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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第七章 禍を断つ者
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2-1 天下五匠の下へ

 目覚めてから三日たった今日、雷牙の病室には瑞季達が集まっていた。


 けれど雷牙を含めた彼らの表情はどこか疲れきったように見える。


 ただ一人を除いては。


 その一人とは申し訳なさそうに縮こまっているレオノアだ。


 今より少し前、病室に駆けつけた瑞季達は皆一様に雷牙の無事に安堵したのだが、レオノアだけは人一倍反応が大きかった。


 彼女は雷牙の無事を確認するやいなや雷牙に抱き着いたのだ。。


 いや、より正確に表すなら突撃したが正しいか。


 ともかく雷牙に抱き着いたレオノアはそれはもう凄まじい声をあげて泣いていた。


 顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、すごいことになっていた。


 雷牙を含めた全員は申し訳ないと思いながらも必死に笑いを堪えた。


 当然のことながらそれだけ泣けば他の入院患者にも迷惑になるので、すぐさま看護師長が飛んできて「綱源くん。お静かに……」と地を這うような声で圧をかけられた。


 死んだ魚のような光の灯っていない瞳に睨まれ、泣きまくるレオノアをなんとかなだめた。


 そして現在、全員でレオノアをなだめ雷牙達はようやく一息つくことができた状態なのだ。


「いやー……なんか疲れたな……」


「ホント、雷牙のお見舞いに来たはずなのに完全に別のほうに体力もってかれた」


「……すみません」


 レオノアは真っ赤に張らした目元を隠すようにうつ向きながら謝罪する。


 彼女の様子に雷牙は「けどまぁ……」とどこか気恥ずかしそうに頭を掻いた。


「あんな風に周りの目もはばからずに俺のために泣いてくれるってのは、ちょっとうれしかったけどな」


「そ、そうですか!? なら、もう一度!」


「やらんでいい。看護師長の眼ぇ見ただろ」


「次騒いだら殺すといわんばかりの瞳だったな。まぁ、建物全体に響き渡りそうな泣き声を上げれば当然だが」


「くっ!! ここがせめて屋外だったなら……!!」


「外ならいいって理屈でもねぇよ。サイレンじゃあるまいし」


 再び涙を流そうとしているレオノアの頭に手刀を落としながら呆れた雷牙だが、表情は柔らかく笑みがあった。


 瑞季や玲汰、舞衣もそれは同様で最初の安堵ではなく、今はどこか肩の荷が下りたような笑顔だった。


 事情聴取の日に見せていた暗さはなく、皆いつもの調子を取り戻しているようだ。


「さてっと、それじゃあ一息ついたことだし、これからの予定でも決めようぜ!」


 ビシッと親指を立てた玲汰に雷牙は僅かに首をかしげる。


「予定ってこれから皆でどっか遊びにでも行くのか?」


「違うぞ、雷牙。夏休みの予定を決めようという話だ」


「夏休み……。あー……そっか、一週間寝てたから完全に忘れてた……」


 ベッドサイドテーブルに表示されている電子カレンダーを見やり雷牙は納得した。


 確かに既に八月も中旬に差し掛かる頃合だ。


 普通の高校生ならば既に夏休みも佳境だろうが、育成校の場合はまだ一ヶ月近く休みがある。


「戦刀祭はあんな風に終わっちまったけど、夏はまだまだ終わってないぜ! プールに祭り、花火に肝試し! イベントは盛りだくさんだぜ!!」


 拳を硬く握り締める玲汰からは凄まじいやる気を感じた。


 瞳には炎が宿っているような気がしたが気のせいだろうか。


「……なんかえらい燃えてっけど、どうしたんだ玲汰のヤツ……」


 近くにいた舞衣に軽く耳打ちすると、彼女は呆れたように肩を竦めた。


「昔っからあんな感じよ。けど、あれだけ燃えてんのはアンタが無事だったからってのもあるのかもね」


「そうなのか?」


「うん。だからってわけじゃないけど、楽しんでやって。無理しない程度には私も調整するから」


