しのため、業者と話している」


「それじゃあいろいろ伝えてくるね。また来るから、ちゃんと起きててよ」


「わかったからさっさと行け」


 しっしと厄介者を追い払うように手を振られ、刹綱は銀磁とともに病室を出て行く。


 雷牙もそれに続こうとしたが、振り返ったところで善綱に声をかけられた。


「雷牙。尾上と刹綱の件、礼を言う」


「……尾上さんや刹綱にも言ったけど、気にしないでいいぜ。人を助けるのが刀狩者の仕事だからな。まぁ、俺まだ正式な刀狩者じゃないけど」


「そうか……。しかし、お前ならきっとなれるだろう。頑張れよ」


「ああ。じいさんも体大切にな!」


 軽く手を上げ、雷牙は先に言ってしまった刹綱を追いかけた。




 それから数日後、雷牙と刹綱、そして銀磁の姿は工房にあった。


 三人の前には作業台の上に置かれた鬼哭刀がある。


 鞘に納められたそれは、刹綱が一から鍛え上げ、そして磨き上げた雷牙のための刀だ。


「できた……!!」


 刹綱は達成感を味わった様子で、口角を上げ、鞘に納まっている鬼哭刀を雷牙に差し出してきた。


「確認してみて、雷牙くん。問題はないと思うけど、一応ね」


「お、おう……」


 少しだけ緊張した面持ちで雷牙は鬼哭刀を受け取る。


 刀装具がついた分若干重くなったが、それほど気になる重さではない。


 鯉口の部分にあるエアロックを外し、やや離れた場所で一気に刃を抜き放つ。


 禍姫戦では焼刃土によってはっきり見えなかった刀身も今では完璧に磨き抜かれ、僅かに濡れているかのような美しさだ。


 刃文もくっきりと浮き出ており、もはや芸術品の域に達している。


 雷牙は一頻り鬼哭刀を眺めると、霊力を流して感触を確かめるように鬼哭刀を振るう。


 動きは一切阻害されず、軽くていい刀だ。


 やがて雷牙は満足そうに微笑みながら鬼哭刀を鞘に納めた。


「ど、どう!?」


 首をかしげた刹綱が結構な勢いで詰め寄ってきたので、雷牙は笑みを浮かべたまま答える。


「ああ、問題ないぜ。最高の鬼哭刀だ」


「そっかぁ……!! うーん、よかったー!! そしてやったー!! ヘーイ!!」


 刹綱は感極まったようで、万歳をしたあと雷牙にハイタッチを求めてきた。


 一瞬それに驚いた雷牙も、それに応えて二人はハイタッチを交わす。


 一度は挫折しかけた鬼哭刀がようやく完成したのだ。


 これくらい喜ぶのは当然だろう。


 寧ろ雷牙も喜びたい気分なのだが、鬼哭刀の完成度の高さに対する驚きの方が勝ってしまっている。


「やったね、刹綱ちゃん。お疲れさま」


「はい! 銀磁さんもありがとうございました。工房も貸してくれて」


「二人にはいろいろとお世話になったからね。これくらいは当然だよ。それよりも完成を先生に報告しに行こう。きっと楽しみに待っているはずだよ」


「はい! それじゃあ雷牙くん、一緒に行こう!」


「ああ」


 雷牙と刹綱はそのまま銀磁の運転する車で、善綱の入院している病院へ向かう。


 外はもう夜になっており、京都の街明りが窓越しに流れていく。


 それを眼で追っていると、ふと雷牙はまだ刹綱に聞いていなかったことを思い出す。


「そういえば刹綱、この鬼哭刀の名前ってなんなんだ? 銘打ちの時聞こうと思ったけど、忘れててよ」


「あーそっかそっか。えっとねぇ、その鬼哭刀の名前は――――」






 鬼哭刀も完成し、童子切の整備も終わったことで雷牙達が新都に戻る日がやってきた。


 京都駅には見送りに来てくれた刹綱と銀磁、そして善綱、沙良の姿がある。


「なーんかあっという間だったねー。結構一緒に居た感じしたけど」


「だな。俺もいろんな経験ができて楽しかったぜ、刹綱。鬼哭刀もありがとな」


「いいっていいって。雷牙くんが目指す刀狩者が人を助けるのが仕事なように、私達は鬼哭刀を造って刀狩者を助けるのが仕事だから。何かあったらいつでも言ってね」


「おう」


 互いに笑みを浮かべ、握手を交わす。


 その隣では尊幽と宗厳が善綱となにやら話していた。


