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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第四章 黒き胎動
106/421

3-6

 黎雄が姿を消したという情報は、雷牙達だけではなく、各校の新聞部も既に情報を掴んでいた。


 けれども、彼の身を案ずる人物は少ない。


 殆どの生徒は黎雄失踪の理由を掴もうとしたり、今後見つかるのか、玖浄院と轟天館の強化試合はどうなっていくのかということしか頭になさそうだった。


 とはいえ彼らの反応は当然といえば当然かもしれない。


 轟天館は玖浄院に次いで優勝候補に挙げられる育成校だ。


 選手が失踪したともなれば戦力減は否めない。


 彼ら新聞部からすればその情報を自身が所属する育成校へ通達することの方が重要な仕事だ。


 それに戦刀祭でも活躍が期待されていた選手の突然の失踪は、育成校のマスメディアである新聞部にとっては否が応でも興味を引かれる題材だろう。


「ハァ……」


 あわただしく動く生徒の中で一人溜息をついたのは、試合の記録係を務めていた舞衣だった。


 ふて腐れたような表情を浮かべている彼女に、部員達に指示を出している広魅が気付いたようで声をかける。


「随分と不機嫌ね。柚木さん」


「笛縞さん……いや、不機嫌って言うか心配と無力感に苛まれてるだけです」


「心配っていうと皆のことだってことはわかるけど、無力感って?」


 現在、新聞部の取材班などの鬼哭刀を所持していない生徒達は、施設の一角でことが解決するまで待機が命じられている。


 この部屋に選手達の姿が見えないのはそのためだ。


「いや、私はそこまで強くないからあんまり人の心配をするのもどうかと思うんですけど、こういうときに自分だけ安全圏にいるこの感じがどうしても慣れなくて」


「なるほど、できれば皆と一緒に捜索に出たかったって感じね」


「はい。まぁ、怪我をする危険性があることを加味すれば、当然の判断だとは思うんですけどね。なんかさっきから胸騒ぎがするっていうか……」


「胸騒ぎ?」


 広魅が首をかしげると、舞衣は静かに頷いた。


「確証はないんですけど、なんか斬鬼と遭遇した時の感覚に似てるんですよねー」


「あの胸焼けをするような感覚?」


「はい。なんかよからぬことが起きているような……」


 あくまで直感だ。


 明確な証拠はない。


 単純に心配からくるものなのかもしれないが、舞衣はどうにも落ち着かないのだ。


「まぁ今私達にできることは待つことだけだからね。仮に柚木さんの言ってることが本当だったとしても、鬼哭刀を持ってきてない私達ではどうしようもないし」


「ですよねー……。大丈夫かなぁ、みんな」


 舞衣は外で黎雄を捜索しているであろう雷牙達の身を案じる。


 できればなにごともなく終わって欲しい。


 とはいえ、広魅の言うとおり、鬼哭刀がなければ安全面が心もとない。


 舞衣は大きなため息をついてから、気分でも紛らわそうと端末を開いた。




 瞬間、耳をつんざくようなアラートと、施設全体を地震のような揺れが襲った。




「な、なに!?」


 驚きつつも、外を確認する舞衣と広魅。


 見ると施設の外で砂塵がもうもうと上がっている。


 鳴り響く緊急事態を報せるアラート。


「いったい、何が……」


 疑問を口にする舞衣に対し、広魅の判断は早かった。


「全員ここから今すぐ退避! 地下に避難して!!」


 揺れに驚いていた新聞部の生徒は殆どがキョトンとしていたが、彼女の様子をいち早く理解した涼香や満も指示を出し始める。


「ホラ、皆ボサッとしない! はやく地下に行くんだ!」


「大きい荷物はここにおいていき。必要最低限のもんだけもっていきや!」


 最初は動きの緩慢だった他の生徒達も三人の様子を見て、ただ事ではないことを察知したのか、皆急いで地下へ避難を始める。


 地下には災害時などに一時的に避難民を受け入れるための収容施設があり、生半可な衝撃では壊れないシェルターが備わっている。


 強化試合参加者及び、取材班には事前に緊急時はシェルターに避難することを通達してあるので、新聞部の部員達は疑問を浮かべながらも地下へ向かう。

 

