15. ヤンキー姉ちゃんなギルド長は驚く
俺キャラが防衛圏ギルドに入ると、カウンターの受付に座っていたヤンキー姉ちゃんなギルド長が、ガタリと席から立ち上がり、俺キャラの方を凝視してくる。
俺キャラが受付の前にまで行くと、俺キャラの後ろを付いて歩く「パーティメンバー」こと、ミチルを凝視していた。
それだけ驚いているということは、ヤンキー姉ちゃんなりには心配をしていたということなのだろうな。
「どうしたギルド長さん」
「な、なんでもない」
俺の言葉に、ヤンキー姉ちゃんなギルド長は、バツが悪そうに視線を逸らしつつ、慌てて席に座り直す。
「俺のことを死ぬ死ぬなどと言っていたが、ちゃんと生きてミチルを助け出してきたぞ?」
「ふん、どうせ、ミチルを連れて無様に逃げて来ただけだろう? あいつらはしつこい。一時しのぎの自由なんぞ、何の意味もないんだぞ」
「いやいや、全員、ぶち殺してやりましたとも。これにて永遠の平和が訪れましたわ」
「……は?」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長が、ポカリと口を開けている。
うんうん、そのアホ面が見たかったのだよ。
わざわざ報告に来て良かった。
「お、お前、蟻地獄のガポリ部隊を全滅させたのか?」
「当たり前だろうが。あんなクソ野郎共を生かしておいて、後々、何度も襲われたらうっとうしいだろうが」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長は片手で額を抑えつつ項垂れながら、目線だけでミチルを睨んだ。
「今の話は本当なのかミチル?」
「は、はい! カッタさんがガポリ部隊を火だるまにして全滅させてしまいました」
「たった一人でか?」
「は、はい!」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長は口端に咥えているタバコに火をつけると、深呼吸するように紫煙を吐き捨てた。
「……お前、本当に頭がイカれているな」
「失礼な。俺は至って正常だ」
というか、ゲームプレイヤーなんぞ、だいたいこんなもんだぞ?
「出会って間もない女を助けるために、戦士になりたてのルーキーがたった一人で、蟻地獄のガポリ部隊を全滅に追い込むだなんて、このスラム始まって以来のふざけた話だ」
お、なんだよ、俺を褒めているのか?
苦しゅうない、主人公様である俺を褒め称えるが良いぞ。
「ま、こんなふざけた話は、スラムの誰も信じないだろうがな」
「なんだと?」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長が口端を歪めて小さく笑った。
「で、ミチル。これから、このイカレに付いていくのか?」
「は、はい! カッタさんがパーティーに入れてくれたので、捨てられない限りは、どこまでも付いていきます!」
ほほう、ミチルの奴、殊勝な心がけではないか。
だが、心配するなミチル。
ゲームプレイヤーとは、せっかく熱いイベントを乗り越えて仲間にしたキャラを、そう簡単に捨てることなど無いから安心するよし。
「……そうか。それもいいかもな。ここにはイイ奴そうな外面や言葉を吐くやつは多いが、それを実践する奴は、ほぼいない」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長がタバコを指先で摘んでぷかりと吹かす。
「こんな頭のわいたイカレでも、ミチルを助けるために命を懸けたんだ。付いていくには悪い相手ではないだろう」
「イカレ言うなドヤンキー」
「……ふん。あの蟻地獄のガポリ部隊に、一人で楽しそうに突っ込んでいく野郎が、イカレじゃなくて何だと言うんだ」
いや、だって、あれはド定番の燃える救出イベントなんだから、そりゃ、楽しいに決まっているじゃないかい。
そんなことをゲームキャラに説明したところで、理解をしてもらえるものでは無いだろうし、俺は仕方なく反論せずに、話題を変えることにした。
「ところで、人様を不幸に陥れるクズ集団を成敗したんだ。何か報酬とか出ないのか?」
「……あるぞ」
お!?
まじか! ラッキー!