「……おう」


 玲汰は「まずは花火大会……いや、プールがいいか!」と展開したホロモニタをいじっている玲汰を見やる。


 あれだけ楽しげに予定をくみ上げようとしてくれているのだ、自分もそれに答え多少意見を出すべきだろう。


 雷牙は自分がやりたいことを口にしようとしたが、ふと思い出してしまった。


「あっ」


 意外に響いた声に瑞季達の視線が雷牙に集まった。


「どうかしましたか?」


「トイレか?」


「ちげぇよ。いやぁ……なんつーかそのー……非常に言い出しづらいんだけどさ……」


 腕を組みながら雷牙は言葉を詰まらせる。


「もったいぶらずに言ってみろ。なにかあるのか?」


 小首をかしげながら問う瑞季。


 それを見やった雷牙は一度小さく息をつくと「実はさー」と指を組んだ。


「直近一週間か二週間は多分一緒には遊べないと思うんだ。ちっと京都まで行く用事が出来てな」


 一瞬、空気が凍り付いた。


 が、それはすぐさま破られる。


「なにぃぃいぃいいぃいぃぃ!!??」


 病室で今度は驚愕の絶叫が響き渡った。




「……なるほど。新しい鬼哭刀を造ってもらいに、か……」


 口元に指を当てた瑞季に雷牙は静かに頷く。


 玲汰が激しく叫んだ後、先日目覚めた後のことを雷牙はかいつまんで説明した。


 当然、禍姫のことや雷牙の先祖である頼光に関することは伏せてだが。


「ああ。だからすぐにどっかに出かけるっていうのはちょっとな……」


「そうですね、通常の刀よりもそれなりに加工が容易とはいえ、一日二日で造れるものではありませんし……」


「こればっかはどうしようもなさそうねー。玲汰、ってわけだから雷牙が帰ってくるまでは我慢ってことにしない?」


 舞衣やレオノアは事情を把握し、玲汰に告げるものの、彼は床に倒れこんでいた。


 頭にはとても大きなタンコブがあった。


 先ほど絶叫した際、舞衣が霊力をこめた拳骨を炸裂させたのだ。


 レオノアの一件で看護師長に眼をつけられているため、騒ぎを起すことはできない。


 それゆえの必要な犠牲だったととりあえず納得しておく。


「ねー、聞いてる?」


「聞いてるわ!」


「騒がないで。看護師長が来たらどうすんのよ……!!」


 詰め寄ってきた玲汰の口を舞衣が押さえると、ちょうどタイミングよく病室の前を柔和な笑みを浮かべた看護師長が歩いていった。


 どうやら感づかれてはいないようだ。


 威圧感は感じたが今のところ問題はないだろう。


「ふぅ……。わかった? 驚くならできるだけ静かにね」


「ん、んー……」


 こくんと頷いたことを確認し、舞衣は手を放す。


 玲汰は一度深く息をすると「けどマジかー……」と非常に残念そうに項垂れる。


「いろいろと考えてきたんだけどなぁ……」


「わるい。もうちょい早く言っとくべきだったな」


「いやーでも仕方ねぇよ。鬼哭刀がなくちゃこれから先戦えないもんな。この刀だとダメなんだろ?」


 彼が指差したのは病室で厳重に保管されている安綱だ。


 雷牙はそれに渋い表情を浮かべながら頷く。


「ああ。生憎と俺の実力じゃまだ早ぇとよ。次霊力を流しこんだら今回と同じかもっと悪くなるかもって言われた」


「確かに凄まじい存在感だ。これほど厳重に保管されているのに霊力が漏れ出している。これで酒呑童子を撃退したのか」


「そんなとこだ。つーわけでわるい。遊ぶなら俺抜きでやっててくれ、帰れる日がわかったら連絡する」


「謝らなくていいぜ。けど、改めて考えてみりゃあちょっと急すぎたよな。樹も陽那もしばらくは遊べないって話だったし」


「そういえば二人ともいねぇけどなにかあったのか?」


 剣星の話では皆無事だったらしいが、ここにいないということはどこか怪我でもしたのだろうか。


 やや神妙な面持ちで問うと瑞季がそれを否定するように首を振る。


「怪我をしたり精神的に不安定になっているわけではないよ。ただ、襲撃事件以降、新都にもまだ捕まっていないクロガネの構成員が紛れているらしい。親御さんがそれを心配してるんだ」


