7話
ジュリさんがつれてきてくれたのは、女子二人で入って良いのか心配になるほど、屈強な男たちでいっぱいの大衆食堂だった。見れば冒険者の方たちだろうか、強そうな装備に身を包んだ男女のチームや、海賊の方たちだろうか、日に焼けた筋肉質の男たちや……。
このお店、前を通ったことはあるけれど、入る勇気がなくて素通りしてしまったところだ。
「私、よくここに来るのよ。おなかいっぱいになるわよ!」
「確かになりそう……」
ジュリさんは男たちの座る席をスイスイよけて、窓際の席へと。私もあとに続く。
お昼なのに、いろいろなお酒の臭いと、お肉の匂いですでにお腹一杯になりそうだ。
「ジュリじゃねえか、昼間から珍しい」
隣の席の、恐らくは海賊の方だろうか。ジュリさんに気さくに話しかけた。
「ウディ、あなた昼間からお酒飲んでて良いの? ちゃんと収穫はあったんでしょうね」
ジュリさんも物怖じしない。
「はっ、聞けよ。他の海賊船と戦って、勝ったんだぜ。ついさっき戦利品を港に売ってきたとこだ」
「だから昼から飲んでるのね。景気いいならおごりなさいよ」
ジュリさん、めちゃくちゃ強気だ。ウディさんは「いいぜ、今日だけだからな!」と二つ返事だった。
「ラッキーね! ルーン」
「ジュリさん、常連さんなんですね」
びっくりしていると、ウディさんから「おいお嬢ちゃん」と声をかけられた。
「ジュリの友達か? ……あんた見たことあるな、もしかしてごみ拾いしてるお嬢ちゃんか?」
「えっ、なんで知ってるんですか」
ウディさんはガハハと豪快に笑って、「おーいお前らー!」と、いきなり仲間を呼び出した。ぞろぞろと強そうな男の人が集まってくる。さすがに緊張してしまう。
「ジュリの友達らしいけどよ、この子だぜ海をきれいにしてくれてんの」
「おお、この子か! 船からいっつも見えてたんだ!」
「ありがとうよー。俺たちもごみ捨てねえように気を付け始めたから!」
わらわらと集まってくるので、どうしたらいいか焦っていると、ジュリさんが大笑いし始めた。
「ウディ! 困ってるからやめてあげてって! あははは」
「ご、ごめんなお嬢ちゃん! いやでも俺たち感動しちまって」
「いえ、あの、気づいてる方がいたのにびっくりしちゃって、ありがとうございます……! うれしいです、がんばっててよかったです」
なんだか笑いながら泣けてきてしまった。
少しだけ報われたような気がする。ちゃんと海と町の役に立ててたんだ。
「ジュリ~、お前良い友達じゃねえか大事にしろよ!」
「ちょ、酒くさいから顔近づけないで! それよりあんた、私たちの分の肉と酒も頼みなさいよ!」
「わりぃわりぃ、いっぱい食えよ! ルーンちゃんだっけか」
「は、はい!」
「今日は会えて嬉しいぜ! 今日はパーティだな!」
いつのまにか、店中にいた他の海賊や冒険者の方も巻き込んで、私とジュリさんを取り巻いて盛大な酒宴がはじまってしまった。
どんちゃん騒ぎのなか、運ばれてきたのは、大きな肉の塊が、香草と一緒に丸々焼かれた料理だった。びっくりしている間もなく、ジュリさんはナイフで切ってはパクリ。切ってはパクリ。真似して、少しナイフで切って口にいれてみる。お肉の濃い旨味が、脂といっしょにじゅわっと口のなかに広がった。
「ジュリさん! おいしい!」
「でしょー。ウディのやつ、気が利くわね。一番いいやつ頼んでくれたみたい」
ジュリさんは楽しそうに笑う。
「ジュリさん、こんなにたくさんのお知り合いがいたんですね。今日、連れてきてもらえてよかったです!」
「ありがとうルーン。お嬢様って言ってたから気に入ってくれるか不安だったけど、案外すぐ馴染んだわね!」
「お嬢様ってほどでもないんです。領地もない男爵家なので……。本来、ラウド様とご縁があるような身分じゃないんです」
ラウド様の名前が聞こえたのだろうか。ウディさんたちが「お、アニキの話か!?」と割り込んできた。
「ルーンちゃん、ラウドのアニキにはもう会ったか!? すげぇんだぜアニキは!」
アニキ……。
一瞬、誰のことを言っているのかと分からなくなった。ラウド様のことで間違いないみたい。
ウディさんは心酔の表情で続けた。
「アニキがこの町に来てから、戦利品を高く買ってくれるようになったんだ。あとは魚も獲れば獲るほどどんどん売れる。感謝しかねえ」
他の海賊さんもラウド様の話を次々に、興奮しながら教えてくれた。
「俺たち、いままで船で寄るところもなくて、困ってたんだよ。アニキがこの町や港を、海賊でも寄れるように整備してくれたんだ。今ではここが俺たちのホームだぜ」
「なかには性質の悪い海賊や冒険者もいるだろ。そういうのはアニキが全部ボコボコにやっつけてくれたんだ。みんなアニキには逆らえねえんだ」
目をきらきらさせながら話をしてくださった。
「あの、もっと聞きたいです、ラウド様の話……!」
「いいぜいいぜ!」
ジュリさんは、少し安心したような目で見つめてくれていた。
私は夢中になって、ラウド様の武勇伝をたくさん聞いた。
「ジュリさん今日はありがとう」
すっかり日も暮れたころ。ウディさんたちはお酒で酔いつぶれて、お店のなかでゴロゴロ転がっていた。そーっと二人でその場をあとにして、海辺を歩きながら改めてお礼を言った。
「ごめんなさい、途中からラウド様の話ばっかりで。ジュリさんのおはなし、全然きけなかった」
「また今度で良いよ、私も楽しかった」
ジュリさんは微笑んでくれた。
「また行こうね、気を付けて」
誤字報告ありがたいです。見直したつもりですがなんてこと……。ばしばしいただけるとありがたいです。
ブクマ高評価ありがとうございます。
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