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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第五章 開幕、五神戦刀祭
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エピローグ 斬鬼・村正、またの名を……

 斬鬼、村正。


 十五年前、日本のとある沿岸都市に顕現した妖刀にから生まれ出でたそれは、刃災史上最大規模の大災害だった。


 村正の破壊行動によって都市機能は完全に麻痺。


 対処に出た刀狩者は村正の圧倒的な力の前に次々に倒れ、避難を始めていた人々も次々に殺された。


 刀狩者を含めた被災者数は軽く三万を超えた。


 暴れ続ける村正を討伐するために本部や全国各地から刀狩者が応援に出たものの、村正によって跳ね除けられ討伐にはいたらなかった。


 ハクロウの見立てでは、さらに人間の多い都市へ移動する可能性があり、隣接する都市部の人々も避難を余儀なくされた。


 けれど、避難した彼らは幸いなことに村正の脅威にさらされることはなかった。


 それは最終手段として陸海空の自衛隊による飽和攻撃も視野に入れた作戦が練られていた時に起きた、


 夜明けと同時に村正が天に向かって咆哮した後、忽然とその姿を消したのだ。


 あとに残ったのは、村正による破壊の傷跡だけであり、都市は見る影もなく崩壊した。


 後にハクロウは総力を挙げて村正の捜索にあたったものの、発見には至らなかった。


 それに関してはハクロウをバッシングする声も多かったが、二年、三年が過ぎても現れなかった村正に対して、人々はいつしか消えたものとして扱うようになった。


 斬鬼村正の災と称された刃災は確かに存在した。


 実害を齎す村正が現れなくなってしまった以上、人々の心から村正という存在は徐々に薄れていったのだ。


 一般人からすれば、忘れてはいけない過去の出来事程度にしか認識されていないのが現状である。


 だが、その村正を自称する男――酒呑童子が目の前に立っている。


 片方が欠けた一対の角を生やし、赤い瞳を持つ彼から放たれるのは、紛れもなく斬鬼の気配。


 携えている刀からは常に赤黒い瘴気が発生しており、尋常ではないほどの威圧感を放っている。


「お前が、村正……?」


 雷牙は彼に向かって問うものの、その声は重圧と緊張感の影響でかすかに震えていた。


 酒呑童子の言動はタダでさえ信憑性に欠ける。


 ふざけているとも考えられるが、雷牙の中には確信があった。


 アレは村正であると。


 赤ん坊の頃の記憶など早々思い出せるものではないが、はっきりと覚えている光景が一つだけある。


 燃え盛る瓦礫の街の中で吼える異形。


 大きさは今の酒呑童子よりも少しばかり大きかったかもしれないが、それでもわかるのだ。


 あの場所にいた斬鬼と目の前にいる男は同じ存在であると。


「そうとも。俺が貴様等の言っているところの村正よ。だが、人間に付けられた名は気にいらん。もしも呼ぶのであれば、酒呑童子と呼べ。まぁ呼ぶことが出来ればの話だが」


 ギザギザの歯を見せて凶悪な笑みを見せた酒呑童子の放った威圧感は、スタジアム全体を僅かに揺るがし、その場にいた全員を戦慄させるほどだった。


 当然、近距離でそれを味わった雷牙も全身に鳥肌を立つのを感じた。


 全身に悪寒が奔り、心が恐怖で埋め尽くされそうになる。


 しかし、それも一瞬のことだった。


 恐怖もあるし、威圧感も尋常ではない。


 それでも雷牙の中にある闘争心だけは折れることはなかった。


 目の前に立ちはだかる斬鬼は、倒すべき存在だ。


 たとえどれだけ実力に差があろうとも、殺されるかもしれなくても絶望はしない。


 それに酒呑童子は雷牙にとって母の仇だ。


 ここで折れたら、自分を守ってくれた母に申し訳が立たない。


