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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
111/421

4-5

 怨形鬼へ向けて駆ける四人の先頭に立つ龍子は、氷霜を低く構えた。


 途端、周囲の霊力と彼女自身の霊力が混ざり合い、白い冷気と共に刀身をパキパキと音を立てながら氷が覆う。


「ハアァッ!!」


 裂帛の声を上げた龍子が斬り上げる形で剣閃を放つ。


 斬撃は氷の道を作り出し、そのまま怨形鬼の足元へ向けて伸びると、そのまま巨大な足の膝近くまでを凍結させた。


 唐突に足を止められたことで巨体が僅かによろめいた。


 彼女はそれを見逃さず、次の一手の指示を出す。


「勇護くん、瑞季ちゃん!!」


「了解!」


「はい!」


 名前を呼んだことで二人は指示を理解したのか、龍子の後ろから飛び出して地面を強く蹴る。


 そのまま跳び上がった二人の眼前にあるのは、大樹のような巨腕。


 くりだされる拳の直撃を受ければ、刀狩者といえど致命傷はさけられまい。


 より安全な状態で首を刎ねるには抵抗する腕を根元から断つ必要がある。


 二人の役割はそれだ。


 勇護の鬼哭刀からは火焔が零れ、瑞季の周囲には大小様々な水が浮かび上がる。


「フッ!!!!」


「ハァッ!!!!」


 ほぼ同時に鬼哭刀を抜き放った二人は、そのまま火焔と水流を纏った斬撃を放った。


 火焔の刃は巨腕に触れると同時に、強靭な皮膚を焼き、そのまま筋肉と骨を焼き切った。


 瑞季の放った水流の刃は、甲高い音を立てながら肩の関節を狙って放たれ、鋭利な刃は見事に腕を斬りおとした。


 氷結による足止めに加え、両腕を落としたことで怨形鬼が悲鳴に近い咆哮をあげた。


 全身を震わす音圧に、足を止めていた氷が音を立てて崩壊するものの、時間を稼ぐことは出来た。


 咆哮が終わると同時に、龍子は再び氷霜を振りぬいた。


 真っ直ぐに伸びた氷は氷山のように傾斜のある形となり、ちょうど怨形鬼の首近くに伸びる。


「黒羽ちゃん、行ってッ!!!!!!」


「おおきに!!」


 龍子の隣を赤い稲妻を纏った黒羽が駆け抜けた。


 バチバチと放電しながら氷山を駆け上がった黒羽が頂点に到達するのは一秒すらかからず、まさしく一瞬のことだった。


 彼女はそのまま空中に躍り出ると、大樹の幹ほどの太さはある首を見据える。


 怨形鬼も彼女の姿を赤い双眸で捉えるも、既に遅い。


 すでに彼女の射程圏内だ。


 真紅の雷光を纏った黒羽は空中で態勢を変えると、そのまま空気を蹴った。


 できないことではない。


 空気中に漂う霊力に干渉することさえできれば、一瞬だが空中に足場を作ることは出来る。


 黒羽は足元に作り出した足場を思い切り蹴ったのだ。


 刹那、赤い雷光が怨形鬼の首元を照らしながら駆け抜けた。


 既に怨形鬼の背後には黒羽が立っている。


 鬼の首元を見やると、僅かに切れ込みが入っていた。


 だがそれで終わりではない。


 小さな切れ込みはやがて幅を大きく広げ、首を裂くように奔った。


 巨大な頭がグラリと動き、黒い血液が流れ出し始める。


「やった、のか……!?」


 勇護がその光景を見て声を漏らすものの、龍子は胸騒ぎを感じていた。


「まだや!!」


 声を上げたのは黒羽だった。


 瞬間、ゾワリと嫌な感覚がその場にいた全員に走る。


 見ると、つい先程斬りおとしたばかりの腕が一瞬で再生し、落ちそうになった首を支えて再び頭をつけなおした。


「な……っ!」


 瑞季が思わず声を詰まらせるがそれも無理はないだろう。


 ほぼ完全に仕留めたといっても良かった。


 しかし、複数の斬鬼が折り重なったことで生命力も段違いに上がっているのか、首はすぐに再生し、もう片方の腕すらも何事もなかったかのように戻っている。


 すると怨形鬼は低い唸り声を上げると同時に僅かに口をあけると、その前に黒い球体が現れた。


 四人はそれに戦慄した。


 黒い球体には周囲の霊力が集束している。


 アレは危険だと本能が警鐘を鳴らす。


「散開退避ッ!!」


 彼女の声に勇護、黒羽はすぐに回避行動を取ったが、ほんの一瞬、瑞季の反応が遅れた。


 斬鬼の再生に気を取られすぎたためだろう。


 龍子達に遅れて回避行動を取るものの、その瞬間にそれは起きた。


 黒い球体となって集束した霊力が一瞬大きくなったかと思うと、次の瞬間には超高密度の霊力の筋となって撃ち出されたのだ。


 レーザー、もしくはビーム。


 まさしくそうとしか言い表せない攻撃だった。


 極太の砲撃は、僅かに退避が遅れた瑞季へと迫っている。


「瑞季ちゃん!!」


 龍子は駆けようとしたが、それよりも早く赤い閃光が伸びた。


 黒羽が雷電を纏いながら駆け抜けたのだ。


 もはや光速の域に達しているのではと見紛うほどの速度で駆け抜けた彼女は、逃げ遅れた瑞季をかすめとると、そのまま大きく迂回して龍子達に合流する。


「瑞季ちゃん、無事!?」


「は、はい。白鉄会長のおかげでなんとか……」


「よかった……黒羽ちゃん、ありがとう」


「礼には及ばへん。ウチかてお前んとこに助けられたんやから当然や。せやけどどないする? あんのクソ鬼。再生速度が並みの斬鬼とダンチやで。確実に落としたと思うたんに……!!」


