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自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
国内無双編

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永い(7)死期

 ここが書きたかったから作者のわがままで伸びました(笑)

ーーーー



 「龍、銀を連れて下がっていいぞ。

 後は俺がどうにかする」


 壁に埋まったあの白髪を見ながら背にいる龍司に告げる。


 「伊崎さん、アイツは普通じゃないんです」


 「⋯⋯⋯⋯知ってる」


 「え?」


 俺は、溜息混じりに自分の片手を見る。

 

 動かそうにも、神経が逝ってる。

 それに、骨もボロボロだ。

 

 "治癒"──。


 掌を開いて閉じる。

 うん。問題ない。


 「それで、普通じゃないと言うのは、何か知ってるのか?」


 「っ、はい。ある程度知ってるのは、アイツは昔から化け物じみた強さだったんす」


 「別に強い奴はいっぱいこの世にいると思うが?」


 「俺は、これでもかなりの強者を見てきました。


 ですが、あんな化け物⋯⋯この世に一人でもいるくらいおかしいやつですよ!」


 「そんなか?」


 「はい。当時だって、俺達200人くらいで殴りかかって無傷でした」


 ⋯⋯それは人外だな。


 「正面切って?」


 「正面切って」


 なるほど。ヤバそうだな。


 「だが、この威力はバグってる。

 そっちは知らないのか?」


 この肉体は腐っても強い奴らの研究を重ねた肉体の結晶だ。


 俺の拳が粉砕するほどの力を持ってる人間がこの世界に"居る"ということになる。


 「あっ、しいて言えば」


 思い出したように龍司は話し出す。


 「風間組の仕事をしていますが、確か正式なメンバーじゃないです」


 「⋯⋯というと?」


 「奴は金で雇われている用心棒みたいなものに近いです。


 年間50億以上の金を貰って、仕事に当たっているそうです」


 そりゃ、俺の拳を破壊するレベルの力を持ったやつがただの用心棒として活動するならそれくらいの金を貰っても少ないくらいだろうが。


 「なるほど。つまり、アイツは正確にはヤクザではない?」


 「ッス」


 こういう時。

 石田の昔の喋り方が出るのはギャップと言うやつだろうか?


 悪くない。


 「分かった。下がっていい。

 よく耐えたな」


 パラパラ埋まってる奴が起き上がってきた。


 「っす!すいません! 

 お前ら!伊崎の大将が来たから安心だ!さっさと退くぞ!!」


 気配探知に引っかからなくなるまで待つ。

 さて。


 「俺の歓迎の蹴りは喜んでもらえたか?」


 「あァ。最高だったぜ。

 お前か──真壁を倒した奴は」


 「何かあった仲なのか? 

 アイツは訳あって俺の部下だ」


 「⋯⋯そうか。なら納得だ。

 お守りに時間掛けているのだから⋯⋯と。

 

 本来は言いたいが、お前は強そうだな?」


 ボロボロなのによく言うぜ。

 ウッキウキの顔で。


 「煙草なんて吸ってる場合か?」


 「お前に言っても理解できるか分からないだろうが、久しぶりに"世界"に入ったもんでね」


 「世界?」


 「ふっ、きっと言ってもわからん」


 腕を回し、傷だらけの背中を軽くかきながら。


 「喧嘩は好きか?聞いてみたかった」


 「⋯⋯いいや? 喧嘩なんて言うのは弱者の闘争に過ぎん」


 ていうか、アイツシンプルにイケメンなのに、闘いになるとあんな顔芸しだすくらいには好きなんだろうな。


 シワの寄り方といい、ハァハァしてるところを見るに、マジで喧嘩好きなんだな。


 まぁそんな事はいいが、ていうか別に肉弾戦に付き合ってるのはあくまで合わせてやってるからだし。


 この時代、魔法なんて一般体系にない世界で浮く、または目立つのは嫌なんでね。


 俺は目立たない中、アイツ実は⋯⋯!?

 みたいな感じで表で何もない奴が裏の界隈で力を持ってるみたいな立場で居たいだけなんだよ。


 「だと思ったさ。つまらない闘い方をする」


 乱れた髪をオールバックにまとめ直しながら、狂笑の限りを尽くし、俺を見下ろす。


 「つまらない?」


 「あぁ。無駄のない闘い。

 確かに悪くはないだろう。


 だがなァ?