「うちはそうでもなかったけど、心配なとこは心配なんじゃない?中には育成校から転校させたいって考えてる親もいるみたいだし」


「まさかお二人のご両親は転校を考えているのでしょうか?」


「どうだろうな。グループ回線で通話した時はそんな話は持ち上がっていなかったが、こればかりは本人と家族次第だろう」


 あれだけの事件があったのだ。


 親が子供の身や将来を案じるのは当然だろう。


 刀狩者という職業にある程度の安全が保たれるようになったとはいえ、依然として危険と隣り合わせの仕事であることに変わりはない。


 今回の事件はそれを再認識させることにも繋がったようだ。


「とりあえずは皆すぐには動けそうにないって感じだな。じゃあ本格的にみんなで出かけるのは八月の終わりごろか?」


「ああ。俺もその辺りなら帰れると思う」


 玲汰に対して頷くと彼は瑞季やレオノアに視線を向ける。


 彼女達も特に問題がないようでそれぞれ頷いていた。


「舞衣は聞かなくても問題ねぇよな。家はすぐ隣だし」


「ええ。なにかあるならすぐ連絡するわ。……で、八月の終わりごろのイベント調べてみたんだけどこれとかどう?」


 彼女が投影したホロモニタに皆の視線が集まる。


 大きく表示されているのは花火の画像で、その下には活気付いた人々の様子や屋台が写っている。


 どうやら花火大会の告知ポスターのようだ。


「あー、これか。うん、花火もかなり上がるしいいんじゃねぇか?」


「瑞季も行ったことくらいあるでしょ」


「ああ。父と一緒に行ったことがある。だが、人でごった返すと思うぞ?」


「私が穴場の情報収集しといてあげるって。雷牙とレオノアはどう?」


 新都出身の三人は花火大会のことを知っているようだが、雷牙とレオノアはあまりピンと来ていない様子だ。


 けれど、ポスターや三人の話しぶりから察するにかなり大きな花火大会だということは理解できた。


「私としては日本で始めての花火大会なのでぜひ!」


「俺も行ってみてぇ。田舎だと遠くで上がってるのを見てるしかなかったからな」


「おーっし! ならここで決定だな。他にもプールとかいろいろやりたいことはあっけど、あとは雷牙が帰ってきてから決めるか」


「そうね。っと、もうこんな時間。ごめん、親と食事する予定だから帰るわね! じゃあまた後で連絡するから!!」


 時計を見た舞衣は少しだけ焦った様子であわただしく病室を出て行った。


 すると、玲汰も苦い表情を浮かべて雷牙に対して手を合わせる。


「わりい雷牙、俺も弟と妹の面倒みないといけねぇんだったわ! ちゃんと刀造ってもらって来いよ!! あと帰ってくる日が決まったら連絡しろよな!」


「ああ、わーったよ。じゃあな」


「おう!」


 ニカッと楽しげに笑った玲汰は舞衣の後を追うように駆けて行った。


 そのすぐ後に「廊下を走るなッ!」という怒号が聞こえたのは気のせいだろう。


「……せわしないなアイツら」


「仕方ないさ。君の行方がわからなくなってかなり落ち込んでいたからな。特に玲汰のヤツは」


「ふぅん。……お前は?」


「え?」


「いや、瑞季は落ち込まなかったのかなーって思ってよ。レオノアはあんだけ泣いてたからすぐにわかったけどさ」


「私は……」


 瑞季は言葉に詰まった。


 彼女の様子に流石に意地悪な質問だったかと雷牙は「いや……」と訂正しようとしたが、その声は瑞季によって遮られた。


「……心配したよ。すごく。だけど、信じることにしたんだ。君が無事だってことを」


 柔和に微笑んだ瑞季の頬は僅かに赤く染まっていた。


 その顔がとても艶やかで可愛らしくて、問うた雷牙の方も思わず頬を赤くする。


 瑞季も雷牙の様子を見てしまったようで恥ずかしげに視線を逸らす。


 二人は耳まで真っ赤にしていたが、その様子をどこか冷ややかな視線で見つめる者が一人。


「じとー……っ」


 効果音を口にするほど据わった瞳をしていたのは当然のことながらレオノアだった。


「な、なんだよ」


「いえ別に……。ただ、あんまりいちゃつかないで欲しいなーって思いまして」


「い、いちゃついてなんかねぇだろ!?」


 否定するものの茹蛸のように赤くなっている顔ではあまり説得力はない。


 レオノアは瑞季に視線を向けて人差し指をいビシッと突きつける。


「いいですか、瑞季さん! 私はまだ雷牙さんのことを諦めていませんから! お二人がこれから先どれだけ甘い空気を発しようが、私は必ずこの人のことを物にして見せます!!」


「あ、甘い空気って……。私は別にそんなつもりは……!」


「あれだけ顔真っ赤にしておいて今更そんなつもりはないなんて言わせませんよ!?」


「う……」


 いつもは冷静な瑞季も今回ばかりはレオノアの勢いにたじろいでいる。


 ことの発端である雷牙は事態をどう収拾すべきか慌てた様子を見せた。


 すると、タイミング悪く病室の扉が開く音が聞こえた。


「ただいまー。軽食買ってきたけど雷ちゃん食べるー?」


 病室にやってきたのは外に買い物に出ていた美冬だった。


 が、このタイミングは本当にまずい、非常にまずい。


 美冬ははっきり言って実年齢よりあきらかに若く見える。


 それこそ二十代前半と言っても平気なほどに。


 そんな彼女が雷牙のことちゃんづけ、しかもただいまなどと言って入ってくれば、当然の如く彼女達は反応を見せる。


「雷……」


「……ちゃん?」


 ぎゅるん! と二人の視線が雷牙に向く。


 赤く染まっていた瑞季の顔も今は完全に元に戻っており、眼光が非常に冷たい。


「ずいぶんと親しげですが……」


「……どういう関係なのだろうな?」


 説明をしろ。


 声としては聞こえなかったが、二人の背後には鬼のような形相でこちらを見据える阿修羅が見えた。


「り、了解です……!」


 雷牙は逆鱗に触れるべきではないと、完全に白旗をあげた状態で二人に対して頷くのだった。


 美冬はというとこれが今どういう状況なのか飲み込めていないようで、「うん?」と言いたげな表情を浮かべたまま首をかしげていた。

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