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自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
国内無双編

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アルケミア・ミソス

 激動の夏休みが終わった。

 ⋯⋯駄目だ。


 怠惰に金だけ稼いで人生を優雅に過ごすつもりだった。


 ここに帰ってきてまだ一年だぞ?


 それなのに。


 「いいか、この定数は⋯⋯」


 授業真っ只中。 

 俺のスマホに映るのは大量のメールとあり得ないくらいの通知。


 アマテラス計画関連に加えて人材の連絡、投資した連中から生まれた様々な実験についての成果や新たな決済の許可の申請。


 それと会長連中や様々な会社の社長たちがこぞって俺に会いたがってる。


 理由は分かってる。

 俺と関わりたいのだろう。


 ⋯⋯考えれば当たり前か。

 少し前におっさんたちから警告混じりのご挨拶を頂いたし。


 娘の紹介、今はまだ年頃ではない幼女を将来使えるようになったらどうかという若干の恐怖を感じる提案。


 まぁ正直、最初俺は全く疑問に思わなかったのだが、近くで聞いていた石田はギョッとしていた。


 その時そうかと納得した。


 貴族連中は当たり前のように幼少から婚約が決まっていたり、嫁いだりするのがあったからソレを普通だと思い込んでいた。


 当時俺に今のようにまだ10代の娘達を充てがう事で様々な利益を得ようとしていた彼らを思い出したよ。


 溜息混じりにメールを返し、外の景色を眺める。


 あれ?俺って普通の生活がしたかったんだけどなぁと。


 ただまぁ、錬金術師として存在している以上、どうしようもない現実でもあるのかと納得するしかない。


 一般人が俺の力を持ったら食費は0になるし、美容に気を遣う必要はない。


 そんな人間に関わって少しでも何かを享受したいと思うのは当然であり、人間として至極真っ当な事だろう。


 きっと過去の俺だって、そんな事言われたら──魂を売ってでもやりたい事があったんだから。


 「では、蓮川さん、次の例文から答えを」


 はぁ。

 こっちに来てから色々考えるようになったのは良い事か。


 今のところ株式を眺め、懐かしさと新鮮さを兼ね備えた情報を眺める日々。


 既知でありながらも古い記憶なので、見ると新鮮さもあるというのが他の人間にはない事だ。


 「次のページだが⋯⋯」


 そして様々なニュースや動きをリアルタイムで観測しながら新しい事を探す日々。


 アンテナを伸ばしながらも何か面白い事をやりたいと思うのは──怠惰に過ごしたい自分の気持ちに反しているのだろうか?


 怠惰に過ごしたい。

 けど何もなさすぎるのはつまらない。


 人間らしいこって。


 「⋯⋯ん?」


 独り言を呟く俺の頭にピコン、とアイディア?いや、放置していた事を思い出す。


 そう、事務所である。


 世那ちゃんの移籍は決まったのだが、芸能事務所をしっかりと作ってない。


 あくまで口約束。

 

 今やサバや、そこで隠れて食っているお淑やかなおなご共の手元にあるチップスなんかも俺が原案を出して木村さんが形にしたもの。


 ある種陰ながら俺が覇権を握っている事という事実に他ならないのである。


 流し目で彼女たちをチラ見し、俺はどうせなら?と思考する。


 以前からあった構想。

 女優や俳優、アイドル、後に流行るであろうゲーマーやストリーマー。


 今はまだ流行っていないのだからそれらをまとめ上げる事務所を作ればいいのでは?


 中々悪くない。


 俺が見出した才能ある者やチャンスを掴む機会を与え、日本に轟くような神話を創り上げる。


 そんな芸能事務所を立ち上げれば、この国も、個人としても、結構楽しめるのでは?


 そしたら⋯⋯っと。

 パパンッ!と石田ちゃんにメッセージを打ち込んで。


 "伊崎さん、正気ですか?"


 当たり前だろ。

 俺を誰だと思ってるんだ。


 テキストを返し、机の上にスマホを下に向けて突っ伏す。


 




 放課後、俺はタラタラした顔で下校。

 迎えの車に乗り込み、前で座ってる石田に訊ねる。


 「おーどうだった?」


 「⋯⋯はい。伊崎さんの影響力を舐めてました」


 「てことは終わったのか?」


 「処理終わりです。資本金一億。

 代表とオーナーを操作して俺とアニキが担当することして」

 

 「やるじゃん」


 舌を鳴らして石田に鳴らした指を差す。

 

 すると。横になっていた俺の視界は埋め尽くされ、柔らかい感触と、荒い鼻息が俺を顔を包む。


 「そーくん、ちゅー!」


 離れると理沙ちゃんが嫉妬なのか無理やり視界を奪っていた。


 「どうしたの?」


 「無視するからっ!」


 可愛く言っているが、全く無視などしていない。


 「大丈夫。あとでいっぱいイチャイチャしよ?」

 

 「⋯⋯んー、うん」


 あの事件から、理沙ちゃんが誰と思うくらい幼児化してしまった。


 本格的にここに住む事になったからか、全ての行動が一段とキレと本気さが伝わってくる。


 束縛系彼女と言えばいいのか。


 「伊崎さん。名前、これでいいんですか?」


 そう寝ている上に垂らされた書類には。


 "Alchemia Mythos"


 「錬金ですか?何で事務所の名前に使うんです?」


 「神話を作るんだ。

 まずは一ページを作り、そして──神話の領域へと至る。


 それを手掛けるのはここにいる俺達。


 イケメンも、美女も、才能ある演者も、設計者も⋯⋯全て神話になる!


 まさに神話そのもの。

 いいじゃん?」


 「まぁ俺はいいっすけど⋯⋯」

 

 「世那さん移籍もそうだけど、芸能界って結構闇深いよね?」


 「ええ。それはもうよく聞きます」


 近くにいた理沙ちゃんも衣里も、女たちが特に無言で頷いている。


 「いいじゃん。真っ向から勝負しようや。

 今の俺は一味違うぜ?」


 ⋯⋯主に権力と魔力があるし。


 「世那さんに何をやらせようかなぁ」


 あー、どうしよう。

 色々捗るなぁ。


 「⋯⋯いてててて!」


 「そーくん変なこと考えてる!」


 「えー?枕じょうとー!」


 退屈し過ぎて疲れた語彙力ゼロの俺は、ヘロヘロな両手を上げてやかましい妄想を広げる。


 「理沙がいるじゃん」


 とてもいるじゃんと言ってる顔ではない。

 殺意すら感じるほどだ。


 「⋯⋯そう言われたら勝てない」


 うん。女に殺される程執着されるのも悪くないな。


 ヤンデレ化してるよ?この子。


 ま、とりあえず世那さんと色んな若い女優さんとか声かけよーっと。


 とりあえず──俺は寝る!

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