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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第五章 開幕、五神戦刀祭
123/421

2-1 トーナメント開始

 早朝、スタジアムに隣接する臨時の作戦本部の地下には警備任務の総隊長である澪華が正面に展開している大型モニターを見やっていた。


 彼女の眼下にはコンソールやらモニタやらがずらりと並んでおり、その前にはハクロウの制服に袖を通したオペレーターがいる。


 彼らは斬鬼対策課からではなく、妖刀観測課から派遣されてきた観測官と呼ばれる者達だ。


 ハクロウは各分野別に課があり、それぞれ担当する仕事や役職は異なっている。


 そのうちの一つが、妖刀観測課だ。


 彼らの職務は配置された鐘魔鏡の反応を分析し、妖刀の発生地点を特定、そしてその妖刀の危険度を過去のデータと瞬時に照らし合わせて解析するのが主だ。


 そのほかにも刀狩者への通信や市民の避難誘導などもあるが、基本的に行うのは妖刀の観測である。


 今回彼らには妖刀の観測も勿論だが、周辺海域や空域に不信な船舶や航空機がないかといった刀狩者だけではカバーできない部分を担当してもらっている。


 仮に妙な反応が出た場合は即座に全刀狩者へ情報が伝達され、もっとも近い場所にいるものがそれに対処することになっている。


「真壁隊長。五神島外周の結界は問題なく展開しています」


「わかりました。引き続き結界の維持をお願いします。鐘魔鏡の方はどうですか?」


「問題ありません。霊力濃度は安定レベルです。妖刀発生の兆候は見られません」


「ご苦労様です。そちらも引き続き警戒のほどをよろしくお願いします」


 澪華は下から上がってきた報告に対応しながら、なれた様子で指示を出していく。


 結界というのは五神島を囲むように発生している、いわば霊力の壁だ。


 端から見ればまるでなにも展開していないように見えるが、その防御力は本物であり、質量兵器による砲撃すらも防ぐ効果がある。


 この結界はハクロウの本部や支部にも採用されており、シェルターにも扱われている。


 結界はいわばこの島を守る防壁だ。


 陸は刀狩者が固め、空と海はここから観測官達が常に目を光らせている。


 澪華は一度小さく息をつくと、眼下で作業をしている観測官達に静かに告げた。


「皆さん、いよいよ今日から戦刀祭が開催されます。クロガネ襲撃の可能性がある以上、どんな場面においても決して気は抜けません。少しでも問題、もしくは不穏な反応があった場合はすぐに伝達のほどをよろしくお願いします」


 彼女の声に観測官達は階上に立つ彼女を見やって返答する。


 今回の警備任務は観測課と対策課の連携がなくては成立しない。


 クロガネが襲撃してきた際はフィールドを突破される前に来場者や選手達を迅速に避難させ、最終的にはここでクロガネを迎え撃つ。


「……本当はなにも起きないことが一番よいのですが……」


 心配そうな視線の先にあったのは、スタジアムの様子を映し出しているカメラの映像だ。


 早朝のためまだ人の姿は見られないが、これより数時間後、あの場では次代を担う若者達による激闘が繰り広げられる。


 彼らが今日まで積んできた努力を無駄なものにさせないため、澪華達刀狩者は全力でこの島を護るのだ。






『お集まりいただいた皆々様! ついにこの瞬間がやってまいりました! これより五神戦刀祭トーナメントを開始いたします!!』


 興奮気味の実況の声にスタジアムの観客席では歓声が上がる。


「昨日も見ましたが、こうしてみるとやっぱりすごい人ですね」


 眼下に広がっている光景を見て、レオノアは圧倒されているようだった。


「けれど本当にいいのかしら、レオノアはともかく、特になにもしていない私までこんな良い席で見てしまって……」


 若干申し訳なさそうにしていたのはレオノアの母、ヴィクトリアだ。


 現在彼女らがいるのは玖浄院のアリーナにもあった特別観覧席である。


「大丈夫っスよ。二人は特別招待券持ってるから問題ないっス。ですよね、会長?」


 雷牙は振り返りながら問う。


「うん。あまり気にしないでください、ヴィクトリアさん。これは特権みたいなものですから。文句を言う人はいませんよ。それに私達の方でも個人的に招待してる人はいますしね」


