17. 立ち食いそば屋
ミチルに連れられて、俺キャラはスラム街の立ち食いそば屋へとやって来た。
小さく簡素な掘っ立て小屋で、5人程で満員になりそうな立ち食いカウンターが設けられており、のれんには「都富士そば -スラム支店-」と書かれてあった。
今度は大手立ち食いそばチェーン店とのコラボかいな。
このゲーム、コラボ好きやな。
まー、でも美味いよなここの立ち食いそば。
ちなみに、ちょうど客もおらず席が空いているので食べられそうだ。
というか、ゲームのくせに満席とかだったらブチ切れるけどもな。
「よーし、拠点を確保できた祝いにそば食うぞミチル」
「どうして拠点が出来ると、そばを食べるんですか?」
「まー、あまり深く考えるな。とりあえずめでたいから美味いものでも食うかという程度だ」
そもそも、世間的にも引っ越しそばという風習は廃れつつあるしな。
でも、知識としては残っているから、近所には配らなくとも自分達で食べる人はまだまだいるだろうとは思う。
「んじゃ、入るか」
「は、はい!」
「どうした。何を緊張しているんだ」
「わ、私、立ち食いそば屋さんに入ったことがなくて」
「なんでも慣れだ慣れ。いくぞ」
「あわわ!」
俺キャラがカウンターの前に立つと、ミチルも慌てて俺キャラの横に立つ。
俺キャラがメニューを見ると、モニター画面にメニューの一覧が表示された。
・かけそば 300P
・天ぷらそば 500P
メニューは2つだけかよ。
スラム支店だから品数が少ないのかもな。
俺は店員の女性キャラに声をかけた。
「天ぷらそば2つ」
「はい、天ぷらそば2つ!」
女性店員が復唱した瞬間、俺キャラとミチルの前に天ぷらそばが出された。
早い。
というか、早すぎる。
もしや、少しイカれた凄腕の天才プログラマーによる独自AIをなんたらかんたらなやつが、俺キャラが店に入る前に既に俺の注文を予測しており、俺キャラとミチルがカウンターの前に来た瞬間、天ぷらそばを既に調理開始していたのでは!
……あ、これ、ゲームだったわ。
現実世界の凄腕店員さんと比べても意味なかったな。
「はわわ」
ミチルが天ぷらそばを前に瞳をウルウル、口をわなわなさせている。
「どうした」
「こ、これ、立ち食いそば屋さんの最高級メニューじゃないですか!」
最高級って。
かけそばと天ぷらそばの二種類しかねーだろうが。
下と上で分ければ、確かに上ではあるだろうけども。
「で、伝説の天ぷらそばを食べられる日がくるなんて!」
いや、お前さっき、玉将で、天ぷらそばよりも高い豪華ランチセット2000Pを、俺の奢りでモリモリ食ってたよな?
もしや、玉将は昔、家族と行っていたこともあり贅沢だとは分かってはいるが懐かしさもあるわけで、むしろ、自力で生きるようになってからは一度として食べたことが無い天ぷらそばが異様に高級品に思えるとかか?
……とんでもなく人間臭い思考方法だな。
怖いわ独自AIのなんたらかんたら。
「とりあえず食え食え」
俺キャラが食べだすと、ミチルも「は、はい!」と応えると食べ始めた。
天ぷらそばの旨さに大感動したミチルは、その後、おかわりを3回した。
本当に食いしん坊キャラだなこいつ。
引っ越しそばを食べ終わった俺キャラとミチルは、手に入れた拠点へと戻ると、拠点の前が人だかりで大変なことになっていた。
モニター画面越しでも人がわちゃわちゃしていて異様な雰囲気を出している。
軽く100名は超えそうな感じだ。
「なんだこれ」
「なんでしょうね」
ミチルにも分からないようだった。
とりあえず、俺は俺キャラを使って、この人だかりの一人である男性に声をかけてみた。
「なんでこんなに集まってるんですかね?」
「え? ああ、なんでも、「蟻地獄のガポリ」一味が全滅したって噂がスラム内で流れていてね。本当かどうか確かめる為に自然と皆が集まってきたみたいだね」
さすがはスラムの嫌われ者だな。
「それにしては多くないですか」
「いや、たぶん、ここに居るのは皆、ガポリに借金をしている連中だと思うよ。なにせ俺もそうだから」
あー、なるへそ。
蟻地獄のガポリ一味が全滅した事が本当ならば、自分の借金がチャラになるかもしれないと確認しに来ているわけだな。
なるほどなるほど。
うん、丁度よいではないか。
わざわざ、借用書に記されているキャラを個別に探すのも面倒だし、まー、名声を得る為にやれと言われればどんな細かい面倒事でも遂行するのが我らゲーマーの性ではあるが、せっかくのお膳立てイベントならばありがたく頂戴するとしよう。
「よし、ミチルついて来い」
「え? え?」
俺キャラが人だかりの中に突っ込んでいくと、ミチルがあわあわしながら俺キャラの後をついてくるのだった。




