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十四 四十六人斬り その一

「まったくもってけしからんッッッッッ!」


 言い訳らしき発言は続く。


「近頃の若い者はなっていない。近頃の雄藩もだ!まったくもってッッッッッけしからんッッッッッ!」


「……若い者の中には、俺も入ってるんだな?」


「ごべっ……すいませんでした。殴らないで殴らないで殴らないで殴らないで殴らないで殴らないで殴らないで殴らないで殴らないで……責任は取らせます。とにかく若者が無能だから悪いんだッッッッッ!おいッッッッッ!この中で一番若い者は…………」






「お主、確かまだ五十になっていなかったな?」






 土下座する鎧武者全員が、言い訳とは呼べない能書きをぶちかましていた『若者』を指差した。


 自分の倍は生きている『若者』を見て、なんだか目眩がしたソーダ之助は空を見上げ、相変わらず降り続ける星々を見る。偉大なる大自然を汚しているような気がしたので地面を見下ろした。


 そこにはちょうどハバネロ郎の亡骸。


 硬く硬く握っていた手は、なぜか開かれていた。


「「「「「おいッッッッッ!若僧ッッッッッ!責任を取れッッッッッ!」」」」」


 土下座していた鎧武者全員がゆっくり立ち上がり、『若者』へ刃を向けた。


「ちょっ、おまっ!」


 辛くは無いが、風が吹き、『若者』へ向けられていた刃が全て弾かれた。いちおうソーダ之助は守った。


「おおっ、あなたは命の恩人です。どうやって恩返しすれば良いのやら。そうだ、我々と共に歩みませんか?一緒にチェキラのゴミクズにわからせに行きましょうぞ。おっ、良いことを思い付きましたぞ。討ち入りが終わった後、赤穂浪士の墓前で腹を切ってはいかがかな?いや、誤解しないでいただきたい。これはね、あなた様がここにいるスコヴィル最大功労者から信頼を得るための儀式的……まあそう言う感じのアレです。あなた様はお若い。何事もチャレンジするのは大事です。我々スコヴィル最大功労者を庇う事で……幕府から処される場合もあるかも知れません。でも年長者への敬意と言うのは、スコヴィルでは本当に大事なのですよ。なぁに、切腹しても必ずしも死ぬわけでもあるまいし、チャレンジは大事です。死んだところでねぇ、今若者の間で流行してるのでしょう?異世界転生。アハハハハハ、冗談ですよ冗談。あなたは若い。このくらい笑って許すくらいの度量を身に付けなさい。これからあなたは様々な困難が待ち受けるでしょう。乗り越えれば多くのモノが身に付くはずです。ですが謙虚さだけは…………本当に難しい。我々も未だに修行の最中です。コツをあなただけに教えましょう。自分の妻や娘を差し出す覚悟を常に持つ事です。アハハハハハ、冗談冗談冗談冗談ッッッッッ!」


 ソーダ之助は赤い刀を担いだ。


「おお、やる気満々ですな。うん、あなたは若いのにできている。他の若僧に見習わせたい。そう言えば……ここにいるのは……あなたを加えてちょうど四十七人ッッッッッ!何かの思し召しでしょうか?良いことを思い付きました。あなた、チェキラのゴミクズをぶちのめすのに、先頭に立って一番槍を狙ってみては?我々はねぇ……もうトシなもので。ぜひ守っていただきたい。我々は優れた人間として世の中の厳しさを仕方なく教えてやっていると言うのに、アイツらは感謝の一つも無い。まるで野蛮人だ。きっとこのまま向かっても野蛮人は我々の言葉を受け入れず一方的に攻撃して来るはずです。ハバネロ郎の役立たずはあの世に勝ち逃げしてしまった事ですし、……あなたもぜひ親孝行をするとでも思って、命がけで守ってもらえま……」


「一匹……」


 ソーダ之助は担いだ刀を水平に薙いだ。


「今、何をしたんです?親から教えて貰えなかったんですか?人に刃物を向けてはいけないとッッッッッ!それも年長者に向け……」


 『若者』の首が転がった。


 仁王の表情になったソーダ之助を中心に、観念世界が広がる。






 元スコヴィル藩士たちの頭上にはミラーボール。快●CLUB……いやクラブだ。


「なんだ……ここは?」


「どこだって良いだろう?」


 鎧武者の問いに、興味無さそうに答えたソーダ之助はいつものアレをやる。


「「「「「クリームソーダッッッッッ!」」」」」


 今回に限っては、ストローは赤い。


「くっ、よくも知らない言葉を言わせた…………」


 狼狽する元スコヴィル藩士を、更なるサプライズが襲う。


 花火の爆発。スモーク。なんかシャボン玉。そして……





ーーチェキラ、チェキラ、チェキラ、チェキラッチョ!


 突然始まるラップ。スポットライトの中でヒップホップの魂を歌うのは……





「「「「「なぜ貴様がここにッッッッッ!?我々(が鮮やかに指示した役立たずのハバネロ郎)の手で殺したはずなのにッッッッッ!」」」」」


倍無粋(ばいぶす)揚技(あげてく)ゥゥゥゥゥッッッッッ!参上ッッッッッ!」


 観念世界はソーダ之助では制御不能だが、何でもありだ。江戸時代に全く関係ないレーニンでさえ登場したのだ。死亡確認された者が出てくるのはもはや朝飯前ッッッッッ!。


「そいつだけがラッパーだと思うなッッッッッ!」


 腰を労りながら揚技にハイタッチして、同じように紋付き袴でキメたファッションでヒップホップ的なポーズを取るのは鼻揖保井(びいぼうい)日畏怖(びいふ)ッッッッッ!


