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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第六章 顕現する刃
147/421

1-6

 刀狩者が扱う霊力の属性はそれぞれに相性が存在する。


 弱点になる属性も存在するが、逆に威力を高め、相乗効果を期待できる属性の関係もある。


 顕著なのは火炎と疾風。


 火に風を送り込めばその分火の勢いは増し、より巨大な炎へと進化する。


 だが、属性覚醒は一人一属性のみ。


 それゆえ一人であればできないことだが、複数人であればこれができる。


 この技は『霊力同調(シンクロ)』と呼ばれるもので、二人以上の刀狩者によって行われる合体技のようなものだ。


 もちろん難易度の高い技であるが、使うことができれば斬鬼を一瞬にして葬ることすら可能な火力も夢ではない。


 雷牙達の前ではまさにその技が放たれていた。


 風の力によって勢いを増した炎の刃は、流砂によって拘束されている星螺へと突き進み、やがて彼女を呑み込んだ。


 瞬間、炎刃は爆ぜ、周囲に熱風と巨大な破裂音を響かせた。


 爆ぜた炎は優雅が発生させた疾風によってさらに勢いを増し、巨大な火柱を形作っていく。


「あっつ……!」


 バトルフィールドからそれなりに距離を取っている雷牙の肌をも焼かんばかりの熱波が襲う。


 しかし、離れている雷牙達でこれだけの熱さを感じるのだ。


 バトルフィールドいいや、火柱の中で直接炎に晒されている星螺は凄まじい熱を感じているだろう。


「これが霊力同調の攻撃か。すげぇ……!!」


「ああ。そしてこれが出来る彼等もやはりすごいな。即興で組んだ急造チームだというのに、一瞬で互いの力量を理解し、それぞれが完璧にあわせている」


「戦刀祭に選ばれるだけはあるってことだよな」


 雷牙は火柱に向けて風の刃を送り続ける優雅を見て僅かに表情を引き攣らせた。


 第一試合、彼との勝負は雷牙が勝利を飾ったが、もし彼が雷牙に慢心していなかったら、勝敗はわからなかっただろう。


 優雅にはそれだけの強さがあるのだ。


 ごくりと生唾を飲み込んだ雷牙は、少しだけ表情を崩して龍子を見やる。


「会長、これひょっとするとひょっとしますよね!」


 が、視線の先では難しい表情の龍子がなおも巨大になり続ける火柱を睨みつけていた。


 表情は硬く、なにかを警戒しているようだった。


「会長……?」


 首をかしげると、バトルフィールドから咆哮にも似た叫びが聞こえた。


「あ、がああぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!?? このガキ共、舐めた真似をォ!!」


 火柱の中から聞こえるのは怨嗟に満ちた星螺の声だった。


 彼女の姿は火柱の隙間から微かに見えており、動かせる腕で極力肌をかくして悶えているのがわかる。


 悲鳴は聞くに堪えないものだったが、攻撃が効いていることに選手達だけではなく、観客席からも歓声が上がった。


『お、おい! これって上手い事いってんじゃないのか!?』


『押せてる……! 行ける、勝てるぞ!!』


『いいぞー! そのまま黒こげにしてやれー!!!!』


 学生達が優位に立っていることで、観客達はこの空間から解放される可能性があると感じたようで、次々に応援する声が聞こえる。


 それに応じるかのように火柱は大きくなり、自然と優雅の表情もほころび始める。


「ああぁぁあぁぁああぁぁ……!! ちくしょう……! この、私が、こんなガキ共、なん、か、にぃ……ッ!!!!」


 星螺の声は段々と小さくなっていき、炎の中では星螺の影がゆっくりと倒れこんでいく。


 やがて影は完全に倒れ、火柱の中で動くものはなくなった。


 その様子に実況が嬉しさを含んだ声を上げる。


『こ、これは奇跡の番狂わせが起きたかもしれません!! 第一試合にして学生達がクロガネから勝利をもぎとって――――』





「なぁんて悲鳴をあげれば君達はうれしかったりするのかな?」





「――――――ッ!!??」


 突如聞こえた星螺の声にフィールドだけではなく、歓声でいっぱいだった観客席すらも凍りつく。


 雷牙は全身に悪寒が走ったのを感じ、バトルフィールドを注視する。


「まさか……っ!!」


 戦慄にも似た声を漏らす雷牙の視線の先には、火柱から離れた場所で悠然と佇んでいる星螺の姿があった。


 火傷の痕など一切なく、服もまったく燃えていない。


 彼女は無傷だった。


『ば、馬鹿な……! 星螺選手は確実に炎に飲み込まれたはずです!! しかし、これはいったいなにがどうなって……!! まさか、さっきの分身!?』


 確かに誰もがそれを思った。


 試合前、星螺は得意げに分身でアピールしていた。


 雷牙もそれは直に味わっていたからその手は確かに考えた。


 しかし、星螺の声に気付いた優雅たちが火柱を解いても、焼け跡にあったのは赤熱したコンクリートと砂があるだけで、星螺の分身の残骸はない。


 優雅たちは驚愕に表情をゆがめ、星螺はそれをサディスティックな瞳で見やっている。


「あー、本当さいっこう! いい表情してるよ、君達……ゾクゾクするわぁ」


 妖しい笑みを見せた彼女は舌なめずりをすると、値踏みするように優雅達を一人一人吟味していく。


 蛇にも似たその行動は、かなり距離を開けている雷牙ですら戦慄を覚え、身の毛がよだつ思いだった。


「君達は本当によく頑張ってたと思うよ。格上の私相手に、急造チームながら完璧なコンビネーションを見せてた。砂による拘束に、私に分身を出させないための雷撃の牽制……」


