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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第五章 開幕、五神戦刀祭
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プロローグ 集結する強者達

新章突入!


 新都東京にあるハクロウ本部では会議が開かれていた。


 荘厳な雰囲気のある会議室には、難しい表情をしているハクロウの重役達の姿がある。


 彼らの殆どは引退した刀狩者や、技術者、そして事務官などで構成されている。


 彼らが腰掛ける黒檀の長机の議長席に座るのは、ハクロウの長官である武蔵(たけくら)辰磨(たつま)だ。


 すると、彼に向けて手を挙げた人物がいた。


「長官。やはり今回の五神戦刀祭(ごしんせんとうさい)は中止にすべきでは?」


「馬鹿を言え。先日の会見で決行すると言った以上、今更中止になぞできるものか。第一、開催に関しては先日の会議でも問題ないと判断されたばかりではないか」


 若干若さの残る男性の言葉を、辰磨の近くに座っている高級そうなスーツに袖を通した恰幅のいい男性が否定する。


「開催まであと数日と迫ったこの状況で中止するなどと言ってみろ。世論は勿論のこと国自体を敵に回しかねんぞ」


「それは、そうですが……」


 男性は眉間に寄せて小さく拳を震わせた。


 玖浄院と轟天館の合同強化試合をクロガネの幹部が襲撃した直後、このハクロウの評議会では今年の戦刀祭を開催すべきか否かが協議された。


 結果として戦刀祭は開催される形とはなったが、やはり中止派の意見もある。


 辰磨自身、先ほど声を上げた彼の言葉がわからないわけではない。


 クロガネの影がある以上開催すれば相応の危険が伴い、学生達だけではなく、戦刀祭に来場した多くの観衆達にも危険が及ぶ。


 今回は開催を見送って来年、もしくは時期をずらすという手もあった。


 けれど、それではハクロウがテロリストに屈したことになる。


 それだけは避けなければならない。


 尚且つ、戦刀祭には大きな経済効果もあるため、下手に中止にするとそれこぞ恰幅のいい男性が言ったとおり、国を敵に回しかねない。


 そしてクロガネに屈したとなれば、彼らが隆盛する機会を与えてしまう。


 さらには彼らに同調する者達が現れてもおかしくない。


 そうなればこの世界はさらなる混迷の坩堝へと化すだろう。


 ゆえに、ここで簡単に屈するわけにはいかないのだ。


「だいたい、君はまだ若すぎる。私が君の年齢の頃は――」


「――関係のない話をするな。この場は個人を貶める場ではない」


 恰幅のよい男性の言葉を遮るように辰磨は彼を咎めつつ、鋭い眼光を向ける。


 すると、男性は「し、失礼致しました……」と萎縮して小さく頭を下げた。


 辰磨は続いて先ほど意見を述べた男性に視線を向ける。


「君の意見はもっともだと私もわかっている。学生達に不安を与えていることもな。だが、こちらとしても最大限の人員を派遣するつもりだ」


「というと……?」


「斬鬼対策課の部隊長とその部隊を戦刀祭開催期間中の警備とする。当然、一般の刀狩者も多数派遣する。不測の事態も予想されるため、スタジアムに入場する者達は選手、観客問わずに徹底した検査を行い、昼夜を問わずに厳戒態勢を敷く。

 これだけで安全が確約されるわけではないが、ハクロウは決してクロガネというテロリストに屈するわけにはいかない。いざとなれば、総力を挙げて対処することになるだろう。その時は、皆の協力も仰ぎたい」


