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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
112/421

4-6

 怨形鬼は巨腕を振り上げるとその腕に、体のいたるところから生えていた妖刀が集まっていく。


 やがて掌へと集まった妖刀は、その姿を巨大なものへと変異した。


 厚みのある刃は優に斬鬼の体長ほどあり、纏う禍々しさは雷牙達の全身に怖気を走らせる。


「なんて威圧感だ……!」


「そりゃ、妖刀十数本分やからな。ったく、どえらい瘴気やで……」


 黒羽の言うとおり、巨大化した妖刀からは終始濃厚な瘴気が発生しており、周囲の景色を軽く歪ませている。


 そればかりか、瘴気の発生点である妖刀から凝縮された瘴気が液体と化し、刀身から地面に滴り落ちている。


 瘴気の雫には強い酸性が含まれているようで、地面から溶解による煙が発生している。


「雷牙くん。さっき融合した斬鬼の特性とかはわかる?」


「唾液が思ったより強酸性でしたね。顔に直撃はしなかったっスけど、防いだ腕はかなり溶けました。治癒術に即座に治したんでなんともないですけど」


 雷牙は自身の腕を見やる。


 そこには特になんの傷害も残っていなかったが、服は肘や二の腕辺りからボロボロに溶けている。


「なるほど。それが多少瘴気にも影響してるって感じか。それに加えて獅子陸くんの疾風の属性が付与されてるのか」


「あの巨体からして浮くことは困難なはずだ。だが、真空刃に加えてさっきのビームのような攻撃は脅威となるだろう」


「ビーム?」


「雷牙くんはまだ見てなかったね。実はさっき――」


 先頭に立つ龍子が説明をしようとした瞬間、雷牙達は瞬間的にその場から飛び退いた。


 同時に五人が立っていた場所を黒く発光する光の筋が駆け抜けていった。


 光線が駆けて行った地面は深く抉れ、熱によるオレンジ色の明滅も見える。


「あれが、ビーム……」


「そう。出力はさっきよりも落ちているけど、直撃すれば雷牙くんの治癒術でもどうにもならないよ。恐らく蒸発するレベル」


「了解です」


 雷牙もいまの攻撃の恐ろしさは十分理解できた。


 龍子の言ったとおり、全身に浴びればそれこそ姿がなくなるほどに焼かれてしまうだろう。


「ハハハ!! ドウシタ、カカッテコナイノカ!? ナラバコチラカラタタキツブシテヤル!!」


 怨形鬼は力を手にしたことに相当酔っているようで、雷牙達を挑発するような言葉を叫ぶと巨大な妖刀を振り上げ、疾風による真空刃を放ってきた。


 五人はそれを回避するも、怨形鬼による追撃はとまらない。


「もうとやかく言っている暇はないね。次ので確実にアイツを消す。そのためには、雷牙くん。私との戦いで見せたあの霊力を引き出さないといけない。やれる?」


「やってみます」


 答える雷牙の全身から霊力があふれ出すが、まだ赤色にはなっていない。


「本当にできるのか、雷牙」


 瑞季が心配そうな視線を送ってくるものの、雷牙は口角を上げて答える。


「……できるできないじゃねぇ。やるんだよ。だから、頼むぜ、瑞季」


「ああ。任せておけ。さっきも言ったが、道は必ず作る」


「それはええんやけど、アイツを殺すタイミングはどないするんや! こう連発されたら近寄れへんぞ!!」


「タイミングは私に委ねて!! 絶対にアイツの動きを止めてみせるから!!」


「……信用しとるからな!!」


「任せて……!!」


 連続して飛来する真空刃を回避しながら龍子は斬鬼の挙動の一切を見逃さない。


 数にして十数回放たれた真空刃だが、それらは五人を掠めることこそすれ、殺すことにはいたらなかった。


