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十八 四十六人斬り その五

酷い表現があります。

「くそおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!」


 最後の一人は、ハバネロ郎の亡骸へ走る。






ーー故郷(チェキラ)家族(チェキラ)仲間(チェキラ)


「ハバネロぉぉぉぉぉぉぉぉぉうッッッッッ!いつまでも寝てんじゃねえッッッッッ!」


 ガスッ、ガスッ、ガスッ……






ーー明日(チェキラ)世界(チェキラ)生命(チェキラッチョ)


「調子に乗るんじゃねえぞッッッッッ!」


 ガスッ、ガスッ、ガスッ……






ーー悪猪肌偉大(わるいのはだいたい)……


「お前、わかってんだろッッッッッ!みんながお前を『鬼武蔵』って言ってんのはなッッッッッ!」






ーー伴舘(ともだち)ッッッッッ!


「けなしてるんだよッッッッッ!お前は自分に価値があると思ってんのかよッッッッッ!馬鹿だから褒められてると勘違いしたのかッッッッッ!ワシらはお前に『誇りを持つ』事を許可していないッッッッッ!」


「……()()()()か」


 都で『ぶぶ漬け(お茶漬け)を食べて行け』と言うのは『もう帰れ』と言う意味だそうだ。


 ちなみに……過去に作者が『食べる』と言った時は……本当に出て来た。美味しかったです。






ーー長い、長い、人生。何か、何か、残したい、でも。


「おい、ハバネロ郎殿をどうして蹴るんだ?」


「いや、ちょっと教育してるんで。コイツ起こしたら、あなた様の相手させますんで」






ーー力任せに剣を振るうしか、ずっと、ずっと、して来なかった。


「おい、起きろハバネロ郎ッッッッッ!ワシの言う事が聞けないのか?ァン?誰のお陰で……」


「ハバネロ郎殿の努力だ」





ーー人を傷付ける事しか、俺らは知らないんだ。頭の下げ方さえわからない。


「ハバネロ郎殿が強いのは、本人の努力の賜物だ」


「いや……その、口を挟まないでいただけませんか?ワシと……いやスコヴィル藩と、この役立たずとの問題なんです。ちょっと気合入れれば、すぐに起きます。そうしたら、あなた様が責任を取らせれば良い。一件落着ですなぁ」






ーー誰かの笑顔を見ると俺は、置いてきぼりにされた気持ちになる。


「本当にもう少しです。もう少し気合を入れてみます。なぁに、いつもの事ですよ。コイツはねぇ、ワシらの許可を取らずに呼吸をする卑怯者です。許可を取らずに歩いて、許可を取らずに飯を食い、許可を取らずに寝て、起きて、許可を取らずに生きている。許可していないのにモノを考え喋る。役に立つのは人として当たり前の事なのに、許可無しに一人前づらするッッッッッ!本当にどうしようも無い卑怯者です。働き者のワシを守るくらい、当たり前ですよ。そのくらいじゃ償いにならない」


「何の償いだ?」






ーーどうしようも無く寂しくなって、怒り堪える理由探して、時間が流れるのを待って。


「いや……アハハハハハハハハハハ。ワシらーースコヴィル藩とね、このゴミとの話ですから。どうかご遠慮願いたい。ゴミに死んだフリ止めさせますんで……そうしたら」


「………………脳味噌が出ているが」






ーーそして生まれた。俺らの殿様ッッッッッ!


「いやいや、それはあくまでもこのゴミの都合です。脳味噌とか内臓とか血液とか、そういうのって結局コイツの都合ですよ。おいッッッッッ!起きろハバネロ郎ッッッッッ!許可していないッッッッッ!死ぬ許可なんてしていないッッッッッ!これ以上ワシを怒らせるなッッッッッ!」


「怒ると、どうなるんだ?」






ーー悪猪肌偉大ッッッッッ!伴舘ッッッッッ!


「怒ると、どうなるんだよ?」


「いえ、その、誤解しないでください。あなた様にではございません。この役立たずのゴミにです。本当にもう少しで気合が入って根性で起き上がりますから。なにもかもハバネロ郎に責任を取らせます。いやいや、そうじゃ無かった。あなた様のご威光によってハバネロ郎が『改心』し、見事に腹を斬って今回の酷い事件の責任を取るのです」


 意味のわからないウインクに、ソーダ之助は吐き気を催す。


「全部全部、ぜぇんぶあなた様のお手柄でございます。ただ~そのぉ~できれば、できればでございますよ。家老経験者のわたくしめの尽力があったのも……頭の片隅にいれていただければなぁ~と」






ーー若い命が育って、故郷(クニ)の城にて大人になった!


「それにしても、本当にツいてますな~。わたくしめとあなた様は、チェキラ藩をハバネロ郎の魔の手から救った英雄ですぞ。おっと失礼、『あなた様が』でしたなぁ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」


「怒ると、どうなるんだ?どうなるんだよ?」






ーー誰かの元に命が誕生し、育ち、人として立派になる事を……


「ええっと、わたくしめの話……聞いてました?」


「だから、お前が怒るとどうなるんだ?」






ーー喜んで良いのだと、俺の、俺らの幸せとして良いのだと……


「わたくしめの()()()()むちゅかしかったでちゅか~?」


「うるせえ。ハバネロ郎殿に触るな」






ーー誰もがそうなのだと、教えてくれた。


「おはなし、噛み合いまちぇんなぁ~今時の若者は、知能が低くて困るわい……」


「ハバネロ郎殿から足をどけろ、侘びろ、できる限り償え」






ーー全て時代のせいにして、自分から暴力に流された俺は、


「おい坊や、お菓子あげるからね。おじちゃんの言う事聞いてね。おなかをはだけさせて、そのカッコいい刀でうまくきるんだ。ちょっといたいけど、坊やがしぬとね、おじちゃんがしあわせになれるんだ。お菓子……欲しいよね?……おい、聞いてんのかッッッッッ!ガキは大人の言う事になにもかも従えッッッッッ!」