 龍子の言うとおり、観覧ブースには控えの選手以外の人物の姿が見える。


 彼らは選手である龍子や勇護が招待した人物だ。


 その中にはもちろん、舞衣や玲汰といった雷牙の級友たちの姿もある。


「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。生徒会長さん」


「どうぞどうぞ。くつろぎながら観戦してください」


 龍子がソファに促すと、ヴィクトリアはそのままゆっくりと腰を下ろした。


 レオノアも窓際に集まっている舞衣たちに合流しようとしていたが、ふと首をかしげた。


「あれ、でも五人で十五枚のチケットがあるにしては人数が少なくないですか?」


 彼女の疑問に雷牙も改めて室内の人数を数えてみたところ、確かに若干すくないようだ。


 瑞季は今は仕方ないとして、控えの選手を含めても二十人前後いるはずなのだが、この場には十人前後の人影しか見られない。


「あーそれは、ここよりも観客席の方が空気を感じられて良いって人もいるからね。観客席で見てる人もいるよ。けど、すくなく見えちゃうのは仕方ないんだよ。だって彼が招待してないから」


 肩を竦めた龍子の視線を雷牙とレオノアは辿ると、そこには多人数掛けのソファに仰向けで寝転がっている直柾の姿があった。


「招待しないってのはありなんスか?」


「別に問題じゃないよ。ようはあのチケットでお金儲けしなければいいだけだからね。それよりもいいの? そろそろ最初の試合が始まるよ」


「雷牙ー! そろそろ始まるぜ!」


「おう、今行く」


 玲汰に呼ばれ、雷牙は龍子に軽い会釈をしてから彼らと合流する。


 すると、それにあわせたかのように実況がスタジアム全体に響き渡る。


『それでは五神戦刀祭トーナメント、Aブロック第一試合に臨む選手の入場です! 皆様どうか拍手と歓声でお迎えください!!!!』


「いよいよね……!」


「やっべなんか俺の方が緊張してきた……!」


「いや、玲汰関係ないじゃん」


「仕方ねぇだろ、友達が出るってなると緊張しちまう性分なんだよ!」


 陽那がやや辛辣な声音で玲汰にツッコミを入れているものの、雷牙もどこか鼓動が早くなるのを感じていた。


 今から行われる試合は、この場にいない彼女、瑞季の初戦なのだ。


 トーナメントの組み合わせは見事にばらけていた。


 瑞季はAブロックで、直柾がBブロックシード枠。


 勇護と雷牙がCブロックで、龍子はDブロックのシード枠だ。


 個人的なことをいってしまえば、CとDが激戦区だが、正直早々に瑞季と当たらないのは僥倖だ。


 彼女とは互いに高みへ昇った状態で戦いたいのだ。


「瑞季さん、勝てるでしょうか」


「確実に勝てるなんて勝手なことは言えねぇけど、俺はアイツが勝つと思ってる。それに考えても見ろ、上級生にも引けをとらなかった瑞季が初戦で負けるわけねーだろ」


「ですね。確かに瑞季なら、心配なさそうです」


 二人は瑞季が出てくる入場ゲートに視線を向けた。


 スタジアムのボルテージは高まっており、試合開始を観客全員が心待ちにしている状態だ。


「……負けんなよ。瑞季……」


 誰にも聞こえないほど小さな声で雷牙は彼女に向けて告げた。






 視線の先にある光に向けて瑞季はゆっくりと歩みを進めていた。


 遠くに聞こえていた歓声も今はかなり近くなってきた。


 昨日の開会式で発表されたトーナメント表を見て、彼女は正直驚いていた。


 けれど、すぐに気持ちを切り替え今では緊張など少しも持っていない。


 あるのはただ目の前に立ちはだかる壁を打ち倒すという確固たる信念のみだ。


「なにが何でも勝ち上がって、絶対に決勝戦まで上り詰めてやるさ。そして私は雷牙に気持ちを伝えるんだ」


 随分と前に雷牙と交わした約束。


 瑞季が雷牙に対して抱いている気持ちに答えが出たら、それを告げるというもの。


 瑞季自身、ずっと胸の中にある彼に対する気持ちの正体なんなのか、早い段階で気付いてはいたのだ。


 けれど、どうしても言い出すことができなかった。