「体はもう平気か?」


「ああ、動ける程度には回復した。まぁ医者からはしばらく刀を打つなと言われているがな」


「この際引退でもすれば? 後継は立派に育ってるわけだし」


「馬鹿を言え。まだまだ天下五匠の座を譲るつもりはない。それにもう少しすると五匠による会合もあるからな。それまでには万全にしておかねば」


「あー、そんなんもあったわねぇ。まぁアンタのことだからもうしばらくは死なないでしょ。また暇な時に遊びに来てあげるわ」


「ハッハッハ。残念ながらお前の相手をするのはお断りだ」


 それぞれ憎まれ口のようなものを叩きあいながらも、二人は笑みを浮かべていた。


 尊幽も言葉にはしないが彼が助かってくれてうれしいのだろう。


 すると、新都へ向かう便のアナウンスが響く。


「よし。では帰るとするかのう。雷牙も行けるか?」


「ああ。じゃあまたな、刹綱。鍛冶師の修業、頑張れよ!」


「うん! 雷牙くんも絶対刀狩者になってね! 応援してるから!」


 グータッチを交わし、雷牙は手を振りながら二人とともにホームへ向かった。


 ホームには既に高速新幹線が到着しており、三人は足早に貸し切ってある車両に乗り込んだ。


 適当な場所に座ると、発車を告げるアナウンスが響き、ゆっくりと新幹線は動き出した。


 窓の外に流れる京都の街並みを見やりながら、雷牙は満足げに口角を上げて出来上がったばかりの鬼哭刀を包みから取り出した。


 エアロックを外して刀身を確認すると思わず笑みが零れてしまう。


「なぁに笑ってんのよ気持ちわるい」


「し、仕方ねぇだろ! うれしいとこう、出ちまうだろうがよ!」


「まっ、わからなくもないけどねー。で、その刀の名前ってなによ。私ちょうど居なかったから気になってたのよね」


「それは儂も気になるのう。なんという名だ?」


「こいつの名前は――」


 雷牙は鬼哭刀を鞘に戻すと、ニッと笑みを浮かべながら告げる。




「――――『禍断(まがつたち)』」




「それにしても、随分と粋な名前を付けたものだな。禍つを断ち切るで『禍断』か」


 雷牙を見送った刹綱の隣では、善綱が納得したように頷いていた。


「最初はもうちょっと凝った名前にしようかとも思ったけどね。『鬼狩(きがり)禍断』とか『鬼斬(きざん)禍断』とか。ただ、雷牙くんと禍姫の戦いを見てて思ったんだ。きっと、雷牙くんは禍姫と戦う運命にあるんだって」


「なるほど。禍姫を断ち切るという意味も含まれているということか」


「うん。それと雷牙くんの能力も入ってるよ。結局のところシンプルなのが一番かっこいいじゃん!」


「確かにな。下手に先祖の名前に縛られることもなく、お前らしい良い名前だと思う」


「ふふん、もっと褒めてもいいよん」


 得意げに胸を張って見せたものの、善綱には「調子に乗るなバカタレ」と呆れられてしまった。


「だが、本当によくやった。いい仕事をしたな」


「うん。私もいい経験になったよ」


「そうか、ならば経験ついでに面白い話があるんだが、聞いてみるか?」


 ニヤリと笑った善綱の手元にはやや大きめの封筒らしきものが見えた。






 胎動する霊力の繭の中で禍姫は僅かに瞳を開けた。


 ……綱源雷牙。かつて我の分身である酒呑童子を葬った鬼狩り、源頼光の末裔……。


 思い浮かべていたのは、雷牙のことだ。


 ダメージを受けたといってもそれは彼女の霊力であり、本体になんら影響はない。


 それでも敗北は敗北。


 雷牙に対する激しい苛立ちと憎悪は決して看過できるものではない。


 ……しかしあの力……ヤツを彷彿とさせる。


 脳裏に思い浮かんだのは、自身をここまで追い詰めた一人の男の姿。


 遥か昔禍姫に引導を渡した者だ。


「……やはりあの一族の源流は……」


 繭の中で禍姫は一つの仮説に行きつき、雷牙とその者の姿を重ねるのだった。

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