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自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
国内無双編

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31/221

なぁ? 俺ってさ?唯一の法則だったよな?

 ⋯⋯なぁ。


 「わーい! 今日はごちそーだー!」


 ビキビキと今、俺の額には血管が浮き上がっている事だろう。


 「おい鈴! そっちの部屋に行くな!」


 ドタバタ俺の作業中に目の前で走り回る二人のガキ。

 

 「伊崎さーん。カレーまだですか?」


 ビキビキビキビキビキビキと。

 何かがブチブチ切れそう。


 殺すぞ、コイツら。


 「石田、やめないか。

 大将は今一生懸命何かやってるんだ。

 カレーの催促など──俺達は警護しているんだぞ?」

 

 そうだな。

 冷静な目線だ、銀。


 でもな? 

 今駆け回ってるガキ二人──お前んとこの兄弟なんだわ。


 「ねぇ! お兄ちゃん、何やってるの?」

 「何やってるの?」

 

 ⋯⋯俺ってさ。

 法則なんだよね?

 王族達が頭を下げる存在なの。


 おもてなしで高級娼婦がこぞってくるのね?

 

 そうだよ。

 ただの面会でね?


 なのになんだこれ。

 なんでこんな猫みたいに俺の背中によじ登って⋯⋯。


 「おい、降りろ」


 「いやっ! 降りない!」

 「ここ私のとくとーせき!」


 終いには半ば強引な肩車である。


 ブチッと音が聞こえるのだが、我慢だ。

 相手はガキだな?

 そうだな?

 

 どう考えてもまだ小学生のガキだ。

 我慢しろ、法則。


 どうにかしろ、銀。

 視線を送るのだが。


 返答はふいっと視線を逸らされる始末である。

 

 ⋯⋯オメェの兄弟だろうがよ。おい、てめぇコラァ。

 

 「なにやってるの?」

 「なにやってるの!」


 「あァ? 株見てんだよ」


 「かぶー? おいしいの?」


 覗き込んでくるから仕方ねぇか。


 「ウマかねぇよ。そうだな。

 あそこにいる銀譲お兄ちゃんみたいに頑張らなくてもいいようにお金を稼げる方法だよー」 

 

 「「ごほっ!!ごほっ!」」


 お茶を飲んでいた銀と石田が同時に噴く。

 

 「そ、そんなのあんまりですよ!」

 

 「あァ!?」


 「⋯⋯やべ、伊崎さんの怒りが」


 シューンみたいな効果音の如く、石田はパパッと姿を消した。


 それでいい。余計な奴は今いらん!!


 「だから大将を選んだ。鈴と大地が困らない選択をさせるには」


 「プライドはないのかねぇ」


 「⋯⋯無い。兄弟を食わせないといけないから」


 ま、気持ちはわかりますっと。


 「ほら、見ろ」


 「んー?」


 「なんか色々書いてあるだろ?

 お金さえあれば、こういうのをやっていけばそこそこいっぱいご飯が食べられるようになるぞ」


 「ほんと? お兄ちゃんが頑張らなくてもいいの?」


 そう言って俺を見る目は、どこまでも純粋。

 子供はこういう所があるからな。


 「まぁな。ただ、勉強が出来ないとな」

 

 「勉強いやー!」


 「まぁそれは仕方ない」


 俺も過去では定時制しか結局行ってないしな。

 ただ、簿記とかは取ってたからまぁそこそこ?


 あんま覚えてないや。

 ただ、頭は言うてだった気がする。


 ごめん。頭が良い人。


 「ま、こんなところでいっか」


 まだ乗っかってるな。


 「ほら、カレー作ってやるから、降りろ」


 「「え!?やったー!!」」


 




 きっかけは銀の一言だった。


 『すまん。一週間分の飯を作ってやらなければならない』


 いや知らんがな。

 とは思ったが、警護の都合上帰れないと言いたいのを理解するのに2秒掛かった。


 どうせここに来る人間などほぼいない。


 聞けば銀のご両親は中々のモノらしい。

 放っておくと碌なことにならないそうだ。


 と、いうわけで、ウチに連れてくることで、警護と兄弟に飯を食わせるという理由を作れたのはいい。


 しかしだな。


 兄弟は当たり前だが俺が誰かを知らない。


 "無邪気"である。

 まぁ当たり前だが。


 なので逆に俺が困った事になった。

 石田がカレーカレー言うもんだから感化されてるし。


 はぁ。カレー作ろ。


 「おい、銀。エイノとハーレンシアは何処にある?」


 「⋯⋯⋯⋯?なんだって大将?」


 しまった。つい向こうの癖が。


 「野菜の皮剥きをやるから野菜を持ってきてくれ」


 「了解した」


 まぁ、カレー作りなんて大したことではない。

 ただ、気になってる人間も多い事だから、一応説明する。


 皮を剥いて、材料を切る。

 炒めて、煮る。

 カレーのルーを最後に入れて、コトコト出来上がるのを待つ。


 ツッコミは分かってる。


 普通のカレーやないか。


 仰る通り。

 まぁここまでが至って普通のカレーだろう。

 実際、作成手順としてはここまでは一緒。

 

 じゃあ何が違うのか?


 「うわー美味しそうー」

 「カレーだー!」


 「ほら、離れてろ」


 ガキ二人をどかし、俺は鍋に手を"翳す"。


 誰もゲームのようなエフェクトは見えないだろうが、俺には見えてる。


 漂う生気と自身の魔力の流れが。

 俺の世界の錬金術師は⋯⋯というか、俺と師匠はだが、万物を弄れると言ったほうがいいのかな。


 魔力の流れを操作したり、成分を変えたりする事ができる。


 そのレベルが他と違いすぎる。


 それが──俺と師匠が錬金術師として最強という単語を冠している理由だ。


 特に、俺は水に関しては最強と言われる師匠よりも上である。


 エリクサーも、元を辿っていけば血液の成分を弄るのが取り掛かる最初のことだから。


 翳して数秒。

 俺はそれを終えると、あとは配膳を任せようと銀達のいる方へ向くと。


 

 ーーヴヴ!

 


 携帯を見ると、そこには知らない番号。


 「はい、もしもし」


 『初めまして──と言ったほうがいいかな?

 それとも、死神と呼べばいいですかな?

 または天使様と呼べば?』


 まぁ色々あったから仕方なかったが、意外と時間が掛かったな。


 「ただの人間ですよ。

 もうじき高校受験を控える──ね?」


 『ハハハハ!謙遜するとは面白い御仁ですな!

 ではその御仁と会うためにはいつ頃がいいですかな?』


 「こちらは夏休みですからね。

 時間さえ仰っていただければ」


 『ではすぐ車で出発するとしましょう。

 場所を教えていただいても?』


 住所を教え、軽く雑談してすぐに電話は終わる。

 直接会うんだから会話はこれ以上必要ない。



 と振り返ると。

 既に俺を放置してカレーを食べる強面数十人と、純粋に食べる子供たちが視界には映った。


 ⋯⋯頼むから無言でカレーを食うのだけは勘弁してくれ。


 そんで、上下関係があるお前らは、俺を差し置いてかっこむな。


 殺すぞ。

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