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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第五章 開幕、五神戦刀祭
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3‐1 場外戦

 五神戦刀祭の様子は全国ネットで放送されており、新都の繁華街にある大型モニタでは試合の様子が写しだされていた。


 また、ネットの動画配信サイトでも特設チャンネルが設けられ、世間の目は五神戦刀祭へと釘付けになっていた。


 一度は反対意見が激化した戦刀祭開催だが、始まってしまえばそんなことはどこ吹く風といった様子だ。


 ハクロウ長官である武蔵辰磨も執務の合間に、ネットのチャンネルで試合の様子を観察していたが、とある試合で彼は思わず口角を上げてしまった。


 その試合とは、綱源雷牙の試合だ。


 相手は彼よりも格上であろう七英枝族の分家の人間、雨儀優雅だったか。


 世間の声も雷牙に厳しく、誰もが優雅に軍配があがるものだと思っていたようで、テレビ番組でもキャスターや解説は優雅の方ばかりをフィーチャーしていた。


 ネットの一部動画サイトのコメント欄には雷牙を小馬鹿にするような意見もあった。


 しかし、彼らの意見は一瞬にして崩れ去った。


 雷牙は雨儀優雅をたった一刀で切り伏せたのだ。


 スタジアムはその結果に誰もが息を呑み、声を出せないでいたようだ。


 それはこちらで放送しているテレビやネット番組でも同じであり、彼が勝利した瞬間はコメントがまるでなかった。


 彼はあの一刀で優雅だけではなく、世間の言葉や視線すらも撥ね退けてみせたのだ。


「親子共々凄まじいものだな」


 今は亡き彼の母親である光凛も当時としてはまだ若い段階で隊長となった。


 ハクロウ内部は愚か、彼女が隊長を務めていた部隊でも彼女を批判する声もあったが、彼女はそんなことに臆することもなく己の道を貫いた。


 妖刀が観測されればいち早く現場に向かって封印作業を行い、斬鬼が出現すれば誰よりも苛烈に戦うその姿は今でも瞼の裏に焼き付いている。


 使っている霊力の色や属性覚醒などの差異、実力不足はあれど彼女の息子であるという片鱗は玖浄院のトーナメントで見たときよりも大きくなっていた。


 だが、賞賛できるのは彼ばかりではない。


 戦刀祭に挑んでいる学生達一人一人が血の滲むような努力をしてあの場に立ち、その成果を存分に発揮するために戦っている。


 だからこそ、その努力を無駄にさせるわけにはいかない。


「次代の刀狩者たちをなんとしても守らねばな」


 動画が表示されているウィンドウを閉じた辰磨は、別のウィンドウを呼び出す。


 そこにあったのは、第四部隊の部隊長である翔が調べたクロガネの情報だった。


 とは言っても、詳細がはっきりと明記されているわけではなく、あくまで要注意人物だけを抽出したものだが。


 クロガネの組織図自体は単純で、ボスとよばれるトップには鬼刃将という十一名の配下がおり、彼らは幹部という扱いだ。


 彼らの下まではそこまで区別されてはおらず、雑兵という扱いとなっており、その根は世界各地に伸びている。


 それゆえに厄介なのだ。


 少しでもハクロウの影が近づけは、彼らはあっという間に雲隠れし、一切の消息がつかめなくなる。


 たとえ尻尾を掴んでもそれが幹部に直接つながることは殆どない。


 以前、雷牙が無力化したクロガネの構成員もただの雑兵に過ぎず、幹部の居場所や本部がどこにあるかまでは知らなかった。


 だが、クロガネにはこの組織図とは別に、独自に妖刀や斬鬼の研究をしている部門がある。


 以前起きた大城和磨の一件。


 彼が暴走する裏では、かつてハクロウを追放された新宮・カイル・トラヴィスがいた。


 彼は本来ならば八十を超える老人のはずだったが、大城家に行った聴取や剣星の報告によると、青年の姿だったらしい。


 そして同時期に発生していた鐘魔鏡に反応しない妖刀の存在に加え、その後に立て続けに発生したファルシオン親子の誘拐事件。


 そこでもクロガネによって開発されたであろう装備や特殊な薬剤があった。


 玖浄院と轟天館の強化試合を襲撃した百鬼遊漸にしてもそうだ。


 クロガネは明らかにハクロウと同程度、ないしはそれ以上の研究を行っていると見て間違いない。


 同時に研究に携わっている殆どは、その思想からハクロウを追放された者達だろう。


 新宮の一件以降、ハクロウ支部に調べさせた結果、監視付きの研究者以外で失踪した者達がいた。


 クロガネが彼らを引き抜いたのだろう。


 研究者の殆どは元々はハクロウにその身を捧げていた者達だが、彼らはそのハクロウに追放された。


 彼らからすれば裏切られたと感じてもおかしくはない。


