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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
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エピローグ 暗き闇の底で鬼は嗤う

 玖浄院と轟天館の強化試合をクロガネの構成員と、それに組するものが襲撃したという事件は瞬く間にニュースとなって報道された。


 人気がなかったとはいえ、山一つ吹き飛ばすほどの衝撃は近隣住民によって通報され、修練場にはマスコミが大挙として押し寄せた。


 もちろん、修練場内は育成校と同じ扱いとなるので報道陣が敷地内へ入ることは許されなかったが、連日のように修練場の上空は報道ヘリが飛び、テレビでは生々しい戦いの痕跡を写していた。


 修練場の外では報道陣が待ち構えていたが、常にハクロウの刀狩者が警備を行っていたため、内部情報が洩れ出るということはなかった。 

 

 両校に通う生徒の保護者達はすぐさま育成校につめかけ、学校ではその対応に追われているらしい。


 また、今回起きた事件の詳細は厳禁とされた。

詳細を知らない生徒には、黎雄は酷い怪我を負ったため、戦刀祭を欠場するという嘘の情報が伝えられた。


 新聞部の一部の取材に来ている各校の新聞部にもハクロウから緘口令がしかれ、学内で深く報道が出来なくった

 このあたりは、事件に深く関わってしまった黎雄の立場を配慮しての判断だろう。


 とはいえ、育成校が襲撃されるという前代未聞の事件は、メディアのかっこうの標的となり、報道は激化しSNSなどを含め、ハクロウへのバッシングは強くなっていった。


 その矛先は一週間後に控えた五神戦刀祭にも向いた。


『開催を延期、ないしは中止すべきではないか』


 という意見は連日のように報道されていた。


 最終的にはハクロウの最高責任者、武蔵辰磨が会見を開く自体にまで発展した。


 会見の場で彼は次のように告げた。



『五神戦刀祭は例年通り開催する。我々ハクロウはテロリストの脅威に屈してはいけないのだから』



 会見の場にいる記者どころか、それを見ている視聴者すらも威圧するような声だった。


 そのまま会見は続けられ、戦刀祭開催期間中はハクロウの斬鬼対策課の刀狩者による警備を徹底することを約束した。


 あまり多くのことを語らなかったのは、警備情報を下手に漏らさない意図があったのだろう。


 会見後には記者からの質問なども想定していたようだが、辰磨の威圧感に完全に気圧されたのか、誰も質問することはなく会見は幕を下ろした。


 ネット上ではさぞ炎上するのではないかと誰もが思ったが、意外にもそんなことは起きなかった。


 むしろ、辰磨の姿勢に感服したり、彼の威圧感を感じてしまって萎縮する者が多かったようだ。


 結果としてハクロウはクロガネに対して徹底抗戦を決め、戦刀祭は例年通りに開催されることが決まり、育成校の生徒はひとまずのところ胸をなで下ろすのだった。






「それでは、両校ともに礼!」


「ありがとうございました!」


 修練場のロビーには玖浄院と轟天館、両校の代表選手が集まって頭を下げた。


 今日は強化試合最終日であり、今は全ての日程が終了し、それぞれの育成校に帰還するところなのだ。


「今回はいろいろ迷惑かけたな。龍子」


「迷惑なんて思ってないよ。機会があればまたやろう」


 両校の生徒会長は互いに軽く握手をかわしており、雰囲気はとてもよさげだった。


 会長同士が最後の交流をするなか、雷牙と瑞季はそこから少し離れたところで二人を観察する。


「とりあえず、あの後は特に何事もなく終わってよかったな」


「ああ。だが、少し残念だったのは、会長同士の試合が見られなかったことだな」


「それな。俺も思ったわ」


 二人はそれぞれ心底残念そうな表情を浮かべる。


 本来であれば、強化試合の最終日に彼女らがぶつかる試合が組まれていたのだが、襲撃の影響で日程自体が全体的に押してしまったことで二人の試合は流れてしまったのだ。


 育成校でもトップクラスの実力を持つ彼女らの試合から学ぶことは多かったはずだ。


 だが、過ぎたことをいつまでも気にしてもしょうがない。


「ま、戦刀祭のどっかで見られるかもしれねぇし、それまで我慢だな」


「ああ」


 瑞季が答えると、龍子と黒羽がわかれた。


 どうやら話は終わったらしい。


「さてと、ほんならウチらから先に帰らしてもうらうで」


「うん。戦刀祭でまた会おう」


 龍子に見送られ、黒羽は選手達を引き連れてロビーから出て行こうとする。


 その途中、雷牙の前で立ち止まった彼女はチラリと雷牙に視線を向けてから告げた。


「……獅子陸のこと、あんがとな。雷牙」


「気にしないでくださいって」


「阿呆、気にしとらんわ。ただまぁ、面と向かって感謝なんてしとらんかったからな。お前には感謝しとる。けど、戦刀祭で当たったときには、全力で叩き潰すで?」


「望むところっス。俺も、叩き潰させてもらうんで」


 ニヤリと雷牙も歯を見せて笑うと、黒羽もどこか満足げに頷くと「ほなな」と軽く手を振ってロビーから出て行った。


 そのままバスは修練場を出ていき、次は雷牙達が玖浄院へと戻ることとなった。


「では、俺達も戻るとするか」


「うん。そうだね……と言いたいところなんだけど。皆に少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 龍子の言葉に雷牙を含めた選手が彼女を見やると、龍子は真剣な声音で問いを投げかける。


「さっき黒羽ちゃんとも話したことなんだけど、今年の戦刀祭はもしかするとすごく危険なことが起こるかもしれない。それこそ命を賭けるようなことすら起きる可能性もある。だから、ここで皆に聞いておきたいんだよね。……戦刀祭、参加したい?」