 彼女は四人を見回してからゆっくりと近づいていく。


「……そして最後は風と炎による同調攻撃。本当にすばらしいと思うよ。だから、最初に言った弱そうっていうのは撤回してあげるよ。だけどね――」


 刹那、彼女の姿が消えた。


 襲って来たのは濃密な殺気と重圧感。


 フィールドを注視していたからか、雷牙は一瞬星螺の姿が兼竜の背後に現れたのを見逃さなかった。


「避けろッ!!!!!!」


 雷牙は叫んだ。


 が、優雅達が気付いた時にはもう遅い。


「きひ」


 不気味な笑い声と共に兼竜の背後に現れた星螺は、彼の背中を抉るような斬撃を放った。


「あ、が……!?」


 完全な死角からの一撃に、兼竜は成す術もなくその場に倒れこむ。


 背中からは大量に出血し、すぐさま大きな血溜まりが出来上がる。


「き、さまああぁあぁあぁぁぁッ!!!!」


 切り付けられた兼竜を見て恋は吼え、星螺に向けて立て続けに雷撃を連射する。


「待て、新嶋!!」


 優雅が諭すが、恋は手を緩めずに稲妻を放つ。


 しかし――。


「――ホラホラ興奮しない。かわいい顔が台無しだよー?」


「ひ……っ!?」


 眼前に突然現れた星螺に短い悲鳴を上げた恋だが、次の瞬間彼女の腹部と背中から二振りの刃が現れた。


 見ると、恋の正面と背後に星螺の姿があり、どちらも笑みを浮かべたまま恋を刺し貫いていた。


「新嶋!!」


 優雅の声はスタジアムに虚しく響く。


 彼の前では合計で四本の刃を引き抜かれた恋が倒れこんだ。


 すると、星螺の姿はまた一人に戻り、彼女は倒れた二人の表情を観察するように覗き込む。


「いいねいいねぇ!! その顔見たかったー! 倒せるかもしれないって希望の顔が、恐怖と絶望に歪む様は何度みても爽快だよ!!」


 ぴょんぴょんとジャンプしながら喜びを露にする星螺は満面の笑みだった。


 まるで童女が欲しかった玩具を手に入れた時のような、そんな屈託のない笑みは、雷牙達だけでなく、スタジアムにいる人質を恐怖させるには十分すぎた。


 雷牙の隣で星螺の様子をうかがっていた瑞季でさえ、口元に手を当てて僅かに震えている。


 しかし、楽しげに笑う星螺に対して低い声で問う声があった。


「……どういう理屈だ、テメェ」


 声の主は火駿だ。


 彼は鬼哭刀を構えた状態で、怒りに燃える眼光で彼女を睨みつけている。


「あ、知りたい? 知りたいよねぇ! だって頑張ってたもんねぇ!」


「……」


 露骨な挑発故か、火駿は答えなかったが瞳には怒りの業火が燃え上がっていた。


「じゃあ軽く説明してあげようかー! 一度しか言わないからよく聞いてねー!」


「おい、星螺!!」


「あによ荊木! いいとこなんだから邪魔すんなってば!!」


「勝手に能力をベラベラ話すな!」


「いーじゃん別に。というか、あっちの子達はある程度予想がついてるっぽいけど?」


 ギョロリと瞳を動かした星螺の視線は龍子や燈霞といった生徒会長達に注がれていた。


 すると、静観していた酒呑童子が告げる。


「構わん。お前の好きにやれ、星螺」


「ボス!」


「隠したところでいずれはわかることだ。それにわかったところで、あの二人が星螺に勝てるとは到底思えん」


 不敵な笑みを浮かべる酒呑童子に対し、星螺は軽く頭を下げるてから二人に向き直る。


「さぁて、どういう理屈かだっけ? まぁ簡単に言えば分身ともう一つの能力の合わせ技だよ」


「もう一つの、能力?」


 火駿や優雅が怪訝な顔をするのと同じように、雷牙も首をかしげると瑞季を見やる。


 だが、瑞季もそれの意味がわかっていないようで肩を竦める。


 すると、補足するように龍子が続ける。


「彼女は二つの能力を使えるんだよ」


「二つの能力……まさか、二重属性ですか!?」


「二重属性?」