 黒羽が悔しげな表情を浮かべ、砲撃を終えた怨形鬼を睨みつけた。


 彼女の一太刀は間違いなく怨形鬼の首を落としていたはずだった。


 けれど、やはりと言うべきか、再生速度が尋常ではないのだ。


「ヤツを倒すには、首を刎ねた状態で四肢を切断しておかなければならないということか」


「いいや、それも多分無理だと思う。アレだけの生命力から察するに、ただ首を落としても即座に復活する可能性があるよ。だから狙うとすれば、本体……」


「本体、というと妖刀ですか?」


「うん。怨形鬼には必ず核となっている斬鬼がいるはず。その斬鬼の妖刀を破壊すれば、確実に倒せるはずだよ」


「そうは言うてもなぁ、簡単にはでけへんやろそれ」


 全員の表情がどこか悔しげに歪む。


 黒羽の言っていることは正しい。


 妖刀を破壊するとは言っても、恐らく核となっている妖刀はあの肉壁の中に埋もれているはず。


 それを破壊するにはピンポイントの攻撃で妖刀を破壊するか、怨形鬼そのものを蒸発させてそのまま破壊するしか方法がない。


 前者は探りを入れていけばいずれ核の位置を特定出来るはずだが、如何せん時間がかかりすぎる。


 下手に時間をかけると、周囲への被害が甚大となってしまい、シェルターに批難している生徒達が危ない。


 では後者ならばできるのかと聞かれると、それもやはり難しい。


 アレだけの巨体を一撃で消滅させるほどの力となると、桁外れの霊力が必要となる。


 一応、刀狩者には合体技もあるにはあるが、即興では到底同調させることは不可能。


「万事休すか……」


「だけど、プロの到着まであと十分以上ある……。雷牙くんの方も心配だし……」


「雷牙……。そうだ、会長! 雷牙なら……!!」


 瑞季はハッとして龍子を見やる。


 すると彼女も「あ」と声を漏らして小さく溜息をついた。


「そうだった……。怨形鬼にばかり気を取られすぎてすっかり忘れてたよ。確かに雷牙くんの霊力なら、あれを蒸発させることができるかもしれないね」


 すっかり失念していたと、龍子は顔を覆う。


「そんなにすごいんか? 綱源のヤツ」


「すごいも何も、つき合いがある私たちですら、雷牙くんの霊力の底を見たことがないんだよ」


「確かに、一時的に霊力を消費しすぎて倒れたことはあるらしいが、全開にしたところはまだ見たことがないな。霊力だけで言えば、まさしくバケモノクラスだ」


「マジか……。どうなっとんねん、お前んとこ……」


 黒羽は呆れながら龍子を見やる。


 龍子も若干苦笑するも、そこで再び怨形鬼が吼える。


「やれやれ、ゆっくり作戦会議もできないか」


「どないする? ウチが探してくるか?」


「いいや、できればこの状態を崩したくない。それい黒羽ちゃん、その状態を維持するのかなりキツイでしょ」


 黒羽は少しだけ固まると、軽く頭を掻いた。