 辰磨は立ち上がると静かに頭を下げる。


 突然彼が頭を下げたことで会議室はざわめくものの、辰磨はそれを気にせずに続ける。


「我々は決して悪には屈しない。それがハクロウの理念だ」


 眼光鋭い彼の言葉に、重役達は一瞬気圧されたような様子を見せたが、彼らも一線を退きながらもかつては妖刀や斬鬼と戦ってきた者だ。


 すぐに態度を硬くすると、彼らは辰磨の言葉に頷いて返した。


「ありがとう、皆の協力に感謝する」


 五神戦刀祭は行われる。


 たとえその影に闇が潜んでいようとも、白き狼は決して逃げない。


 現れた悪を、その強靭なる牙で撃滅するのみだ。











 五神戦刀祭が行われるのは、東京湾近海の洋上に造られた人工島。


 正確な名称はつけられていないが、世間一般的には、五神戦刀祭を短くして五神島(ごしんとう)と呼ばれている。


 主な上陸手段は海路と陸路のみだ。


 陸路は新都を含め、人工島に程近い海沿いの県から延びる車やリニアレールが走行可能な、海底トンネルと橋を渡って上陸することができる。


 海路においては同じように太平洋側の海に面した県の一部の港から専用の船が出ている。


 参加選手は基本的に育成校所有のバスや船で上陸することになっており、トーナメントを観戦する一般客は、自家用車やリニアレール、バス、船などで輸送される。 


 そのうちの一つ、新都から延びる海底トンネルでは玖浄院(くじょういん)所有の大型バスが走っていた。


 ほかの車線にはあまり車はなく、リニアレールもそこまでせわしなく走っているわけではない。


 まぁそれも当然と言えるだろう。


 今日は戦刀祭の開会式が行われる前日だ。


 一般客の入場は明日からであり、開会式は夜に行われる。


 実際にトーナメントが開催されるまでには今日を入れて二日の空きがあるのだ。


 バスの中では参加選手と控えの選手と生徒会の役員達が各々の時間を過ごしていた。


 綱源(つなもと)雷牙(らいが)もそのうちの一人だ。


 ……一人なのだが、彼はほかの生徒を比べるとやや興奮気味であり、座席に座りながら外をしきりに眺めたり、端末を操作したりと落ち着きがない。


「雷牙……今外を眺めても何も見えないぞ?」


 その様子を見かねたのか、雷牙の隣に座って電子書籍を読んでいた痣櫛(あざくし)瑞季(みずき)が小さく溜息をついた。


「え、あぁ。そ、そうだな! いやつい気になっちまってさー」


 雷牙は少しだけ恥ずかしげに頭を掻いていたが、ふと彼の背後から声が届く。


「気になるのはわかりますよ。二人は実際にあの島に足を運ぶのはこれが初めてですからね。私もそうでしたし」


「副会長もですか?」


 後ろの座席にすわっていたのは、生徒会の副会長である土岡(つちおか)三咲(みさき)だった。


 彼女は端末からホロモニターとキーボードを投影して作業をしていたが、一度モニターから視線を外して「ええ」と答える。


「トーナメントは連日のようにテレビやネットで放送されいて、これからその舞台に立とうとしている。緊張するのもわかりますよ、綱源くん」


「……副会長。恐らくですが、雷牙の場合は若干ベクトルが違うかと」


「え…………? あぁ、そういうことですか」


 三咲はなにかを察したようで、呆れ混じりの苦笑を浮かべる。


「綱源くんの場合は緊張ではなく、興奮ですね。そのあたりは会長と似てます。あの人も初めて戦刀祭に行く時は興奮した様子だったと卒業した先輩から聞きました」


「あー、その辺はなんとなく俺もわかるっスね」

 

「でしょう。あの人も普通に戦闘狂紛いのところありますからね。まぁ、雷牙くんには負けるかもしれませんが」


 三咲の言葉に雷牙は苦笑いを浮かべ、瑞季は「確かに」と言うようにうんうんと頷いていている。


 すると、前方の方で話題に上がっていた生徒会長、武蔵龍子がマイクを持って立ち上がった。


『皆お疲れー。そろそろトンネルを出るよー。まぁその後ももう少しかかるんだけど、窓から島の様子が見えると思うから、ぜひ見てみるといいよー。こういう時にしか見られない特別な場所だからね』


