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料理の魔術師

 エルフのお兄さん、ルイスさんに持って帰ってもらったウサギに向かい合う。ウサギを養殖している某国では管理が雑なので動物愛護団体に叩かれていたりするが、ジビエ、つまり狩猟で採取される肉の中でもウサギ肉は人気の食材である。


 まさにウサギのジビエやん。これこのまんま食べても美味いのかな? ウサギのジビエなんて日本ではまず触れないもんね。居なくはないんだけどなかなか触る機会がないし。


 昔はお坊さんが鳥肉と偽って食べてたからウサギは一羽二羽と数えるなんて話があるから、歴史的には日本でもけっこう食べられてた食材のはずだ。ウサギの和食レシピってあんまり聞かないんだけどね~。精進料理にレシピがあるとか笑えるよね。精進落としとか言うらしい。


 あ、ここで断言しておくけど、植物の命に配慮しないならビーガンとか言うやつらは敵ね。何が菜食主義だ。植物は喋るぞ? 粘菌は犬並みに賢い豚より賢いんだよね。


 命に貴賤なんかねえわ。白人至上主義者どもが。食え。食うしか生きる道はない。リソース奪わないなら消滅する。そんなもん当たり前だわ。


 ちなみに人間と同じく一年中生殖活動しているためウサギさんは某雑誌のマークに使われたと言われてるくらい繁殖力が高くて、簡単に増えるので養殖するのは手軽らしい。ウサギが特にエロいわけではないと思うよ。


 食料としては豚や羊よりむいてる。香りのコントロールとかたぶんしやすい。


 ウサギさんは現代はペットとして飼ってる人も多いから犬や猫みたいに思う人は食べられないだろうし、商売で使うには難しい食材ではあるよね。


 ちなみに私は魚や鶏も自分で捌いたことが有るので血は平気だ。私の友達は食材の血を見るともっと流れないかなあ、とか言ってた。サイコだね。


 まあみんな命奪ってるんだから、逆に無駄に命を奪うのは許すなよ。


 一般的に生きてる動物の体内にはアミノ酸や糖質が残りづらい。死ぬ間際に暴れて消費したり吸収したり筋肉や脂肪、肝臓に取り込んだり脳で使用したりするためだ。


 死後直後で美味しくなる生き物なんて魚介くらいだろう。それだって硬いだけと言う人もいるし旨味は少ない。刺身は新鮮な脂の甘味やコリコリとした食感を味わうものだと思う。当然塩味と旨味を持った醤油が合うよね。逆に言えば醤油()料理になってしまうけど。メインの魚の脂の旨さの勝負だね。だから新鮮な脂の多いブリの刺身は美味しい!


 熟成したお刺身も美味しいんだけどブリは脂が酸化して酷い目にあったことがある。それ以来脂身の少ない魚しか熟成しないことにしている。上手く熟成すれば鯵ハムも凄く美味しいんだけどね。


 殺し立ての動物の内臓にはビタミン類が多く含まれてるんだよね。肉食獣が(はらわた)から食べるのも植物性の栄養を得る為だし。人間には死体の持つ菌が命に関わるレベルでヤバいので生ではなかなか食べられないけど。


 スカベンジャーと呼ばれる動物は菌に耐性があったり胃酸が強くて菌を殺せたりする特別な進化をしているので人間が真似をしてはいけない。そういうところは人間の方が弱い。


 ただ、地球でもカナダ北部に住むイヌイットの人たちとかには生肉を主食として食べる風習がある。最近は規制がうるさいけど日本にも牛刺しとか馬刺しとか有るしヨーロッパにもタルタルステーキとか生肉食の歴史は有るけどね。


 イヌイットの生食は、あれは菌が生きられないほどの極寒の地だからできるんだけど、逆に言えば生肉を食べられるのは衛生管理が十分に出来てるからだ。


 イヌイットと言えば世界三大臭いご飯のキビヤックだけど、確かアザラシの体温で海鳥を発酵させるんだっけ?


 ついでに、世界三大臭い食べ物はご存じ塩漬けニシンの缶詰、シュールストレミングと韓国のエイ料理ホンオフェとこのキビヤックだ。流石にどれも作ったことは無いよ。


 結局タンパク質を分解させた旨味成分(アミノ酸)が料理では喜ばれるし、酸化すると不味くなる脂が逆に新鮮なら料理では喜ばれる。脂の乗った鮪寿司とかは新鮮な方が美味しい。赤身は熟成したら美味しいんだけど、マグロなんかは十日程度熟成されてるんだそうだ。


 この肉と脂の二面性に気付くと肉料理も魚料理も上手くなるだろう。私は釣り立ての青魚と和牛の脂が大好きだね。


 熟成肉の旨さは語るまでもない。あれは低温熟成で脂も酸化させずに美味しいままで絶妙なバランスだと思う。脂の乗った熟成肉を目指したい。人工樹脂の袋とかラップが有ればもっと楽なのに……。その分は魔法が有るけど。


 脂を酸化させない手段の一つは真空状態で保存することだね。それは家庭でもできるんだけど、例えば空気を抜くのはストローとポリ袋が有ればできるからね。他にはソミュール液に漬けたり……。


 語り出したら切りがない。脂が多い方が美味しいのは事実だけど脂の酸化を防げないのならそのまま熟成しても美味しくは作れない。つまり、野晒しで熟成するなら脂身の少ないウサギは更に脂身を削ぎ落として熟成してやれってことさヒャッハッハー!


