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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第六章 顕現する刃
157/421

3-4

 フィールドではしきりに撃音が轟いていた。

 

 それは剣戟であり、打撃であり、霊力による属性攻撃であった。


 立て続けに放たれる攻撃の一つ一つが的確に金熊を捉えて放たれたもの。


 一見すると学生側の方が攻め立てているようにも見える。


 しかし、それはあくまで金熊に攻撃が届くまでの状況だけだ。


「無意味」


 小さく告げた金熊に放たれた稲妻や岩塊が激突した瞬間、それらは一瞬にして弾き返された。


 稲妻は速く巨大な迅雷となり、撃ち出された岩塊は速度と鋭利さを増した岩の牙となって選手達に飛来する。


 けれど速度と威力を倍になったからといって、それが回避できないわけではない。


 選手達はそれぞれ回避行動をとると、跳ね返ってきた攻撃を見事に避けて見せた。


 彼らは視線を金熊に向けるものの、彼は開始位置から殆ど動いておらず、怠惰な様子で選手達を睥睨していた。


「マジにうぜぇ……」


 金熊の視線に対し、直柾は眉間に深く皺を寄せて苛立ちを露にする。


 試合が開始されてからしばらく時間が流れたが金熊にダメージはない。


 対して直柾達の方は重傷者はないが、少なからずダメージがあり、霊力、体力共に消耗もある。


「どんな攻撃も見えない膜みたいなヤツに弾かれる。しかも、どれもこれも倍になって……」


「鬼哭刀がぶつかれば衝撃がそっくりそのまま帰ってくるし、打撃でも無理。霊力の攻撃なんて格好のカモにしかならない」


「反射してくる膜にもそれなりに限界強度があると思ったが……。正直、底が見えないな」


「最初の女が分裂、デカオヤジが増幅? で、あの野郎が反射モドキか……。ったく、特異個体の残鬼の能力ってのはどいつもコイツもこんな面倒なのかよ」


 辟易した様子の直柾は大きなため息をついたものの、選手の一人がそれに頭を振った。


「いいや、特異個体の中でも連中の能力はさらに稀なものだ。言うなれば、刀狩者の番外属性のようなものだろうな」


「ようはテメェらで餞別したってわけか。なんでもありかっての」


「それが、我ら、クロガネ、だ」


 聞こえてきたのは、一音一音を刻むような抑揚のない金熊の声だった。


「我ら、妖刀、研究。結果、特異個体、生み出す、成功」


「……そういえば、星螺という女も言っていたな。妖刀を加工したというのはそういうことか。だが、実用段階にいたるにはそれこそ数百人単位での人間が必要なはずだ」


「当然。其故、人間、購入、及び、収集」


「人身売買か……」


「肯定。孤児、難民、落人、実験材料、豊富」


 ニヤリ、と金熊の顔が悦に歪んだ。


「人の命をなんだと思っている、この下衆が……!!」


 直柾の隣では正義感が強いであろう選手の一人が鬼哭刀が震えるほど強く拳を握った。


 けれどそれは彼だけではなく、他の選手達も嫌悪感と怒りを露にしていた。


 当然、直柾もそれは同じであり、表情こそ変えなかったものの、纏っていた疾風が荒れて頭髪を揺らしていた。


「やはり、お前達クロガネは斬るべき存在だ。人質のためにも、なんとしてもここで貴様を倒してやる!!」


「不可能。お前達、攻撃、無意味。敗北、認識、要求」


 金熊は大きな溜息をついた。


 選手達は再び攻勢に出ようとするものの、それよりも先に直柾が前に出る。


「気にいらねぇなぁ」


「辻、なにを――」


 とめられそうになったが、彼はそれを無視して苛立った様子で金熊をにらみつけた。


「テメェだけじゃねぇ。お前ら全体が気にいらねぇ。自分達が勝ってて、負けることも、死ぬこともないって思ってやがるその態度……イライラしてはらわた煮えくり返りそうだ」


