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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

朝起きたら勇者になっていた2

作者: 御田文人

しいなここみ様「朝起きたら企画」参加作品。

同企画参加作品の拙作「朝起きたら勇者になっていた」のパラレルワールドですが、前作未読でも特に問題はありません。

 朝起きたら勇者になっていた…らしい。


 見知らぬ部屋で、見知らぬベッドに寝ていたオレは、見知らぬ母親らしき女性に起こされた。そして彼女から「今日は16歳の誕生日だから城に行って王様に挨拶しろ」と言われた。なんでもオレは勇者の血筋らしい。

 オレはまだ混乱する頭を掻きながらベッドから出て、見知らぬ階段を降り、見知らぬダイニングで食事をとった。

 パンとハム、サラダにミルクという朝食だった。


「どうしたの?随分味わって食べてるけど」

 母親らしき女性が言った。

「なんか今日のパン美味いね」

 オレは適当に答えた。女性は「そう?いつものパンよ」と不思議そうに答えた。

「そうか、気のせいかな?」

 そんなことを言いながら、オレは別のことを考えていた。これは夢じゃないか?と。オレは夢の中で『これは夢だ』と気づくことが時々ある。じっくり味わって食べるというのは、その時の確認方法の一つなんだ。


 別に味である必要は無いのだが、何かの細部を確認するという作業をするのがコツだ。

 本を一字一句読むでもいいし、絵の細かい部分まで観察するでもいい。

 夢なら自分の頭が作っている映像なので、そういう細かい部分はぼやけるんだ。意識して確認しようとすると、何か別の要素で邪魔されたりする。読もうとした本が落ちたり、取り上げられたり、飛んでいったりして結局読めないのが夢でよくある展開だ。


 しかし、今回は動物に皿を引っ繰り返されることも無く、理不尽に急かされて外出する羽目にもならず、ゆっくり味わって食べることが出来た。パンの小麦の味も肉の味、脂のコク、葉物野菜の苦みに、ドレッシングのスパイシーな香味まで感じることが出来た。

 どうやら夢ではないらしい。


 食事が終わると、よそ行きの服を着せられ、その母親らしき女性に見送られながら外に出た。


 城に付くと、あっけないほど簡単に謁見が許され、初対面のはずの国王から、いきなり魔王を倒して光の玉を取り返してこいと言われた。

 そして、金貨少々と簡素な剣と地図を渡される。

 突拍子も無い話だが、とても断る雰囲気では無いので、その場は拝命して城を出た。


 当初は見知らぬ世界だと思っていたが、この展開は記憶がある。そして、母親も国王も城も、この衣服も、そして地図に書かれた地形も地名も見覚えがあることに気が付いた。

 以前にやったことがあるゲームの世界なのだ。

 これは異世界転生というヤツなのだろうか?


 オレは、状況整理する為に一人になりたくて、旅立つ体で城下町を出て街道を歩きながら考えた。


 街道から離れた草原を見ると、ぶよぶよしたゼリー状の生き物があちこちにいる。

 大きさは大型犬ぐらい。動きはさほど速くない。おそらくスライムだろう。

 いかにも最初に狩ってレベルを上げてくれと言わんばかりのモンスターだ。


(とりあえず何匹か倒しておくか)

 そういう考えもよぎったが、不用意に近づかなければ襲ってくる様子は無いので、オレは考えごとを優先することにした。


 異世界転生と言っても、ゲームの世界にオレがデータになって入り込んだというのはあり得ない。

 詳細は忘れたが、あのゲームは多くてもデータサイズは数メガバイト程度だろう。とても人一人が転生できるようなサイズではない。なんせ人間の細胞1個のDNAだけでもデータ量は1ギガ程度あったはずだから。。。


 ではゲームに似た世界か?もっと言えば、もともとこの世界が先にあり、この世界からの転生者があのゲームを作った?

 突拍子もない考えだが、リアルにこんな世界にいること自体が突拍子もないのだから、考える価値はある。


 ならばオレは、ゲームの記憶を頼りに、この世界で成り上がればいいのだろうか?

 しかし、もし、あのゲームの勇者がオレで、オレの活躍を元にあのゲームが出来たとしたら時間軸がおかしいな。

 ゲームの作者は過去に遡ったことになる。

 いや、オレが過去の異世界に遡ってきたのかな?


 頭がもやもやしてきた。。。

 そこで別のことを考えた。


 オレが魔王に負けたら、もしくは何もしなかったらどうなるのだろう?

 あのゲームは作られなかったことになり、オレの頭の中のゲームの記憶も消えるのだろうか?

