表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

十五 四十六人斬り その二

タグに『ざまぁ』は付けるべきか否か


ちょっと修正

ーー今、この穏やかな日々に非常に戸惑って


「おいおいおいおいッッッッッ!抵抗しない奴を斬るなんてどういうつもりだッッッッッ!」


 鎧武者の一人が死体から剥いだ兜を、『くぬっ、くぬっ』の掛け声と共にソーダ之助へ投げ付ける。





ーーまた壊されるからって


「くぬっ、くぬっ、くぬっ、くぬっ……逃げるなッッッッッ!届く所まで近付いて来いよッッッッッ!ゴルァアアアアアッッッッッ!」


 恐るべき勢いの投擲は……ソーダ之助どころか遥か手前に落ちる。ソーダ之助の主人公補正では無い。彼の真の実力だ。





ーー守るべき人を足手まといって


「この野郎ッッッッッ!どうして避けるんだッッッッッ!若僧のクセにッッッッッ!一度も苦労した事の無い坊っちゃん育ちの分際でッッッッッ!卑怯者めッッッッッ!届く所まで来いよッッッッッ!」


 せっかくだし、ソーダ之助は近付いてやる事にした。






ーーがなって怒鳴って言いなりにして踏みにじった


「おいテメーッッッッッ!来んじゃねえッッッッッ!来るなあああああああッッッッッ!」


「どっちだよ」






ーーなのに俺は、俺たちは、同胞は、故郷は勝ってしまって


「なんだその態度はああああああああッッッッッ!ちっと来いやッッッッッ!ぶっ飛ばしてやるうううううううううッッッッッ!」


 せっかくだし、ソーダ之助は近付いてやる事にした。






ーー生き延びて謳歌してしまってずっとそれが当たり前になって 


「来んな、来んな、来んな、来んな……すいませんでした命だけは」


「九匹」






ーー生まれた子らは争い憎しみ病を知らず、大人に育ってしまって


「もう止めにしませんか?」


 震えながら刀をソーダ之助に向ける鎧武者が言う。


「だったら剣を降ろせよ」






ーー俺なんかより優れてしまって


「私たちは弱いんですよ。あなたなんかよりもずっとッッッッッ!」


「争いを止めてやるから刀を降ろせよ」






ーー転ばぬ先の杖や疑いの視線はすべからく杞憂に終わって


「弱者の権利を認めてください」


「お前、さっき若い仲間の鼻を折ったよな」






ーーだから俺や戦友たちは武器や謀略は過去にしまって


「あれは教育です。若いクセに調子に乗っていたからです」


「『調子に乗ってる』ってどういう意味だ?」






ーー忘れようとしてできなくて


「とにかく刀を降ろして降伏してください」


「『調子に乗ってる』ってどういう意味だ?」






ーー吐き出してしまってダメだと、それは頭ではわかっているのに


「降伏して罪を償ってください」


「『調子に乗ってる』ってどういう意味だッッッッッ!」






ーー膿んだ傷口憎しみを撒き散らす


「若僧なんだから大人の言う事を聞けッッッッッ!」


「『調子に乗ってる』ってどういう意味なんだよッッッッッ!」






ーー大人なんかじゃないって、子らは冷めた目で見る始末


「調子に乗ってるのは、おまえらスコヴィル藩の老害どもだろ?」






ーー『殺してやりたい』上目遣いの視線で鬼畜を見る目をして


「良いから大人の言う事を黙って聞けッッッッッ!」


「十匹」






ーー悲しいがそれで良いんじゃないか、俺らが蔑まれれば


「くそぅッッッッッ!よくも仲間をッッッッッ!許さんッッッッッ!」


「許さなかったらどうすんだよ?」






ーー力だけで生きて来た俺らが蔑まれれば、もう争いは起こらないんじゃないか?