 自信がないからとか、恥ずかしいからとかそういうのではない。


 できることなら互いが高みに上った時に言いたいと思うようになったのだ。


 それで言えば今回の戦刀祭はうってつけの舞台だろう。


 瑞季はAブロックで雷牙はCブロックだ。


 順当に勝ち進めば、決勝戦で激突することになるはずだ。


 もちろんそんな甘い戦いでないことはわかっている。


 けれど、互いが成長したこの場所で告げることに意味がある。


 それがここまで待ってくれた彼に対する一種の礼儀であると思うから。


 たとえ彼に勝ったとしても、負けたとしてもこの気持ちを伝えることに変わりはない。


 そのためには、まずこの初戦を勝たなければならない。


 すこし遠くに見えていた光はすぐ目の前にまで迫っていて、実況の高らかな声や歓声がすぐ近くで聞こえた。


『それでは選手の紹介と参りましょう!! 東ゲートより登場するのは、あの痣櫛流殺鬼術の使い手にして、痣櫛家次期当主!! 精鋭が集まる玖浄院の学内戦を見事勝ち抜き、戦刀祭へと駒を進めた新進気鋭の注目選手!! 玖浄院所属、痣櫛瑞季選手の入場ですッ!!!!』


 声と共に瑞季は視界に入っていたバトルフィールドを見据える。


 準備は完了。


 あとは相手をただ一刀のもとに打ち倒すのみ。


 鋭い眼光を向けた瑞季はゲートを潜って観客達の前に姿をみせた。


 歓声が降ってくる。


 けれど彼女は臆さない。


 剣気を纏いながら一歩ずつバトルフィールドへ上がっていく。


『さすが痣櫛選手、一年生ながらもすごい気迫です! まったく緊張が見られません!』


 瑞季はフィールドの開始地点で足を止めると、向かい側にあるゲートを見やる。


『それでは続いて西ゲート! 操る属性は大地! 知的な雰囲気を纏いながらも、豪快な技を繰り出すその様子から名づけられた二つ名は『崩山(カタストロフェ)()叡嬢(フロイライン)』!! 摩稜館では二年生にして生徒会の役員を務める、葛原(くずはら)あけび選手の入場です!!』


 紹介と同時にあけびが姿を現す。


 彼女は昨日、カフェで優雅の背後にいた眼鏡をかけた摩稜館の生徒だ。


 自身ありげな笑みを見せながら彼女もまた臆した様子なくバトルフィールドへと上がっていく。


『それにしても初戦から中々面白い組み合わせとなりました! 痣櫛選手は七英枝族本家の出身ですが、葛原選手は分家にあたる家系の出身だそうです! 似たような境遇の両者による試合、実に楽しみです!!』


「お手柔らかにお願いしますね。痣櫛様」


「それは了解しかねる。私は決勝まで勝ち進まなければならない。だから、最初から全力で行かせてもらおう」


 瑞季は鬼哭刀、虎鉄を抜き放つ。


 すると、あけびも槍型の鬼哭刀を構えて口元に僅かながら笑みを浮かべた。


「さすが、七英枝族の方はおっしゃることが違いますね。初戦の段階でもう決勝を見据えていらっしゃるとは……。ですが、あまり戦刀祭を舐めない方がよろしいですよ?」


 にこやかだが、彼女のまとう雰囲気が一気に変わった。


 嫌悪感ではないが、敵意は明らかに強くなっている。


 肌に刺さるような闘気に瑞季は口元を緩めると、彼女に告げる。


「別に舐めてなどいないさ。ただ私には目的がある。それを達成するために、目の前にあるものは全て斬り捨てるのみだ……」


 すぅっと彼女の瞳から光が消えた。


 あけびに対抗するように瑞季もまた闘気を強め、彼女にそれをぶつける。


 彼女は一瞬それに驚いたような表情をしながら、僅かに浮かんだ汗を拭いながらこちらを見据えた。


 すると、レフェリーが両者中間に立って彼女らの様子を確かめる。


 それぞれが頷くとレフェリーもそれを理解したようで、静かに頷いてからインカムで実況と連絡を取る。


『レフェリーの確認も取れたようです! それでは五神戦刀祭、今年最初の試合! どちらも全力を出した戦いを見せてください! 試合――開始ですッ!!!!』

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