めちゃくちゃやべぇ奴と理解できてないやべぇ奴
そんな昔の事を思い出した俺は──同じ目、同じように虐められているはずなのに、殴られるであろう向きへ自然と顔を動かすアイツと重ねた。
興奮した。
また似たような奴を見たから。
そのままゆっくり近付いて、数人の下っ端に混じってその現場を頷きながら見物する。
「お前の母さんも!お前みたいなのが息子じゃ!恥ずかしくて外も出歩けねぇよな!?ははっ!」
「おい大樹⋯⋯やりすぎじゃ」
「そうだぜ? いくらなんでも歯が取れるって──」
「あぁ?何ビビってんだよ──え?」
ヤツが気づいた。
頷きながら一緒に混じってた俺に。
仕方ないか。
「よっ!」
「い、伊崎!?」
下っ端の肩に手を回して、隣に立つ。
「おぉ、新しい獲物を見つけたか?
次は?歯が折れてるだけじゃつまんねぇだろ?」
そう言うと少し空気が冷えた気がした。
「なんだ? オイオイ」
下っ端と一緒に両膝を折りたたみ、小声で言う。
「歯を折るんじゃなくて、もっとエグいのがあるだろう?」
「え、え?や、やばいって⋯⋯」
「何言ってんだよ。もうアイツの口元吐血の量やべぇじゃん? この際だ────眼球殴らねぇ?」
思わず俺を突き飛ばす下っ端の一人。
予想外だったのか、上擦った声で大声を出した。
「なっ、、何言ってんだ!!」
「なんだよ⋯⋯おもろいだろ。ッたく締まらねぇな」
結構向こうではウケたネタなんだけどな。
と立ち上がって俺は下っ端を掻き分け、近付く。
「おう、お前名前は」
「⋯⋯⋯⋯」
「おい無視すんなよ。名前は?あるだろ?」
「⋯⋯星」
「せい?おぉ、親御さん良い名前付けるじゃん」
これからキラキラ日本で輝く超新星なんだしね。
「助けてくれるの?別にいいよ」
断られるとは。
こりゃまた予想外だな。
「どうした?」
「そこの大樹ってリーダー格は親が建設で有名なんだって。
だから、やり返したところで別のやり方で報復をされるだけだよ。
君は強かったし、何か訳ありのようだから報復はないようだけど。君が標的じゃなくなったら次は僕さ。
良い両親って言ったけど、別に元々両親にも虐待は受けてたし、友達も⋯⋯一人も出来たことがない。
なんで生まれたか分からないし、生きる理由もない。
自分の存在意義が分からない。
せめてこの人達が殴りたいって言うんだから、もうなんでもいいやって。
──最初から最後まで何もないんだからいいかなって」
「よく分かってるじゃないか!
そう!世の中は弱肉強食! そう決まってる!」
後ろから笑いながら何か言ってるのは聞こえてくる。
だが、俺には関係なかった。
「⋯⋯何やってるの」
手を差し伸べる。
あの時と同じように。
「ないんだろ?生きる意味。生きる意味を与えてやる」
「なに、それ」
笑う星。
だが、何処かホッとしたような笑みを浮かべている。
「失うものがない。結構な事じゃないか」
俺は手を出して指を見せる。
「これは契約だ。お前に与えられるものはいくつかあるが、ざっと2つだ。
一つは金だ。お前が望めば一生分の金をやる。
2つ目は権力だ。俺はお前が想像しているよりも遥かに高いところから見下ろしている存在だ。お前が何かしても、何回かは助けてやれる。
これを以て──お前は寿命の最後まで俺の歩兵となって戦うなら、今からこの権利は行使される。
⋯⋯どうだ?悪くないだろう?」
目が点になった星は一瞬固まったが、どうでも良さそうに頷いた。
「今よりは良くなるんだよね?」
微かな笑みと共に発した言葉に色々な意味が込められている、俺はそう思った。
アイツもそうだったのだから。
「あぁ。楽しい人生を歩めるだろう」
「うん、じゃあ⋯⋯ついて行く」
「決まりだな」
そうだ。折角だし。
「おい」
振り返り、下っ端だけ帰らせようと声をかける。
「コイツ以外は帰っていいぞ?」
「な、なんだよ!何するつもりだ!?」
「ん?別に居てもいいが」
言い──。
普段出さない拳を、大樹とかいう奴にぶつける。
ーードゴッッ!!
「ぅぐっ⋯⋯!!ぅぅ!」
反応速度が違う俺とコイツらでは、喧嘩にすらならない。
両膝をついたコイツの髪を掴んで顎を上げる。
そして、一発。
「ンィギッ!!」
鈍い音が鳴る。
「そういえば、俺もお前の意見に賛成だ」
鈍い音が淡々と聞こえる中で、俺はそう言葉を投げつける。
血が飛び散るその様を見た下っ端も、動けずにただ震えている。
「弱肉強食。良い響きだ。生物はそうだろうな」
「やめっ──」
ーードゴッッ!
「お前みたいなのを日常的に見てきたこの俺だが、いつも聞いてみたかったことがある」
「ッキ、ヒューッ、ヒューッ」
「お前──やられている側の意見を聞いたことがないのに、止めろなんてよく言えたな」
歯は砕け、鼻も潰れている。
呼吸すらままならないこの少年に、俺は話し続ける。
「権力でどうにでもなるし、示談でどうにでもなると言ったな? 全く以てその通りだ。
この世界ではそうだ。金を持っている奴が全てであり、権力を手にしていると言える」
「ヒュー、ヒュー」
「だから聞きたい。お前が虐めている理由がなかったように──俺もお前を殴っている理由はない」
血で染まっている顔の上からそう淡々とした俺が言い放つと、焦点があっていない。
「何をしてもいいんだ。そうだろう?
昔一人の人間の眼球抉った事があるんだが、以外とポヨンポヨン跳ねるんだなこれが。
結構ピクピクしていい反応だったんだ。
お前も一回味わって見る──」
掴んでいる身体がこれでもかというほど震え、痙攣し始める。
「うわっ、お前漏らすなよ⋯⋯汚いな」
「ゥゥァゥゥッッ!ううううう!!」
「おぉ。お前も人間だったんだな。俺とは精神が違かったみたいだ。ちゃんと人らしかったようだ」
嗤いながら周囲を見つめる。
楽しい。
遠慮なく虐められる存在というのはなんて楽しいんだ。
「俺が拳を出すのは──」
本業と。
力を込め、コイツに叩きつける。
「人を甚振る時だけなんだよォ!っははははは!!」
その後、しっかり四肢の骨をしっかりと折り、俺は星を連れて車へと向かった。
んー、とりあえずアイツどうしようかな?
後でお母さんの方を使おうかな?




