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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第六章 顕現する刃
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2-4

「戦闘に介入されるのが嫌い?」


 戦闘を終えて翔と合流したヴィクトリアは疑問符を浮かべながら軽い手当てをしてくれている湊を見やった。


 湊は生体ノリが配合された応急用の湿布をヴィクトリアの頬に張りながら「はい」と頷いた。


「驚いたわね。彼女の様子からしてそんな好戦的には見えなかったけど……まさか光凛さんと同類だったりするの?」


「あぁいやさすがにあそこまではいきませんよ。というか、光凛さん並の戦闘狂なんて世界探しても多分いないでしょうし」


「……まぁそれもそうね。けどさっきの言い方だとそういう風に聞こえるんだけど?」


 ヴィクトリアが首をかしげると湊は苦笑した。


 ことは翔と合流したところまで遡る。


 合流してすぐに狼一が結界分析のサポートとして翔と共に作業をはじめた。


 ヴィクトリアもなにか手伝おうとしたのだが、多少怪我を負っているとのことで手当てを終えてからということになったのだ。


 そして湊に手当てをしてもらっている間にさきほど湊達が澪華の指示に若干苦笑い気味だった理由を聞いてみたのだ。


 回答として返ってきたのが、『澪華は戦闘に介入されることを嫌がる』ということ。


 ここだけを聞きけばヴィクトリアが言うように澪華も戦闘狂ではないかと思うのも無理はない。


 しかし、真相は違うようで湊は応急パックを閉じながら軽く息をついた。


「確かに捉え方によってはそうなんですけど、あの人の場合は自分以外が傷ついて欲しくないっていう精神から来る感じなんですよね」


「自分以外……つまりは自己犠牲ということ?」


「それに近いですね。傷つくのは自分一人でいい、だから手を出さないでっていう方が正しいですね」


「そういえば彼女は元々は医療チームで活躍していたのよね。なるほど、それなら納得がいくわ。民間人だけではなく、同じ刀狩者の命すらも助けるために自分を犠牲にする……。やろうと思ったとしても出来る人は少ないでしょうね」


