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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第七章 禍を断つ者
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3-1 禍の影

 世間一般的に霊儀石とは霊力が結晶化したもの、という認識が強い。


 だがより厳密に餞別すると少し違う。


 本来の意味での霊儀石とは天然、自然の鉱石と星の中を循環する霊力が融合し、成分的に結晶化した霊力が全体の半分を超えたものを指す。

 

 鬼哭刀はこういった霊儀石と玉鋼を同時に溶かし、混ぜ合わせ、鍛え上げることで出来上がる。


 また、霊力の成分が多いものほどより優れた霊儀石とされており、そのようなものは必然的に高値がつく。


 中には鬼哭刀ではなくダイヤモンドなどの宝石として扱われるものも存在するほどだ。


 ちなみに妖刀の顕現を感知する鐘魔鏡に使われているのは、霊力成分の純度が百パーセントの霊儀玉と言われるものだ。


 霊儀石と同様に自然に生み出されるものだが、遥かに貴重なため、霊儀玉が産出できる霊鉱はハクロウと各国政府が完全に掌握している。


 仮に額をつけるとすると数億どころの話ではなく、どんな大富豪であったとしても小指の先ほどの僅かな欠片程度を手に入れることができれば幸運というレベルだ。


 とはいえ霊儀玉はあくまで国が管理する話。


 雷牙と刹綱が探し求めている霊儀石は霊鉱さえあれば発見はあまり難しくはない。




「さぁてと、意気揚々と霊鉱に入ってきたわけですが……」


 軍手をはめ安全に採掘するためにヘルメットを被った刹綱が雷牙の前でくるりと振り向いた。


「……実は雷牙くんに手伝ってもらうのは採掘の時だけなんだよね」


「掘る時だけってことか?」


「うん。霊儀石も鉱石だからね。ものによってはがっちりくっ付いてるから剥がすの結構大変なんだよー」


 確かに彼女の言うとおりだとは思う。


 周囲を見ると蒼い燐光を放っている霊儀石がちらほらと見えるが、簡単に取り出せるほど柔ではなさそうだ。


 だからつるはしを持たされたのだろうが。


 雷牙は入り口で持たされたつるはしを見やる。


 どうやらこれも鬼哭刀と似たような工程で作られた特殊な採掘道具のようで、雷牙が常に纏っている霊力がよく馴染む。


 けれど若干気がかりなこともある。


 それについて刹綱に問おうとした瞬間、しゅびっと彼女の人差し指が鼻先に向いた。


「なんで人力なんだよって思った?」


「え、あー……まぁ、多少はな。機械でもよさげな感じはしてる」


 雷牙の疑問は採掘方法が非常に前時代だったということ。


 機械が入れば人間が掘るよりも遥かに簡単だろうし、労力も少なくて済みそうなものなのに、なぜ人力で掘るのか。


 気になってしょうがないというほどではないが、妙に引っかかりを感じるのだ。


「確かに機械での採掘もできるよ。量産型の鬼哭刀を開発している企業なんかは機械採掘がメインらしいしね。でも、それじゃなんか寂しくない?」


「寂しい?」


「うん。機械だと人の感情がこもってないっていうか、暖かみがないじゃん? そういう風に生み出された鬼哭刀って結局ただの消耗品としてみてもらえなくて、なんか寂しい。だから、ウチは極力人力で出来るところは人の手でやるの。まぁ雷牙くんみたいなお客さんにやらせることはあんましないんだけどね」


 少しだけ申し訳なさげに笑う刹綱だが、雷牙はさほど気にした様子はない。


 むしろ刀を造ってもらえるのだ。


 手伝えることがあるなら手伝いたいくらいだ。


「その辺は気にしないでくれ。力仕事ならそれなりに自信がある」


「さすが未来の刀狩者。期待してるよ」


「おう。んで、どの辺りを掘ればいいんだ? この辺か?」


 とりあえず雷牙は適当に目に付いた大きな霊儀石を指差した。


 見た感じでは結晶化した霊力と鉱石の融合具合もよさげに見える。


 けれど刹綱は「うーん……」と首をかしげ、錬鋼眼を発動した状態で雷牙と霊儀石を見比べている。


 やがて彼女は静かに首を振った。


「霊儀石自体はすごく状態もいいし普通ならそれなりに高値がつきそうな感じだけど、雷牙くんの霊力波長の色とは合ってないね。それだと鬼哭刀にしても十分な力は発揮できないかも」


