浅い
地鳴りの余韻に浸る。
具現化した魔力の剣を霧散させ、目の前に広がる光景を目に焼き付け。
「カイアス。お前の剣は、間違いなく一番だ」
そこには数キロにも及ぶ森を、屋敷を、山が真っ二つに割れた光景。
「な、何⋯⋯これ」
「ご、ご主人は人間なのよね?」
「あぁ。人間だ」
「こ、こんなの⋯⋯人とは呼べないわ」
「かもな。供養だ──亡き"剣の天才"への」
王者の剣。
猛獣の剣。
この世界がソレを記録できたとしたら、素晴らしいが。
「まだ割れた地鳴りの音が続くな」
さて。馬鹿共の御尊顔でも拝みに行くか。
そのまま静かに進み、森を抜ける。
道中俺の一撃で爆散した形跡があったが、素通り。
真っ直ぐ俺は一番豪華な屋敷の前に辿り着いた。
──すると。
「お前たちか」
見下ろすと、数百人の着物を着た人間たちが土下座というよりも全ての部位を地にぺたりとくっつけ俺を称えているようにも見える姿で待ち構えていた。
それはもはや土下座ではなく、平伏している姿だった。
「この度は申し訳ございませんでした。
神に抗うなど」
「謝罪のつもりか」
「如何ようにもしてください」
ふんっ。死ぬつもりもない奴ら共が。
通り過ぎ、頃合いの石の上に座る。
「それで、今回の件──どういうつもりだ?」
返答次第では地獄だが。
「伊月の単独でございます。
あやつには幼少の時に事情がありまして、悪魔や超常的存在に恨みがあります」
「⋯⋯なるほど」
「悪魔たちを使役しているわけではないのですか?」
「使役、契約はしていない。ただ、調教した」
「調教⋯⋯でありますか」
男が見上げる。
「ご主人だけだぞ!お前らなんかに従うわけないんだから!」
「そうだそうだー」
「まぁそんな訳だ。
俺は悪魔王でもなければ、別に普通の人間でもない」
「神人⋯⋯でありますか?」
「正確には違うのだろうが、近いだろうな」
平伏しながらも息遣いがどよめいている。
「お前らは俺を襲撃したのみならず、一般人の人間へと危害を加えた。よって、お前らを始末する必要がある」
「そうなりますと、他の家の人間も参加せざるを得なくなります」
一人の人間が苦し紛れに答える。
「俺が聞きたいのは、お前らの目的だ。
この国には裏の公的機関があるという事か?」
「⋯⋯まさに仰る通りです」
「昔から続いていたのか?」
「はい」
「ほぉ、俺の知らないところで面白いことが起こっているとはな」
裏の公的機関であれば、もっと俺が楽になるだろうな。
例えば、力を使って威圧する事も可能になる。
力の威力を知っている連中よりも強ければ。
「まさか日本にこれだけの力をお持ちになられている方は見たことがありません。
一体何ゆえ悪魔などを従えているのですか?」
「⋯⋯気分だ」
「はっ?き、気分で、ございますか?」
イタズラに魔王の首にリードを引いて遊んでた時期もあれば、エルフの長老と赤ちゃんごっこした事もあるやつだぞ。
悪魔くらい従えるのなんて当然だ。
「あぁ。この先多分俺は誰だろうと従えるぞ。
妖だろうと変な存在だろうと」
「祓うではなく?」
「⋯⋯あぁ。その方が面白いだろう?」
リーダーらしき男の目線を合わせて、俺は言う。
「く、狂ってる!!」
近くで聞いていた年若い人間が言い放った。
「ああ?」
「やめんか!!浹孔!」
「悪魔、その他の悪は祓うべきだ!
なんで祓わない!」
「お前は浅いな」
「な、何!?」
リビを抱き寄せ、顎を持って俺に向かす。
「そもそも。悪魔、天使、知らんが俺達人間如きの物差しで存在を測るなんて烏滸がましいとは思わないのか?
この世の全てに無駄なものなんて何一つない。
無駄だと考えているその人間が浅はかなのだ」
リビの足を撫でて、頬ずりする。
「見ろ。しっかり共存できれば、こんなにエロい女とイチャイチャ出来れば、性欲を満たせる。
どんな種であろうと、無駄なものなんてない。
河童だろうと、一反木綿だろうと。
使おうと思えばなんにだって使える。
考えが合わない。
害だと決めつけて排除する考えは、お前らが浅はかなだけだ。
こうと決め、円から出たものを排除するのは理解できるが、そうでなく──最初から排除するなんて⋯⋯頭が悪すぎる。
なぁ?リビ」
「⋯⋯っ、ええ」
「感じてるの笑う」
と、撫でるのを止め。
「さて。お前らは──死刑!何かお前らの中で死刑を免れる方法を思いついたら挙手しろ」
コイツらに明るい地獄というのを見せようではないか。
「いいぞ〜?女を寄越すのもあり!
男たちが人権を無くすので見逃して欲しい!
⋯⋯大いに結構!!
お前らの家を取り壊す、尊厳を無くす、なんでもいいぞ!」
さて──どうする?この人間達は。




