何でこんな幸せな思いしてるんだろう(エリザside)
私はエルフの魔導師エリザ。少し訳ありなエルフの娘だ。同族のエルフが見れば私がハイエルフなのは分かるだろうが秘密にしている。流石に奴隷などにされるわけにはいかないしね。
ハイエルフは群れの長、王となる存在だ。だがもちろん冒険者の道を選んだ私がそんなものを望んでいるはずがない。
私は自分の役割を知った瞬間全力で逃げた。逃げた。逃げた。追いかけてきたのは百歳を過ぎたエルフの中では若い同族一人だけだった。
その同族も「実は冒険者をやりたくて」などと言って私に着いてきた。彼もあの村に辟易していた一人だった。
ルイスはうちの村では一番弓が上手い。
エルフ族には多いのだが無口で真面目で弓が上手い、なので予測でしか無かったわけだが、多分くそ真面目な奴なんだろうなあと思っていたっけ。そうでなければあそこまで弓の技術は伸びないだろうと。
だが、本人に鍛練を続ける理由を聞いたら「伝説の冒険者になりたい」とか。
彼は権力志向の姑息な村人のように私が好きな訳でもなく、ガチで私を出汁にして冒険に出た男である。それはそれで失礼だが。
その旅の先で出会った冒険者のカインとサムライと言う職業らしいサトナカのパーティーも、例えばカインは伯爵の三男だし、サトナカは勇者の子孫だ。
何でお前ら冒険者やってんだよ! と、サンなら突っ込みそう。実はサンに気付かれるのを密かに楽しみにしている。
私にしてもお姫様だしルイは弓矢が得意なエルフ随一の弓の使い手、言うなればエルフの勇者の一人だろう。
そんな権力も力もある人ばかりなのにCランクに落ち着いている理由はただ一つ。
私たちは未知を体験したい。
知らない魔法を見たい、知らない魔物を見たい、知らない道具を見たい、知らない奇跡を見たい、知らない伝説を、見たい。
私はそれこそが自分の究極の自由だと思っているのだ。
そんなとこに降ってきたのがサンだ。私たちはみんな多分浮かれていたと思う。サンが仲間になるとも私たちが誰一人仲間に誘うともなく、サンはあっという間に普通に私たちのパーティーに馴染んだ。
これはきっと運命なんだろう。サンは目付きは人殺しだけどふてぶて可愛いし友達になりたかったのも本当だが、何よりサンは女神様の誘われ人なのだ。
何気なく見せられた彼女の持つ、食材を召喚するスキルがその証拠。この時点でみんな気付いた。疑ってもいなかった。
サンは女神様に遣わされた聖女なのだ。
ただ、星の女神様に遣わされた勇者や聖女は皆自由を尊ぶ性質があり、その行動を制限することは国際条約で禁止されている。それはあのいけすかない人族至上主義のウェーリアル王国やロシニキス帝国、魔人国の魔王様でさえ遵守している。
一介の冒険者がそんな法律に障る行動は取れるはずがない。もし障ったらこの世界では生きられないだろう。
私たちはサンと共にいれば英雄にもなれる。正直緊張した。里のやつらに私の自由を認めさせられる。我が儘だとは思うけれど、私は自由が欲しかった。
ただ、そんな自分の欲は横に置いといて。サンがめっちゃ危なっかしい。
目付きは人を殺してそうなレベルで悪いけど、そこがチャームポイントではあるけど、戦闘力も警戒心もないこの子を町に連れていったら速攻で拐われて奴隷にされそうである。私たちも落ち目の冒険者なら騙して売ったかも知れないくらいだけどね。
実際うっかり女神様の誘われ人を奴隷にした国が有ったのだが、次の日に町ごと無くなったと言う伝承が残っている。当たり前ではないだろうか。女神様に守られているからには手なんか出せない。
ただ、サンはどうも女神様との関わりを武器にする気は無いらしい。油断はできないがサンならそんな破滅は望まない、そんな気がする。
サンは気の良い子だ。私目線では有るが可愛いと思うし、モテるか? 対象が男性ならそれはないかも知れないが、だが。
サンの料理は超美味しい。しかもワインに合うのだ!
私は腹の汚れた大人なのだと思うし、だからサンと仲良くするのに打算はかなり有ったのだ。カインみたいに甘い人間とは違うんだ。そう思っていたのに……。ダメだ。
何でトマトがこんな美味しいスープになってるの?
鳥の肉がこんなに香ばしいの? というか皮が良いつまみ!
普通は冒険者は毛皮を剥ぐんだけど皮うまー!
ロールキャベツ? 何この肉と野菜のハーモニー。
更にサンは熟成とか言ってわざと腐らせるような技を使ったのに、何故その彼女の作った腐ってるはずのウサギ肉のステーキは、こんなにも私を幸せにしているの?! 臭くも無いし酸味も無い、腐食なんか一切していない! むしろ良い肉の香りがする!
認めるわ。サンは女神の使徒、本物の聖女なのね。
彼女を利用しようと考えた分は、私の女神様への信仰として必ず返すと誓います。
なので、もっと美味しいのをサンに食べさせてもらっても良いよねーっ!
で、私たちが向かっているソーリス王国アルフェ伯爵領都シェスタ。そこにはダンジョンが有るため多くの冒険者が拠点にしている。
私たちはサンを誘ってきっとダンジョンに挑戦する。ダンジョンであんな美味しいものを食べられたら多分私たちはダンジョン攻略までできるに違いない。
さて、シェスタに帰ろう、と、歩いていて気付いた。
私たちは故あって、と言うか依頼で片道一週間離れている村に行っていた、今はその帰りなのだが、誰一人疲れを感じさせない。それどころかルイスなど絶好調で魔物を狩ってきてる。
サンが調理したものを食べてから、私たちの体は回復し、そして身体能力や魔力まで大幅に膨らんでいるのだ。
…………もしや、これが聖女の力……?