「そっか……。今更だけど俺の霊力波長の色って何色なんだ?」


 霊力波長の色と霊力の色は言葉だけを聞くと同じもののように聞こえるが、実際のところは少し違う。


 霊力の色とは純粋に霊力そのものが持っている色であり、基本的には青い色を持っている。


 周辺に広がっている霊儀石が発している光がその良い例だろう。


 集束していけば赤になったり、斬鬼や妖刀が纏っているものは黒や黒ずんだ赤、紫であったりもする。


 対して霊力波長の色というのは刹綱や彼女の祖父である善綱が持っている、錬鋼眼を有する者のみが捉えることができる色だ。


 人間や霊儀石などとにかく霊力を発するものは個人や物によって特定の波長がある。


 錬鋼眼はその波長を色として視ることができるのだ。


 当然全ての刀鍛冶がその瞳を持っているわけではないので、視覚化するために波形にするための計測器などもあるが、錬鋼眼はそのさらに上をいく精度で捉えることができるらしい。


「雷牙くんの波長の色は、金色だよ」


「き、金っ!?」


 驚愕の声をあげた雷牙の声が霊鉱の中に反響する。


 自分でもかなり素っ頓狂な声を上げてしまったと思わず口を塞ぐ。


「いいリアクションしてくれるねぇ。まぁ金色とは言ってみたけど、より明確に言うと光の色って言ったほうが近いかなぁ


「光の色?」


「うん。五神島に島を両断できそうなでっかい刀傷あったじゃん。あれって雷牙くんがやったんでしょ?」


「ど、どうしてそれをっ!?」


 あの刀傷を刻んだことを知ってるのは尊幽や宗厳など一部の人間だけのはず。


 善綱経由で聞いたのかと思ったが、刹綱はどこか得意げに自分の瞳を指差した。


「錬鋼眼の力か」


「そそー。自慢じゃないけど私の眼はかなりよくてさ。霊力波長だけじゃなくて残留霊力の波長まではっきりと視ることができんの」


「それで斬痕に残った霊力を見たってわけか」


「うん。いやーすごかったよ。島のあちこちにいろんな人の霊力が残留してたけど、あの刀傷だけは別格だった。光の筋っていうか道みたいなのが空まで続く感じでさー」


「だから光の色か」


「抽象的でごめんねー。あえて特定の色をつけるならぁ、白よりの金色?」


「金は譲らないんだな」


「もち、そこ結構大事だからね!」


 グッと親指を立てる彼女に雷牙は苦笑したものの、ふと疑問が浮かんだ。


 霊力波長を色としてみることが出来る錬鋼眼だが、本人が目の前にいる場合はどんな風に見えているのだろうか。


「今はどういう感じに見えてるんだ?」


「後光がさしてる感じ。ありがたやー……」


 刹綱は雷牙に手を合わせてふかぶかと礼をしたが、すぐにそれをやめさせる。


「拝むなっての。てか、後光みたいな感じってなんか恥ずいな……」


「へーきへーき。どうせ私かおじーちゃんしか見えてないし。さてさて、それじゃあお話はこれくらいにして先に進もうか。この辺見回してみたけど残念ながら雷牙くんの波長に合う霊儀石はなさそうだし」