 皆に向けられる視線は鋭いものだった。


 彼女はさらに続ける。


「黒羽ちゃんだけじゃなくて、他の育成校の生徒会長とも一応会議はしたんだけどね。現時点だと、星蓮院で一人、極楼閣で二人、摩稜館で一人の欠場者が出てる。今回ばかりは事情が事情だから、欠場したとしても誰も文句は言わない。特に一年生の二人はよく考えて」


 龍子の瞳が雷牙と瑞季に向けられる。


 確かに、雷牙達の場合無理して出る必要はない。


 来年もチャンスがあるだろうし、今回は安全面を考慮して見送るのが得策といえるだろう。


 けれど、雷牙はその口元に笑みを浮かべると龍子と視線を交錯させる。


「俺は欠場しません。確かに危険があるのかもしれないっスけど、ここでビビッて逃げたら、俺は多分一生後悔します。それに、強いヤツと戦えるチャンスを無駄にはできないっスよ」


 瞳に雄雄しい光を宿した雷牙に続き、今度は瑞季が口を開く。


「私も雷牙と同じです。戦刀祭という場で、今の私の実力を確かめたい。たとえ危険があったとしても」


 二人の言葉には覚悟があった。


 龍子は一瞬キョトンとするものの、二人の怖いもの知らずの発言に思わず笑みを零した。


「……まったく、今年の一年生は好戦的過ぎるよ。わかった、それじゃあ二人は出場ね。他の人は?」


「愚問だな。最初から覚悟など出来ている」


「俺も出るぜ。次クロガネが出てきたら、俺が真っ先にぶっ潰す」


「一年生にあんなこと言われたら、出ないわけには行かないですよ。俺も補欠のまんまでお願いします」


「会長を一人で行かせると心配なので、私もついて行きます」


 勇護や直柾だけではなく、補欠である士と三咲も出場を表明すると、龍子は呆れたように肩を竦めた。


「やれやれ……。後輩も後輩なら先輩も先輩だねぇ。よっし! それじゃあ玖浄院の出場メンバーは変わらずってことに決まったわけだから、帰ろうか! 玖浄院に」


 龍子は荷物を担ぎながらロビーを出て行く。


 彼女の後ろに雷牙達も続き、皆バスへと乗り込んでいく。




 ついに始まる五神戦刀祭。


 学生達が己が力を全てぶつける日本でもっとも大きな戦い。


 不穏な影は学生達の動揺を誘っていた。


 けれど、綱源雷牙は止まらない。


 己が夢に近づくため、彼は突き進む。


 強者をなぎ倒し、さらなる高みへと。









 ガコン、と大きな音を立てて重厚な作りの扉が開く。


 扉が完全に開ききると、百鬼遊漸は歩き出す。


 彼の正面には十一人の人影があった。


 人種も性別も年齢も様々で、統一感はない。


 けれど、明らかに常人ではないことだけははっきりしていた。


 遊漸と同等か、それ以上の気配を纏っている者達だ。


 が、それ以上に目を引くのは、彼らの奥に座っている頭部から()()()()()()だった。


 グロテスクな意匠が施された椅子に座る姿は、まるで暴君か魔王のそれだ。


 遊漸は男の前まで行くと片足を床について静かに頭をたれる。


「百鬼遊漸、任務を終了いたしましたので帰還しました」


「ご苦労。首尾は?」


「実験は成功です。斬鬼化の薬の改良型の性能、そして人工的な怨形鬼の精製、どちらも成功いたしました」


「ケッ何が成功だよ。結局負けて戻ってきやがって」


 頭を下げたまま言うものの、その報告が気に入らなかったのか、十一人のうちの一人が遊漸を睨んだ。


「人工妖刀持ってって、底辺のゴミクズ共使ってガキに負けてたんじゃ世話ねぇわな」


「お言葉ですが、今回の私の任務はあくまで実験の様子を記録することにあります。お門違いな糾弾はやめていただけませんか?」


「んだと、この蛇野郎――!!」


「――やめろ」


 凄んだ人物に対して玉座に座る男が手を挙げると、彼はややイラついた様子ながらも従って列に戻っていく。


「ご苦労だった。百鬼。記録データは研究班に渡して休むが良い」


「ありがとうございます、ボス」


 遊漸は再び頭を下げると、そのまま立ち上がって部屋を後にする。


 その口元に三日月にゆがめながら。






「納得いきません、ボス!」


 遊漸が部屋を出たところで、先ほど彼に突っかかっていた男が角の生えた男に問うた。


「あの野郎はどう考えても失敗してたでしょう! なのにただ帰すなんて!」


「俺は実験の記録をとって来いとヤツに命令した。そしてヤツは下した命令を忠実に守り、遂行した。なにか問題でもあるのか?」


「そ、それは……!! けど、ガキに負かされておめおめ帰ってくるとかありえねぇでしょう!!」


「俺は出した任務を遂行すればそれで構わない。失敗したとしても、それは別に大した問題ではない。次成功させれば、文句は言わん。以上だ。これ以上この話を蒸し返すな」


 ギロリと真紅の瞳が男を睨むと、彼は萎縮して再び列に戻る。


 その様子に残りの十人は呆れと嘲笑が混じったような視線を向けるものの、玉座の男は立ち上がってから彼らに告げる。


「いよいよ計画を遂行する時が来た。我々を悪だと断じた狼共に復讐するときだ。期待しているぞ鬼刃将たちよ」


「ハッ!」


 男が言うと、鬼刃将はその場でひざまづく。


 同時に、男の口元には残虐な笑みが零れた。





 闇の胎動はついに解放されようとしていた。


 災禍の産声が上がる日は近い――――。

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