 人間に一番大事なのは無駄な事をするときなんだぞ。


 効率的に倒したところで意味がねぇ」


 誰かあの人逮捕して!

 すんごい顔してるんだけど!


 だが。


 「ある種、同意する所ではあるな」


 「ガキに分かるのか?」


 「まぁな。そっちよりも多分詳しい」

 

 俺の言葉を若干鼻で笑い飛ばし。


 「前戯は良いだろう。

 ある程度分かってきたからな」


 ストレッチをし終えた奴は。


 「行くぞ、文字通り──」


 そこにはかっこよさもない。

 ただ、100mを走るように。


 「俺はな?⋯⋯闘争が好きだ。大好きだ」


 距離を縮め、狂ったように口を歪ませ、それは夜に輝く猛獣のような瞳孔が俺を仕留めるべく上から蹴り落としに来た。


 「っ?」


 バキン!と脚の裏が衝撃に耐えられず粉砕した音が聞こえた。


 「俺は闘争が大好きだ! 

 女を屈服させ抱くのも男の特権だが、だが男の特権はそうではない」


 ──何だコイツ。


 思わず目を見開いた。

 

 頭に過ぎったのは予想外であり、この世界の人間とは思えないほどの威力、瞬発力。


 奴が繰り出すのは至って普通の短いフックのようなもの。

 

 自動治癒した俺の足を掻い潜り脇腹に一撃入ったと思えば、ランダムに左右からの連打がやってくる。


 普通ならなんとも思わないその一撃。

 だが、コイツの一撃はそうではない。


 ガラスを割るような音が俺の全身に響いた。


 つまり、純粋な魔法無しでの俺の反射神経と防御力、様々な能力値がコイツの威力に負けているということになる。


 「っ、なんだ?」


 奴の後ろ回し蹴りを"屈んで避け"、地を蹴り跳ね上げ。 


 "加減せずそのまま顎を跳ね上げた"


 どう⋯⋯っ、


 地面から1mは跳ね上がったにも関わらず、奴は効いてなさそうに見下ろしながら体勢を変え──


 「今までで──一番強い一撃だァ!!!!!」


 突風と共に。

 瞳から漏れでる赤い軌跡と奴の拳が、常識の範囲を出た速度で咄嗟に上げた俺の両腕の上からでも仰け反るほどのストレートを御見舞された。


 滑りながら俺は、心底驚いた。

 

 「お前、人間か?」


 「っ? 人間だろ。

 ただ、少し普通の人間より強いだけだ」


 笑って奴はスーツのズボンについた埃をパパっと払い、両腕に重心があるかのようにノシノシ向かってくる。


 「世界に入るのは久方ぶりだ。

 認めてやる。お前は俺の闘い方を強者用にしなければ勝てない」


 コイツの言う"世界"ってのはなんだ?

 なんかの隠語なのか?

 それとも何か意図が?


 「仕方ない」


 俺は──ポケットから手を出した。

 付き合ってやろう。

 

 その闘争って奴に。







 "恭司、貴方になんの能力もないなんて"



 俺の家は特殊。

 物心付いた時の記憶しかねぇが、3歳くらいか?

 

 『恭司坊ちゃま。お背中お流ししますね』


 専属の女が何人も居た。

 それに、いつも男女関係なく本殿と呼ばれる中心にある屋敷からみて丁度全方向に一つずつ"モリビト"といういわゆる主君に仕える家が八家あるということを聞いた。


 俺はその本殿の直系の息子の一人らしい。

 モリビトを従え、日本を外国から守る為の組織なんだと。


 だからか、いつも母のような立場の人間が数人、ヒステリックに何かまくし立てて悪口言っては、男たちはそんな女を粗末に扱うのが当たり前のような光景が俺の日常だった。


 後に言われたが、俺は生まれ付き飲み込みが早く、読み書きも早かった。


 周りを見ても、同時期に生まれた奴らができない事を俺は出来ていた。


 しかも、今回の子達は黄金期などと言われていたのにも関わらずだ。


 そんな俺は、理由はわからないが期待されていた。


 草薙という家は特別で、生まれ付き特殊な力を備えて生まれ、様々な形で発現するらしい。


 風間という家では式神とやらを使う陰陽師という部類の人間が生まれる事でモリビトの役割を持っていると、聞いた。


 ただそんな俺は、特に能力を発現しなかったのだ。


 早い人間は4歳で。

 遅くても6歳までには何かしらの形で生まれるらしいのだが──俺は何もなかった。


 それはまぁ結構な言われようだった。

 だが、別に構わない。


 『ご、ごめん⋯⋯なさい!』


 覚えたての子供から舐められていた俺。

 だから、家訓の通り教えてやった。


 "弱肉強食"