 とはいっても、雷牙は心の中に仇討ちとは別の感覚があることに気がついていた。


 ゾワゾワと体の奥底から湧き上がってくるこの感覚を、雷牙はもう幾度となく味わってきた。


 戦闘欲。


 強い相手と戦うことを欲する感覚が、酒呑童子に対しても反応したのだ。


「斬鬼村正……いいや酒呑童子、お前は――」


 自然と雷牙は声を漏らしていた。


 その手は鬼哭刀へと至り、すぐさま抜き放つ。


 酒呑童子の背後に控えていた者達が動きを見せるが、主によって止められる。


 雷牙はそのまま切先を突きつけた。


「――――お前は俺が必ず倒してやる。この命に代えても」


 言い放った雷牙の顔には僅かな笑みがあった。











 五神戦刀祭が襲撃されている最中、京極剣星らはとある人物を探す任務に出ていた。


「にしても、本当にこんなところにいるのー?」


 剣星の副官である風霧天音はやや不満げな声を漏らした。


 現在二人がいるのは某国の山岳地帯だ。


 近隣住民の話やハクロウが所有している衛星からの情報によると、捜索対象がどうやらこの辺りに居を構えていることがわかったのだ。


 とはいえかなりアバウトな情報でもあり、捜索範囲は非常に広い。


 ゆえに今は二手に分かれて対象を捜索しているところだ。


「観測によればここが一番可能性があるんだ。もしもここでダメなら――」


 瞬間、少し離れた地点から獣の咆哮じみた雄叫びが轟いた。


 同時に二人は斬鬼が纏っている瘴気の気配を肌で感じ取る。


「天音」


「りょーかい」


 すぐさま二人は咆哮が聞こえた場所へ走る。


 霊力で全身を強化し、踏破するのが困難なところは空中に足場を作って山を越える。


 一つの山を越えた二人は斜面をすべるようにして降りていき、前方に見える森の中へ飛び込んだ。


 声の大きさと反響具合からいって凡そこの辺りだとは思う。


 本来であれば携帯型の鐘魔鏡によって霊力の歪みを探知できるのだが、どういうわけかこのエリアに入った瞬間、使い物にならなくなってしまったのだ。


 が、幸いなことにそれに頼る必要もなく、剣星は視線の先で蠢く影を見つけた。


 後ろを走る天音に速度を落とすようにハンドサインを送り、二人はそのまま森を抜けて影と対峙する。


 そこにいたのは、五メートルを越えるであろう巨躯の斬鬼だった。


「やっぱり……」


 溜息をついて鬼哭刀に手をかける。


 斬鬼のレベルはそこまで高くはない。


 剣星であればそれこそ一瞬にして両断することはできるだろう。


 が、刃をぬくよりも速く、斬鬼の方に異常が起きた。


 甲高い音が聞こえたかと思った瞬間、ズルリと斬鬼の体が縦にズレたのだ。


 そのズレは止まることはなく、斬鬼はそのまま縦半分に両断された。


 おびただしい量の血が広がるも、それらはすぐに空気中へと霧散していく。


「これは――――」


 剣星と天音がその光景に驚いていると、割ってはいるようにどこか無邪気とも思える声が響いた。


「――――ここにお客が来るとは珍しいねぇ」


 弾かれるように二人が視線を向けると、そこには白い少女が立っていた。


 ドレスとまでは行かないが、それなりに装飾がなされたとても戦闘服とは言えない白い服を身に纏っている。


 頭髪はシルクのように白く、僅かに吹いている風に流れるさまは煌びやかに見える。


 その下にあるのは真っ赤に燃える瞳。


 赤い双眸は剣星達を見据えていたが、敵意は感じられない。


 剣星と天音は一度視線を交わすとそれぞれ頷いた。


 そう、彼女こそ剣星達が捜し求めていた存在だ。


「それで私になんの用かな? ハクロウ第零部隊のお兄さん」


 小首をかしげた少女――天都(あまつ)尊幽(みゆ)はどこか含みのある笑みを零した。

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