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「だから結婚は君としただろう?」  作者: イチイ アキラ


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16 祝賀祭。



 二年半が経った。

 むしろあっという間に。

 リリアラに未だ婿が見つからないままに。


 リリアラも遊んでいたわけではない。

 今日もホンス伯爵家の者として祝賀会に参加していた。


 いや、伯爵家の者ではなく――伯爵本人だ。

 参加しなくてはならない。

 かつて自分がそう、宣言してしまったのだから。

 自分こそが次なる伯爵たる者、だと。


 ――今になってすべてが身に返ってきている。


 エスコートのなり手がいないリリアラの為に、ソーン伯爵家の叔父と叔母が共に参上してくれた。ソーン伯爵家の跡取りのルーカスは参加資格が無いわけではないが、弟とともに留守番だ。

 ……参加すれば否応なしに、立場上リリアラのエスコートをしなければならなくなるのもある。


 まだルーカスには婚約者がいない。

 それもまたリリアラの影響がある。


 ――あのホンス伯爵家の親戚ですって。


 ……と。

 もし今、ルーカスがリリアラをエスコートすれば、尚更に立場が悪くなる。ルーカスばかりが。

 幸い、かの渦中にあっても。

 ソーン家、唯一の娘である姉のジュリエットには。

 既に幼い頃からの婚約者がいて、あの騒動のときも揺るぎなくいてくれた。姉を守ると豪語して有言実行なその姿勢に、すでに後の義兄としても尊敬していたところに、男としてさらに憧れたルーカスとエドワードだ。

 そのもうすぐ義兄は、同じ男として気持ちは解るが……こんなやり方はどうだろうかと、アンドリューにも思うところはあるという。しかし、愛する婚約者と引き裂かれる気持ちも解って、辛い……とも。

 ルーカスも――何となく。まだ婚約者がいない自分には難しいことだ。

 ただ、この人が姉の婚約者で、良かったとだけ、しっかりと胸に。


 ルーカスも弟エドワードがホンス家を継がねばならないことに複雑な気持ちを持っている。初めはそんな厄介な家――母の実家だとしても――を弟に押し付けるだなんてと反対し、彼は「自分が継ごう」と一族家族会議のときに手を挙げた。

 しかし、当の弟より。

「すでに兄さんはソーン伯爵領で若様と呼ばれて周知されて、皆に期待されています。ソーン伯爵領の未来こそを大切にしなくちゃ」

 と。弟の方が先を見ていた。

「ホンス伯爵領は僕がなんとかする。だから兄さんはソーン家を継いで……ごめんだけど、そっちから助けて」

 本当に先を見てる弟だ。




 そんな従兄弟たちが先を見ているというのに、リリアラは自分の現状に――身内や祖母にあれだけ言われても、そろそろ現状を理解しながらも、やはりどうして自分がこんなことになっているのかと、不満を抱いていた。


 既製品を手直しした程度の安物のドレス。

 かつての婚約者が贈ってきた、子供っぽさのあるアクセサリー。

 持ち前の美貌あればと、その辺りは着こなしてみせるのは彼女の強さだろうが。

 しかし、強みがあろうがやはり――何とも嫌ではある。


 本当ならば、アンドリューが伯爵となり、自分はそのホンス伯爵夫人(・・)として……彼に贈られたドレスやアクセサリーをつけて参加するはずなのに。

 アンドリューの髪の淡い金色は当代の王族も同じくだから、被らないよう金色めいたドレスを避けるのが暗黙のルールであると……淡い黄色めいたドレスを性懲りも無く買おうとしたリリアラに、呆れてため息をついたのは叔母のジェシカ。ソーン家はそこまでもリリアラを手助けしてくれているのに。

 結局、アンドリューの瞳に似た藍色のドレスに。それは色合いだけならば一見地味だから、まあ仕方ない、良いだろうとさらに叔母に呆れられながらも。


 そう、リリアラは耳にしてしまったのだから。


 この催しにはアンドリューも参加する、と。


 何故なら王宮での祝賀会だからだ。


 それは国王の即位の記念日を祝うものであった。毎年恒例ではあるが、よほどの理由がないかぎり、貴族は参加しなければならない。


 アンドリューと逢える!


 それは偶然の聞き耳で。

 叔父たちが話していたのだ。

「今年の祝賀会は……アンドリューさまも……」

「昨年までは大変だったからなぁ……」

「もう、参加できるほとに回復したのなら……」


 回復?

 アンドリューは体調が悪かったのかしら。

 もしかしたらあの薬の後遺症が、まだ?


「アンドリューさまに逢える……」

 

 それなら……それなら――!


 リリアラはそれにかけた。

 アンドリューに謝るのだ。

 そして自分がこの二年半、どれだけ大変だったか聞いてもらおう。

 彼も大変だったのなら、今度は自分も責任を取るから。


 責任を。


 彼に押しつけたそれを、今度は自分こそが果たすから。

 以前は解っていなかった。

 カウンセリングも付き合おう。病院に、自分もかかる。

 恥ずかしいと、嫌だとなんて、もう言わないから。


 ――寄りを戻して欲しい。


 そしてあるべき関係に戻るのだ。


 もう一度、あのウェディングドレスを着させて欲しい!




 リリアラはそれがどれほど恥知らずな考えか解って――いや、解っていながら、もうそれしかないと、逆に考えたのだ。



 それはこの数年、リリアラもようやく状況を理解して反省してきたからと、親戚たちはほっとしていたから。

 だからリリアラもホンス伯爵本人であるならば、貴族として参加必須な祝賀会には参加させねばと。

 更正を、期待したからこそ。

 だから叔父たちは、跡取りの顔繋ぎとしても重要なこの催しを、あえて自分たちの跡取りを後回しにして、リリアラを連れてきたのだ。


 ――だというのに。


 むしろリリアラも……この哀れな娘も、いっぱいいっぱいになっていることに、彼らも気がついていたら。


 目付役の叔母たちの隙をついて、リリアラは場を離れた。


 愛しい初恋のひとの気配を探りながら。



 そして幸運にも――不運にも、彼女はアンドリューを見つけた。



「アンドリューさま……いやっ、何よ――!?」


 駆け寄ろうとしたリリアラを、無礼にも腕を掴んで止めた男がいた――いや、むしろ紳士的行動と、周りには。


 その振り返る瞬間、リリアラはアンドリューの隣にいる人間に気がついた――気がついてしまった。




 それはアンドリューの瞳の藍色にドレスを合わせた――黒髪の。





 三つ子の魂なんとやら。

 やはりなかなか性根はかえられないリリアラさん。むしろもう、そろそろ限界……。


 ……さて。

 この日のために。伏していたキャラたちでございますよ。


関係ないけど、ジュリエットが先に決まってJ繋がり良いなぁと、お祖母さまたちの名前が決まりましたwほんとに本編に関係ないけどw

そして主人公たちの名前は…


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