 ゆえに、クロガネはそこを煽ったのだ。


 その隙をつけ込まれた彼らは、簡単にクロガネへと寝返り、彼らに技術力や研究を提供した。


「ここばかりは私達の怠慢が招いた結果だな……」


 眉間に皺を寄せた辰磨は大きく溜息をついた。


 確かに彼の言うとおり、ハクロウが彼らをもっとマークするなり、再び研究者として導いてやるなどすればクロガネがここまで隆盛することはなかっただろう。


 過ぎたことを気にしても無駄かもしれないが、これ自体はハクロウという組織が大きくなりすぎたことによる弊害と言っていいだろう。


 辰磨は静かに拳を握り締める。


 この状況を作り出した者達は今もハクロウを牛耳っている。


 それは辰磨ではない。


 公にはされていない()()()()()()であり、()()()()()()()だ。


「……貴方達はもっと早くにこの舞台から退場すべきだった」


 幻聴のように聞こえるのは、彼らが行う無意味な討論。


 しかし、今はこれから起こりうることを優先し、彼らのことは一度思考から外す。


 今警戒するべきは、クロガネによる襲撃の方だ。


 襲撃の可能性があるのは戦刀祭の会場が濃厚だが、同時に警戒すべきなのは新都だ。


 島の警戒を強めていることはクロガネも既にわかっているはず。


 そうなってくれば、彼らは警備が手薄になった本部を叩きにくる可能性が高い。


 本部を陥落させれは、ハクロウ所属の刀狩者の士気は確実に下がる。


 クロガネはそれを踏まえたうえで襲撃してくると見越した方がいいだろう。


「鬼刃将十一名のうち半分の襲撃は考えてもいいだろう。同時に彼らの配下が大挙として押し寄せる可能性もある。

 そのほか警戒すべきは、ボスの側近と呼ばれる存在と、ボス本人か……」


 辰磨はモニタを見ながらタバコに火をつける。


 クロガネのボス直属の配下は鬼刃将だが、そのほかに彼らよりもボスに近い存在がいるらしいのだ。


 現段階で判明しているのは男女の二人のみだが、翔の話ではあと二人、つまり合計で四人いる可能性が高いとのことだ。


 彼らの実力は鬼刃将よりも高いらしい。


 全軍を投入してくるとは考えられないが、彼らの襲撃も頭に入れておいた方がいいだろう。


「……いざという時は、私も前線に立たなくてはな」


 タバコを咥えながら辰磨は室内にある刀掛台から自身の鬼哭刀、壱門を見やる。


 武蔵家の人間として長官に就任して以降も、訓練を怠ったことはないが実際の戦場や被災地に赴くことは殆どなくなってしまった。


 しかし、それが戦わないという理由にはならない。


「刀狩者として為すべきことを為す。助けを求める人々を救うのが、我々刀狩者だ」


 窓の外に広がる新都と、かすかに見える五神島を見やりながら、辰磨は己が刀狩者となった意味を改めて自身の胸に刻む。


 すると、辰磨に直通の通信が開き、彼はすぐさまそれに応答する。


「私だ」


『辰磨さ――武蔵長官。京極です』


 通信の相手は、別任務に当たらせていた京極剣星だった。


「どうした?」


『はい。実はついさっき、()()の消息がようやく掴めました』


「本当か! 彼女はいまどこにいる?」


 辰磨は珍しく声を大きくして彼に問うものの、剣星から返ってきたのは芳しくない応答だった。


『それが消息をつかんだとは言っても、あくまで断片的なものでして彼女がこの周辺にいるという情報はあるのですが、捜索する範囲も広くすぐに発見というわけには……』


「そうか……だが、それでも構わない。彼女を見つけたらまた、連絡を頼む」


『わかりました。……しかし、本当に僕達は戻らなくてもよろしいのですか?』


「……本音を言えばお前達第零部隊にも警戒任務に当たってもらいたいところだ。しかし、クロガネの隆盛が続く今、彼女はなんとしてもこちらに戻しておく必要がある。この機を逃せば、次にいつ彼女が現れるかもわからん。心苦しいとは思うが、お前達はそのまま任務にあたってくれ」


『……了解しました。では、一日でも早く彼女を見つけた後、本部へ帰還します』


「ああ。頼むぞ、京極」


 辰磨は通信を切ってから紫煙を燻らせる。


「……まったく、彼女には昔から手を焼かされるな……」


 大きく溜息をついた彼の顔には、苦労という色が濃く現れていた。






 一日目の全試合が終了した夜、雷牙達玖浄院の選手は、宿泊しているホテルの玖浄院専用フロアにあるラウンジに集まっていた。


 その中には選手以外にも招待した彼らの友人達の姿もあった。


 彼らの前にはホテル側が用意してくれた料理や、スナック類が所狭しと並んでおり、祝杯ムードである。


「えー、では戦刀祭一日目、出場した選手の皆さんお疲れ様でしたー。一日目終了後の玖浄院の戦績は全員勝利! というわけで、ささやかではあるけれど、お疲れ様会とちょっとした息抜きも兼ねて楽しんでねー」