 龍子の言葉に雷牙は若干背筋を伸ばし、瑞季も窓の外を見やる。


 すると、トンネルの先が徐々に白んでいき、やがて雷牙達の視界は光で真っ白に染められた。


 けれどそれも一瞬。


 眩い光から解放された雷牙は、窓の外を見やって思わず息を飲んだ。


 最初に眼に入ったのは、煌めく青い海とその上を奔る数本の橋だった。


 が、視線はすぐに別のものへと移り変わる。


 橋が集束する地点にあったのは、多くの建物が乱立する巨大な人工島。


 その中でも圧倒的な存在感を放っているのは、中心部に建設されたスタジアムだ。


 遠くからでもわかるその存在に、雷牙は全身に鳥肌が立つのを感じた。


 スタジアムに圧倒されたわけではない。


 この鳥肌の原因はただ一つだ。


 あの場所で繰り広げられる、トップクラスの実力を持つ学生同士の激戦。


 それを考えただけで雷牙は武者震いが止まらず、纏装の型で常に纏っている霊力が僅かに発光するほどだ。


 口元には不敵な笑みが浮かび、思わず拳を強く握り締めてしまう。


『アレが、私たちが明後日から戦うスタジアム。トーナメントの様子は全国に中継され、日本国外からも注目を集める。ホラ、港を見てごらん』


 雷牙の様子を見ていたのか、龍子は笑みを浮かべながら促した。


 彼女の言ったとおり、港に視線を向けると、数隻の船が停泊している。


 端末の望遠機能を使って船体を見やると、船には育成校とハクロウのエンブレムが刻まれていた。


『停まってるのは摩稜館(まりょうかん)極楼閣(きょくろうかく)星蓮院(れいれんいん)の船だね。轟天館(ごうてんかん)はまだみたい……いや、そうでもなさそうかな』


 龍子が視線を向けた方向を見やると、海原を進む大きな船体が見て取れた。


 船体にあったのは轟天館のエンブレムであり、船自体が非常に派手だ。


『これで役者は揃ったね。さぁ皆、気を引き締めて行こうか』


 スッと龍子の瞳に挑戦的な光が灯った。 


 同時に、雷牙も口元を喜悦に歪ませる。


 ――どんな強い連中がいるんだろうなぁ。


「……早く戦いてぇ……!」


 戦闘狂の血を隠さない雷牙の呟きは小さなものだったが、力強さも兼ね備えていた。


 いよいよ始まる五神戦刀祭。


 雷牙はまだ見ぬ強者達との激戦に胸を膨らませるのだった。






 ハクロウ斬鬼対策課の部隊会議室には、各部隊の部隊長が辰磨の前に背筋を伸ばした状態で並んでいた。


 すると、彼らの正面に立つ辰磨が巌のような表情のまま告げる。


「明後日より、五神戦刀祭が開催される。先日通達したとおり、偶数部隊長諸君には戦刀祭中の警備を頼みたい。警備担当となった部隊は、一切の気を抜くことなく任務にあたるように。現場には既に、一般隊士たちを配置している。各部隊との連携を蜜に、警備にあたってくれ。

 奇数部隊長は、手薄となっている新都の警戒。開催期間中にも妖刀の顕現は十分に考えられる。また、クロガネの影がある以上、戦刀祭ではなくこちらを直接狙ってくる可能性があることも肝に銘じておくように」


「はっ!」


 力強い辰磨の声に各部隊長達ははっきりとした声音で答える。


 辰磨も彼らの表情を見てから一度頷くと、さらに言葉を続けた。


「諜報課の調べでは、クロガネには鬼刃将なる大幹部が存在するらしい。育成校同士の強化試合を襲撃した犯人の言葉から考えれば、それらが姿を現すこともあるだろう。

 いいか、クロガネの隆盛を決して許してはならん。我々は決して悪には屈しない。クロガネが現れた時には、全霊を持って撃滅しろッ!! 以上だ!」


 彼が拳を振るいながら告げると、部隊長は皆敬礼をしてからそれぞれの警戒任務へと向かって行く。


 会議室に一人残った辰磨は、輪郭がかすかに見える島を見やる。


 超厳戒態勢の中、戦刀祭はいよいよ開催されようとしていた。


 懸念はあるができれば何もないことを祈る。


 同時に、培ってきた力をあのスタジアムで存分に発揮できるよう、子供達の健闘に期待する。











 暗闇で蠢く影があった。


 十二の人影の中心に立つ、頭部から角を生やした赤い瞳の男。


「……さて、行くか」


 ギラリと光ったのは凡そ人間とは思えない鋭利な歯。


 凶悪な笑みを浮かべながら彼らは歩き出す。


 この世界に混沌を巻き起こすために。


よろしくお願いしますー。

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