「……なんでもお見通しかい。せやな、正直一度解除なんてしたらそれこそこの状態にはすぐに戻られへんやろな。それに維持できんのもあと十分くらいってとこや」


「すみません、私が逃げ遅れたばかりに……」


「ちゃうちゃう。あれがあろうがなかろうが、あんま変わらへん。気にせんでええよ」


「だが、どうする。綱源がいなくてはジリ貧だが……ん?」


 ふと勇護が疑問符を浮かべて龍子の背後を見やった。


「どうしたの?」


「いや、なにかがこちらに走ってくるのが見えて――」


 言いかけたところで、訓練場と森の境界線である壁が破砕された。


 何事かと全員がそちらを見ると、そこにいたのは通常の大きさの斬鬼だった。


 が、その胸部には本来はないはずのものが埋まっている。


「あれは、獅子陸……!!??」


 黒羽の驚愕も無理はなかった。


 斬鬼の胸部には、黎雄が磔にされるように取り込まれ、その四肢は完全に拘束されている。


「どないなっとんや……獅子陸が斬鬼化したわけじゃないんか……!?」


「取り込まれてるようにも見えるけど、一体なにが……」


 さすがの龍子も見たことがない事例に困惑していると、斬鬼が突然走り出し、怨形鬼の方へ向かって行く。


 すると、それに一拍遅れる形で、瓦礫の中から人影が飛び出してきた。


「待ちやがれテメェ!!」


 それは兼定を抜いた状態の雷牙だった。


 彼は一瞬恩形鬼に驚いたようだったが、すぐに逃げる斬鬼を追う。


 特に目立った外傷はなさそうで、足取りもしっかりしている。


「雷牙! よかった無事だったか……」

 

 瑞季がホッと胸を撫で下ろすものの、その隣では「ヤバイ」と龍子が苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「黒羽ちゃん! あの斬鬼を止めて! 倒さなくてもいいから!」


「ったく、人使いの荒いやっちゃな!!」


 言うが早いか黒羽は駆け出していた。


 それこそ一瞬で斬鬼に肉薄するものの、降りぬかれた雷光は意味もなく空を斬るだけだった。


 見ると、斬鬼の姿は空中にあり、風を纏って飛んでいるようにも見える。


「んなっ!?」


「ダメだ、白鉄先輩!! ソイツは獅子陸先輩の属性を扱えるようになってる!!」


「そういうことは、はよう言え!! ってクソ! もう間に合わんか……!!」


 思わず雷牙に毒づいてしまうものの、飛び上がった斬鬼はそのまま風を使って空中を移動し、怨形鬼の前に出てしまう。


 瞬間、斬鬼の体は怨形鬼の胸部から伸びた血管のような管に絡め取られ、そのまま胸の中へ飲み込まれていく。


「間に合わへんかったか……!!」


「白鉄先輩、あの斬鬼は……」


「説明はあとでしたる。今は龍子んとこまで退がんで!」


 黒羽は雷牙をつれて龍子達に合流するも、その視線は怨形鬼へはっきりと向けられていた。





「雷牙。大丈夫だったか?」 

 

