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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第六章 顕現する刃
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プロローグ 襲撃

六章です。

 夜の新都、東京では多くの人がハクロウが管理しているシェルターへ避難を始めていた。


『慌てず、押さないように避難してください!!』


『大丈夫です。シェルターには十分空きがありますので、落ち着いて避難を!!』


 声を張り上げて避難を促しているのは、ハクロウに所属している刀狩者達だ。


 現在、新都全体に緊急事態警報が発令されており、そこかしこで避難が開始されている。


 緊急事態の正体それは――。



 避難している住民達の背後で爆音が轟いた。



 皆が視線を向けると、そこには巨大な火柱が立っており夜の新都を煌々と照らしている。


 それを見た人々は悲鳴を上げながら避難する足を速める。


 刀狩者の制止を振り切り、我先にシェルターへ向かう現場は非常に混乱していた。


 この混乱を招いたのはほかでもない、クロガネだ。


 彼等は突如として現れた。


 最初起きたのは、爆薬や銃といった質量兵器を用いた破壊行動。


 すぐさま反応した刀狩者、及び警察は鎮圧に向かったものの、それは完全なる囮だった。


 彼等は手薄になった警備の隙を突くように、鬼哭刀を用いた本格的なテロ活動へ乗り出したのだ。


 同時に、鐘魔鏡(しょうまきょう)が妖刀と斬鬼の発生を報せる反応を見せ、街中で同時多発的に斬鬼が発生した。


 通信によると発生した斬鬼は全て人工妖刀によるものらしく、自然発生的なものではないとのこと。


 どうやらクロガネの構成員は自身の命すらもなげうって襲撃を始めたようだ。


 が、それよりも厄介なのが、現れた斬鬼の近くで確認された極めて高い霊力を持つ者達の存在。


 本部は彼等をクロガネの幹部、鬼刃将(きじんしょう)であると断定し、現在刀狩者は彼等と斬鬼の対処に追われている。


 しかし、当然ハクロウにも対抗手段はある。


 鬼刃将が確認された時点で、斬鬼対策課の隊長陣が対処に向かったのだ。


 恐らく先程の大きな火柱と爆音は、彼等の戦いによるものだろう。


 一人の刀狩者はビルの隙間からみえる交錯する影を見やるものの、すぐに視線を逃げ惑う人々へ向ける。


 自分の今の任務は一般人をシェルターへ避難させること。


 それを怠っては本末転倒というものだろう。






「新都の状況はどうなっている」


 ハクロウ本部の管制室で長官の武蔵(たけくら)辰磨(たつま)は観測官達に問うた。


 すると、ホロモニタに新都の避難状況と、発生した斬鬼の居場所や、クロガネとの交戦の情報などが事細かに写しだされた。


「都民の避難状況は一部混乱も見られますが順調に進んでます。また、鬼刃将の方も隊長陣が食い止めています。発生した斬鬼は、各部隊の副隊長達が隊士達をまとめながら対処していますので、問題はないかと」