「パイセンがたッッッッッ!チィィィィィッス!」


 日畏怖に見せつけるようにブレイクダンスをキメるのは手井(ディー)持栄(ジェー)ッッッッッ!ブレイクダンスごときで髷は崩れぬッッッッッ!


「くっ……腰がッッッッッ!」


 日畏怖が膝を付くが。


「コイツを頼みますッッッッッ!」


 ソーダ之助が赤い包みを投げた。


「これは……濃厚ガトー●ョコラッッッッッ!それもビスケットを挟んだタイプッッッッッ!」


 勇気百倍……いや億倍ッッッッッ!ノリノリで包みが開けられ、黒い円形の物体が日畏怖の左手に乗った。


「FUUUUUUUUUUUUUUUUU……」


 日畏怖の手が濃厚ガ●ーショコラに乗せられ、そして……


「チェキチェキチェキチェキチェキラ、チェキラ、チェキラ、チェキラッチョ!」


 レコード風にスクラッチ。仕方が無いだろう。江戸時代の日本にレコードは無いのだから。外見だけでも近いアイスを使わざるを得ない。


「野郎共ッッッッッ!行くぜええええええええええええッッッッッ!」


 スコヴィルの魔の手によって命を落としたチェキラ藩士が、ソーダ之助の観念世界をぶち破り次々と紋付き袴でダイナミック入室ッッッッッ!


「「「「「FUUUUUUUUUUUUUUUUU……」」」」」





「「「「「貴様ッッッッッ!我らに何をしたッッッッッ!」」」」」


 恐慌に陥った元スコヴィル藩士は、刃をソーダ之助に向けて怒鳴り付ける。気持ちはわかる。作者も……書いておきながら困惑しているッッッッッ!


「あの世で調べろッッッッッ!」


 作者としても、ぜひ元スコヴィル藩士に調べていただきたい。観念世界の仕組みなんて、作者に思い付かないッッッッッ!


 ……そんなこんなしているうちに、赤い刀身が上段に構えられた。





ーー長い長い戦が続いて


 唐突に始まった歌を背にソーダ之助は前進。





ーー浅い浅い眠りに苛立って


 先頭の鎧武者が背後の仲間(笑)に、お前が行けと背中を押される。





ーー赤い赤い飛沫で洗って


「おいっ、押すなッッッッッ!」





ーー来ない来ない明日は来ないって


「うるせえ!良いから黙って……」


「二匹、三匹……」


 赤い刃が首をはねる。先頭と背中を押した者。


「「「「「よくも仲間をッッッッッ!」」」」」





ーーYO!YO!YO!YO!……


 ソーダ之助の射程から大きく離れた鎧武者が、テーブルの上の皿におしゃれに乗ったア●スの実を拾い投げ付ける。





ーー明るい灯りを妬んで


 しかしここはソーダ之助の生み出した観念世界。制御できなくとも、全ての事象は主の優位に働く。





ーー優しい笑顔踏みにじって


「「「「「ギャアアアアアアアアアアアッッッッッ!」」」」」


 ア●スの実は弧を描いて仲間(笑)に命中ゥッッッッッ!


 なお、この作品に登場する●イスの実は、人に命中させても食べられる素材でできており、元スコヴィル藩の老害が全滅した後に、スタッフが美味しくいただきました。






ーー愛しい誰かなど縁が無いって


「「「「「卑怯者があああああああッッッッッ!年寄りを労る気持ちは無いのかッッッッッ!」」」」」






ーー未来見ない来ないに決まってるって


「「「「「礼儀正しく抵抗せずに我々に敗北しろォォォォォッッッッッ!」」」」」






ーー誰だってそうだった


「四匹」


「「「「刃物を人に向けるなと言っているッッッッッ!」」」」






ーーだってそうさ奪い奪われるのは


「五匹」


「「「誰に断って生きてるんだッッッッッ!」」」






ーー壊し壊されるのは当たり前


「六匹」


「「貴様ッッッッッ!命の恩人に向かってその態度は何だ?我々が殺さないから貴様は今日まで生きて来られたんだぞッッッッッ!」」






ーーYO!YO!YO!YO!YO!……


「七匹」


「おい、誰かッッッッッ!この無礼者をなんとかし……ろ……あれ?」






ーーYO!YO!YO!YO!YO!……


「……」


「あはははは……いや~まいったなぁ~」





ーーYO!YO!YO!YO!YO!……


「まさか……こんな善良な老人を斬るなんて事無いですよね?私は可哀想な子供の教育に『貢献』しているんですよ……若い侍に何もかも……もちろん労働力も全て差し出させて藩校や寺子屋を作らせました。藩の財源を一切使わずにです。根性が無くて腹を切ったり、一家心中したり……そんな役立たずを私の部下にまとめさせてスコヴィル藩を発展させたんですよ。見てくださいこの腹、痩せてるのが鎧の上からでもわかるでしょう?若者に根性が無かったからとても苦しみました。あらゆる苦痛を全て私が受けたのですよ。スコヴィル藩の……いや、日本の最大功労者の私を、まさか斬るなんて真似……立派な若者のあなた様がするはずな……」


「八匹」

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