 舞衣も腑に落ちなさそうな表情をしつつも、それに続こうとすると、不意に聞こえてきた話し声に舞衣は視線を向ける。


「うん、わかった。そっちも気をつけて。プロに連絡はしたの? ……うん、了解。こっちは皆でシェルターに避難してるから」


 そういって通話を切ったのは眉間に深く皺を寄せた広魅だった。


 彼女は舞衣の手首を掴むと、そのまま地下シェルターへ向かって走る。


「あの、さっきの電話って……!」


「うん。龍子から。緊急事態発生につき、即時避難を開始しろって」


「緊急事態ってまさか、斬鬼とか!?」


「……いいえ、龍子がいうには少し違うみたい。敵は妖刀と思われる刀を所持している人間」


「どういうことなん? 妖刀なら持った時点で斬鬼化するやないの」


 隣を走る涼香が首をかしげると、満が「まさか……」と呟いた。


「……敵が人間で、尚且つ所持している刀が妖刀……敵はもしや――!」


「――うん。龍子も満くんと同じ見立てをしてたよ。恐らく襲撃犯の正体は――」


 広魅が告げようとした敵の名を、舞衣は察することができた。


 ハクロウの捜査を掻い潜り、世界の闇の中で蠢く国際的な犯罪組織。


「――クロガネ」


 その名前を聞いた瞬間、舞衣は背筋に悪寒が走るのを感じた。


 けれど、今の自分にはなにもできない。


 できることは、外で戦いをはじめたであろう瑞季や雷牙の身を案じることだけだった。


 悔しげに唇を噛む舞衣は広魅達と共にシェルターへと避難する。


 友人達の無事を祈りながら。






 訓練施設の屋外修練場では既に戦闘が始まっていた。


 襲撃はまさに突然の一言だった。


 施設内は育成校と同じように許可がなければ立ち入ることは禁止されている。


 ただし、それは禁止されているだけであって、立ち入れないというわけではない。


 外部訓練場自体、育成校と違って警備は手薄なのだ。


 だから、強引に入ろうとすれば入ることは可能。


 今回はまさにそれだった。


 アラームが鳴ると同時に敷地内に侵入してきた敵の数は六名。


 その誰もが禍々しいオーラを纏った刀を所持していた。


 最初の数名はあくまで先行部隊という役割だったようで、彼らに続いて二十人近い襲撃者が現れた。


 対して雷牙達は七名。


 数では圧倒的に不利な状況だったが、雷牙達は優勢に立っていた。 


 雷牙は刀を構えて自身を囲む襲撃者に視線を向ける。


「死ねぇ! ハクロウのクソガキがぁッ!!!!」


 男性が怨嗟の言葉を吐きながら刃を振るう。


 その動きはとてもではないが、強者のそれではない。


 単調な動きに加えて、鈍重な振りを避けるのはたやすかった。


 最初の襲撃こそ驚いたが、相手はあまり強くない。


 数に差があったとしても、それを埋めるのは雷牙達選抜選手ならば簡単なことだ。


 僅かなステップで攻撃を回避した雷牙は、そのまま鬼哭刀を男性の背中目掛けて振り下ろす。


「フッ!」


「ぎゃっ!?」


 短い悲鳴を上げて男性は倒れる。


 殺してはいない。


 あくまでも峰打ちだ。


 刀狩者はその立場上、人間に対して攻撃することは一部を除いて厳禁とされている。


 相手が襲撃犯なのだからそんな悠長なことを言っている状況ではないが、仮に彼らの持つ刀が妖刀ではなかった場合、処罰は雷牙達にも下される。


 だから明確な確証が持てるまでは、刃はおろか霊力を使用することもできないのだ。


「やりづれぇな、まったく……!!」


「オラァ!!」


 不意をつく形で振り下ろされた刃をすんでの所で回避する雷牙は舌打ちをしながら、峰打ちで動きを止めようとする。


 しかし、襲撃者が振るった刀が地面に触れると同時に、足元に巨大なヒビが入った。


「っ、おいおい……! さすがにこれはもう妖刀で間違いねぇだろ……!」


 最初の襲撃の時もそうだった。


 明らかに彼らの膂力では発揮できないであろう力が出ている。


 動きも構えも素人同然の彼らがこんな力を有しているわけがない。


 やはりあの刀は妖刀に近しいなにかなのだろう。


 常軌を逸した力に、雷牙は思わず苦笑いしそうになるものの、攻撃してきた男性の意識を刈り取るために首筋を軽く叩いておく。


 霊力を使ってはいけないため、纏装は切ってあるが一般人程度なら軽く昏倒させることはできる。


 男性は一瞬硬直した後に、そのまま地面に倒れこんだ。


 最後に残った男は妖刀と思われる刀の切先を雷牙に向ける。


 けれど、その手は震えている。


「やめとけよおっさん。下手にそんなもん使うと怪我するぜ?」


「う、うるせぇ! ガキが、舐めた態度とりやがって!」


「勝手に襲撃して負けそうになってるからって逆ギレしないでくれよ……。見てみろよ、他のお仲間さんはもう殆ど全滅してるぜ?」


 雷牙の言うとおり、訓練場で行われていた戦闘は終結しつつあり、襲撃者側は立っている人間が少なくなっていた。