 すると、この現状に苛立ったのか、怨形鬼が吼える。


「コノ、ハムシドモガァ!! イイカゲンニシズメェ!!!!」


 斬鬼の口元に黒い霊力が集束し、小さな球体が現れる。


 瞬間、球体は大きく膨らむと、そのまま極太のビームとなって放たれる。


 ろくに照準があっていなかったからか、誰一人直撃するものはいなかったが、黒いビームはそのまま直進して修練場の向こう側にある山に激突。


 カッと閃光が散った瞬間、山頂付近が爆発と共に消し飛んだ。


 回避できなければ間違いなく即死級の攻撃だったが、龍子はビームを放った怨形鬼の体が僅かによろめいたのを見逃さなかった。





「今ッ!!!!」





 その叫びと共に龍子が姿勢を低くしたまま駆け出す。


 四人も瞬時に反応し、龍子のすぐ後ろに瑞季と勇護。


 その後ろに黒羽、そして雷牙の順で連なって怨形鬼へ向かって駆ける。


 怨形鬼は大技を使った反動か、僅かに反応が遅れている。


 応戦しようとしているが、妖刀は遅い。


 タダでさえ巨体なため、気付くのが遅くなればそれこそ動きにも明確な影響が出るのだ。


 これこそが龍子の狙っていた瞬間だ。


 人間であれ動物であれ、もっとも隙が出来るのは、大きく体を動かした時だ。


 それは斬鬼も同様である。


 先頭を走る龍子の長刀から強い冷気が洩れ、後ろを走る雷牙達もその冷気を感じていた。


 ゾワリと雷牙は全身に鳥肌が立つのを感じた。


 今から彼女が見せるのは、恐らくトーナメントですらみせなかった一撃だろう。


 龍子の瞳は怨形鬼をはっきりと捉え、彼女は白い吐息を漏らした直後に長刀を抜き、そして剣閃を放った。




「――氷獄八剣(ひょうごくはっけん)――(なな)の閃――紅蓮鉢特摩(ぐれんはどま)――ッ!!!!」




 これまで聞いたことすらない彼女の裂帛の声と共に、放たれた剣閃。


 バキバキという激しい氷結音を立てて形勢されたのは、氷山と見紛うほどの氷壁だった。


 斜めに延びた氷塊は、そのまま怨形鬼の足だけではなく腰までを一気に凍結させ、腹部には鋭利な氷塊が深く突き刺さっている。


 季節は夏だというのに、氷の影響なのか気温が格段に下がるほどの絶対的な氷結。


 とはいえさすがに龍子も消耗した様子で、その表情には珍しく辛そうな色が見える。


 だが、これで終わったわけではない。


「次ッ!!」


 彼女を追い抜くように勇護と瑞季が前に出る。


 二人はそれぞれ互いに視線を交わすと、互いの霊力を変異させる。


 勇護は炎を青く変色させ、瑞季の鬼哭刀には超高圧に圧縮された大質量の水流が渦巻いている。


 そして二人は同時に叫んだ。


「……蒼炎刃(そうえんじん)爪月焔(そうげつえん)ッ!!!!」


「……痣櫛流(あざくしりゅう)殺鬼術(さっきじゅつ)新之刃(あらたのじん)……竜胆(リンドウ)ッ!!!!」


 青い炎の斬撃と、超高圧に圧縮された同時に放たれる。


 三日月型の炎の斬撃と水圧の刃は、氷を割ろうとしていた怨形鬼の巨腕を斬り飛ばした。


「アアアァァアァァアァァァアアァァッ!!!???」


 傷口からどす黒い血を吹き出しながら激痛にのたまう怨形鬼。


 けれど、その声とは裏腹に、傷口は既に再生が始まろうとしていた。


「やっぱり再生がはえぇ……!」


 雷牙は苦々しげな表情を浮かべるものの、前を走る黒羽はそれを鼻で笑った。


「そのためにウチがいるやろ……! 綱源ォ!! お前にどんな自信があるかは知らん! けどなぁ、ウチの前であんな状態の獅子陸を助けるなんてでかいこと言うたんや――」


 刹那、彼女が纏う赤い稲妻がいっそう激しくスパークし、髪が一気に逆立った。