 それとも別の勇者がオレの代わりに魔王を倒すことになるのか?


(面白い!)

 オレは俄然『何もしない』ことに興味が出た。


 しかし、いざそれをやろうとすると困難を極めた。

 どういうわけかオレは面が割れている。どの町や村に言っても勇者として扱われ、普通の仕事をさせてもらえない。替わりに魔物討伐やら洞窟探索やらを依頼される。

 オレはそれらの依頼を、受けたフリだけして何も実働しなかたので、次第に居づらくなり、身を寄せる町や村が無くなっていった。


 どうもこの世界の人間は気持ち悪い。なぜ初対面の人間に、命の危険があることを色々頼めるのだろう?

 ゲームではなく、リアルにこんな扱いをされると、厚かましいにも程があると感じる。

 口では「勇者様」等と言われるが、オレはアゴで使われているような、奴隷のような、そもそも人間扱いすらされていないような不快感を覚えた。


 それに辟易したオレは、人里から離れた山に入た。そして小屋を建てて住もうと考えた。


 まず王から貰った剣を使って木を斬り倒し、木材を集める。

 すると、数本倒した所で酩酊感のようなものを感じた。やがてそれが恍惚感に変わり、脳裏に文字が表れる。


 Lv1→2

 ちから 3→5

 かしこさ 6→8

 すばやさ 4→6

 きようさ 6→8

 たいりょく 5→7

 HP 10→12

 MP 5→8

 EXP 10(NEXT 30)


 そうか。この世界ではゲームのようにレベルの概念があるのか。

 レベルが上がった体で木を斬ってみると、以前より少し楽に斬れるような気がするし、持久力が上がったのか少し長く作業が出来るようになっていた。


 その後色々試してみて分かったのだが、これは勇者としての特殊能力なのかもしれない。

 最初は自身の能力が数値化されるのかと思ったが、筋力トレーニングをしようが、走り込もうが、本を読もうがEXP(経験値)は上がらなかった。

 何かを破壊する行動をした時だけこの数字が上がる。しかも殺生が一番上がり幅が大きい。それは食べる分の狩りをしていて気が付いた。

 最初は魚や小型の蛇といった捕まえやすい動物を食料にしていたが、レベルが上がるにつれ剣で猪まで狩れるようになってしまった。狩の上達速度が異様だ。

 もっと異様なのは、本を読んでも上がらなかった「かしこさ」が、何かを破壊したら上がると言うこと。

 この「かしこさ」とは、一般的なそれではなく、特定の分野の「かしこさ」なのだろう。

 これではまるで…


 そう考えた時に、また頭がもやもやしてきた。


 この感覚は何かに似ている。


 そうだ。

 夢だ。

 夢の中で「これは夢だ」と気づく時の感覚だ。

 でも今いる現実は夢ではない。

 だから、オレはある仮説を思いついた。


 それを実証するために、そして、来たる日の為にオレは自身を鍛えることにした。


 オレの体は何かを破壊すれば活性化する。

 しかし無益な殺生を続ければ生態系が壊れ、食べる物も無くなってしまう。


 だから岩を叩き割った。


 最初は、丈夫そうな岩石を剣で叩きつけることから始めた。

 数レベル上がった所で剣は折れてしまったので、材木、動物の骨、石等、とにかく丈夫そうな物を持って硬そうな岩を見つけては叩きつけ、破壊し続ける。


 レベルが上がるにつれて、武器の消耗も早くなった。オレの腕力に武器が耐えられず折れてしまうのだ。

 ある時期から無理に武器を使うよりも素手で叩き、蹴った方が早いと感じるようになった。


 当然、素手で殴れば最初はこちらも怪我をする。

 しかし、多少の怪我をした方が多くの経験値が入り、レベルが上がるのも早かった。

 何とも野蛮な身体だろう。

 レベルが上がっていくと怪我の回復も早くなり、次第に怪我自体しなくなった。


 その頃になると、岩石を一つ一つ選んで壊すより、トンネルを掘り進めるように岩肌を殴り続けた方が、効率よく経験値が溜まることに気が付いた。


 そして、不思議なことに、ただ物理攻撃で岩盤を粉砕して掘り進んでいるだけなのに、レベルが上がれば、魔法を覚えていく。

 ファイアボール等の攻撃魔法を使用して大規模な破壊を行えば、更に多くの経験値が入り、魔法の威力自体もどんどん凶悪になっていった。


 そこでオレは確信する。

 オレ、即ち『勇者』とは兵器なのだと。


 そう結論付けると、また頭がもやもやとしてきた。

 それは次第に眩暈に変わり、頭痛に変わる。オレの確信は、「勇者」にとって都合の悪い考えなのだろう。


 今までは、このもやがかかる度に、それ以上思考する気力が奪われてきたのだが、今回は覚悟が出来ている。

 オレは夢から覚める為に、頭痛に抗って思考を続けた。


 転生前、子供の頃の友人の名前は?子供の頃の思い出は?子供の頃に流行った流行歌は?


