八 一気飲みは危険ッッッッッ!ダメ絶対ッッッッッ!
見苦しい表現があります。
作品その物が見苦しいと感じていらっしゃるでしょうが、
さらに見苦しくなります。
お食事中の方はご了承ください。
夕暮れ。
人が来ない廃寺に、長い階段を登ってハバネロ郎はやって来た。討ち入りの待ち合わせの場所がここだ。
酒臭い。かがり火の中で鎧兜フル装備の同胞(笑)が酒盛りしている。
「「「「「一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!うおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!」」」」」
総員パーリナイで……今夜の討ち入りは中止だな、と判断したハバネロ郎はため息をついて踵を返したが、なぜか背後にいた鎧兜フル装備の元上役の一人に見つかってしまった。
「おお……ハバネロ郎……呑め、呑め……ぅおれのぅ……酒がぁ……うぉぼぇえええええええええ。…………呑めないにょかぁあ……」
近くに人はいない。小便臭いからお花畑にでも行っていたんだろう。臭かったし前からムカついていたしどうせ酔っぱらっているから、と突き飛ばすと……上役は背後に盛大によろけて階段から落ちた。
こうやって異世界転生するんだな。
首の関節をアップデートした上役が、転生先でチート能力を得るのを祈って合掌。
仏教は偉大だ。どうでも良くなった。一向一揆もこうだったんだろうなぁ、と達観したハバネロ郎は体育会系的飲み会に参加する事にした。
思ったより参加者が少ないが、ハバネロ郎にはもうどうでも良かった。
「おおハバネロ郎殿ッッッッッ!まずは駆け付け三杯……酒はどうしたッッッッッ!」
「すいませーん!呑んじゃいました~テヘペロォ」
「チッ、しゃあねえなぁ~討ち入り行くべ~」
そんなんで良いのか……良いか。
ハバネロ郎は脊椎反射で同胞(笑)の後に付いて行く。階段を降り、誰もが上役だった物を踏みつけて、『階段が一段減った……怪奇現象ッッッッッ!』と騒ぎたてた。『そして全ては……ノストラダムスゥッッッッッ!』と叫ぶ者も。
近所迷惑な集団の行軍を、その経路の住民が雨戸を開けてこっそり覗く。ハバネロ郎以外は鎧兜フル装備なので、驚いて雨戸を閉めた。
「今流行ってるハロウィンパーティですよぉ~」
などとハバネロ郎は適当な言い訳をする。
「流行ってるなら仕方ないッッッッッ!」
などと住民は大きな声で知っているかのように叫んでから、いびきをかき始めた。流行は大事だ。知らないと世間の波に乗り遅れる。
そんなこんなでハロウィンパーティご一行は、チェキラ藩江戸屋敷へと繋がる橋に着いた。
橋の中央には孤影。
クリーム山ソーダ之助である。
「……………………えっ、あの、酔ってる?」
色々対策を立て、その上覚悟を決めたソーダ之助だが、ハロウィン効果で覚悟がKA☆KU☆GOに成り下がる。
「いや、その、なんだ。昨日の少年よ、酔っぱらいが危ないから帰れ……」
ハバネロはこれでもかと言うくらいキョドりながら忠告した。早くもグダグダだ。
残念系武者コスプレ集団により、場はほとんどハロウィンになりつつある。酔っぱらいが菓子をねだれば、作風まで塗り替えられるだろう。
「でもハバネロ郎殿は素面なのだな……奉行所に行くつもりがあるか?あと俺は二十歳越えてる……」
ソーダ之助の顔は、一線を越えていないのに赤い。ハバネロ郎の表情を見て察し、無限のように長い一瞬の中で葛藤を乗り越えた証だ。
「そうか。やたら背の高い中学生にしか見えぬが。……それは置いておいて、奉行所には行かぬよ」
「ならば、辛さ誅……とやらを行うのか?」
辛さ誅。ソーダ之助が受け取った封書に書いてあった。
以前適当にのたまった言葉が、歴史の黒に染まった刃となってハバネロ郎を貫く。
顔が、衣服や刀のように赤くなった。
ハバネロ郎は一線を越えたッッッッッ!
「……おい少年、じゃなかった元少年。名を聞いていないな」
ハバネロ郎は赤い刀身を抜いた。
辛い風が吹く。
「俺は、クリーム山ソーダ之助」
あのクリーム山か。民草の守護者、クリーム山か。
「切腹しないで良かった。最期の獲物にふさわしい。ツラい風の贄として屠ってやる」
ソーダ之助が抜いた刀を水平に構えた。
「日向パンちゃん流……確か二刀流だったか?」
ある程度日向パンちゃん流の情報は持っているようだ。
「一刀流もある。短刀術もな」
ソーダ之助はあえて付け加えた。
ハバネロ郎の目に、いつものクリームソーダの幻影が見え……
「「「「「一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!」」」」」
「ごぼうぇぇぇぇぇぇえええええええええッッッッッ!」
クリームソーダのもたらす時代考証への違和感、そして辛い風が……ハロウィンパーティの意味不明さごと吹き飛んだ。
「ハバネロ郎殿、川の水を……恐れる事無く兜を被ったまま頭を突っ込んで一気飲みする人を初めて見た。俺の人生経験が薄っぺらいからなのか?あるいは……フツーに成功するモノなのか?」
「な、なんて言うか済まない……」
ハバネロ郎はいったん刀を納める。毒気を抜かれたソーダ之助も納刀した。
「マロも行くぞオルァァァァッッッッッ!」
「「「「「一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!……」」」」」
「少年……いや元少年……ソーダ之助殿で良かったか?多分ヤツらは集団酔っぱらい特有の無自覚同調圧力で一気してから吐く。いずれ全員が酔いを覚ますはずだ。待ってくれぬか?」
「あっ、ホントだ。吐いた人……微妙な顔してる。ひょっとして全員冷めて討ち入り止めたりします?できれば奉行所に自首して、背後関係とか素直に吐いてくれると……それと、京の近くの人って、一人称『マロ』なのですか?」
「ミーも行くザンスッッッッッ!」
「「「「「一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!一気ッッッッッ!……」」」」」
「少数派だ」
「……今のは?」
「アイツは密命を受けておフランスに行ってたから、かぶれてる」
「えっ、いや、鎖国……」
ししとうのように青くなったハバネロ郎は、人差し指を唇に当てた。
ソーダ之助は墓場まで持って行く事にした。