 くるりと振り返り霊鉱の奥へ歩いていく刹綱。


 足元はかなり悪いがなれた様子でぴょんぴょんと跳ねながら進んでいく彼女を雷牙も慌てて追いかける。


「奥に行くって言っても迷ったりしないのか?」


「問題なーし。基本一本道だし、それにおじーちゃんが道標置いといてくれてるから、まず迷うことはないよ」


 指差した方を見やるとそこには鬼哭刀と思しき刀があった。


「おじーちゃんが今まで作ってきた刀。失敗作らしいよ」


「あれが失敗作ってマジか……」


 雷牙が表情を強張らせるのも無理はない。


 遠目から見てもわかる圧倒的な存在感、それでいて洗練された刃のみが纏うことの出来る流麗さも持ち合わせている。


 刀に疎いものであってもすぐに名刀であることは理解できるシロモノだろう。


「握ろうなんて思わない方がいいよ。妖刀みたく斬鬼化はしないけど、霊儀石と玉鋼の組み合わせをミスって使用者の霊力を馬鹿みたいに吸い上げる刀もあるから」


「それで失敗作ってことなのか」


「おじーちゃん曰く、飾っておく分にはいいけど武器としては成り立たない鈍らだってさ。見物するだけなら問題ないから博物館みたいなものだと思って」


「了解。で、あとどれくらい進むんだ?」


「視た感じ霊鉱の入り口近くにはなさそう。だから行くのは最深部だね。星霊脈に近いからかなり上質な霊儀石がとれるはずだよ」


「あいよ。なら……!」


 雷牙はグッと足に力をこめてから跳躍すると空中で刹綱を抱いた。


「わひゃ! な、なにっ!?」


「こっちの方が早い。危なそうなとこがあったら指示してくれ」


「……やることが大胆だねぇ。けど、こういうのも面白いかも。じゃあ雷牙くん、超特急で行って掘って帰ろう!」


「おっけ!」


 一際強く岩肌を蹴り霊鉱を突き進む。


 嫌な気配はしない。


 恐らくこちらに危害を加えてくるような生物はいないだろう。


 ならば刹綱の言ったように、さっさと自分に合った霊儀石を取って刀を造ってもらう。


 再び戦えるようになるために。




 霊鉱の中をひたすら進んでいると、雷牙と刹那は開けた場所に辿り着いた。


 ドーム状になっている壁には雷牙と刹綱がやってきた道以外に穴はなく、ここが最深部であることは明白だった。


「お疲れ様。雷牙くんのおかげで早くついたよー」


「これぐらいなら朝飯前だぜ。けど、結構奥まで潜ってきたよなぁ……」


 トップスピードでなかったとは言え雷牙の足でも三十分は軽くすぎている。


 これが歩きだったとなると採掘して地上に上がる頃には夜になっていたのではないだろうか。


 刹綱を下ろしながら周囲を見回していると、彼女がにんまりと笑みを浮かべた。


「もしかして、怖いの?」


「ちげぇわ! 想像してたよりも長くて深いんだなって話だ」


「なーんだそっちかー。ちょっと残念」


「なにがだよ、ったく……。それよりか今は霊儀石だろ。ここにあるのか?」


「焦らない焦らない。ちょっと待っててねー」


 刹綱は近くにあった岩の上を軽やかに上って行くと、一番上から周囲を見回した。


 瞳は既に錬鋼眼へ変化しており、淡く発光しているのが見えた。


 雷牙から見ると周囲は青白い光に照らされている洞窟にしか見えないが、彼女の瞳には様々な色の波長が見えているのだろう。


 正直に言ってそれを見分けることができるのはすごいと思う。


 これだけの霊儀石があるのだ、視界に入る色も尋常ではないだろう。


 その中から雷牙の波長に合った霊儀石を見つけることなど本当に至難の業だ。


 しばらく周囲を観察している刹綱を見守っていると、彼女の視線がある一点で止まった。


「あった!!」


 刹綱は歓喜の声で叫ぶと、岩の上から雷牙の下へ飛び降りた。


「うお、ちょッ!?」


 飛び降りたことに一瞬だけ思考が止まりかけたが、なんとか彼女をキャッチする。


「あ、あぶねぇな! 落としたどうすんだ!?」


「雷牙くんなら受け止めるって信じてるから大丈夫。それよりもこっち! ついてきて!」


 腕の中からぴょんと降りた刹綱と共に、彼女が見つけた霊儀石へ向かう。