 瞬間、直柾の足元から烈風が吹き荒び、彼の姿がその場から掻き消えた。


 同時に駆け抜けたのは一迅の風。


 フィールド全体は愚か、観客席まで届くほどの烈風が吹き荒れた直後、直柾の姿は金熊の上にあった。


 掲げた鬼哭刀には既に乱回転している風の刃があり、彼は一息の後にそれを容赦なく振り下ろした。


「ラぁッ!!!!」


 気合いと共に放たれたのは、放った直柾の姿が見えなくなるほど激しく回転する真空刃。


 風によって舞い上げられた砂礫や岩塊が刃に触れた瞬間、塵に姿を変えるほどの刃の嵐が金熊へ迫る。


「笑止。攻撃、無意味」


 呆れたような表情を浮かべ、彼は大きなため息をつきながら真空刃を迎えうつ。


 バチン! と甲高い衝突音がするとほぼ同時に真空刃は威力を増して直柾へと跳ね返ってくる。


 真空刃は速度、威力共に倍となって直柾を飲み込まんと迫るが、彼はすんでのところでそれを回避してみせた。


 全身に疾風を纏った彼はそのまま滞空して金熊を探るように見据えると、彼はそのまま空中を疾駆する。


 その間も金熊に対する攻撃のは手は緩めず、立て続けに風の刃を放ち続ける。


「愚策。打破、不可能、理解、要求」


「嫌なこった。俺はお前らみたいに調子こいてる連中の言いなりになるのがいやなんでね」


 悪態をついた直柾であるが、彼の放った刃の一つが頬を掠める。


 ぱっくりと裂けた頬には鋭い痛みが走り、血が舞うものの彼はそれもお構いなしに攻撃を続けていく。


 一見すると自棄を起こしているようにも見える直柾の行動に人質の様子は芳しくなかった。


 けれど、直柾が確かめようとしていることに選手達が気付くのにそこまで時間はかからなかった。


「これなら、どうだ!!」


 再び強力な攻撃を繰り出すも、キロリと視線を動かした金熊によって再びそれは弾かれる。


 しかも今回は彼の進行方向に合わせて、僅かに速度を遅くしてだ。


「ちっ!!?」


 直撃は免れたものの、滞空姿勢を取っていられず、そのままフィールドへと落下する。


「辻! 大丈夫か!!」


 ちょうど近くに落下したためか、他の選手達が駆け寄ってきた。


 すると直柾はすぐさま跳ね起きて彼らに対して軽く手を振る。


「あー、別に問題ねぇよ。ちっとばっか切り傷が増えただけだ」


 あっけらかんとした様子で答えるものの、彼は血塗れだった。


 傷こそ大きくないが、風の刃は容赦なく彼の体を切り刻んでいたのだ。


「……無茶をしすぎだ。俺達は一人で戦っているわけじゃないんだぞ」


「んなこたぁわーってんだよ。けど、あの野郎の能力を分析するにゃあ、同時攻撃してるだけじゃ意味がねぇ。よく見えねぇからな」


「だからって何も言わずに突っ込まないでよ。こっちだって気付くの多少は時間かかったよ?」


 傷の手当をしてくれている女子選手に注意されたが、直柾は肩を竦めただけだった。


 直柾があえて金熊に対して挑発的な態度で挑んだのには理由がある。


 それは金熊の能力をよく観察することだ。


 選手全員での同時攻撃は確かに威力は高い。


 けれど、激突する際の衝撃が大きすぎるため、反射のメカニズムがいまいち掴めないのだ。


 だから直柾は一人で金熊と対峙し、反射するときの様子を他の選手達に見せるように戦った。


 無論、金熊に洩れないように選手達にすら伝えていなかったが、彼らはしっかりと直柾の意図を汲んでくれたようだった。


「君の事は玖浄院一の問題児と聞き及んでいたが、どうやらかなり尾ひれのついた噂のようだな。俺達のために一人で戦ってくれて、ありがとう」


「……なんのことやらだ。んで、あの野郎の反射についてなんかわかったか? これだけして収穫ゼロは流石にきちーぜ」


「問題ない。寧ろ十分すぎるほど見させてもらったよ。おかげであの男の能力のメカニズムがつかめた気がするよ」


 少年は直柾から視線を外し、距離を開けた場所にいる金熊を見据えた。


 彼は相変わらず開始位置から動いていないが、視線だけは鋭くこちらを監視している。


「放った攻撃が増幅して返ってくるあたりから、純粋な反射ではないことはわかっていた。君が放った風の刃は、一度あの男が展開している膜のようなものに吸収されていた。そして、奴は攻撃を吸収した上で、その攻撃に自分の霊力を上乗せして放っている」