「そこに正座しろおおおおおおおッッッッッ!」


「正座しなかったらどうすんだよ?」






ーーチェキラ、チェキラ、チェキラ、チェキラ……


「うるせえ、良いから正座だッッッッッ!」


「十一匹」






ーーそこのお前俺に憧れるな


「「「「「おい若僧ッッッッッ!これだけの数に勝てると思ってるのかよッッッッッ!イキってんじゃねえッッッッッ!」」」」」


「お前ら……状況を見てモノを言え…………」






ーー鍬を取れ、耕せ、辛いなら赤の他人の俺を憎め


「「「「「この刀を見ろッッッッッ!モノホンの刀でッッッッッ!業物なんだよッッッッッ!斬られると痛てぇぞッッッッッ!」」」」」


「いや……もう十一匹斬ったぞ……」






ーーそうだお前の隣にいて見本を見せようとしている親は多分毒が血に流れていて 


「「「「「現実を見ろよッッッッッ!これだけの人数に囲まれてるんだよ!お前はなぁッッッッッ!絶望的なんだよッッッッッ!」」」」」


「いや……残り三十五匹で、戦意が(かすかに)あるのはお前らだけなんだが……」






ーーお前を利用しようとしている、しかし毒の中にあるわずかな温もりは


「「「「「ブツブツうるせえんだよッッッッッ!来いや、その口刻んでやんよッッッッッ!」」」」」


「いや……囲んでるんだから…………同時に攻めて来れば良いと思うが…………」






ーー血で血を洗って生きて来た俺には、けして造り出せない物だ


「「「「「いや……その……」」」」」


「まさかとは思うが……ハッタリ?」






ーーたった一度で良い、一度きりで良いんだ信じてやれ


「うるせえッッッッッ!……おい、お前行けよ」


「いや、お前こそ」


「ならお前が……」


「むしろお前行け」


「待て、風水的に言えばお前が行くのが吉だ」


「ならこっちから行くぞ」







ーー裏切られるとわかっていても、たった一度で良い、信じなきゃ


「降伏しますッッッッッ!どうか背中を守護らせてくださ~い」


「いや待て、俺が先に降伏するッッッッッ!」


「私、誰よりもお役に立ちますよッッッッッ!」


「自分……誰にでもできる仕事なら、最低限文化的にはこなしてみせますッッッッッ!」


「今ワシの降伏を受け入れたら、キャンペーン期間なのでもう一人ワシが付いてきます。さ~ら~に~ワシの家族も付いてきてお得ですよ~」







ーー信じ方がわからないだろ


「十二匹、十三匹、十四匹、十五匹、十六匹……攻撃して来る奴が全くいないのはなぜだ?」






ーーそこのお前、俺に憧れるな


「そこの若いのッッッッッ!」


「た~す~け~て~ぇ~」


 ソーダ之助は信じがたい光景を見た。






ーー醜い欲から意地汚く何かを生み出そうとする行為と


「動くなッッッッッ!人質を殺すッッッッッ!」


「そこの若いお侍様~た~す~け~て~」


 討ち入りご一行の鎧武者が……別の鎧武者に刀を突き付けている。






ーー持っている者から鮮やかに卑怯に奪う行為は


 自分に言われているとは思わなかったソーダ之助は、無視して他の鎧武者を狙おうとするが。


「いや、お前だ。そうだお前ッッッッッ!他人事のように自分に人差し指向けるな!お前ッッッッッ!着流しのお前!そう、お前、お前ッッッッッ!」






ーー結果が同じでも、全くの別物


「人質の意味があるのか?」


「お前には人間の心が無いのかッッッッッ!」


 卑怯な鎧武者は、人質の頬を刃でえぐる。


「ぎゃああああああ!痛い、痛いよぉ!パパにもぶたれた事無いのにッッッッッ!」






ーー辛いなら、お前の親をそんな風にした、俺を憎め


「「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……無視すんな!」」


「…………十七匹、十八匹。なんだろう、すごく帰りたい」







ーー暗い暗い夜が明けて


 チャリーン。


 クラブの床に投げられた小判が鳴り響く。






ーー熱い熱い煙昇って


「あっ落ちました」


 拾った小判を持ち主の鎧武者に返そうとするソーダ之助。偉い。






ーー広い広い空に広がって


「良いから拾えよ。懐にしまっちまいな。誰も見ていねえからよぉ……」


「いや、めっちゃ見ているだろ。そこになぜか存在する巨大なレディー●ーデンの陰でぶるぶる震えながら俺を見ている奴いっぱいいるだろ。ラップ歌ってんのもブーイングしてるし」


 チャリーン……チャリーン……






ーー狭い狭い食卓に膳が乗せられる


「いや、小判を床に投げる意味がわかんねーからッッッッッ!」


「どうせゼニだろ?拾えよ」


 チャリーン……チャリーン……チャリーン……






ーー明るい太陽が照らす街は、卑しい暴力が、かつて何度も焼いた


「ゴネてゼニを踏んだくろうって腹なんだろ?ん?いいぜやるよ。恵んでやるよ。卑しい下級武士がッッッッッ!だから俺に仕えろッッッッッ!」


 ソーダ之助は浪人である。


「十九匹」






ーー勇ましいと信じてその行為を続けたが


「スイマセーン、ソーダノ、スケサーン」


 なぜかクラブにいたレーニン的存在が、近づいてきてソーダ之助に頭を下げる。






ーー誇らしいとはとうてい思えない


「確か……レーニ「アイアム、プロレスラー」


「ソーリー」


「イッツ、オーライ。……ソレデ、ソーダノスケサーン。コノ、コバーン、クダサーイ。メグマレナイ、コドモ、キフ、シターイ。マズシイ、コドモ、カワイソ、カワイソ……」


「オーケー、オーケー、ナイスツーミーツー、掘った芋弄るな」


「サンクスッッッッッ!」


 プロレスラーを名乗る心優しき人物は、なんか両手の指を変な風に重ねてソーダ之助に見せた。


「ト・モ・ダ・チィ」


 ソーダ之助も真似をする。


「と、と・も・だ・ち……」


 こうして剣士とプロレスラーの間に友情が生まれた。







ーー誰が美化した?でもでもだって


「おい待てッッッッッ!」


 去ろうとするプロレスラーを、一人の鎧武者が咎める。


「恵まれない者はここにいるぞッッッッッ!バカ殿とバカ民草とバカ若い衆のせいで、藩を追われたかわいそうな恵まれない存在はここだッッッッッ!全部出せッッッッッ!全て出せッッッッッ!自腹でも出せッッッッッ!目上の人間に礼儀を見せろッッッッッ!」


 プロレスラーは飛んだ。そして存在しない何かにパイルドライバーッッッッッ!






ーーちょっとくらい良いじゃない、つまらない日常にかすかな毒の隠し味?


「二十匹」


 結局斬ったのはソーダ之助である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリームソーダ後遺症? ↓クリームソーダ作品 クリームソーダ後遺症祭り バナー作成/幻邏
― 新着の感想 ―
辛味成分、カプサイシンの痛みや刺激成分が脳にとってストレスとして認識され、脳はストレスを回避するためにアドレナリンを分泌させる。 しかし、アドレナリンが過剰に分泌されると脳の一部が損傷を受け、うつを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