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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第五章 開幕、五神戦刀祭
131/421

3-3

 レオノアはバトルフィールドから観客席に座る雷牙を見やった。


 一瞬、彼と視線があったのでにこやかに微笑みかけてみると、雷牙も軽く手を挙げて答えている。


 親同士が勝手に決めていた許婚という関係は、既に二人の間に存在しない。


 まぁ許婚の関係自体は最初からなかったことにされていたものを、ヴィクトリアが光凛との関係を断ち切りたくなかったが故に残しておいたものらしいが。


 とはいえそれがなければレオノアは雷牙と会うことはなかっただろう。


 寧ろ母の判断には感謝している方だ。


 出会うことができてよかった。


 だけれど、レオノアは少しだけ現状に不満があった。


 それは彼と同じ目線で戦うことができないことだ。


 雷牙は選抜トーナメントを勝ち抜き、戦刀祭へと駒を進めた。


 五神戦刀祭の存在は英国にいたときから熟知している。


 刀狩者発祥の地である極東で行われる学生同士の一大バトルトーナメント。


 その様子は海外でも放送されており、刀狩者を志す者でこのトーナメントの存在を知らぬものはいまい。


 まさしく五神戦刀祭は次代を担う刀狩者の憧れの場だ。


 レオノアもできることならあの舞台に雷牙と共に立ちたかった。


 しかし今の彼女にその権利はない。


「……ちょっとジェラシーですねぇ……」


 呟いたレオノアの視線は雷牙ではなく、彼の隣に座る瑞季へと向けられていた。


 二人はなにやら楽しげに話しており、端から見ると仲睦まじい様子だ。


 レオノアの主観でしかないが、瑞季は間違いなく雷牙に惚れている。


 瑞季本人がそれに気付いているかは知らないが、雷牙に惚れているレオノアだからこそわかるのだ。


 彼女が雷牙を見る時の瞳と、レオノアが雷牙を見る時の瞳はまったく同じものだから。


 そんな瑞季と雷牙が一緒にいるのを端から見ていて楽しいものだろうか?


 答えは否だ。


 つまり、レオノアの不満とは戦刀祭に出場できなかったことと、この現状、今のあの二人の距離感だ。


 二人は時折肩が触れ合うほどに近くなっており、正直に言ってレオノアにとっては非常に羨ましくみえてしまうのだ。


「……やっぱり私も観客として見ていた方がよかったですかね」


 溜息をつくレオノアであるが、彼女はすぐに被りを振ってそれを否定する。


「……いやいやいや、ここで私の勇姿を見せて雷牙さんの視線を釘付けにしなければ……! そうすれば、グヒヒ……」


 女子が発するにはどうかと思う笑みを零すレオノアだが、そんな彼女に「あのぉ……」と遠慮がちな声が届いた。


 見ると、レフェリーを務めることになっている線の細い青年がやや緊張した面持ちで立っていた。


「そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。すみません!」


 対戦相手を待たせていたことに気がついたレオノアは、すぐさま背負っていた真紅の大剣を片手だけで抜く。


 ブゥン、と重々しく風を切る音を響かせるその様子に少しだけ観客席がざわめいた。


 が、レオノアは大した反応もなく、目の前に立つ大柄な青年に視線を向けた。


「お待たせしてすみません。準備オーケーです」


「フン、なげぇこと待たせてくれやがって。玖浄院だからって調子乗ってんじゃねぇぞ」

 

