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「だから結婚は君としただろう?」  作者: イチイ アキラ


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33 その愛情は何の色をしているか。2


 マグナルには五つ年の離れた妹のアイリスがいる。

 先日、嫁げたことにほっとしたばかり。何せ一度、婚約を白紙にされたことがあるのだ。

 それから数年後。

 産まれた我が子たちが六つになる頃。物事を理解できるようになった双子たちが。

 祖母に対して――気持ち悪いと。


 だから母が叔母()がかわいそうと言って涙を拭いながらマグナルに相談してきたときに。


 何がかわいそうだと……――。





 ――ホンス家の醜聞のとばっちり。


 自分たちの従姉妹のやらかしのせいで。

 おかげでシュンカール家もあの家の親戚だと、それとなく距離をとられた家や関係もある。


 ホンス家の醜聞。

 実の妹が姉の婚約者を寝盗ったのだという。



 ホンス家はシュンカール家より格上の伯爵家。しかも伯爵位でもかなり格上のソーン家や、シーズリー侯爵家の後見があり――フェアスト公爵家とも親しくしているという。

 母親が姉妹という親戚ではあるが、立場が違うことを、シュンカール子爵家は良く理解していた。

 それが幸いしていたのだろう。

 領地が離れているという物理的な関係もあり、マグナルは幼い頃は学園に通うまで、従姉妹たちには片の手の指で数えられるほどしか会ったことがなかった。

 同い年のプリシラとは学園の同級生ではあるが、互いに従姉弟同士という顔だけ知っている……会えば挨拶をする、そんな程よい距離と関係だった。

 実は優秀生だったマグナルが学園の交換留学生制度を使い、隣国に留学していたから、同時に通った期間は一年もなかったのもある。


 本当に良くある、従姉弟の程よい関係だった。


 母がかつて溺愛していた妹の子であっても、物理的な距離が――関わりを薄くしてくれて。


 だから。

 あの混迷した騒動にても、シュンカール家はフェアスト公爵家や――エルブライト大公家にも、何にもされなかった。

 そう、なんと従姉妹の片方、プリシラはエルブライト大公の養子になって、跡取りとなって……と、何だか話を聞くだけで大変なことになった。


 先頃あった祝賀会で会ったときに挨拶をしたが。

 親戚として呼ばれたリリアラの結婚式ぶりに会ったのだけど。


 そう、あの時に。

 哀しげに俯いて、理解していない親の代わりに頭を下げていたプリシラに。


 言い訳になってしまうが。マグナルはホンス家の姉妹が、たかが髪色のせいで愛情の差をつけられていることを本当に知らなかった。もう少し学園に通う期間が重なっていたら、従姉弟として親しくなっていたら、相談もしてもらえただろうか。

 あの結婚式で、本当に「何で?」と花嫁の交換に驚いていた。

 今現在こそ、親戚なのだから気がついてやるべきだったと後悔するが。


 ――数年後に、まさに。心底から。


 その後のプリシラの――アンドリューとプリシラのやっと正しき結婚式のときは、まさに双子が産まれる臨月で、妻を置いてはいけないと招待状にこちらから参加をご容赦願った。診断時から双子と解っていたため、本当に大変な時期で。

 本来ならば、エルブライト大公家との御縁ができると喜んで参加したがるものが多い中。王家からも参加者の方がいると――ホンス家の三人以外が招待されたのに。

 けれども、リリアラのやらかしの後でもそのまま結婚してくれた妻を大切にしているマグナルを。プリシラとアンドリューは逆に好印象をもった。在学中はプリシラの従姉弟で留学生に選ばれるほどの優等生であった、と薄い記憶程度の存在から――まともな親戚がまだ一人いた、と。