 生々しく重たい音を立てて、俺は倒れている同い年の上で馬乗りになって顔面を殴り付ける。


 両親はその時教えてくれなかったが、俺はどうやら身体能力が常人ではないらしく、7歳にもなると身体が中学生くらいのデカさになっていた。


 そのお陰で、他との摩擦がなくなっていた。


 だが、どうやら本懐は違う。

 能力を使って祓うのが仕事だと言われていた。


 しかし俺は知らん。

 祓う能力もなければ、会ったこともない。

 

 だが不思議と式神なんかの特殊なモノを見ることができた。


 ⋯⋯血筋だと言われた。

 今までの仕返しかのように能力を覚えたガキ共が遊びだした。


 納得はいかないが、弱肉強食。

 家訓だ。


 そんな激動の1年。


 ⋯⋯7歳になる年。

 俺の人生に天機が訪れる。

 

 『な、何が?』


 本殿。

 そこに集められた数百の人間たちが海を割ったかのように左右に分かれ、頭を下げて震えている。


 その中に俺もいた。


 本殿の階段をコツコツと音を鳴らしながら現れたのは──肩まで伸びている白髪の男だった。


 本殿の人間には特徴がある。

 これは後に知ったことだが、"白髪"。

 それに加えて、あり得ないほどの精巧な造りの美形に産まれてくるそうだ。


 だが、あの男は違った。

 

 コツ、と。

 たった一歩。


 歩いているあの男を見上げながら、俺は遺伝子の祖かのように⋯⋯震え、興奮し、その顔を生涯忘れないほど刻まれた。


 『"この時代"では草薙というのか。

 とりあえず、お前たちの行いを正すため、ルールを作った』


 いきなり現れてはそんなことを言い出した。


 だが、その男の圧倒的なオーラに、最強と言われた当主ですらも戦う姿勢すら作らず、ただ従った。


 その天機。

 あの男と目があったのだ。


 吸い込まれそうな瞳。

 あの男は俺を指差して言った。


 『あの"ガキンチョ"を借りる』


 何故かは分からない。

 しかし、虐められていた自分としてはタイミングが良かった。


 『強くなりたい』


 『ん?もう強いじゃねぇのか?』


 意外にも、あの圧倒的なオーラを持っていた男の年齢は15だと言う。


 信じられなかった。

 身長は当主が2mなのに対し、あの男は優に超えていたからだ。


 近くで見れば、あまりに美しいその造形に最初は言葉が出なかった。


 その男は色々俺に教えてくれた。


 『お兄さんはなんでルールを作りに来たの?』


 『まぁ、色々あるんだがな。

 ざっくり言えばそうだな──2022年⋯⋯かな?この軸だと。


 この星は、ある種の終わりが来るんだ』


 ⋯⋯何を言ってるんだろう?

 最初は全く言ってることが理解できなかった。


 『予言?』


 『ん?あぁ、他の奴らには言ってないから内緒な』


 口に二本の指で手を当てて誰もが惚れてしまいそうな笑みを張り付け。


 『俺は15歳だが、俺は97年生まれだ』


 ⋯⋯ん?今は92年だ。

 計算がおかしい。


 『どういう事?』


 『んー⋯⋯なんつーかなぁ。

 ガキンチョに説明するのがむずいなぁ』


 煙草に火をつけて、艷やかでサラサラそうな髪をかく。

 