 青年は苛立ちを露にしながらレオノアを睨みつけた。


 大柄なこともあってか、威圧感は凄まじいがレオノアは大して気に留めている様子もない。


 彼女は一度青年に微笑みかけるが、彼は「けっ」と小さく毒づいてから開始位置へと移動していく。


 レオノアも彼にならって開始位置へ立つと、歓声が段々と大きくなっていた。


 試合開始を待ち望んでいた観客達のテンションが上がってきたのだろう。


 それに答えるように切先を対戦相手の青年に向くように構えると、彼もレオノアと同じ大剣型の鬼哭刀を構えた。


「それでは両者共に準備が整ったようなので、場外戦、開始です!」


 レフェリー役の青年が宣言すると、対戦相手が巨体を揺らしながら距離をつめる。


 瑞季や雷牙と比べると動きは遅いが、レオノアは回避運動と取らなかった。


 その行動に観客席がわずかばかりざわついた。


 大剣を片手で抜いたとはいえ、レオノアの体格はどちらかというと華奢な部類に見えるため、誰もが回避を優先すると思ったのだろう。


 だが、レオノアは開始位置に立ったまま青年を待ち構えている。


 彼女の行動が青年の癪に障ったのか、彼は額に青筋を立てて吼えた。


「舐めやがって! 頭から潰してやらぁッ!!!!」


 怒りの形相で大剣を振りかぶった青年に対し、レオノアは真っ向から向き合い、防御の態勢に入る。


 そして大剣同士が激突した瞬間、派手な火花と共に金属同士が激突する甲高い金属音が響いた。


 同時に、衝撃波が周囲へと届き、殆どの観客が眼を瞑った。


 誰もがレオノアが防御の上から叩き潰されたと思っただろう。


 けれど、彼らが瞼を開けた瞬間、それは一瞬にして裏切られることとなる。


「っ!?」


 声にならない驚愕を露にしたのは、レオノアに斬りかかった極楼閣の青年だ。


 彼の前には平然とした様子で刃を受け止めているレオノアの姿があった。


 瞬間、彼女の口元に笑みが浮かび、青年の大剣は片手でいとも簡単に弾かれる。


「重い一撃ですが、それでは私に届きません」


 冷淡とも取れるレオノアの言葉に青年の顔が引き攣り、今度は彼が防御に入る。


 刹那、レオノアによる猛攻が始まった。


 身の丈ほどの巨大な剣を軽々と振るい、一撃、二撃と青年に打ち込んでいく。


 斬撃は全てが重く、先ほどの青年のそれを上回るものだった。


「く、そがぁッ!!!!」


 僅かにできた攻撃の合間を縫って青年は反撃に転じようとしたが、レオノアの瞳はそれを見逃さない。


「フッ!」


 大剣を振るう隙も与えずに放たれたのは、鳩尾を貫くような豪快な蹴り。


「かっ!!??」


 体をくの字に曲げた青年は苦悶の声を上げて蹴り飛ばされ、バリアに激突してなんとか止まった。


 観客席のざわめきがすこしだけ大きくなる。


 皆、体格的にレオノアが負けるものだと思っていたのだろう。


 その点で言えば、この状況は昨日の雷牙と優雅の試合に似ているかもしれないと、レオノアは口元に笑みを浮かべた。


 青年を見やると、彼はなんとかして立ち上がろうとしているものの、残念なこといそれは叶わないようだった。


 レフェリー役の青年が駆け寄り、もしもの時に備えていた医療スタッフも彼の状況を確認している。


 すると、医療スタッフが被りを振って試合続行が不可能であることを判断する。


「勝者、玖浄院所属、レオノア・ファルシオン!」


 レフェリーに良い渡され、レオノアは対戦相手に頭を下げた後、観客席にいる雷牙に向けて笑顔でピースサインを送った。


 すると、それに気がついたのか、雷牙も笑みを浮かべて頷いた。


 むふん、と満足げな表情を浮かべたレオノアは、大剣を背負い直すと待機場所へと戻っていった。






『すごかったなあの玖浄院の子! あんだけの体格差があったのに勝っちまったぜ!』


『それもそうだけどすごいのはあの子の筋力でしょ。あんな馬鹿でかい大剣を片手で使うとか……』


『本来なら両手武器だろあれ! やっぱ玖浄院とまでなると選抜選手じゃない生徒の実力も桁違いなんだなぁ』


 観客席から上がっているのは試合に勝利したレオノアの実力に驚く声だった。


 雷牙はそれを聞きつつ待機場所に戻るレオノアを見やり、脱力するように息をついた。


「……なんかレオノアのやつ、前よりも筋力上がってねぇか?」


「確かにそうだな。今の試合は、殆ど霊力を使っていなかったようだし……」


 瑞季の言うとおり、今の試合でレオノアは霊力を殆どと言って良いほど使っていない。


 勝利は全て彼女自身が見につけた筋力によるものだ。


「まぁあの子は私達が強化試合に参加してる間もずっと鍛錬してたみたいだからね」


「レオノアなりに頑張ってたってことか」


「そゆこと。ちなみに鍛錬の相手になってたのは、基本的に愛美先生らしいよ。あとは陽那とか樹も。上級生も何人か試合をしたって話だし」


「へぇ……。こりゃ、戦刀祭に出場したからってうかうかはしてらんねぇな」


「ああ。来年ともなればレオノアの実力はさらに上がるだろうし、二年生だってさらに実力に磨きをかけてくるだろう」


 ライバルの成長を嬉しく思いながらも、雷牙たちは足元を掬われないように気を引き締める。


 すると、バトルフィールドに近い観客席で悲鳴が上がった。


 雷牙達がそちらに視線を向けると、先ほどレオノアに負けた極楼閣の青年が医療スタッフを切り付けていた。