 そこは僅かに地下水が溜まっている小さな泉だった。


 水中にある霊儀石の影響できらきらと輝く泉は美しく、思わず息をのむほどだ。


「ここか?」


「うん。泉の中心に雷牙くんと同じ波長の色が見える」


「了解だ」


 雷牙は靴のままためらうことなく泉に足を踏み入れる。


 地下水ということもあってか水温はかなり低い。


 が、そんなことを気にはしていられない。


 雷牙はつるはしに霊力を込めると呼吸を整える。


 体に流れる数日振りに霊力を送り込む感覚。


 コツを忘れていやしないかと若干の不安はあったが、どうやら問題ないようだ。


「気をつけて、雷牙くん。霊儀石はすごく脆いから採掘の衝撃で欠けちゃうこともある。それでいて地面との接触面は硬いから、弱すぎず強すぎずの力でできるだけ一発で取って」


「ああ。コイツだよな?」


 雷牙は水中に手をいれて少しだけせり上がっている霊儀石に触れる。


 刹綱がそれに頷いたことを確認すると、雷牙はつるはしのインパクトがもっとも強くなるように感覚をあける。


 何度か距離と角度を測りながらイメージトレーニングを繰り返す。


「いけそう?」


「……問題ねぇ、場所と角度は掴んだ。あとは込める霊力と力の加減だな」


「もし不安なら周りの霊儀石で試してみる?」


「いや、いい。これくらいクリアできなきゃいい刀を造ってもらうに値しないからな」


 ニッと笑みを浮かべ、雷牙は深く呼吸してからゆっくりと霊力をこめたつるはしを振りかぶる。


 刹那、雷牙は体に奇妙な感覚が走るのを感じた。


 なにかが自分を引き寄せているような感覚。


 まさか、と視線を霊儀石に落とす。


 そこには変わらず輝きを放っている霊儀石があるが、僅かに輝き方が違うように見えた。


 水面の揺らぎではない、霊儀石が自ら発光しているようだ。


「俺を、呼んでるのか……?」


 直感だったが、得体の知れない自信もあった。


 まるで霊儀石そのものが雷牙と共鳴しているようだ。


 これと似たような感覚は前にも味わった。


 霊力同士による感応現象だ。


 考えてみれば単純な話。


 霊力波長が合っているということは、雷牙の霊力と呼応できるということ。


 それが採掘のコツになるのかはわからないが、雷牙は深く呼吸してから構えたつるはしに霊力を流し込む。


 胸中で念じるのは霊儀石を一撃で取るという一心。


 瞬間、視線の先で霊儀石が強く発光したのを彼は見逃さなかった。


「フッ!!!!」


 静かな裂帛の声と共に放たれた一撃は、水中の霊儀石を最適な角度で捉えていた。


 次の瞬間響いたのは、コォン。という甲高い金属を打った音。


 ドーム状ということも相まって音はしばらく反響し、雷牙と刹綱の鼓膜を揺らす。


 手ごたえはあった。


 体から力を抜いて雷牙は霊儀石を掴む。


 すると、まるで果実を取るかのようにあっさりと霊儀石を取ることができた。


 どうやら先ほどの衝撃で地面との接着面が脆くなったようだ。

 

 泉の中からそれを取り出してみると、雷牙の掌からこぼれ落ちそうなほど大きな霊儀石だった。


「どう、だ?」


 あまりにも静かな刹綱に視線を向けると彼女は信じられないものを見るかのような視線を雷牙と霊儀石に向けた。


 が、それも束の間、刹綱の表情はすぐに笑顔に変わった。


 しかも感極まってしまったのか彼女が勢いよく雷牙に飛びついてきた。


「すっごーい! 本当に一撃で取っちゃうなんて! やっぱり私がファンになっただけはあるよー!」


「どわぁ!? 待て待てくっ付くな! せっかく取れた霊儀石が落っこちるだろ!!」


 雷牙は転びそうになるのをなんとか堪えながら片手で刹綱と、もう一方で霊儀石を何とか支える。


 けれど態勢とは裏腹に表情はどこか苦笑気味で、満足感も見え隠れしている。


 最後の最後で少しだけ苦労はしたが、なんとか霊儀石を採掘することに成功した。


 これで新しい刀が手に入る。


 雷牙は新たな鬼哭刀に対する期待感に胸を膨らますのだった。

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