「そうか。五神島との通信はどうだ?」


「現在急ピッチで進めていますが、作業班の報告では向こう側の通信設備が破壊されている可能性があるため、早くとも夜明け近くになるだろうと……」


 報告する観測官の声は暗く、管制室全体にもどことなく陰鬱な空気が漂う。


 新都に入り込んだクロガネの構成員の襲撃が始まった直後、辰磨は島と観測官に島と連絡をとらせた。


 しかし、返ってきたのは酷いノイズだけであった。


 襲撃のタイミングや、こちらに来ている鬼刃将の数からして島にもクロガネが襲撃を開始し、通信設備を破壊したと見て間違いないだろう。


 辰磨は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、拳を強く握り締めた。


 戦刀祭に出場している生徒や観客達を救助するため、すぐにでも応援を派遣したいところだが、簡単には出せないのが現状だ。


 鬼刃将も斬鬼も今のところは食い止められている。


 いいや、モニターで見た隊長陣と鬼刃将の戦闘を見る限り、力量的には隊長陣の方が上回っていると見ていい。


 しかし、たとえ斬鬼と鬼刃将をすべて処理しきれたとしても、警戒は続けなければならないのだ。


 もっとも恐ろしいのは、恐怖に駆られた人々の中から新たな斬鬼が現れること。


 村正の時のような大きな刃災ほどの被害は出ていないにしろ、斬鬼や妖刀の出現は人々の心に多大なストレスを与える。


 それが心の隙となって新たな妖刀が顕現し、斬鬼が生まれる。


 もっと恐ろしいのはそれが連鎖していくこと。


 恐怖がさらなる恐怖へと進化し被害を拡大させていく。


 妖刀連鎖顕現。


 立て続けに妖刀が顕現し、いたるところで斬鬼が出現するこれだけは回避しなくてはならない。


「発生している斬鬼に妙な動きはあるか?」


「いえ、今のところ各個で行動しているようです。怨形鬼へ変貌する可能性はまだ低いかと」


「副隊長陣には斬鬼を確実に仕留めるように通達しておいてくれ。個々の危険度自体は大したことがなさそうだが、重なり合えば非常に厄介になるはずだ」


「了解しました」


「それと八獄にも警戒レベルを上げるように伝えておけ。この事態が収束したあともしばらくは警戒を続けろとな」


 八獄にはハクロウが捉えた犯罪者が多数収容されている。


 その中にはクロガネの構成員もいるため、襲撃の隙をついて仲間を解放する可能性がある。


 いまのとろこその兆候は見られないが、用心するに越したことはないだろう。


「私は少し空ける。なにかあった場合は呼んでくれ」


「わかりました」


 管制室の責任者に告げ、辰磨は席を立ってエレベーターへと向かう。


 そのまま彼が上がったのは、本部にある彼の執務室だ。


 本棚に向き合うように立つと、中段にあるハードカバーの背表紙に手をかけた。


 すると、四冊ほどの本の塊が同時に引きだされた。


 見ると引きだされたのは本ではなく、本であるように精巧に偽装されたキーボードだ。


 その前にはモニタが展開しており、パスワードが求められている。


 すぐに辰磨がパスワードを入力すると、モニタの画面が切り替わり、辰磨の指紋と網膜をスキャンする。


 全てのセキュリティの確認が終了すると、キーボードを避けるように割れた。


 中には一畳ほどの広さのエレベーターがあり、辰磨はそれに乗り込むと壁のスイッチを押してインジケーターを見やる。


 これより先は、公には存在していない区画であり、ハクロウでも一部の者しか知らない場所へと通じている。


 一度息を整えてから扉が開くのを待っていると、ちょうど到着したところで息を吐き終えた。


 扉が開いてもその先は真っ暗だったが、辰磨が一歩を踏み出すと、暗い空間に白い足場が出来上がり、それが道のように続く。


 背後で扉が閉まる音を聞きながら辰磨は足場を歩いていくと目的の場所へ視線を向けた。


 そこにあったのは蛍光的な色の液体で満たされた三つのカプセルだった。


 成人した大人一人が入れるようなカプセルの中には人が浮かんでいた。


 眼を閉じているそれは一見すると死んでいるようにも見えるが、彼等は生きている。


 酸素吸入器といくつもの配線につながれ、人としての機能は完全に停止しているようだが、意識だけはここにあるのだ。


『やぁご苦労、武蔵くん』


『外が騒がしいようだが、なにかあったかね?』


「……クロガネの襲撃です。モニターしていたのはではないのですか?」


『いいえ。我々が行っていたのは、これから先ハクロウがどうあるべきかの会議ですよ』


『外のことは君の仕事だろう? がんばって対処したまえよ』


『まぁそれはさておき。彼女が見つかったというのは本当かね?』


 室内に響く声はどこか機械的だったが、最後の一人の声だけはどこか高揚している様子だった。


「はい……。天都(あまつ)尊幽(みゆ)は第零部隊が発見しました」


『ほう、そうかそうか! ならよかった。彼女がいてくれればハクロウに逆らう者は減るだろうからねぇ』


『真にそのとおりです。我々の悲願まであと少しというところですな』


「……あなた方は、外の状況が心配ではないのですか?」


 思わず辰磨は声を漏らしていた。


 彼の声には静かな怒気があり、瞳は目の前のカプセルに入っている者達を睨みつけていた。


『外? あぁ、確かクロガネの襲撃だったか。勿論心配しているとも、ただ、我らが果たそうとしていることから見ると、それほど大した問題ではなくてね』


『ええ。武蔵長官、貴方は大局が見えていません。我らは常に世界がどうあるべきかと考えなくてはならないのです』


『そのためであれば人命を無視することもやむなしなのだよ。わかるかね?』


 カプセルに入っている彼等の表情は変わらない。


 だが、辰磨は彼等が薄ら笑いを浮かべながら言っていることだけは理解できた。


「……そうですか、わかりました。では私は自体の収束に務めますので、失礼致します」


『ああ。彼女には到着したら速く来るように伝えておいてくれたまえ』


 踵を返したところで聞こえた声に頷いてから、辰磨はカプセルのある部屋を後にした。


 執務室へ戻るエレベーターの中で、彼は思い切り壁を叩く。


「……もはや彼等に人としての良識はないのか……!!」


 握った拳からは血が滴っていた。


 胸にある怒りを抑えながらエレベーターを出た辰磨は、海の向こうにある島を見やった。 


 怒りはあるが、まずは事態の収拾が先決であると辰磨は頷いてから管制室へと戻っていった。

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