「ああ、刀狩者が持てる属性は一人一つまでと決まっているが、二重属性とは疾風や火炎を同時に扱えることを指している。ただこれは非常に扱いが難しく、脳や体への負担が大きすぎて実際には扱えない力だ」


「あの女はそれが使えるってことか!?」


「会長の見立てではそうなのかもしれない。どうなんでしょうか?」


「あくまで見立てだけど、さっきの彼女の言動からして二つ使えるのは確実だと思う。ただ、私達が考えているような二重属性とは少し勝手が違うかもね」


 龍子の言葉は少しあいまいで、明確な答えにはなっていなかった。


 すると、フィールドで星螺が指を鳴らした。


「私が本来持ってる属性は番外属性でね。幻影って属性なんだよ」


「幻影……」


「そう。霊力を使って私そっくりの分身体を作り出したり、私の姿を見えなくしたりできる」


 彼女の言うとおり、星螺の隣にはもう一人の星螺が現れ、オリジナルの方は空間に溶け込むように消えていく。


「こんな風にね」


「だが、二人を攻撃した時や最初見せた分身には確かに実体があった! 幻影ともう一つの能力はなんだ!!??」


「焦らない焦らない。君たちは、斬鬼の中に特異個体がいるのを知ってる? 分裂できるヤツだったり、景色と同化できたり、属性覚醒と似たようなことができたりするヤツのこと」


 ゾクリ、と雷牙は脳裏で思考が繋がるのを感じた。


 彼の視線の先にあったのは、禍々しい色をした双剣があった。


 思いだされるのは、大城の一件とヴィクトリアが若い頃に戦ったという分裂する特異個体の斬鬼。


「まさか、あの双剣の材料は――!」


 雷牙が答えを導き出すと同時に、フィールドでは星螺がニタリと嗤った。


「この双剣はね。分裂能力を持った斬鬼の核、即ち妖刀を加工して造られたものなんだよ」


「妖刀を加工だと!?」


「……さすがにクロガネ、なんでもありってことかよ」


「まぁね。とは言っても元は妖刀。十全に扱うためには、私自身も妖刀に順応する必要がある。その正体がこれ」


 星螺は首下のボタンを緩めると、胸の谷間辺りが露出するように見せる。


 そこには刃の欠片のようなものが埋め込まれており、欠片からは血管のような筋がくもの巣のように延びている。


「見える? これはこの双剣の基になった刃の欠片。これを埋め込んだことによって、私はこの刀を扱えるようになったってわけ」


「馬鹿な……そんなことをすればすぐに斬鬼化するはず……!」


「そうだねぇ。だからかなり人体実験を繰り返したよ。私もその中の一人だったけど、うまく適合した。だからこうやって人の形をして生きている」


「……狂ってやがる……!」


「ハハハ、褒め言葉だねぇ。まっ、この刀の能力である分裂と、私の幻影をうまく使い分けることで君達の攻撃を回避してたってわけ。本当に必死で端から見てると実に……嗤えたよ」


 嘲笑を浮かべる星螺に対し、優雅と火駿は静かに戦闘態勢に入るとそれぞれが鋭い眼光を向けた。


 彼等からまだ闘志は消えていない。


 寧ろ逆だ。


 目の前で仲間が傷つけられたことで、彼等は憤りを感じ。


 人の皮をかぶった()()()()()()を滅しなければならないという使命を胸に抱いたのだ。


「へぇ……まだやる気なんだぁ。いいねぇ、そういう眼をした子をいたぶるの、お姉さん大好き」


 唇を舐めた彼女の瞳が斬鬼のそれと同じように赤く染まった。


「無駄な努力だと思うけどせいぜい頑張って。死なないようにね……きひ……!」


 不気味な笑い声を上げて彼女の姿が増えた。


 外見だけでは実体がある分身なのか、それとも幻影で作り出した虚像なのかはわからない。


 しかし、優雅達は戦わなければならない。


 たとえこの先に待っているのが地獄の苦しみであったとしても。

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