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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第五章 開幕、五神戦刀祭
132/421

3-4

 場外戦を終えた後、雷牙達は近くのショッピングモールにあるフードコートに集まっていた。


 ただ、レオノアは眉間に皺をよせて若干不満げだった。


「なーにむくれてんだよ。十戦やって八勝なら十分いい戦績だろうが」


 雷牙は向かい合うようにして座っているレオノアに対して肩を竦めるものの、彼女は頬をプクッと膨らませる。


「それはまぁそうなんですが……。できることなら全戦全勝したかったといいますか」


「レオノアの言うこともわかるが、相手には上級生もいたし彼らは皆相応の実力者達だ。簡単に全勝はさせてくれないだろう」


「ああ。けど、俺はすげぇなって思ったぜ。筋力も前と比べてかなり上がってたし、最初に俺と戦った時にあった勝負を決める時の油断もなくなってた」


「雷牙さん……!」


 レオノアはパッと表情を明るくするものの、雷牙は少しだけ恥ずかしくなったのか彼女からやや視線を外しながら咳払いをした。


「ま、まぁあれだ! 偉そうなことは言えないけど、頑張って鍛錬してたんだなって感じは伝わってきたぜ」


「それに関しては私も同意だ。正直筋力面では勝てるとは思えない」


「あ、ありがとうございます」


 二人の賞賛にレオノアは嬉しさからか頬を赤らめて俯いてしまった。


 そんな彼女に対し、陽那が肩を組みながら得意げに笑いかける。


「まぁレアちゃん頑張ってたからねぇ」


「二人において行かれないようにと俺達と共に鍛錬を積んだからな」


「そういう言い方をするってことは、お前らもしっかり修業積んでたわけだな?」


 雷牙が樹を見やると、彼は「そうだな」と頷いてみせた。


 今年の戦刀祭に出場できなくなったからと言って、それで気を抜けるほど育成校の生徒は暇ではない。


 五神戦刀祭は重要なイベントではあるものの、一つの通過点にしかすぎない。


 彼らの本来の目的は刀狩者となること。


 クロガネのような犯罪組織が増えて来たとはいえ、刀狩者の役目は妖刀や斬鬼と戦うことにある。


 そのため日々の研鑽は必須なのだ。


 雷牙は戦刀祭が終わった後の楽しみが増えたと内心で笑みを浮かべるものの、ふと周囲を見回して首をかしげた。


「そういやヴィクトリアさんはどうしたんだ? レオノアの試合の時もいなかったよな」


「お母様は警戒任務にあたっているハクロウの方に呼ばれたらしく、今日一日は戻って来れないそうです」


「レオノア、そういうのって簡単にしゃべっていいもの……?」


 舞衣が若干頬を引き攣らせるのも無理はない。


 ハクロウに呼ばれたということは、それなりに機密性が高い場合もある。


 いくら娘とはいえ、こうも簡単に話してもよいものかと思ったのだろう。


 けれど、レオノアは特に気にした様子もなく首を振った。


「あぁいえ、お母様が雷牙さん達に聞かれたらそう答えるようにと言っていたんです。有事に対しての心構えをしておいて欲しいという理由で」


「確かに、言われてみればそうかもな……」


「ああ。特に私達は決して他人事というわけではないな」


「はい。お二人のことは特に気にかけていました」


「あー、そっか。二人は襲撃事件の当事者だもんな」


 玲汰は二人を見やりながら頷いた。


 彼の言うとおり、雷牙と瑞季は強化試合で直にクロガネの構成員と出会ってしまっている。


 そしてヴィクトリアが言っていたという有事とは、クロガネがこの戦刀祭を襲撃するかもしれないということだろう。


 雷牙はあの襲撃事件を起した遊漸の言葉を思い出す。


『五神戦刀祭、頑張ってください。そして、十分お気をつけください。なにか、大変なことが起きるかもしれませんからね』


 言葉のニュアンス的にクロガネがなにかを起すことは明白。


 アレは一種の宣戦布告にも近いような気がしたのだ。


「仮に戦刀祭を襲撃しにきた場合、私達二人……いいや、玖浄院と轟天館の選抜選手が狙われる可能性はある」


「幹部っぽいヤツの顔をしっかり見ちまってるからな。口封じも兼ねて殺しに来る場合もあるってことだよな」


「一応私も入ってない?」


「ないない。第一シェルターにいたんだから問題ないだろ。姿も見られてないし」


「……やっぱアンタ殺すわ」


「なぜに!?」


 デリカシーに欠ける発言に舞衣はギロリと玲汰を睨みつけた。


「舞衣が狙われるかは置いといてだ。なるべく一人で行動するのは控えた方がいいな」


「置いとかないでくれない!?」


「そうした方がいいだろう。私達がいれば、任務にあたっている刀狩者に迷惑をかけかねない」


 雷牙と瑞季は食い下がってくる舞衣をとりあえず無視し、クロガネの襲撃に対する心構えを改めた。


 が、珍しく舞衣を弄ったためか、彼女がしばらくをへそを曲げたままだったとか。






 雷牙達がフードコートで話しているとき、ヴィクトリアの姿は島内に急遽造られた作戦本部にあった。


 昨日、彼女は友人である斬鬼対策課の部隊長、湊に急遽呼ばれたのだ。


「――以上で説明を終わりますが、ファルシオンさんから何か質問はございますか?」


 ホロモニターの隣に立っているのは総隊長を務める澪華だった。


 ヴィクトリアが受けていた説明は、今回の警戒任務の詳細だ。


 澪華の問いに対し、ヴィクトリアは小さく息をついてから彼女を鋭い眼光で見やる。


「どうして私に説明をしたんですか?」


「貴女はハクロウ英国支部において、序列第五位と評されるほどの実力者であり、来期からはハクロウ本部の嘱託職員です。若干早いことは否めませんが、出来ればご助力を頂きたいと思った次第です」


