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「だから結婚は君としただろう?」  作者: イチイ アキラ


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35 その愛情は何の色をしているか。4

 ロレインはサシェット男爵家に産まれた。上には三つ年上の兄セドリックがいた。


 そしてこの度、また三つ離れて――妹が。


 産まれた妹は美しい、まるで蜂蜜をそのまま糸にしたかのような輝く黄金の髪をしていた。


 誰もがマリエッタと名付けられた妹を、赤児のうちから美しいと――。


「妹の方が将来美人になるからっていじめちゃだめだぞぉ」

「お前の色はきれいじゃないからって嫉妬するなよ?」

「せっかくかわいく産まれた妹なんだからかわいがってやれよな。かわいくない姉が助けてやるのは当たり前だからな」


 ある日。そんなことをいう親戚がいた。

 酔っぱらっていたのか、そんなことを。笑いながら、言ったのだ。

 彼らは善意で言ったのか、酒の席だからふざけたのか。



 そんなことを言ってはならないと、奥方や女性たちに責められると……記憶にないと、さらにふざけた事を言った。


 ロレインもまだ幼いからわからないだろう。言われてもきょとんとしていた彼女に、そんな風に大人たちは自分たちで完結してしまった。


 けれども、ロレインは賢かった。


「だからみんな、マリエッタをだいじに、するのね……わたしより」


 もしも彼女が賢くなければ。いや、まだ幼さ故の賢さだったのが。

 その時、赤ちゃんを構うのは仕方ないこと。赤ちゃんは誰かが側にいて、構ってやるのが当たり前なのだと――伝えていたら。


 あなたをかわいくないなどと、そんなことを誰も思ってやしないと――伝えることができたら。あんな大人たちの言うことなど、気にしてはならないと。


 ロレインはあまりにも――賢すぎた。


 いわゆる天才というやつであった。

 後に、自分の宿題の片手間に妹の宿題すらこなすのは簡単なほどに。

 だから赤ちゃんの世話で忙しいとき、ロレインはおとなしく、そして面倒を起こさないで良い子だと――褒めてしまった。


 それがロレイン()の始まりとなった。


 ロレインがマリエッタを「かわいい」と言って、その涎をふいて世話を手伝ったときに。


「ロレインはマリエッタをかわいがってあげるなんて。なんて良い子、良いお姉さんなんでしょう!」


 母だった。

 母としては、ロレインも大切に。だから良いことをしてくれたときに褒めた。そんな母として当然のことをしただけだった。


 けれども、ロレインの内にそれは茨のように絡みついた。先に大人たちに言われていた棘が育ったのだ。


 ――それはまるで呪い。


 マリエッタが産まれたことにより、ロレインがちやほやとされる「妹」という時代は終わった。

 それは彼女の兄のセドリックも同じように通った道なのだけれど。セドリックだってロレインが産まれたことにより、一人っ子でちやほやされたのから、「妹」が出来て護る側になったのだから。けれども彼は嫡男だから、家を継ぐものとしてより大切にもされていたから……。

 彼はロレインもマリエッタもどちらもかわいい妹であると。確かに赤ちゃんなために今はマリエッタに皆がかかりきりだから、その分、ロレインの面倒を見ようと――「お兄さんになるのだからお願いね」と母に頼まれたから。

 気負っていた分、ロレインが賢くて手がかからなくて気が抜けて。やがて彼はマリエッタを必要以上にかわいがるロレインに苦笑するほどに。

「うちの上の妹は、下の妹を甘やかしすぎる」

 そんな風に、友人たちにこぼすほど。


 だから、誰もがロレインがマリエッタに見合いを譲っても苦笑して呆れてしまうくらいで。


 ……まさか。

 ロレインにそんな棘が絡みついているとは、誰もが――気がつければ、まるで呪いであると対処もしただろうに。


 徐々に明るみになったのは。

 彼らが育ち、それぞれに家庭をもち、マリエッタの子のリリアラのやらかしで。


「妹だから譲られて当然」


 マリエッタが、まさか。そんな考えでいただなんて。母となって、親になったというのに。


 リリアラの――プリシラの結婚式だとばかり思って参加したサシェット男爵家の皆は、混乱とともに血の気が失せた。

 ロレイン以外。

 母は倒れ、それを支えて父も倒れる寸前。

 セドリックはロレインが、リリアラとマリエッタがプリシラにした――いや、している酷い仕打ちを認めて支持しているような態度なのが……――。


 そうだ。

 このロレインこそが「妹」を第一にしていた。

 それが、こんなにも――歪であっただなんて。


 サシェット男爵家は、ようやく自分たちの家族の歪を思い知った。


 セドリックは、方々に頭を下げた。プリシラや、リリアラにより婚約破棄になったペギュー家や――フェアスト公爵家に。公爵家にまで迷惑をかけて、平然としているマリエッタとその夫のクライスがわからなかった。

 男爵家に過ぎない自分には、本当に理解の外だ。身分違いすぎて。恐ろしすぎて。


 そうしてそれから三年。

 フェアスト公爵家のご子息様は離縁なされた。アンドリューは一日も延ばすことなく、きっちり三年で。

 それにより代替わりがあり、クライスとマリエッタは領地に送られたと、ホンス家の先の奥方であるジョアンナから、温情で知らせられた。

 彼女にはまた迷惑をかけた。彼女が復帰することになり。ホンス家を引き継ぐ子が育つまで、本当に大変だろう。

 まさかマリエッタの成績にもロレインが関わっていただなんて。不正があったことすら、自分たちは気がついていなかった間抜けさ。

 マリエッタがかわいいだけで何もできない娘であったから――何もできない娘と育ってしまったから。


 ロレインが、自分たちが、そう育ててしまったから。


 だから――サシェット家は、マリエッタを受け入れなかった。ホンス家の領地から逃げるように、クライスから別れたマリエッタを。

 はじめは引き取るつもりであった、それが自分たちの責任かと。引き取り、領地の隅で養おうかと。

 けれどもエルブライト大公家からの指図もあり。


 どうせならロレインにまたまかせたらいいだろう、と。

 サシェット男爵家の皆は、従うしか無かった。

 自分たちの償いは、また何か別の形でさせてもらおうと。



 それがマリエッタの、そしてロレインの罰になるのなら。


 

 

 物語のキャラクターには別方向からみたら、また理由があるのでは、と。それは現実の人間のように。

 こうした親戚なおかげで心に棘が刺さる、辛いことです…いませんか?あなたの周りにもこうした人間。

 親戚でなくても。

 己がならないように、気をつけて生きたいと…

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