 黒羽に連れられた雷牙が龍子達の下に合流すると、瑞季が心配そうに声をかけた。


「あぁ、ちっとばっか酸を喰らったけど、治したから大丈夫だ。それよりもあの斬鬼はなんだ? やたらでかいけど……」


「アレは怨形鬼だ。複数の斬鬼が融合体といわれているらしい」


「雷牙くんが獅子陸くんに吹き飛ばされたすぐ後、襲撃してきた人たちがアイツのせいで全員斬鬼化してね。数は減らしたんだけど、融合されたんだよ」


「マジッすか……。じゃああの斬鬼も」


 弾かれるようにして雷牙が怨形鬼を見やると、たたでさえ巨大だった怨形鬼がまた一回りほど大きくなった。


 同時に、その胸部には先程の斬鬼と同じように気を失った状態の黎雄が磔にされている。


「ハハハハ! スバラシイ!! ソウダ、コレコソガオレノモトメタチカラダ!!!!」


 雷牙以外の全員がその声にギョッとする。


 無理もない。


 本来斬鬼はしゃべる知能などは持ち合わせていない。


 人語を理解する斬鬼を前にすれば驚くのも当然だ。


「斬鬼が、しゃべった、だと……?」


「あー、なんか獅子陸先輩の内側にいたみたいで、その知能もそれなりに蓄えてたみたいです……」


「ツッコミどころがいろいろと多すぎるけど、いよいよもってあの怨形鬼を倒さないといけなくなったね」


「せやな。知能を持った斬鬼だけでもやばいんに、怨形鬼とかなんの冗談やって感じや……」


 生徒会長二人はそれぞれ大きく溜息をつくが、それを遮るように、巨大な真空の剣閃が五人を襲う。


 間一髪それを回避するものの、彼らの視線の先では怨形鬼が優越感に浸った声を漏らしている。


「クハハハ! ナントイウチカラダ。コノオトコノ、ノウリョクモアイマッテヨリツヨイモノニ、ナッテイル!!!!」


「あんの野郎、調子に乗りやがって……!!」


 ギリッと歯をかみ締めた雷牙は兼定を構えるものの「待った」と龍子に止められる。


「とりあえず、あの斬鬼が融合してしまったことはこの際しょうがないこととして割り切ろう。少し難しくはなるけど、いまここで倒そう」


「ああ。要である綱源も戻ってきた。危険度は上がったが、今ならば倒しきることができるかもしれない」


「うん。雷牙くん、今から私たち全員で怨形鬼を倒すための道を開く。だから、君は全ての霊力を使い切るつもり……いいや、絶対に使い切ってアイツを消滅させて。アレを倒すにはそれしかない」


「消滅って……それじゃあ獅子陸先輩は!」


「アイツも刀狩者の端くれや。自分のしたことの重さくらいわかっとるやろ……」


 黒羽は悔しげな表情で僅かに俯いた。


 雷牙の脳裏でも「俺を殺せ」と言った黎雄の姿がフラッシュバックする。


 だが、雷牙はそんな申し出を素直に受け取るほど冷淡な心は持ち合わせていない。


 ゆえに彼は決断する。


「……わかりました。あの怨形鬼は確実に消滅させます。だけど、獅子陸先輩も助けます」


「斬鬼に取り込まれてるんやぞ!? 元に戻すことなんか……!」 


「でも獅子陸先輩の魂はまだ生きてる。完全に斬鬼に取り込まれていないのがその証拠です。どうやればいいのかはわからないッスけど、俺の全力をぶつけます!」


 グッと拳を握りこむ雷牙の言葉には説得力など皆無だった。


 獅子陸を助ける明確な方法を提示したわけでもない。


 怨形鬼を消滅させる確証があるわけでもない。


 けれど、四人の心には「雷牙ならできるのでは」という思いが芽生えた。


「……なんやそれ、むちゃくちゃやなお前……。けど、気に入ったわ、その根性」


「ホントにどこから来るんだろうね、その自信は」


「しかし、俺もお前に賭けてみたくなった。全力で援護しよう」


 上級生三人は呆れと混じりの笑みを見せる。


 どこか暗かった表情が明るくなっていった。


「瑞季。お前も手伝ってくれるか?」


「愚問だな。そんなことは当然だろう。怨形鬼を倒し、獅子陸先輩を助けよう。君にならきっと出来る」


「……おう!」


「よし、決まったね。それじゃあ次が正真正銘最後の攻撃だ。皆、気張っていくよ!!!!」


 再び龍子が先頭に立って氷霜を構えると、それに続くように四人も臨戦態勢に入る。


「クルガイイ、ニンゲンドモ!! ヒトリノコラズコッパミジンニシテヤル!!!!」


 怨形鬼もまた雷牙達を見て大きく口をあけて吼えた。


 全身を揺るがす咆哮に雷牙は全身が強張るのを感じたが、その口元にはいつもどおり笑みがあった。


「……やってやるさ……!!」


 最後の攻防が始まろうとしていた。

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