4話
あの夜、帰ってからはというと、ラウド様は早々に部屋に戻ってしまい、ぽつんと暗い屋敷のなかで放置されてしまった。仕方ないので、許可も貰えないままとりあえずお風呂を借りて、体を清めて、着替えてそのまま寝た。
……私とラウド様って婚約したのよね?
まだ一緒に寝るのは早くても、せめて寝る前に一言下さったらいいのに……。
そんなことを、翌朝、一緒に支度をしてくれたフォルに漏らすと、
「旦那様はなにもわかってないんですね……」
言いにくそうに呆れていた。
「さて私はどうしたらいいんでしょうか」
ラウド様から、身の振り方も全く言われていないので、どうしていいのかさっぱりわからない。今日は執務室にいらっしゃるというので、朝食後に訪ねてみた。
「ルーンか、おはよう」
長い黒髪を後ろで束ねたラウド様は、部下二人を隣に控えさせて、気だるそうに書類に目を通していた。昨日、領地経営はなにもしていないと言われていたが、さすがにそんなことなかったんだとホッとした。
「ラウド様、昨夜はおいしいお料理をごちそうさまでした」
「ハッハハッ。んなこと言いに来たんじゃねえだろ」
高そうな机にどかっと足を上げた。
不遜な態度に、一瞬怯んでしまう。
「……あの、ラウド様の婚約者として、どう振る舞えば良いかと思いまして」
「あー……」
気まずそうに宙を見る。
さてはなにも考えてなかったのだろう。
やがて、言いにくそうに口を開いた。
「気を悪くしないでほしいんだけどよ、俺はくそ親父……じゃねぇわ。国王様から、早く貴族の令嬢と婚約して身を落ち着けろと言われてたんだよ。だから、王族共が黙ってくれりゃそれで良いんだ。どんなオジョウサマと婚約しても、知ったこっちゃねえと」
昨日の歓迎が完全にうわべだったのが確定した。
「だからお前が来ようが妹が来ようがどっちでもよかったんだ。ただでさえ、俺の噂や顔が恐ろしくて、どうせまともに婚約なんかできるはずねえと思ってたからな」
ラウド様の部下の方が慌てて止めに入ろうとしている。しかし、気にも止めない。
「案外おまえは、骨があるみたいだな。でも、悪ぃけど別に、仲睦まじい夫婦になることも、領地経営も、貴族教育もおれは必要とはしていない。何にも期待しねぇ。好きな本でも読んで、ゆっくりしてりゃいい」
これが彼の本音だったのだろう。
なんとなく、手紙をもらった時点でそんな気がしてたので、そこまでショックは受けなかった。
逆に考えると、以前の婚約者のように、気に入られようとか、彼の思う女性になれとか、そういうプレッシャーは感じなくて良いということだろう。
それはそれで、私は思わずほっとしてしまった。
「わかりました。では、好きにさせていただきます」
「おう、なんか不便があれば言ってくれ」
適当すぎる……。
彼の部下も、もうなにも言うまいという顔をしていた。
頭を下げて、「失礼いたしました」と微笑み、その部屋をあとにした。
さてどうしましょうか……。