 でも、嘘を吐いているように見えなかった。


 『ボ、ボク分かんないけど、変な人だけど変な人ではないと思う!』


 すると男は笑った。


 『おう、ありがとよ』


 今思えば、誰かから頭を撫でられた経験などなかった。


 ある種の親代わりだったのかもしれねぇな。


 『聞いてみないとわかんない!』


 『そうか。まぁ、俺は色々あるんだけど、この世界とは違う世界線で生きてる人間っていうのが正解かな』


 『違う世界線?』


 『あぁ、今この世界がガキンチョが生きてる世界だろ?』


 『うん』


 『んで、俺がいる所はここの世界ではないところ。


 だけど、地球っていう枠というのは一緒の別の地球に居るんだ』


 『な、なんかわかる!』


 『年取ったらきっと分かる。

 ま、そんでよ?』


 それからその男の話をただ聞き続けた。

 それに男が言ったのはどれも信じ難いものだった。


 この草薙という名字は自分のところだと違う。


 あの男と俺はある種家族のようなもの。


 世界は違うが、この髪色で生まれているのがその証明だと。


 あの男は自分でその家を壊し、無かったことにした事。


 色々な話を聞いた。

 そして。


 『2022年、この世界に天災が起こる』


 『天災?』


 『俺らからしたら天災だが、俺を含め、神と俺で事に当たってる』


 『凄い!』


 『⋯⋯まぁな。

 塔ってのがあるんだけど、それは、世界を破滅に導くものだ。

 

 あれがこの星に来たら、数年もしない内に文明ごと滅ぶ』


 『そんなに怖いの?』


 『どっちもだな。

 良い事もある。だが、それを使った人間によって、一瞬で滅ぶ』


 最後まで男はそう言いながら何度も念押ししたのは。


 『俺はこの世界では存在しない存在。

 日本人だし、常識や言語も一緒だ。

 ただ、時間軸が違う。


 俺とガキンチョが血縁は恐らくほぼ一緒だろう。


 もしかしたら俺の子孫かもな』


 今思えば、とんでもない人間と関わっていたと思う。


 『じゃ、じゃあパパ?』


 『⋯⋯かもな。俺が父親なんて想像もつかねぇが』


 煙草を捨て。


 『ガキンチョ、強くなりたいだろ?』


 迷わず頷いた。

 この家で生き残る為に。


 あの男の説明は簡潔だったが、わからない事ばかりだった。


 どう記憶に残るかわからないが、その力の名前は"本能"というらしく、いわゆるスポーツで言うところのゾーンに近いモノ。


 本来の人間の力を限界まで引き上げた状態をあの男は保つ事ができるという化け物中の化け物だったことを後に知ったときは、震えが止まらなかった。

 

 俺はそれが出来るようになった時に世界が変わることから、本能という呼び方ではなく、世界という呼び方に変えた。


 そして。


 『中々上手くなったな』


 もう一つ。彼が俺に残したモノがある。

 

 


 




 「っ!?」


 奴を空中に投げ飛ばしながら呟く。


 「壊道──螺旋」


 腕から胴あたりの骨を投げながら壊す武術の一つ。


 "合気道"

 "テコンドー"

 "カポエイラ"

 "ボクシング"


 様々な戦い方を俺に教えてくれた。

 そして。


 ーーこれは、お前にだけしか教えない特別な技だ。


 空気が揺れる。

 奴が驚いた顔をして距離を詰めてくる。


 蹴りだ。

 だが。


 "※※流極真空手"


 「んっ?」


 深く沈み込んだ三戦の構え。

 奴の蹴りを構えだけで受け止める。


 そして──俺は左足を地面に勢い良く踏みつけ、左の肘を曲げて掌を上に向けた。


 蜘蛛の巣に広がる踏みしめた地面。


 全力。

 奴も傷こそはないが、何度も貰っている。

 俺の右腕は逝った。


 しかし、俺は分かってる。

 

 戦いの時何度も言い続けた。

 お前も俺と同じ質だろ?と。


 お前も誰かからこの世ならざる者から何かを得ているんだろう?と。


 

 ーー俺の名字は言えねぇけど、名前なら教えてやれる。 

 ーー向こうでは神城仁って名乗ってる。

 ーーだが、本名は創一って言うんだ。

 ーー世界がちげぇから問題ねぇだろ。



 ※※流極真空手──



 ーーじゃあ、俺、こっちの世界で誰かに届くように、名前変える!




















 正拳突き(王牙)──。

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