 はっきり思い出せるのは何もない。

 過去の記憶は薄っぺらいぐらいに曖昧だ。


 ならば好きな食べ物は?その材料は?その調理法は?調味料は何を使う?その調味料の原料は?

 好意を寄せていた異性の名前は?その子とはどこで知り合った?共通の話題は?その子の親しい友人の名前は?


 直近であるはずの記憶も、細部を掘り起こすと何も覚えていない。


 次第に転生の前の記憶が、薄く、他人事のように感じられてきた。

 それは目覚めた時に、うっすら覚えている夢の記憶にも似ているな。


 頭痛は消えた。

 頭はあの日、16歳の誕生日として目覚めた日から一番スッキリとしている。


 オレは夢から覚めたようだ。

 夢だったのは過去の記憶の方だった。


 今ならハッキリと分かる。オレは異世界から転生なんてしていない。

 この記憶は作られたものだろう。

 記憶だけではない。多分、体も色々と兵器になるよういじられていると思われる。


 では、何の為にこんな記憶を作られたのか?

 それも兵器としての都合ではないかと、オレは考えた。

 この世はゲーム、敵はキャラクター、自分は特別。そういう感覚であれば破壊、殺戮、他無理難題なミッションも軽く考えるようになり、兵器としての役割を遂行しやすくなるだろう。


 更に言えば、オレは記憶だけでなく、認知も歪められている可能性が高い。 

 今思えば、草原にただいるだけのスライムを、わざわざこっちから出向いて倒そうとするなんて、どうかしている。もっと言えば、あれは『オレにはスライムに見えるだけ』であって、別の何かかもしれない。。。

 真実はまだ分からないが、なんとなくオレは無暗に殺戮しなくて良かったと思えた。


 では、魔王とは何者か?光の玉とは?

 こちらも額面通りには受け取れない。単に敵対勢力のトップが魔王で、何かしら軍事機密か政治機密に関わるものが光の玉ではないかと考えておく。


 ここまで考えをまとめた上で、オレは今後の身の振り方に思いを巡らせた。

 

 まず王国の味方をするのは無しだ。オレみたいな非人道的な兵器を使う以上、どう考えてもあの国王は善良ではない。

 では魔王はどうか?

 なんとも言えないな。

 意外に国王より善良かもしれないが、同じ穴のムジナかもしれない。まぁあまり期待はしない方がいいだろう。


 そんなことよりも・・・


 オレは、鍛錬の為に掘り進めて出来た洞窟を見渡して考えた。

 どこか遠くで小国でも建国してみるか?

 「勇者」の能力は土木工事にも随分便利だと分かったからな。


 −そして月日は流れた−


 オレは予定通り、王国からも魔王領からも遠く険しい山の中腹に砦を築いた。

 王国と魔王との戦いは、相変わらず続いているようで、オレの砦には難民が年々増えている。


 かなりの人口になったので、数年前に共和国として独立を宣言した。

 当然面白くないだろう王国と、魔王から何度か進軍があったが、地の利と、磨き続けた「勇者の力」で都度退けることが出来た。


 今では、まあ平和に暮らしているよ。

 風の噂では、オレは「裏ボス」とか呼ばれてるらしい。ちょっかい出して来なきゃオレから危害を加えることは無いんだがな。

 時々腕試しに挑んで来る物好きがいるから、ヒマ潰しに遊んでやってるぐらいさ。



お読みいただきありがとうございます。

前作のハッピーエンドパターンを考えてたら思いついたので書いてみました。

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― 新着の感想 ―
おぉ〜。 すごい。 前世のほうが夢だったパターンですか。
そうだよな。 何をしてレベルが上がったかなんて関係ない。何て素敵なリアルドラゴンクエスト(・∀・) 魔王さまと分かり合えるルートかと思ったら違っていたよ。
勇者という職業の新解釈。 確かに、少年一人に小銭渡して魔王討伐命じるなんて国自体マトモじゃない。 これでよかった、のかな? むしろ、これをゲーム化したら斬新かも。シ●シティみたいに。
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