「倍になって返ってくる理由はやっぱそれか」


「ああ。なおかつ厄介なのは、速度、威力共に自由に調節ができそうだということだ。君が最後にくらったあれがいい例だろう」


「くらってねぇ。すこしよろめいただけだ」


 ぎろりと少年を睨みつける直柾だが、少年はそれを軽くあしらう。


「そうか、だったらすまない。ともかく、ヤツの能力は反射というよりは、吸収に近い。なおかつ放出も出来ることを考えると、断続的な攻撃に意味はないだろうな」


「なら、やるこたぁ一つだろ」


 直柾は治療を切り上げさせると、コキコキと首を鳴らしてから金熊を見やった。


「吸収ってこたぁアイツもいずれ腹いっぱいになるってことだ。だから、アイツの限界が来るまで攻撃を与え続ける。そうなりゃ攻撃だって通せるはずだ」


「……簡単に言うが、これだけ巨大なスタジアムを覆う結界を作り出した男だぞ? 結界を破壊するだけならまだしも、本体の限界は正直計り知れない。それでもやるか?」


「当然。勝機ってもんが那由他 の彼方にあるんなら、意地でもそいつを引き寄せる。それが刀狩者ってもんだろ?」


 ニッとどこか悪ガキめいた笑みを浮かべる直柾に、生徒達は呆れ半分に苦笑した。


 けれど、誰一人として彼の言葉に反対するものはいなかった。


「やることは簡単だ。とにかくあの野郎に放出させる隙を与えないこと。テメェの霊力が空になるまで攻撃を続ける。霊力が空になったら、鬼哭刀でぶった切る。つまり、一に攻撃、二に攻撃、三四も含めてさらに攻撃だ」


「……素直にごり押しって言えば?」


「そうとも言う。ったく、こういうのは綱源の役割だろうによ……」


 直柾は大きなため息をつくが、他の選手達はそれに首をかしげた。


「綱源ってあの一年生? 確かに赤い霊力には驚いたけど、そんなにすごいの? あの子」


「ああ。別段褒めるつもりもねぇが、アレの霊力量はバケモンクラスだな。霊力がものを言う持久戦になれば、アイツの勝る奴はいねぇだろうさ」


「そうか……。確かにそれほど言うのであれば欲しいところだったな……」


「いりゃあ本当に戦力になったんだがな。まぁアイツは酒呑童子直々のご指名受けてっから仕方ねぇっちゃ仕方ねぇけどな」


 直柾は方を竦めると、小さく呼吸してから金熊に向けて刃を向ける。


 すると、他の選手達も金熊を取り囲むように展開し、それぞれ自身が持てる霊力を引き上げていく。


「理解、不能。敗北、確定。勝利、不可能、何故、挑む?」


「それが刀狩者だ。目の前にいる敵がどんだけ強くても、逃げる理由にはならねぇんだよ」


「……愚昧、極まる」


「言ってろ。この機械野郎が」


 瞬間、直柾は鬼哭刀に疾風を纏わせて切先を突きつける。


 放たれたのは玖浄院で行われた選抜戦で見せた風による暴風を纏った大槍。


 けれど、選抜戦で見せたものよりも強化されたそれは、より強大かつ鋭く進化していた。


 攻撃はこれだけでは止まらない。


 金熊を囲うように展開した選手達からも次々に継続的な技の数々が放たれた。






 スタジアムの上空では鬼哭刀を抜いた状態の狼一が立っていた。


 眼下では激しい霊力の激突が起きており、再び戦闘が激化したことを物語っている。


『こちら鞍馬。各員、配置にはつけたか?』


「こちら伊達。問題なく配置につきました。スタジアムの中では学生達がまた攻撃を仕掛けてるみたいです」


『中継で確認した。どうやら彼らも俺達と同じ考えにいたったようだな。彼らには悪いが、この攻撃を利用させてもらおう』


 翔の声はどこか悔しげだった。


 彼が描いている結界破壊のタイミングは、金熊の霊力が弱まった瞬間を狙うことだ。


 結界の維持には多少なり展開した者の霊力が影響してくる。


 つまりは、展開者の霊力が弱まれば結界も連動してその強度や特性が弱まるのだ。


 けれどこれは完全に学生達の力を利用する形になってしまう。


「……必ず壊す。だからもう少しだけ、頑張ってくれ……!!」


 今はただ、祈ることしか出来ない。


 自身の不甲斐なさを痛感しながら、狼一は眼下で戦う学生達の無事を願うのだった。

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