 熱すら感じる雷電となった彼女は、僅かに振り返って告げてくる。


「――必ず助けて来いや!」


「はいッ!!」


 間髪入れずに雷牙が返答すると、彼女は口元に笑みを浮かべて一際強く地面を蹴る。


 バチバチと激しい雷撃音を響かせながら、彼女は一つの雷撃となって疾駆する。




「――天雷瞬刃(てんらいしゅんじん)――鳴神(ナルカミ)灼雷光(しゃくらいこう)――!!!!」




 赤い雷撃は一瞬で再生しかけていた怨形鬼の腕を斬りおとす。


 それらは連続して起きたわけではない。


 ほぼ同時に起こったのだ。


 人間の力では間違いなく出来ない、まさしく雷そのものだった。


 さらに、雷による攻撃は怨形鬼の体に麻痺を起したようで、巨体には赤い稲妻が小さく明滅している。


 ただ、黒羽は途中で赤い雷電を維持することができなくなったのか、半ば墜落するように地面に叩きつけられた。


「白鉄先輩!!」


「ウチに構うな!! お前は真っ直ぐ前だけ見とれや!!」


 落下の衝撃で流血しているにも関わらず、黒羽から返ってきたのは怒号にも近い声だった。


 雷牙は瞬時に視線をもどして、怨形鬼を睨みつける。


「行って、雷牙くん!!」


「行けぇ! 綱源!!」


 龍子と勇護の声を聞きながら雷牙は龍子が発生させた氷山を駆け上がる。


 そして頂上に到達すると同時に、氷を砕く勢いで空中へと躍り出た。


 飛び上がった高さたるや、怨形鬼を超えるほどだ。


「やったれぇ!! 綱源雷牙ァ!!!!!!」


 黒羽の檄が飛ぶ。


 雷牙の全身に溢れていた霊力が、さらに巨大なものとなり、炎のように燃え上がる。


「行けえぇぇぇええぇぇ!!! 雷牙あぁぁああぁぁ!!!!」


「言われなくても……!!!!」


 最後に聞こえた瑞季の声援に笑みをみせて答えた雷牙は、全身に纏っていた霊力を全て兼定へとまわす。


 今回ばかりは纏装も維持していない。


 ありったけの、持てる霊力の全て注ぎ込む。


 瞬間、青い霊力の燐光がその色を変化させた。


 それは雷牙がトーナメントの決勝戦で見せた、赤く染まった霊力だった。


 赤い霊力は兼定を包み、膨大な霊力が徐々に形を成していく。


 それはまさに霊力で出来た巨大な刀だった。


 怨形鬼が持つ巨大な妖刀かそれ以上の大きさの刃を、雷牙は振り上げる。


「喰らえええぇぇえぇぇえぇぇえぇえええぇえぇええッ!!!!!!」


 気合いの声を轟かせながら、刃を振り下ろす雷牙。


 確実に怨形鬼を両断する軌道だったが、そこで雷牙は見てしまった。


 怨形鬼の口に先程の黒い球体が浮かんでいたのを。


「サカシイクズドモガァ!! ケシサッテヤロウ!!!!」


 途端、霊力の刃に向けて黒いビームが放たれる。


 空中で激しくぶつかり合う刃とビームによって、激しい轟音と共に巨大な紫電が当たり一面に降り注ぐ。


 同時に起きた衝撃は、周囲の森に生える木々をなぎ倒し、修練場の外壁を易々と砕いていく。


「くぅ……ッ!!」


 ビームの威力はやはり高いようで、雷牙の表情が苦悶に歪む。


 同時に刃はビームによって僅かに押しもどされる。


「クハハハ!! キサマラゴミムシフゼイ、ウデナドツカウヒツヨウモナイワァ!!!!」


 刃を押し戻したことで歓喜の声を上げる怨形鬼。


 対して雷牙の表情はさらに苦悶に歪み、兼定を支える腕は僅かに震えてきている。


 地上では瑞季達が表情を曇らせている。


「クソ……ッ! こんなところでぇ……!」


 踏ん張ろうとするものの、やはり向こうの方が出力が高い。


 無理なのか。


 ここで負けてしまうのか。


 弱気な感情が心の中をよぎった。


 だが、雷牙の瞳がとある人物の姿を捉える。