 龍子が告げると、皆一様に料理に手を伸ばし始める。


 雷牙も勿論山盛りに料理を取ってはいるが、その表情は微妙に腑に落ちていない様子だ。


「どうかしたのか、雷牙?」


「いや、こういうのってもうちょいトーナメントが進んだらやるもんじゃねぇのかなーって思ってよ」


 瑞季の問いに雷牙はフォークにこれでもかと巻いたパスタを口に放り込みながら答える。


「確かにわからなくはないが、会長なりの気の使い方だろう。ずっと試合のことばかり考えていては息が詰まるからな」


「まぁ、言われて見ればそうか……けど、あの会長が気を使う。ねぇ……?」


 雷牙は苦笑いで龍子を見やる。


 彼女は中々のハイテンションのまま勇護やほかの生徒会メンバーに絡み始めている。


「単純に会長がやりたかっただけって感じもするよな」


「……それに関してはノーコメントだ」


 瑞季も想像はしていたようで、表情はすこしだけ引き攣っていた。


 それに雷牙は肩をすくめながら別の料理に手を伸ばしていると、「そういえば……」といつの間にか隣に座っていたレオノアが問うてきた。


「そういえば雷牙さんの余りにも華麗な勝ち方に驚いてしまって、すっかり聞くことを忘れていたのですが、あの技はどういったものだったんですか?」


「あまりにも華麗って……なんかこっ恥ずかしくなるからやめてくれ。大したもんじゃねぇよ。今まで俺がやってきたのと殆ど変わらない技だからな」


「でもあの霊力赤かったし、今までよりもスピード速くなかった?」


 舞衣も疑問に思ったようで、首をかしげている。


 玲汰や陽那もそれに続くように首を縦に振った。


「霊力が赤いのは、いつもより霊力を集束させたからだ。まぁ濃度が高かったって思ってくれ。んで、あのスピードは集束させる霊力の余剰分をブースターみたいな推進力に変えたんだよ」


「あー言われてみれば、雷牙の霊力の放出は会場全体を揺らすもんねー」


「それだけ膨大な霊力なら、確かに推進力に変えられますね……。さすが雷牙さんです!」


 レオノアは褒めてきたが、雷牙は「いやー……」と苦い表情を浮かべた。


「実は会長にレクチャーしてもらったんだ。会長と決勝で戦った時や、強化試合で怨形鬼と戦った時は土壇場でできたけど戦力にするなら、いつでも出来た方がいいって思ってよ」


「なるほど。そういうことだったのか……」


「まぁでも霊力を赤くするのは、結構簡単に出来てたけどね」


 頭上から聞こえたのは龍子の声だった。


 雷牙はすぐに振り向こうとしたものの、それを許さないかのように雷牙の頭に龍子の顎が乗せられた。


 首筋のあたりに柔らかい感触があったが、彼はあえてそれには触れなかった。


「それは会長がレクチャーする前から出来ていたということですか?」


「そんな感じだったねー。多分、怨形鬼との戦いで体や霊脈がある程度その状態を理解したんだろうね。だから速く体得できたんじゃないかな。それじゃ、私は戻るね。騒いでもいいけど、馬鹿騒ぎはしないように」


 最後に軽く注意してから彼女は去っていったが、雷牙は後ろを見やりながら思わず首筋に手を添えた。


「……柔らかかったな」


「雷牙さん、なにか言いましたか?」


「い、いや、次の試合も頑張らねーといけねぇなって思ってよ」


「確かにそうだな。勝ったとはいえ、まだ一回戦だ。この後も気を抜くことは出来ない」


 瑞季の声に雷牙は静かに頷いてからもう一度上級生三人を見やる。


 一回戦は同校対決ということはなかったが、このまま勝ち進めば彼らともいつかぶつかるだろう。


 そして雷牙がもっとも速くぶつかる可能性があるのが、勇護だ。


 彼の実力はよくわかっているし、油断できる相手では決してない。


 ほかの選手達も決して一筋縄ではいかない者達ばかりだ。


 心に滾るものを感じながら、雷牙は口元に笑みを浮かべる。


「それはそうと雷牙、私としては先ほど首筋に当てた手が気になるんだが?」


「え゛……?」


「あー、私も気になります。まるで何かの感触を確かめるかのようでしたねぇ。『柔らかかった』とも言っていませんでしたか?」


 見ると、レオノア、瑞季はどちらも笑っていた。


 しかし、それは口元だけで目元はまったくといっていいほど笑っていない。


 これはまずいと、玲汰達に視線を向けて助けを乞うものの、彼らは完全に見て見ぬふりを決め込んでいる。


「い、いや、それはなにかの誤解だって……!」


「誤解? しっかり説明してくれないと何を誤解しているのかわからないぞ? 明日は休養日だ。トーナメントは実施されないのだから、ゆっくりと話そう」


「賛成です。さぁ雷牙さん、お話しましょう?」


 二人はフフフと低く笑うものの、雷牙は全身から冷や汗が噴出していた。


 その後、深夜になるまで雷牙は二人にこってりと絞られたのであった。

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