「クソ! なんなんだよこの刀! てんで役に立たねぇじゃねーか!! あの小僧、適当なもん掴ませやがって……!!」


 男性は握っている刀を睨みつけながらそれを渡したと思われる人物に向けて悪態をついた。


 その様子をしばらく見やっていてもよかったが、雷牙は小さく息をついた後、霊力を一切使わずに男性の背後に回りこむと、前二人と同じように峰打ちを叩き込む。


「がッ!?」


「こっちは忙しいんだ。余計な手間取らせるんじゃねぇよ」


 倒れこむ男性を睥睨しながら雷牙は鬼哭刀を鞘に納めて龍子たちと合流する。


「ん、終わったね」


「はい。そんな強くなかったですし。つか、こんなんだったらシェルターに避難なんかさせなくてもよかったんじゃないんですか?」


「それは違うぞ、綱源。武蔵は、連中が所持していた刀が危険だと判断したから、シェルターに避難させたんだ」


 勇護は襲撃者の一人を拘束しながら静かに告げた。


「彼らと戦ってみてもわかったと思うが、力が実力に見合っていなかった。強すぎる力が暴発でもすれば、施設内にいる生徒に危害が及ぶ。それを危惧しての判断だ」


「あぁ、なるほど。確かに言われてみればそうっスね……」


「まぁとりあえずは何事もなくすんでよかったよ。あとは外に出てる黒羽ちゃんたちと連絡しないと……」


「獅子陸先輩は見つかったんでしょうか?」


 瑞季が首をかしげなら問うと、龍子は「どうだろうねぇ」と肩を竦める。


「まずはこの現状を報告して、向こうに異常がないか判断をしないと――ッ!!」


 瞬間、龍子は弾かれるようにして雷牙と瑞季の上に覆いかぶさった。


 二人は声を上げる暇もなく仰向けに倒れるものの、雷牙は視線の先を豪風を纏った何かが凄まじい勢いで通り過ぎていったのを見た。


「二人とも無事!?」


 覆いかぶさる龍子に問われ、雷牙と瑞季が頷くと、彼女は安堵したように息をつく。


 三人はすぐに通り過ぎてったものを見やる。


 土煙ではっきりとは見えなかった。


 が、段々とそれが晴れてきたとき、三人の顔に緊張が走る。


「辻先輩……!? それに轟天館の……!」


 土煙が晴れて露になったのは、全身の至るところを切り刻まれた直柾と刑丞だった。


 龍子はすぐに二人に駆け寄ると、呼吸と心音を確かめる。


「雷牙くん、治癒術!!」


「あ、はいッ!!」


 すぐさま雷牙は直柾の隣に座って彼の全身を霊力で包み込む。


 息はある。


 だが、出血量が多すぎる。


 治癒術で最低限の処置はできるが、すぐに輸血して医療用ポッドに入れなければ危ない状態だ。


「いったい誰がこんな惨いことを……!」


 瑞季も勇護と共に刑丞に駆け寄って出血箇所を抑えて止血をはじめている。


「わからない、けど一刻も早く処置しないと……! 三咲ちゃん! 士くん! 医療用ポッドと輸血パックを持ってきて! 早く!!」


 龍子の声に、やや遠くにいた二人はすぐさま動いて訓練施設に向けて駆けていく。


 雷牙は直柾の傷跡を治癒術で癒していくものの、やはり自分の体ではないためすぐに完治はできない。


 すると、彼が僅かに口をひらいてなにかを訴える。


 最初は痛みを訴えているのかと思ったがそうではない。


 もっとよく聞き取ろうと彼の口元に耳をよせる。


「……はや、く……に、げろ……! アイツが、来る……ぞ!」


「え――」


 雷牙が疑問符を浮かべた瞬間、訓練場の端で誰かが叫んだ。



「お前ら早よう、逃げぇ!!」



 見ると、小さい体で天一朗と冥琴を背負った黒羽が、全身に稲光をまとって駆けていた。


 表情には焦りの色が見られる。


 彼女はそのまま目にも止まらぬ速さで雷牙達の下へ駆けつける。


「なにしてんねん! 逃げろ言うたやろ!」


「待って黒羽ちゃん、一体森の中でなにが起きたの!?」


「説明したいんはやまやまやけど、今は怪我人運ぶんが先や! はようせんと、アイツが来る!」


 瞬間、訓練場の中央近くに砂塵が舞った。


 吹き荒ぶのは先程直柾と刑丞を飛ばしてきた豪風よりも遙かに強い、轟風。


 直柾の体を押さえながら雷牙は砂嵐の中央を見やる。


 そこには人影があった。


 轟風を伴った砂嵐は消え、中央にいた人物の姿が露になる。




「獅子陸先輩……!」




 皆の視線の先に立っていたのは、失踪したはずの黎雄だった。


 表情は無表情に近い。


 手にしている刀の刃にはべったりと血が付着しており、誰かを斬ったことは明白だった。


 だが、あの刀は彼の鬼哭刀ではない。


 赤黒い刀身と、その周囲をうねるようにして蠢いているのは赤黒いオーラ。


 全身があの刀の存在に警鐘を鳴らしていた。


 やがて彼はゆっくりと雷牙達を見やる。


 その眼光は鋭かったが、それ以上に雷牙達は彼の瞳の色に戦慄した。


 彼の瞳は真っ赤に染まっていた。


 それはまるで血のようで、人類の敵である斬鬼のそれと同じであった。

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