19. とりあえずドラム缶を押そうか
スラム住民からの喝采を満足するまで浴びた俺は、俺キャラを屋根上から下ろして、呆然としているミチルの側に近寄っていく。
「どうしたミチル」
「あ、いえ! な、なんだか英雄みたいで格好良いなーと」
ミチルが少し恥ずかしそうにそう呟いた。
おいおい、よせやい。
女性キャラからストレートに褒められると、さすがの俺っちも照れるやい。
でも、悪い気はしねーなぁー。
もしかして俺キャラに惚れちまったかい?
というか惚れろ惚れろ。
仲間の女キャラは全員、俺キャラである主人公様のもんだからな!
というか今までのゲームでも、パーティーメンバーは俺キャラ以外は全員、女性にしていたしな!
世界を救う苦難の旅を、むさ苦しい男だけでするなんぞゴメンだぜ!
宿屋に泊まって「ゆうべは、おたのしみでしたね!」と宿屋の親父から遠回しに「お前ら他の客もいるんだぞ! 自重しろ!」と説教されることこそが至高なりよ。
ハーレムとは、男プレイヤーの心を癒やす福利厚生でありますぞ。
つまり、途中離脱や寝取られなんぞをかましやがったら円盤を木っ端ミジンコにしてやるからなっ!
とはいえ、そこまで凶暴的な行為はしたことが無いので、たぶん、無言&無表情でそっと粗大ゴミの日に送り出すとは思います。
とりあえず、主人公である俺キャラへの好感度が、ミチルの中で順調に上昇しているようで喜ばしいことだ。
ま、好感度なるシステムが有るのか無いのかは知らないけども。
さてさて、スラム住民達を待たせているし、次のイベントに移りますかな。
「ミチル、あそこにあるドラム缶をここまで押してきてくれ」
「え? え?」
「ほら、早くしろ」
「は、はい!」
ミチルは拠点の側に無造作に置いてある上フタの空いたドラム缶の側までトテトテと小走りで近寄ると、そのまま「うんしょ! うんしょ!」とこちらに向かって押し始めた。
……うーん。
閃いたから思わず試してみたのだが、改めて考えてみると、この会話システムって凄いな。
独自AIが、まるで生きているかのように会話をしてくれるということは、それだけの理解力があるということ。
つまるところ、仲間キャラに対して自由自在に細かい指示も行うことができるというわけだ。
普通のゲームだと、「ガンガンいこうぜ!」や「命は大事に」とか、ざっくりとした命令になりがちだが、このゲームだと、このように細かい指示すら声をかけるだけで実行してくれることになる。
さすがは少しイカれた凄腕の天才プログラマー様だな。
「ドラム缶を運んできました!」
ミチルが「はぁはぁ」言いながら達成感に満ちた笑顔で報告してくる。
「偉い! 褒めてつかわす!」
「えへへへ♪」
とりあえず、褒めておいたらまんざらでもないようだった。
さすがはピンクチョロイン。
「ミチル、このドラム缶に火をくべることはできるか?」
「できますよ!」
ミチルは自分のアイテム欄から木片を取り出してドラム缶に放り込むと、マッチで火をつけた。
ドラム缶内に小さな火が燃え始める。
「色々と持っているんだな」
「はい、これは私の野宿セットです」
ちなみに、パーティのリーダー権限で仲間であるミチルのアイテム欄を確認してみると、確かにミチルは色々な物を所有していた。
とはいえ、ほぼ、ガラクタばかりだが。
「さて、それじゃ始めるか」
「何をですか?」
「この借用書を一人一人に返すのさ」
「は、はい!」
借金の辛さを身にしみて感じているからか、ミチルは嬉しそうに頷いた。
俺キャラが借用書の束に書かれている名前を読み上げると、スラム住民達の集団から名前を呼ばれた者が前に出て来る。
俺キャラがスラム住民の一人に借用書を返すと、そのまま本人の手でドラム缶の火の中へ放り込ませた。
ドラム缶の中で燃えて消えていく借用書を見つめながら、借金から解放されたスラム住民達は歓声を上げたり、泣きながら感謝してくれたりしてくれる。
善行、気持ち良す。
スラム住民達の感動を前に、ミチルも感情移入をしてしまったのか瞳を潤ませている。
日本人ゲーマーは俺を含めて人助けが好きだからな。
そうでなければ世界や弱者を救うゲームを飽きもせずに次々とプレイしたりしないし、世界や弱者を救う漫画や小説やアニメを嗜んだりはしない。
だから、世紀末世界観ゲームでも悪人プレイが苦手だったりする日本人は多い。
悪人側に付いてひたすら善人をぶち殺すルートしかない場合なんぞ最悪である。
事実、俺もこの世紀末世界観ゲームにおいて悪人は容赦無くぶち殺すけれども、善人そうな弱者の救済は喜々としてやっているからな。
独り善がりだろうが何だろうが、所詮はゲームなのだから自分が気持ち良くなれればそれでいいのさ。
つまり、善行は気持ち良す!
あっという間に借用書を配り終えると、拠点の前に集まっていたスラム住民達は一人も居なくなった。
というのに、借用書は何枚か残ってしまったようだ。
どうやら、全員が集まっていたというわけではなさそうである。
これからスラム街を拠点に活動するから、どこぞで出会えば、その時に返してやればいいだろう。
とりあえず俺キャラでドラム缶を押して、元の位置に戻しておくのだった。