 それは怨形鬼の胸に磔にされている黎雄だった。


 力なく頭を下げて気絶している彼を見た瞬間、雷牙の瞳に更に強い光が灯る。


 ――そうだ、俺はあの人を……。


 雷牙の口元に小さな笑みが浮かぶ。


 その笑みはこれまでの闘いの中で、彼がピンチな時にほど見せた笑みと同じものだった。


「……助けるんだッ!!!!」


 瞬間、押し戻されていた刃が止まった。


「ナニ!?」


 驚愕の声を上げる怨形鬼だが、その動揺は次の瞬間にさらに強いものへと変化することになる。




「ハァァアアァアアァァァアァァァァアアァァァッ!!!!!!」




 雷牙が吼える。


 するとその咆哮に呼応するかのように、彼の全身からさらに霊力があふれ出した。


 その霊力の多さたるや、今までの比ではない。


 まさしく無尽蔵ともいうべきとてつもない霊力が刃に注がれていく。


「バ、バカナァ!? ドコカラソンナチカラガ……ッ!!」


 怨形鬼はその醜悪な顔をゆがめるものの、ふと勝機をつかんだような声音で告げる。


「ダガイイノカ!? オレヲコロセバコノオトコモショウメツスルゾォ!!??」


 胸部に磔になっている黎雄のことだろう。


 確かに、これだけの霊力の直撃させれば彼ごと消滅させかねない。 


 刀狩者は人命を第一に考えることを逆手に取った、犯罪者などがよく使う手だ。


 けれど、雷牙はそんなことお構いなしに刃を押し進める。


「キ、キサマァ!!?? ナカマヲ、ミステルトイウノカ!?」


「勘違いしてんじゃねぇよ、斬鬼野郎!! 俺はずっと言ってたはずだぜ! その人を助けるってな!! だから、俺が斬るのは――――!!!!」


 雷牙はさらに霊力を高め、叫ぶ。


「――テメェだけだあああぁあぁぁああぁあぁぁああぁあぁッ!!!!!!」


 雷牙の双眸が青く光った瞬間、それは起きた。


 ギリギリで拮抗状態を保っていた黒いビームと霊力の刃の均衡が完全に崩れたのだ。


 刃が競り勝つ形で。


「ッ!!!???」


 怨形鬼は直撃を避けようともがくが、既に遅い。


「綱源!!!!!!」


「雷牙くん!!!!」


「「ぶちかませぇ!!!!」」


 一度破れた拮抗は戻らない。


 黒いビームは存在を保つことすら困難になり、ついに刃が怨形鬼の脳天を捉えた。




「テメェは消えろおおおぉおぉおぉおおおおおぉおお!!!!!!」




 絶叫と同時に、到達した刃は怨形鬼の頭から入り、その強靭な体を両断していく。


「グギャァァアアァアアァアアァアァアアァアァアアァア!!!!????」


 かつてないほどの痛みに絶叫する怨形鬼。


 そのまま胸部に刃が到達するが、磔にされた黎雄は両断されることはなかった。


 刃は黎雄を通ったのにも関わらず、彼の体をまるで何事もなかったようにただ素通りしたのだ。


 そして刃はついに怨形鬼の股にまで到達し、巨体を完全に真っ二つに断ち切った。


 同時に巻き起こったのは、膨大な霊力の発光。


 その赤い光は怨形鬼の全身を包み、黒い巨体を光の中へと浄化するように溶かしていく。


「バ、バカナ……! コレダケノチカラヲテニイレタオレガ、キエルナド……!!」


 光の中へと消えながら怨形鬼はいまだ自身の敗北を認めることができないようだった。


「アリエン!! コンナコトハアリエンノダアアァァアア!!」


 断末魔を上げながら、最後まで残った怨形鬼の頭部が掻き消えた。


 やがて光も消え、あとに残ったのは巨大な切断痕と、クレーター。


 中央には気絶したままの黎雄の姿が見られた。


「ハ……ッ、ハ……ッ、ハ……ッ!」


 雷牙は倒れかけたがなんとか堪え、兼定を地面に突き刺して耐える。