「なるほど。しかし、これは機密事項でもあるはずです。さすがに警戒不足では?」


「……なにか気がかりなことでも?」


 スッと澪華の瞳から光が失せ、暗い瞳がヴィクトリアを捉えた。


 が、ヴィクトリアも退く事はなく、静かに息をついた。


「元英国支部長であるウーゼルがクロガネと協力関係であったように、私が裏切り者であると考えなかったのですか?」


「……」


 澪華は答えない。


 が、彼女はヴィクトリアを品定めするように見続けた後、満足げに頷いてから口角を上げた。


「それはありえませんね。貴女は決して悪に堕ちるような人間ではありません。なぜなら、()()()()()されているから」


「……!」


 ヴィクトリアは僅かに声を詰まらせた。


「彼女に感化された貴女がクロガネに加担するわけがない。なぜならその行動自体が、綱源光凛を裏切ることになるのだから。仮に貴女がハクロウに恨みを持っていたとしても、彼女のあり方を汚すようなことだけは絶対にしないでしょう?」


 微笑む澪華の瞳に光が戻った。


 ヴィクトリアはというと、張り詰めていた空気を解くように大きく溜息をついてから肩を竦めた。


「御見逸れしました。さすがは第二部隊の部隊長さんですね。私のことをよく調べてらっしゃる」


「これから仲間になる人ととはいえ、身辺的な調査は普通はしますよ。ですが貴女の場合は、後ろにいる湊さんや光凛さん本人からどういう人物なのはかは聞き及んでいますから」


「あー、なるほど……」


 ヴィクトリアが背後を見やると、湊は小さく両手を合わせていた。


 それに苦笑しつつも、ヴィクトリアは立ち上がる。


「わかりました。今回の警戒任務、私も協力させていただきます」


「ありがとうございます。ファルシオンさん」


「いえ。あと、私のことはヴィクトリアと呼んでください」


「はい。私のことも澪華で結構です。では、もう少し情報を詰めさせてもらいますが、よろしいですか?」


「ええ」


 ヴィクトリアは頷いてから椅子に座りなおし、澪華から警戒任務の更なる詳細とクロガネ襲撃時の避難経路の確認と、想定される混乱などの説明を受けた。






 澪華から任務の説明を受けたヴィクトリアは、湊と共に外に出ていた。


 既に陽は暮れかけており、空の殆どは夜になり始めている。


「ふぅ……夜になっても日本は暑いわね」


 英国にはないムッとした日本独特の暑さにヴィクトリアはパタパタと手うちわで顔を仰ぐ。


 彼女の後ろにはややげんなりとした様子の湊がおり、表情は少々疲れが見えた。


「あら、随分と疲れているようね。湊」


「ハハハ……そりゃ二人のあんなやり取り見てれば疲れますよ……」


「あんなやり取りって、もしかして澪華さんを試したこと?」


「そうですよ! いきなり自分が裏切り者じゃないかとか言い始めて! 澪華さんじゃなかった相当面倒くさいことになってました!!」


「ごめんね。けど、試したくなってみたのよ。第二部隊の部隊長さんの噂は英国でも聞いてたしね。想像通り、観察眼に長けてるわ」


「その胆力……さすがは元英国五位ですね……」


「まぁ、試したつもりがこっちが試されてた感じも否めないんだけどね」


 ヴィクトリアは肩をすくめてあの時のやり取りを思い出す。


 最初、彼女は澪華がどのような反応をするのか気になった。


 裏切り者かもしれないと言えば、鬼哭刀に手をかけるかと思ったが彼女はそんなことはせずにヴィクトリアの瞳をしっかりと見て、その奥にある真意を読み取ったのだ。


 だからこそ笑みを浮かべ、光凛の名前を出してきた。


 試していたつもりが、逆に試し返されたといった方が妥当か。


「ああいうのはこっちの心臓にわるいんで、これからはなるべくナシの方向でお願いします」


「善処するわ。まぁ、私がやるべきことはしっかり理解しているから安心して」


 ヴィクトリアが任されたのは、有事の際の避難誘導と、最悪の場合の戦闘要員としての役割だ。


「なるべくヴィクトリアさんが戦わないようにこちらでも善処はしますが、もしもの時は……」


「わかっているわ。だけど、私は刀狩者よ? 人を守るのが役目なんだからそんな覚悟はとっくに出来ているわ」


「ありがとうございます。鬼哭刀の方は後で担当が持っていくと思うので、準備をお願いします。あとこれを」


 湊が手渡したのは、ハクロウの刀狩者であることを表すプレートだった。


「あとで全体に通達しておきますが、刀狩者に声をかけられたりしたらこれをみせてください。すぐにわかると思いますので」


「了解。それじゃあ私はそろそろ戻るわね。湊も無理をしない程度に任務頑張って」


「はい」


 ヴィクトリアは湊と別れ、レオノアが待っているホテルへと戻っていく。


 その途中、空を見上げると強く輝く一番星が目に入った。


「……必ず守りますから、安心してください」


 胸のあたりで拳を握ったヴィクトリアは誓うように呟いた。

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