 光凛と似ているようだが、根本的なところでどこか違う。


 対極とまではいかないが、ある程度の意見の衝突などはありそうだ。


「もしかして光凛さんと澪華さんは仲が悪かったりしたのかしら?」


「あー、そうですね。あの時はまだ澪華さんは医療課にいたんですけど、しょっちゅう怪我してくる光凛さんは怒られてました。もっと体を大事にしなさいって」


「眼に浮かぶわね。けど、篝さんは平気なの?」


「朔真隊長もそのあたりは考えてますよ。澪華さんは総隊長ですから万が一倒れられると全体の士気にも関わりますし、それを考慮して付き添うことにしたんだと思います」


 確かにそれはいい判断と言えるだろう。


 もしも澪華が倒れた場合、ハクロウ側が優勢であったとしても大将がなくなったことで士気は確実に落ちてしまう。


 一度下がった士気というのはそう簡単に戻らない。


 ましてやスタジアムの中にはクロガネのボスを名乗る酒呑童子がいる。


 盤面をひっくり返される可能性は十分にありえる。


「まぁ怨形鬼程度なら隊長二人がいればすぐ終わりますよ。ホラ」


 湊が指差した方を見ると、巨大な怨形鬼の体が大きくよろめいていた。


 体のいたるところでは霊力のものと思われる激しい光の明滅があった。


 悲鳴にも似た咆哮をあげた怨形鬼は口元に霊力を溜めて熱線を放とうとしたが、それすらも撃つ前に防がれている。


 消滅させられるのは時間の問題だろう。


「じゃあ私達はこの結界に専念できるわけね」


「はい。それじゃ、手当ても終わったので手伝いにいきましょう」


 二人は立ち上がると翔と狼一を手伝うために彼等のもとに向かった。




 ヴィクトリアが合流すると、翔と狼一は非常に渋い表情だった。


 現在、結界の周囲には翔の部下達が機材を用いて解析を進めているようだった。


「お待たせしました。現況は?」


「……最初から比べれば進展はある。が、まだ破るまでには至っていない」


「そうですか……。狼一、アンタが本気でぶっ放せば破れるんじゃないの?」


「無茶言うなよ湊ちゃん。鞍馬隊長が最初に言ってたろ? あの結界は受けた攻撃をそのまま倍返しにしてくるんだよ。俺の本気なんかぶつけたら周辺一帯がえらいことになっちゃうっての」


「だから反射されないようにぶち破ればいいんじゃない」


「それが出来たら最初からやってるって……。ねぇ、鞍馬隊長」


 狼一が視線を向けると、翔は静かに頷いた。


「どういうことです?」


 ヴィクトリアは首をかしげながら彼に問うた。


 狼一ほどの実力者であれば結界を破ることは可能なはずだ。


 いくら倍返しにされるといっても、結界は結界。


 反射される前に破壊することができれば反射は起こらない。


 それが出来ないということはなにか別の要因があるのだろうか。


 翔は端末を操作して空間にホロモニタを投影する。


「……この結界の強度自体はそこまで高くない。病院に張ってある結界の方がよっぽども強力なシロモノだ」


 モニタにはスタジアムの周囲に展開している結界と、病院を囲むように展開している結界のパラメータが表示された。


 確かに用いられている霊力の量から見ても、強度の違いは明らかだった。


「だが、この結界には妙なところがあってな。少し見ていてくれ」


 翔は霊力の塊を掌に作り出すと、勢いよくそれを結界に向けて投げつけた。


 霊力は結界に衝突すると一度大きくスパークし、倍の速度で翔の下へ飛んできた。


 それを軽やかに回避した翔はヴィクトリアと湊に視線を向けて「見えたか?」と問うた。


「ええ。霊力があたった瞬間、微かにだったけれど結界に波紋のようなものが見えました」


「少しへこんだようにも見えましたけど、まさかこの結界って弾性があるんですか?」


「……察しが早くて助かる。そうだ。この結界は一見するとただの結界のように見えなくもないが、霊力に対してのみゴムのような弾性を生じさせるんだ。先程の反射の原理はこれだろうな」


「倍返しになっているのは?」


「そのあたりは展開している者が調整を加えているんだろうな。だが、この結界は敵ながらよく考えられている。硬いものは確かに強度はあるが、ある程度の衝撃には極端に弱い。その点、弾性を付与しているこの結界は、霊力による衝撃に非常に強く厄介だ」