ヤンキー姉ちゃんなギルド長は、奥の部屋に入ると、小さな袋を手にして戻ってきた。
「ほれ、これが報酬だ」
俺キャラがカウンターの上に置かれた小袋を回収する。
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小袋(小魔石50個)を手に入れた。
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なんだ……これっぽっちか。
都市通貨にして約5万P程度ではないか。
ま、しょうがないか、あんなザコ集団だったしな。
「……不服そうだな?」
「いや……別に」
「スラムの住民にとって、蟻地獄のガポリ部隊は恐怖の対象でもあった」
「だろうな」
「しかし、防衛圏ギルドが指名手配をする程の危険人物ではない。あくまで小悪党の部類だからな」
「指名手配をしていない? ……なら、どうして懸賞金が出るんだ?」
「防衛圏ギルドとしての『懸賞首』にはなってはいないが、蟻地獄のガポリに辛酸をなめさせられた連中が、必死に捻出して置いていった魔石がそれなのさ。つまり、個人的な『懸賞首』にはなっていたわけだな」
……うわ、重い話だった。
「借金で苦しんだ者、借金が元で身内を殺された者、妻や娘、姉や妹を娼館に売られた者、無茶な魔物狩りをさせられて大怪我をした者などは、だいたいが、このスラムでも最底辺に属する日々の暮らしにも困窮している連中だ。そんな彼等が、必死に絞り出して置いていった魔石がそれというわけ」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長はくわえタバコのまま、席に座ると色っぽい生足で足を組んだ。
「……そうそう、その魔石の一部をここに置いた後、餓死した男もいたっけか」
いや、だから、重いよその話。
「当然ながら、個人的に誰かを『懸賞首』に指名してしまうと、その対象から逆恨みで殺される可能性が高い。だから、蟻地獄のガポリに関する懸賞金は「誰か」ではなく「皆で」という形にしておいたんだが、見ての通りのはした金さ。誰もガポリを狩ろうなんて奴はいなかったよ」
……こんな重い魔石、返そうかな。
ヤンキー姉ちゃんなギルド長が、灰皿にタバコの灰を落とす。
「受け取ってやれよ。今回のお前が、それ目当てでは無かったにせよ、皆の無念がそこには詰まっているわけだし、結果的に、お前がその無念を晴らしたんだからさ。なに、深く考える必要は無いさ。その金で、パーッと美味い食い物と酒でも飲めよ。それが、死んでいった奴等のたむけになるだろうからさ」
「……ならギルド長、その飲み会は、お前も付き合え」
「――はぁ!?」
「そうは言われても、俺とミチルの二人では、やはりしんみりしてしまいそうでな。この懸賞魔石をコツコツと受け取り続けたお前も、たむけをする義務があるだろうよ」
「……う」
「というわけで、これは一旦、返しておくから、預かっておいてくれ」
俺はメニュー欄を開いて、小袋を選択して「捨てる」を選ぶと、カウンターの上に小袋が表示された。
「ちょ、お前!?」
「というわけで、今日はこれにて、さようなら」
俺キャラは、さっさと防衛圏ギルドの出口に向かって歩いていく。
俺キャラの後ろを付いて来るミチルが心配そうに声をかけてきた。
「い、いいんですか? 少ないとはいえ魔石は貴重なお金ですよ?」
「いいのいいの、あんなクソ重たいだけの、はした金な小袋なんぞ持っているだけで気が滅入るわ。それよりか、これから勝者の権利であり礼儀であり報酬を頂きに行くぞ!」
「え?」
「蟻地獄のガポリ共は、相当、悪どい事をしていたんだろう? あいつらの根城に行って、あいつらの物を根こそぎ頂くのだ!!」
「ええー!? で、でも、それらも苦しんでいる皆さんから搾取された重たい物の部類に入るのでは?」
「心配するな。返せそうな物は返すし、借用書などは他人に悪用される方がかわいそうだろ? 俺が全部まとめて燃やしてやるつもりだから、それ以外の、残りのものをありがたく頂くのだ!」
「な、なるほど!」
「というわけで、案内せいミチル!」
「は、はい!」
俺キャラの前に出て、道案内をしてくれるミチルの色っぽいお尻を眺めながら、蟻地獄のガポリ達が根城にしていた場所に向かって、俺キャラとミチルの二人がスラム街の中を進んで行くのだった。