 気絶はしない。


 アレだけの霊力を使った反動により、雷牙の意識は朦朧としかけているが、彼は決して倒れなかった。


「獅子陸先輩は……!」


 雷牙はクレーターの中央で倒れている黎雄を見やる。


 彼の体は上下しており、呼吸をしているのがわかった。


 生きている。


 ホッと、雷牙は胸をなで下ろすと、支えていた兼定から手を離してしまい仰向けに倒れそうになる。


「やべ……!」


 筋肉の力で戻ろうとするが、それは間に合わなかった。


 そのまま倒れこみそうになる雷牙だったが、背後から誰かに抱き留められたことにより倒れることはなかった。


 視線を背後に向けると、瞳から大粒の涙を流した瑞季がいた。


「……なに、泣いてんだ。勝ったんだからもうちょいうれしそうにしてくれよ」


「……これは、嬉しいから出た涙だ。雷牙、よく、やってくれた。そして、無事でよかった……!!」


 彼女は地面にへたり込むと、雷牙はちょうど瑞季に膝枕される形となった。


 ちょうど真上にある瑞季の顔は笑顔と泣き顔がごっちゃになっていて中々に面白いことになっている。


「泣くか笑うかどっちかにしてくれよ。綺麗な顔が台無しだぜ?」


「……な、なにを言ってるんだ! まったく、君は……!」


「ハハハ、赤くなってまた一段とひどくなったな」


 雷牙はカラカラと笑い、瑞季も反論しようとしたものの、彼女は涙を拭いながら微笑を浮かべる。


 二人を見守っている上級生三人も表情を綻ばせていた。


「……ホンマにやりよったわ、アイツ」


「ね? 雷牙くんに賭けるのよかったでしょ?」


「せやな……。ウチに欲しいくらいやわ」


「それはだーめ。ね、勇護くん」


「ああ。あれだけの人材を他校にくれてやるわけにはいかないな」


「けちんぼやなぁ。けどまぁええわ、とにかくこれで――」




「――これで、なんですか?」



 背後からかけられた声に、黒羽たちは反射的に振り返る。


 同時に響いたのは渇いた拍手の音。


「実にすばらしい闘いでした。仲間を助けようと必死に足掻くその姿、とても感動いたしましたよ。ええ、反吐がでるくらいに」


 小馬鹿にしたような声で告げるのは、黒スーツに黒ハットの男、クロガネの構成員である百鬼遊漸。


「まだおったんか。けど、早めに逃げんとそろそろプロが来るで?」


「ええ、知っていますとも。まぁ今回はあくまで実験の一つでしたので、私も手出しするつもりはありません」


「このまま帰るというのか?」


「そうですねぇ。データもしっかり取れましたし、そうしようかと。ただ――」


 刹那、龍子が残っている霊力を使って遊漸を拘束するために氷を放つ。


 しかし、それよりも早く彼は動いた。


「――負けっぱなしというのもクロガネの面子にかかわりますので、一人くらいは殺させていただきます」


 冷淡な声と共に遊漸は龍子達の間を抜けていった。


「雷牙くん! 瑞季ちゃん!! 逃げて!!」


「チィッ!!」


 龍子が告げ、黒羽が雷電で追おうとするものの、先程の攻防で全てを出し切ってしまった影響か、雷電は小さくはじけるだけで高速移動は不可能だった。


「くっ!?」


 悔しげに表情をゆがめる黒羽の視線の先では、瑞季が雷牙を身を挺して守ろうと立ちはだかるが、遊漸はそれを軽く押しのけて懐から短刀を取り出し、雷牙に迫る。


 誰も助けに行くことができない。


 この闘いにおいてもっとも活躍し、黎雄すら救ってみせた少年のことを。


 全員の心に絶望という黒い感情が芽生えた時、一迅の風が吹いた。


 まるでその感情をかき消すが如く。

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