 ソーダ之助は刀を振った。






ーーその日救われた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!」


「討ち入りに参加した者の代表として、存分に苦しめ」


「痛い、痛い、痛いよおぉおおおおおおッッッッッ!」


 ソーダ之助は刀を振った。































ーー世界は回る。この世は巡る。新しい言葉が生まれ、一人歩きして過去を欺く。


ーー社会は回る。評価は巡る。新しく流行が生まれ、人に儚い序列を作る。


ーー時代は回る。お前は巡る。新しい価値観は……いつだって全てをぶち壊す。


ーーいつか争いは無くなる。お前らが無くす。そう信じてる。


ーーそれでも、


ーー争いよりもずっと深刻な問題が立ち塞がる。


ーー俺らが、自分から時代に負けるのを選んだように、


ーーそれらは、お前を貶め多くを奪う。


ーー今までのやり方は通用しない。


ーー俺らのやり方も通用しない。


ーー新しいやり方は、過去の焼き直しだ。


ーー革命ごときではどうにもならない。


ーー新しい問題は、人の数よりも多い。


ーーだから、これ以上人を喪えない。


ーー未来に背を向ける者はもう、







































 ソーダ之助は刀を振った。


「ガハァッ!やめてくださいッッッッッ!痛い、痛いッッッッッ!どうして()()するんですかッッッッッ?」


「差別だと?」


「大石蔵之介だって、四十七士だって、讃えられているじゃないかッッッッッ!同じ『討ち入り』なのに、なぜワシを無下に扱うッッッッッ!動機だってなぁッッッッッ!『チェキラ藩の世間知らずに世の中の厳しさを教えてやる』と言う、崇高なモノなんだッッッッッ!赤穂浪士の何倍もワシは優遇されるべきなんだッッッッッ!差別するなァアアアアッッッッッ!」


 ソーダ之助は刀を振った。
















































ーーどうしようも無い。


ーーでも、


ーーお前が見下している相手の話を聞いてやれ。


ーー『見下す』と『妬む』ってのは同じなんだ。


ーー妬んでいるから見下しているんだ。


ーーそいつらは、お前に見えない物が見えて、お前が持っていない物を持っている。


ーー力を合わせろ。


ーーそれでも困難には及ばない。


ーー力を合わせろ。


ーー挑まなきゃ奇跡すら起きないんだぜ。


ーー悪猪肌偉大ッッッッッ!


ーー伴舘ッッッッッ!


ーーそしてその仲間たちッッッッッ!


ーーウェ~イッッッッッ!


































 ソーダ之助は刀を振った。


「くそう……どこまでワシを傷付ければ気が済むのか……近頃の若者は人の心が無いッッッッッ!」


「お前にはある、とでも?」


「なんだッッッッッ!その態度はッッッッッ!なんだッッッッッ!その目付きはッッッッッ!この()()()()()ッッッッッ!」


「嘘……つき?」


「そうだお前には人の心が無いッッッッッ!だから怒りを感じるはずが無いッッッッッ!心が無いくせに、怒る真似なんてするなよッッッッッ!真似っこ遊びで正しい行いの邪魔をするなッッッッッ!楽しいか?心が無いのだから楽しいはず無いよなッッッッッ!このサイコパス野郎ッッッッッ!」


 ソーダ之助は……
































ーーそれは『昨日』が望んだ『今日』の証、『明日』の希望


ーー俺ら忠臣、藩の中心、政に熱心、民は感心、人に優しい政治が本心


ーーそれが俺ら武士の精神


ーーどうかそうであってくれと


ーーそこのお前、俺に憧れるな


ーーそうであった奴は確かにいたんだ


ーーそこのお前、俺に憧れるな


ーーお前の中にだってその願いはあるのだ


ーーそこのお前、俺に憧れるな


ーーそこのお前、拳をほどけ


ーー赤い血に憧れるな




































「悪かった、済まない、許してくれ……助けて。何でもする」


「何でも……だと?」


「何でもします。助けてくださぁい……」


「なら、何もかも元に戻せ」


「えっ」


「ハバネロ郎殿を生き返せらせろ。お前らが追い詰めて死なせたスコヴィルの若者や殿様と、チェキラの人々を生き返らせろ。傷付けた人々を今すぐ癒せ。奪った命と誇りを元に戻せ」


「いや……それは……」


「『何でも』とお前は言ったぞ」


「で、できません」


「お前の大好きな『根性』でなんとかしろよ」


「こっ、根性とはそう言うモノでは……」


「なら『気合』ではどうだ?あるんだろ?」


「き、き、気合と申されましても」


「では『礼儀』か?『署名』ならどうだ?『年長者』なんだろ?」


「ど、ど、ど、どどどどどうかお許しを……」


「お前が『許しを乞う』のを許可した覚えは無い」



















































ーー獲った首の数なんて自分にしか自慢できない





 ツラい風が止んだ。


 カラい風は、もう吹かない。

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