「外部からの侵入を足止めするにはもってこいってわけか……」


 ヴィクトリアは結界に視線を向けると、転がっていた瓦礫を放り投げてみる。


 瓦礫は結界に直撃したものの先程とは打って変って跳ね返ってくるのではなく、単純に弾いただけだった。


 確かに霊力を伴っていないものは跳ね返すわけではなく、弾くだけのようだ。


 難しい表情を浮かべたヴィクトリアはスタジアムの近くに投影されている巨大なモニタを見やる。


 モニタにはクロガネの大幹部一人と学生達の試合が映っている。


 少年少女達は死力を尽くして目の前の強大すぎる敵と戦っているものの、勝機は限り無く低い。


 今もたった一人の男相手に攻撃を仕掛けているが、殆ど効果がないように見える。


 それでも、それでもだ。


 彼等一人一人の目に諦めという陰りは欠片すらない。


 あるのはただ巨悪と戦うという強い覚悟のみ。


「大丈夫。必ず助けます」


 振り返ると湊が真剣な面持ちでモニタを見やっていた。


 彼女の瞳にも諦めなどという感情はなく、選手達と似たような闘志が見える。


 いや、彼女だけではない。


 今この場にいる全員、誰も諦めてなどいない。


 子供達と観客を助け、酒呑童子を打倒することすら視野に入れている。


「鞍馬隊長、策はあるんですか?」


「……当然だ。そのために部下達に調べさせている。だがそのためにはここの安全を保つ必要がある」


 翔の眼光が一点に絞られた。


 皆が視線を向けるとそこには赤い瞳を光らせたクロガネの構成員達の姿が見えた。


 すると向こうもこちらを捉えたようで数人が態勢を低くして勢いよく走り始めた。


「あーらら、遥蘭ちゃんにしては珍しい撃ち損じだね」


「まぁアレだけでかい炎を扱えば端っこのほうまでは気が回らないでしょ。というか、そのために一般隊士とかを配置してたはずなんだけど……」


「……大方、華斎が下がらせたんだろう。アレはあれでお人よしだからな。あの程度の連中ならば負けることはないが、分析班には近づけさせないようにしてくれ」


「了解」


 指示に頷きつつヴィクトリア達は得物に手をかける。


 島内に侵入した敵の数はかなり多い。


 その殆どを西の海岸沿いで食い止められてはいるだろうが、中には運よく島内にバラけた連中もいるはずだ。


 目の前の敵ばかりに気を取られずに、物陰に潜んでいるかもしれない連中にも気を回す必要がある。


「怨形鬼の方ももうそろそろカタがつきそうなんで、こっちもさっさと終わりにしちゃいますかね」


「だったらアンタ一人でやってもいいわよ」


「さすがに疲れるから勘弁」


 狼一と湊は軽口を叩きながら眼前に迫る敵を見据えている。


 依然としてスタジアムの中に入ることはできずにいるが、希望がなくなったわけではない。


「……待っていて、皆。必ず助けるから」


 ヴィクトリアは大剣を構えると刀身に炎を纏わせながら子供達に誓った。






「ハハハハ!!!! どうした(わらじ)ども! 貴様等の力はその程度か?」


 バトルフィールドの中央で筋肉隆々の禿頭の中年男性が吼えている。


 彼の周囲には戦いを挑んだ選手達が倒れているのが見え、皆怪我をしているのがわかる。


「つまらんなぁ! これが未来の刀狩者か? 吾輩の体に傷一つもつけられんとは、まったく脆弱なことよ!!」


 むん、と自分の筋肉を自慢するかのようにポーズをとる男性は一見するとふざけているようにも見えるが、その実力は本物だった。


 酒呑童子から虎銅(こどう)と呼ばれたあの男の戦い方は、暴力が具現化したようだった。


 刀も明確な刀という形状ではなく、どちらかと言うと鋭利な刃のついたナックルダスターに近い。


 その拳から放たれる一撃一撃は重く、そして鋭い。


 厄介なのはあの武器で中遠距離の戦闘もこなせる技量があるということ。


 筋肉ばかりに眼が行って鈍重にも見えそうだが、その実俊敏性もかなりのものだった。


「我らが大将よ。こんな面倒な試合形式なぞ取らずとも、吾輩が全員始末してやるが?」


 もはや勝利を確信しているようで、虎銅は倒れている選手達を嘲笑しながら酒呑童子を見やった。


 すると酒呑童子は口角を上げて笑みを浮かべた。


「試合中に余所見するな。足元をすくわれるぞ」


「ぬん? ――ッ!」


 忠告を受けた虎銅は疑問符を浮かべたが、すぐさま気配を感じ取ったのか前に向き直った。


 が、それは一瞬遅かった。


 光刃がきらめき、虎銅の顔面に真一文字の傷を付ける。


 見ると虎銅の前に一人の少年がニッと笑って立っていた。


 その手にある鬼哭刀の刃には血が付着しており、虎銅のものであることは明白だった。


「余所見してんじゃねぇよ……! このデカブツオヤジが!」


 頭から血を流しながらも吼えたのは、医務室で皆を鼓舞してみせた星蓮院所属の高槙という少年だった。

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