27 幼き日の黄金の。(幕間――救いの巡る。
ネイズ子爵を受けたジャクリーンの兄には女の子がひとり。名をアデルと。
そのかわいい姪のアデルがかつての自分のように、子に恵まれずに苦しんでいることをジャクリーンも気にしていた。
けれども姪たちは養子を迎えることになった。子がいなかったことで心労が溜まり、塞ぎがちであった姪は。引き取った、器量も性格も良く、心根優しいその養い子に救われて。
引き取った子の亜麻色の髪は夫と揃いで顔立ちも似て。偶然だが瞳の色は姪のアデルと同じ明るい緑色。
並ぶと本当の親子のようで。誰にもわざわざと「養子」だとは尋ねられず、アデルの気鬱もなくなった。
――その子には、本来は不幸なことではあったが。
その女の子――シャーリーは、本来ならば婿入りしてくれた姪の夫レナードの、その姉の子であった。顔立ちが似ているのもそれが理由だ。
けれども病で姉は早世し……その夫であるシャーリーの父親は、長く愛人であった女とその子どもを――シャーリーに年の近い腹違いの弟妹をも――喪が明けるなり家に招き入れたという。
そしてシャーリーが後妻たちに虐げられ――口にしたくない目に遭っていたところを、我慢できないと救い出したのはアデルの夫で、系譜的には叔父になるレナードだ。
生家の子爵家は虐げていた娘が裕福な子爵家の娘になり――幸せになることに難癖をつけて、あげく「誘拐」などと国に訴えたが。
シャーリー自身が実の父親ではなく、叔父に助けてと縋り付くその姿を見ながら。
結果はもちろん。シャーリーがネイズ家の養子となることは許された。
お国とてきちんとお調べを。
……そうして――。
ネイズ子爵家にはシーズリー侯爵家の後押しがあることをその子爵は知らなかった。
男爵家出身の妻の弟の一人が子爵家に婿入りしたとは聞いていても、同じ子爵家と、その横の繋がりを侮って。
その行く末はまた別の話。
そうしてシャーリーは無事にとは行かなかったが、ネイズ家の養子となった。
引き取らねばシャーリーは命の危険すらあり。
そしてアデルもそろそろ心が壊れる寸前で。
それは何て不幸の上に立つ関係だろうか。
けれども余人があれこれは無粋。彼女らは互いに……救われたと。互いに命の恩人だ。
その気持ちは尊ぶべきものであろう。
……けれども。一つ、問題が。
ネイズ家の跡取りは――アデルだ。
夫のレナードは婿入りであり、本当の娘のように思っていたとしてもシャーリーには継ぐ資格がない。
シャーリーはいずれ良いとこに嫁がせ、自分たちの代で子爵位をシーズリー侯爵家に戻そう。
そう考えはするが、不幸であったシャーリーを手元から離すことは不安であり、気鬱であったアデルがまたぶり返すかもしれなかった。
当のシーズリー侯爵家も。
侯爵家を継いだ兄には跡取りの男児が一人産まれたが、その子もまた年頃になり結婚し、ようやく授かったのはまた一人っ子――子爵位や領地を戻されても管理が大変。
それ故に。
一族での話し合いで。
ホンス家の次男であるオリバーに――シーズリー侯爵家の血を引く彼に、ネイズ子爵家に婿入りという形で、その子爵位を継いでもらえないかと、なったのだ。
ホンス家のような小さな領の補佐として一生を終えるより、侯爵家の後押しもある子爵家を継ぐことの方が、オリバーのためにもなるだろう。これから子爵家を継ぐために勉強は増えることは覚悟してもらうことになるが。
幸いにして。
ネイズ子爵家に引き取られたシャーリーと、オリバーはそうした顔合わせではあったが相性もよく。
母を亡くしてつらい目に遭ってきたシャーリーをオリバーは労わり、大切にし。その気持ちがシャーリーにも伝わり、そのあたたかさに心が癒されて。
親たちが心配することなく、良き婚約者となった。
ホンス家の庭を手をつなぎ歩く姿を、その兄がまた微笑ましくスケッチをすることも……――。
――その十数年が後に。
まさか自分の姪のプリシラが同じように他家の養子となり、本来の血筋の婿を迎えて流れを整える役割となるとは。
同じくエドワードが、弟という位置から急遽実家の跡継ぎとなることも。
シーズリー家もネイズ家も、そしてホンス家の関わりあるものは。
何の因果かと、目を閉じてため息を。
こうした因果は巡る。
そしてネイズ家には、プリシラたちの代で今また娘ちゃんが一人、跡取り婿取りで難儀なことに、ひっそりなっていたり。従姉妹のやらかしのおかげで。
ややこしいかもだから。
ジャクリーンの息子が病弱クリストフ。そのクリストフの次男がオリバーくん。
ジャクリーンの姪がアデル。その婿の姪で、養子となったのがシャーリー嬢。
…シャーリー嬢でまたひとつ、外伝できそう。




