18. 借金解放宣言
蟻地獄のガポリ一味の元アジトであり、今や俺キャラの拠点となった建物の前で、たくさんのスラム住民が集まっていた。
ガポリ一味が全滅したという噂を聞いて、ガポリに借金をしていた者達が事実を確認しようと集まってきているらしい。
実際、噂が本当かどうかが分からないせいか、集ったスラム住民達は建物から少し離れた所から様子を伺っているという感じだった。
俺キャラと後に続くミチルが人だかりを突き抜けて建物の前に辿り着く。
「ミチルはここで待ってろ」
「あ、は、はい」
俺キャラが、建物の脇に置かれていたガラクタゴミの上にジャンプすると、そこからそのまま平屋建てである建物の平らな屋根上へとジャンプして飛び乗った。
アクションゲームやからね。
どこでもピョンピョンジャンプ移動やで。
スラム内で悪行を重ねていた「蟻地獄のガポリ」一味のアジトの屋根に、土足で上り立った一人の男を前にして、スラム住民達のざわつきが一回り大きくなった。
しかし、選択肢が無いのは本当に困るなー。
自分でイベントを完全に操っていくのは、確かに自由度の極地ではあるんだろうけれど、これゲームプレイスキルと共にコミュニケーションスキルの方もかなり重要なんじゃないの?
コミュ障には地獄だろうなこれ。
でも、ま、所詮はゲームだし、後のことなんぞ考えなくても良いから、恥ずかしさを克服さえできれば、意外と気楽なんだがな。
さて、というわけで、俺は俺のしたいようにしてみるべや。
俺キャラが屋根の端にまで移動すると、集まっているスラム住民達を見下ろす形になり、スラム住民達は俺キャラを見上げて更にざわつき始めた。
ええと、何て言おうかな。
いや、こういう時は、言葉も大事なんだが態度なんかもかなり大切だよな。
確かえーと。
俺はコントローラーを床に置くと、分厚い説明書を手にとった。
セーブ方法を調べる時にちらりと見えた気がするんだが、あー、あったあった。
これこれ。
そのページには「エモーショナルジェスチャー」という機能の解説が載っていた。
いわゆる感情表現用のポージング集である。
礼をしたり、ガッツポーズしたり、じだんだを踏んだり、勝利の舞を踊ったりするあれである。
かなりの数が用意されているらしく、しかもカスタマイズしてオリジナルなモーションも作れるらしい。
素晴らしい。
とりあえず、感情項目別に細かく分別されているみたいなので、俺はコントローラーを手に取ると、セレクトボタンを押してエモーショナルジェスチャーの項目から開いて選択していく。
とりあえずこれでいいか。
俺がジェスチャーを選択すると、俺キャラが装備している剣を空に差し向ける勇ましいポーズを取った。
やはり、エモーショナルジェスチャーはゲーム内AIキャラに対しても影響を与えるのか、俺キャラを見上げながらざわざわしていたスラム住民達が急にしんと静まり返った。
よしよし。
俺はコントローラーの○ボタンを押し込んでヘッドセットのマイクをONにすると、聴衆共に語りかけた。
「良く聞けスラム街の住民達よ! 我こそは防衛圏ギルドに所属する戦士カッタである!」
スラム住民達と同じように、ミチルもぽかんと小さく口を開けながら俺キャラを見上げている。
「皆に借金という苦しみを押し付け続けた悪党「蟻地獄のガポリ」一味は、この俺が討ち取った!!」
スラム街の住民はしーんとしている。
あれ、これだけじゃ納得できないのかな。
よし、ジェスチャーでこれをこうして。
俺キャラが掲げていた剣を収めると、代わりに所持アイテムである「借用書の束」を取り出して掲げた。
「見よ! 借用書の束である! 今からこれを皆に返してやろう! つまり、借金は今日限りで終わりということだっ!!」
しかし、スラム街の住民はしーんとしていた。
おいおい、これでも駄目なのかよ。
完全自由イベント難しすぎだろ。
俺が次はどうしたものかと考えようとした瞬間、まるでスラム住民達が爆発したかのように一斉に凄まじい雄叫びと拍手をあげた。
「――ウオォォォォ!!!」
「――すげぇぇぇぇ!!!」
「――ありがとうぉぉぉ!!!」
万雷の歓声と拍手が辺りに響き渡る。
どうやら、俺キャラの言葉を理解するのに少し時間がかかったらしい。
全く、このゲームの独自AIとやらは、どこまでもリアル臭い表現と演出をしてきやがるな。
俺は次のジェスチャーを選択すると、俺キャラが屋根の上で腰をクネクネ腕を上下にフリフリするダンスを披露した。
俺キャラのふざけたダンスを見たスラム街の住民達は、更に熱狂的に歓声をあげるのだった。
俺キャラへ対する熱狂的な歓声をモニター画面で見ながら、プレイヤーの俺もまんざらでもない気分になった。
プレイヤーを良い気持ちにさせるなんて、なかなか良いゲームではないか。
さすがはストレス発散ゲーム、やりおるわ。
さあ、存分に褒め称えるが良いぞ、この偉大なる主人公様をな!
俺キャラが次々と変なダンスを披露する度に、スラム街の住民達は苦しみから解放された喜びのままに、感謝を込めた歓声をこれでもかと浴びせてくれるのであった。