「マグナルにも迷惑かけてしまったかしら?」

「いや、まぁ、うちは少し……正直、何がなんだかわかんないうちに、始まって終わった感じだよ」

「そう……よねぇ。私も、当事者じゃなければ、そうなっていたんでしょうね」

 さすがに一時流行りの話題になり、マグナルも従姉妹のリリアラのしでかしと、プリシラの関係を知った。

 はじまりの結婚式も本当はプリシラの結婚式に参加するつもりでいたら、直前に妹に変更となって混乱した側だ。

「従姉弟だというのに、知らなくて申し訳なかったね……」

 プリシラの立場や状況を。

 しかし、付き合いの薄い従兄弟ならばそのくらいなものだと、プリシラも理解していて。

「いいえ……少し、ということは、やっぱり迷惑をかけたのでしょう?」

 やはりプリシラは聡いなとマグナルは感心する。そんな彼女を手放さなかったアンドリューにも。

「……まぁ、アイリスの嫁ぎ先に断られたくらいだよ」

「まぁ……」

 プリシラもそれがマグナルの妹で、自分の年下の従姉妹だと知っていた。

 リリアラよりも年下の彼女は、そのリリアラのやらかしによって――ホンス家の関係者は避けたいと、婚約を白紙にされていた。


 そんな問題児がいる家と、縁続きにはなりたくはない、と。


 思った以上の大変な迷惑をかけたのだと知ったプリシラの顔色が悪くなったが、続けられたことにほっとため息をついた。


「いや、そのかわりに学園でアイリス自身をきちんと見て知ってくれていた、もっと格上の家から婚約話が来たから」


 アイリスの婚約が白紙になったことを知った侯爵家の三男が、妹を以前から好いていたと頭を下げに来た。

 三男で継げるものは何もないが、騎士としてすでに進路を決めていた彼に、マグナルは好感をもった。妹も告白に喜んでいるようだし。

 結果は、妹を大事にしてくれそうな相手が現れたことで、シュンカール家にとっては良い結果になった。


 ――白紙になった相手とは、今後は御縁もないだろう。


 侯爵家は醜聞のある家と縁続きになることも理解した上で、ご子息の見る目を優先してくださった。

 その侯爵家の名前を聞いて、プリシラは頷いた。

 エルブライト大公家夫人となるプリシラが覚えてくれるなら、妹の婚約はもう大丈夫だ。

 むしろエルブライト大公家との縁が切れたと、はじめの婚約者の家こそが逃した魚に悔しがるだろう。


 そして妻のエリカは、変わらずにマグナルや産まれた双子を愛してくれた。

 エリカの実家も、留学先からもせっせと手紙を出し続けたマグナルの人となりを信頼してくれたのだし。


 ……だからあの後の自分の結婚式で、急遽参加者が少なくなったことは――彼女も被害者だからプリシラには黙っておくことにしたマグナルだ。妻には本当に申し訳ないし、感謝している。


「双子ちゃんは、お元気?」

 プリシラはマグナルに娘が産まれたときに祝いをくれていた。

 同級生だったときよりも今は、付き合いもある。それはこうした祝いごとや冠婚葬祭くらいな、でもあるが。

 従兄弟ならばそれくらいの距離が良いところに。

 むしろ今日の祝賀会から、子育て話から、二人はアンドリューを含め同級生としても付き合いが多くなり。

 シュンカール家の領地はホンス家や母の実家のサシェット男爵家より、エルブライト大公家の領地に近かったという偶然の、また物理的な関係もあったのたけど。


 ――数年後、本当にその付き合いで良かったと思ったマグナルは、母親に告げた。容赦なく。


「実は都見物させようかと連れてきたんだけど、長旅で少し体調を崩していて。妻がみてくれているけど、僕も早めに挨拶をして帰らせてもらおうかと」

「まぁ、大変」

「片方が風邪を引くと、治ったころにもう片方が引くんだ」

「本当に大変だわ」

「でも、病気一つもない方が逆に心配なんだそうだよ。幼いうちに免疫をつけないと……妻の受け売りだけど」

 子育ての先輩の話はありがたいと、しばらくはそんな子育て談議でプリシラとマグナルだけでなく、周りからも参加されて話は弾んで。


 プリシラも産まれるまで悪阻で苦しかったが、産まれた今はすっかり体調を取り戻していた。

 だからこうして祝賀会などの催しに参加できるようになっていて。


 プリシラが本来するはずだった結婚式のあと――リリアラのあとに、マグナルも結婚していた。

 甥の結婚式だと、そのときだけはさすがにアンドリューも外出を許し、マリエッタも招待されてきていた。

 その頃はまさか三年後に娘が離縁されるとは思いもしていなかった彼女は、愛娘の結婚生活が、思っていたよりあまり楽しくないことをロレインに愚痴っていた。そんなマリエッタをロレインは相変わらず可愛がり。


 ――故に。


 大事な我が子たちを護るため。

 マグナルは母を――……。


 

 そら親類縁者に飛び火してないはずがなかったよね、という…。

 でも、災い転じて、も…ないと辛いだけですから、ね。


 わかりにくいかもです故。

 マグナルは始まりのアンドリューとリリアラの結婚式の数カ月後に、彼もまた結婚していて。(本当はプリシラの結婚式の後のはずだったから災難とばっちり…)

 そして双子はその後、アンドリューがプリシラと結婚式をようやくできた時に産まれていて。

 リリアラがぼっきり折れたこのときは二歳と少し…てところでした。

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