みんなで歌おう 挿入歌 乱世からの祝詞
チェキラ藩に代々伝わるラップ風民謡です。
世代交代と価値観の変遷がテーマです。
アドリブは世代ごとに変わります。
長い長い戦が続いて
浅い浅い眠りに苛立って
赤い赤い飛沫で洗って
来ない来ない明日は来ないって
明るい灯りを妬んで
優しい笑顔踏みにじって
愛しい誰かなど縁が無いって
未来見ない
来ないに決まってるって
誰だってそうだった
だってそうさ
奪い奪われるのは
壊し壊されるのは
当たり前
今
この穏やかな日々に非常に戸惑って
また壊されるからって
守るべき人を足手まといって
がなって怒鳴って
言いなりにして踏みにじった
なのに俺は
俺たちは
同胞は
故郷は
勝ってしまって
生き延びて謳歌してしまって
ずっとそれが当たり前になって
生まれた子らは
争い憎しみ病を知らず大人に育ってしまって
俺なんかより優れてしまって
転ばぬ先の杖や疑いの視線はすべからく杞憂に終わって
だから俺や戦友たちは
武器や謀略は過去にしまって
忘れようとして
できなくて
吐き出してしまって
ダメだとそれは頭ではわかっているのに
膿んだ傷口
憎しみを
撒き散らす
大人なんかじゃないって
子らは冷めた目で見る始末
『殺してやりたい』
上目遣いの視線で鬼畜を見る目をして
悲しいがそれで良いんじゃないか
俺らが蔑まれれば
力だけで生きて来た俺らが蔑まれれば
もう争いは起こらないんじゃないか?
そこのお前
俺に憧れるな
鍬を取れ
耕せ
辛いなら赤の他人の俺を憎め
そうだ
お前の隣にいて見本を見せようとしている親は
多分
毒が血に流れていて
お前を利用しようとしている
しかし毒の中にあるわずかな温もりは
血で血を洗って生きて来た俺には
けして造り出せない物だ
たった一度で良い
一度きりで良いんだ信じてやれ
裏切られるとわかっていても
たった一度で良い
信じなきゃ
信じ方がわからないだろ
そこのお前
俺に憧れるな
醜い欲から意地汚く何かを生み出そうとする行為と
持っている者から鮮やかに卑怯に奪う行為は
結果が同じでも
全くの別物
辛いなら
お前の親をそんな風にした
俺を憎め
暗い暗い夜が明けて
熱い熱い煙昇って
広い広い空に広がって
狭い狭い食卓に膳が乗せられる
明るい太陽が照らす街は
卑しい暴力が
かつて何度も焼いた
勇ましいと信じてその行為を続けたが
誇らしいとはとうてい思えない
誰が美化した?
でもでもだって
ちょっとくらい良いじゃない
つまらない日常にかすかな毒の隠し味?
昨日
刃
競り合って響き
非日常が日常の戦場で
股
踏み砕いて
喚いた虜囚
嘲笑った
殴って
殴って
殴って
殴って
皆で嘲笑った
なのに俺は
俺たちは
お天道様敵に回して勝ってしまって
生き延びて謳歌してしまって
ずっと目を逸らして見ぬ振りして
生まれた子らは
争い憎しみ闇を知らず
上手く大人になれて
社会は平和になって
殺し合いとか
豚みたいな犬死にとか
かつての地獄の話を聴きたがる
だから俺たちの殿様は
もっと素晴らしい事をしようぜって先頭に立って汗水たらして
でも俺たちはどうしても着いて行けなくて
トシなんだと自分を蔑んで
閉じたこの口
かたくなに他者を拒むようになった
役に立たないって
若者は冷めた目で見る始末
『殺してやりたい』
血みどろの小石
見下すような視線で
嘲笑えるが
それで良いじゃないか?
俺らが蔑まれれば
奪う事しかしなかった俺らが蔑まれれば
子らは誰かから奪おうとしないんじゃないか?
そこのお前
俺らに憧れるな
拳をほどけ
妬むな
辛いなら血みどろの小石を憎め
そうだ
お前に愛と希望そして富を見せびらかす隣人は
間違いなく心が渇いていて誰かを貶めなければ安心できないんだ
同じだ
お前と
俺とは違うお前と同じなんだよ
血で血を洗って生きて来た俺とは違う
お前たちは同じ仲間だ友達でいてやれ
友達だと信じて良いんだ
いつか裏切りにあっても
友達でいた事は無くならない
友達がいなきゃ信用は得られないんだ
そこのお前
俺に憧れるな
心の中に渦巻く憎しみを押さえ付けて作り笑いをするのと
心のままにウゼェ奴らを片っ端から殺して行くのは
ーー何もかも全くの別物
辛いなら血みどろの小石みてぇな俺を憎め
故郷
家族
仲間
明日
世界
生命
わるいのはだいたい
●●(仕える藩主の名前が入る)
(アドリブ)
それは『昨日』が望んだ
『今日』の証
『明日』の希望
俺ら忠臣
藩の中心
政に熱心
民は感心
人に優しい政治が本心
それが俺ら武士の精神
どうかそうであってくれと
そこのお前
俺に憧れるな
そうであった奴は確かにいたんだ
そこのお前
俺に憧れるな
お前の中にだってその願いはあるのだ
そこのお前
俺に憧れるな
そこのお前
拳をほどけ
赤い血に憧れるな
獲った首の数なんて自分にしか自慢できない
一応解説。
豊臣家滅亡後、
変わる世の中で戦国時代の価値観に囚われた人々が、
自分たちの狭い視野の中の言葉のみ綴った民謡
で次の世代に何かを残そうと試みるけど、
かえって悪趣味な歌詞になった。
チェキラ藩の人々がどう受け止めたかは、
読者の皆さんのご想像にお任せします。
なぜラップなのかって?
ラッパーの皆さんに謝罪させてください。
ごめんなさい。




