帰省
木村さんとのやり取りから3日が経ったある日、俺はブランド物を結構な数購入し、家に向かっていた。
『あらそーくん?』
「母さん?」
『もーっ! 最近全然帰って来てくれないじゃない!
みんな待ってるわよ』
そう言われ、窓の外を見ながら少し間があく。
そうか。
こういう発言を貰うたびに、どっか身体が暖かくなる気がする。
「今日は帰るよ。南と拳哉は学校だよね?」
『あら、そうじゃない!そーくん学校は!?』
「一週間くらい休みを取ったから、問題ない」
『ええっ!? 連絡来てないんだけど!?』
いかん、余計だったかもしれん。
「ま、まぁこれから軽く寄るよ。すぐに戻るけどね」
『あぁそう? これからもっと帰ってくるのよ?』
「う、うん」
⋯⋯だなぁ。
ちょくちょく帰らないとな。
*
それから家に到着した。
前はタダ同然のボロ屋だったが、今じゃ練馬区で23万円だったかな?の分譲マンションだ。
ローンなどは全て支払い済みなので、実質掛かるのはほぼない。
というか、支払いもカードから払ってくれと伝えているから、ほぼ自分達の食費くらいしか掛かっていないはずだ。
入ると壮大なお迎えがあったが、やっぱり慣れない。
前はいつ帰っても一人だったし、分かりやすいので言うとホムンクルスなどの魔導生物しか居なかったので、凄く新鮮だ。
「いいって言ったのに」
母さんは料理を作ってくれていたみたいで、最初の時みたいに作る食材に怪しさを感じたが、今ではしっかりスーパーで買ったものになっていたのでホッとした。
「ママ特製の元気鍋よ!」
これ一人分の量じゃないな。
まぁ食べるか。
「ふん♪ふん♪」
食べ始めて顔を上げると、母は両肘をついてご満悦である。
「どうしたの?」
「んんー? そーちゃんがいると家が明るくなるからねぇ」
「そんなことないでしょ。拳哉もいるじゃん」
「そーくんがいればもっと明るくなるでしょ?」
そう言われ、少し黙ってしまう。
なるほど、家族か⋯⋯。
まだ帰ってきてそんな経ってないんだよなぁ、そういえば。
それからというもの、色々話を聞いた。
父が働くところで仕事が何やら増えだして収入が上がりそうな事。
南が将来パティシエに本格的になりたいという方向が定まった事。
拳哉は毎日笑顔で遊べるようになった事。
──要約するとざっとこんな感じだ。
話は逸れたりもしたのだが、大体大きい話題はこの辺りだ。
「そーくんは高校どうするの? 今の内から決めておいた方がいいんじゃない?」
確かになぁ。
ていうか下手したら決まってないとまずいよな。
と、思った俺だが。
あっ、てか学力とか要らなくね?
「一応伝手があるから、そこに聞いてみるよ」
「あら、この間来てくださった会長さん?」
「あー、そっちもあるし、色々あるんだよね」
権力さえあればそういうのはどうにでもなる。
「本当⋯⋯うちのそーくんは凄い人ばかり周りにいるのねぇ」
「いや?」
全部、家族とやらがあってこそだ。
「感謝してるよ」
「もうっ! そんな顔しないの!」
年一で会うお婆ちゃんに会った時のような暖かい顔をしている。
本来はこんなに明るく自然に笑える人だったんだなぁって。
「そーくんのおかげでねぇ〜、こんな大きいテレビでお掃除しながら観れるのよぉ!」
と、テレビを点けた時。
『業界に激震が走る!』
『あの白波水産から挑戦状!?』
「あら、そーくんの所じゃない?」
さすが仕事人。
CMをたった数日で用意するなんて。
画面にはインタビュー形式でモザイクが掛かった人が受け答えをしている。
『いやぁ〜! これ食べたらもう普通の刺身なんて食えたもんじゃないっすよ!』
『一切れで良いから一生に一回は食べたいですねー!』
『いやー生きてみるもんですわぁ!』
「あらあら、何のCMかしら」
『白波水産から皆さんへ挑戦状です!』
シーンは変わり、今流行りのイケメン俳優が出てくる。
『もしご注文して頂いてマズイ!
⋯⋯そう思った方には、全額返金対応いたします!』
『いやぁ〜僕も頂いていいですか?』
と口に放り込むと、喉が嬉しそうに咳き込んでいる。
『なぁっ、こっれは確実にリピーターが出ますよ!
ちなみに、僕はもう予約しました!
ここぞとばかりに!』
爽やかスマイルを向け、そのまま締めくくる。
『今話題の小山丈さん絶賛!
白波水産からの挑戦状──奇跡のサバ!ご注文受付開始!』
終わるとポカンとする母。
「サバ⋯⋯? サバってそんなに美味しいのかしら?」
「うん、美味いよ」
そう言ってやると、興味津々の母がこちらを向く。
「あらそーくん食べた事あるの?サバのお刺身」
「うん。ていうか──」
足元にある紙袋の一つを取り上げて、机に置く。
「俺発案の商品だしね」
「、、、え?」
よーし!!固まったぞ!! 見たか!
「はい、これ」
袋から2キロ分のサバを取り出してみせる。
「ほら、白波の刺身。こっちが一尾丸々2キロするやつで、こっちが脂たっぷりの刺身。食べたら母さん──」
「凄いじゃない!! そーくんが発案したの?」
「えっ?うん」
「うわぁ!なら早く夕御飯用に用意しないと! そーくんは天才ね!」
⋯⋯なんか思ったのとちゃう。
俺よりもテンションが高すぎるんだけども。
「ほら、とりあえず母さんが食べてくれてないと」
「あらぁそうね!」
「それにほら」
他にも、数々の高級ブランドの紙袋を母に手渡す。
「そーくん、本当に大丈夫?」
心配そうに見つめる母。
「大丈夫大丈夫!」
これから、何使っても問題ないくらい金なんて増やせるから。
「そんな顔してないで、ほら──一緒に昼ドラ見ようよ」
「あら、そーくんも見たいの?」
「うん。結構気になってたんだ」
それから夕方近くまで滞在し、名残惜しいが秘密基地に戻る。
⋯⋯これからもちょいちょい戻るとするか。
ただの口実だったけど、案外悪くない。