 彼の瞳には悔しさと怒りがあり、視線の先にはレオノアがいた。


 途端、彼は駆け出す。


「あのヤロ……!!」


 雷牙は観客席からフィールドに飛び込もうとしたが、それよりも早く何者かがバリアを超えてフィールドに入り、レオノアと青年の間に割って入った。


『お、おいアレって!?』


 観客席から声があがり、雷牙は割って入った人物を注視する。


 青年を待ち構えるようにして立っていたのは、右肩から先がない隻腕の男性だった。


 焦げ茶色のやや長めの髪と、切れ目の彼の名は確か、柏原鳴秋。


 今回の戦刀祭に置いてテレビの解説を担当している元刀狩者だ。


 彼は大剣を構えている青年に対して素手で向き合うと、大きく息を吸って構えを取る。


「どけええぇえぇえぇえええぇっ!!!!」


 興奮状態の青年は鳴秋の存在すら邪魔だというように大剣を彼に向けて振り下ろした。


 が、その刃が届く直前、雷牙は鳴秋の体が青年の懐へ入ったのを見逃さなかった。


 次の瞬間には青年は鳴秋によって投げ飛ばされ、そのまま腕挫手固の要領で拘束された。


 雷牙は彼の手際と体捌きに驚いていたが、すぐに瑞季達と共にレオノアの元へと駆け寄る。


「レオノア!」


 彼が呼ぶと、レオノアは嬉しげに笑顔を見せて駆け寄ってきた。


「怪我などはしていないか?」


「はい。びっくりはしましたけど、あの人が間に入ってくれたので」


「まぁたとえアイツが結構近くまで来てたとしても、レオノアなら心配なかったと思うけどねぇ」


「けど、目の前で怪我するかもしれないヤツを放っておけるかよ」


「ら、雷牙さん。そんなにも私のことを大切に想って……」


 レオノアは涙を流しそうな勢いで感激しているようだが、当の雷牙は首をかしげていた。


 すると、軽い拍手が聞こえ、雷牙達は視線を向けた。


「素晴しい。まさに刀狩者らしい言葉だね。綱源雷牙くん」


 視線の先にいたのは、青年を拘束した鳴秋だった。


 彼の後ろでは刀狩者らしき人物に連行されていく青年の姿があったが、もう暴れる気力は残っていないようだ。


「ありがとうございました。えっと、確か柏原さん、でしたよね?」


「ああ。今回の戦刀祭の解説役を務めさせてもらっている。君の方は大丈夫だったかな?」


「はい。おかげさまで」


「それはよかった。あぁそうだ、彼のことはあまり恨まないであげてほしい。あんなことは褒められたことではないけれど、悔しさで突発的にやってしまったんだろう」


「大丈夫です。育成校の生徒にもいろいろと事情がありますし、こういうことがあるのはわかっていて出場してますから」


「そういってくれると助かるよ。……しかし、こんなところで玖浄院のスーパールーキー二人に出会えるとはね」


 鳴秋の視線が雷牙と瑞季を捉えた。


 彼は二人を交互に見やると満足したようにうんうんと頷いた。


「二人とも良い気迫をしているね。確かにこれならあの戦いぶりも納得がいく」


「ありがとうございます」


「ども」


 雷牙は軽く会釈をして答えると、鳴秋は腕時計を見やって何かを思い出したようにハッとした。


「っと、すまない。僕はこれで失礼するよ。綱源くん、痣櫛さん。明日からの試合も頑張って。解説席で応援させてもらうよ」


 鳴秋は軽く手を振りながらバトルフィールドから出て行った。


 途中、彼を呼び止める声もあったが、彼はそれに軽く答えながら走り去っていった。


「応援してるってさ、二人とも」


「これは負けられない理由が一つ増えたな。雷牙」


 瑞季が小さく笑いながら雷牙に声をかけるものの、雷牙は鳴秋が走っていった方に視線を向けていた。


 その表情は硬く、一見すると怒っているようにも見える。


「雷牙?」


「え……あぁ、わるい。なんだ?」


「いや、柏原さんが応援していると言っていたから、負けられないなと……」


「あー。そうだな、うん。明日からの試合も絶対に負けらんねぇな」


「どうかしたんですか?」


「いや、なんでもねぇよ。ちょっとぼーっとしてただけだ」


 雷牙は笑みを浮かべて問題がないと取り繕う。


 彼の胸の中には確かな鳴秋に対する違和感があった。


 けれど、雷牙はその違和感の正体までをつかむことは出来ていなかった。











 雷牙達と別れた鳴秋は端末の通信を開いて耳に当てる。


 数回のコール音の後、相手が出ると鳴秋は人のよさげな声音で通信の相手に謝罪した。


「すみません。途中で切ってしまって」


『……なにをしていた?』


「いえ、将来有望な次期刀狩者を助けただけです。まぁ余計なお節介だったかもしれませんが」


『そうか。まぁいい、だがこういったことはあまりして欲しくはないな』


「善処します。それでそちらの首尾は?」


『問題ない。全ては順調に進んでいる。お前こそうまくやることだな。あのお方はそれなりにお前に期待しているようだ』


「わかっています。では、そちらも首尾よくよろしくお願いします」


 鳴秋は通信を切ると、トーナメントが行われるスタジアムを見やる。


「……わかっていますとも。次代を担う彼らに()()()()()()()を教えることが、私の使命なのだから」


 言葉は決意に満ちていたが、彼の瞳は酷く淀んでいた。

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