 ルイス、ルイさんにウサギを捌いてもらう。


 獲り立て丸ごとの獣肉の捌き方は究極的にはそんなに差が無い。


 血を抜く、胆嚢や腸なんかを裂かないように外すとか、毛をむしるか焼くか皮ごと剥ぐか。骨を外すか利用するか。内臓をどのくらい食べるか、捨てるか。


 例外は有るけどね。窒息鴨とかブラッドソーセージは血の旨味を味わう料理だし、肉の旨さには血の旨さも含まれている。灰汁になるのは血の部分の旨味成分だし生き血は実はビタミンとか栄養価が高いんだよね。バンパイアも実は健康食志向?


 血を抜くのは血が腐食しやすいためなので、腐食しない条件なら残しても美味いわけだ。ブラッドソーセージは普通に屠殺した時の血を使うからかなり癖が強いらしいけど。


 まあ料理には色々曲者が有るんだけどさ、虫を食べたりとかね。虫は未来の栄養食だがいずれ説明しよう。食感は知らないのだが焼くと海老風味の香りがするんだよね。焚き火とかしてると飛び込んでくるよね。


 ルイさんはウサギをすらすら解体していった。


 この大ウサギ、軽く見積もっても五十キロは有る。つまり可食部位は推定二十五キロ前後。


 可食部位は一般的に魚でも哺乳類でも四十~六十パーセントあるらしい。魚は骨ごと食べる手段もあるし物にはよるだろうが平均はこの辺りだ。


 ちょっと考えてみようか。五人で二十五キロのお肉なんか食べられる? 一人五キロだよ? 凄いフードファイター集めなきゃ無理だと思う。何食かに分けるとか。


 まだ不味い熟成もしていない肉。まあ多分食えなくはないよ? 五百グラムくらいならプラスチックみたいな味でも無理をすれば。数時間で美味しく食えるところまで持っていく技も無くはないけど今は無理だね。にんにくとか玉ねぎ、お酢があったら酵素や酸で分解するんだけど。ちなみにコーラもいいよ。


 コーラは強い酸性だし甘味も足せるからね。昔から飲食店で焼き肉の漬けダレに使われてたりするよ。


 この場ではもちろん、お腹一杯だし食べる必要は無い。なので熟成してやる訳だが、冷蔵室なんか有るわけない。


 この肉を熟成する手段、その一つが塩漬けだ。


 塩漬けにすると菌の繁殖を抑えながら酵素の働きは阻害しない理想的な熟成が出来る。でもカビは防げないからそこは気を付けないといけない。


 ご存じの通り酵素は常温から四十度程度までが一番活性化する。風邪を引くと体温が上がるのはこの効果を利用して菌に対抗するための人体の自浄作用だったりする。この温度を超えると酵素自体が壊れ始めるので注意だ。


 酵素が壊れると生命活動は停止する。体細胞に蓄えた栄養を消化したりできなくなるからだ。他にもたくさん弊害はあるのだが、一般的に四十二度を超えたら人は死ぬと言われている。それを超えたから即死するわけではないんだけどね。


 酵素にもある程度高温に耐える物もあるし、菌類も特殊な構造で熱に耐える物があるので注意してね。この辺りは理科だよね。


 その為に菌の付着を防ぎつつ常温で、塩漬けして熟成すると言う手法がもっともタンパク質の分解を促進しアミノ酸を増やし、肉を柔らかくする手法と言えるのだ!


 まあ常温熟成なんて脂の酸化や菌やカビ、虫の繁殖など不安要素がてんこ盛りだから普通はやらないんだけどね。冷暗所熟成かもしくは日干しが有力だろうか。日干しは殺菌も伴うけど温度が高くなりすぎると煮えるんだよね。お日様の光と熱で調理は出来るんだけどそれはいずれやるかも。日光で目玉焼きとか普通に出来るよ。気温は日光の温度ではないんだね。夏の砂浜の地獄の暑さを思い出すとなんか楽しくなるけどね。


 殺菌に有効な温度、タンパク質が固まり始める温度は六十度前後なので熟成を終えたらこの温度くらいで調理してやると良い。柔らかくしっとり仕上がるよ。


 肉の凝固温度以下での調理。これすなわち低温調理だね。アルコールが入ると沸点が下がるから肉や魚の中心でこの温度が保たれやすくなるんだよ。アルコールが沸騰する時に臭みも飛ぶしね。だからお酒は調理に向いてるんだ。


 ちなみに煮沸してもアルコールがすぐに全部抜けることはない。ビール程度のアルコール度数でも三十分かかるとか。普通に煮物に調理酒を使う限りは残っても全体の一パーセント未満なので、子供が酔うほども残らないけどね。煮物は基本強火だよ。広口のフライパンで煮沸すると早く抜けるらしい。蓋をしてしまうとアルコールは戻ってしまうのでお酒を使った煮物で蓋はしないように気を付けよう。予め返し(醤油、味醂、お酒の組み合わせ調味料)を煮て作っておくのも手だね。フランベとかもアルコールを揮発させる手段だよね。


 前回作ったトマト煮はトマトが焦げるからまずは弱火でトマトを煮潰したんだけど基本は強火だね。


 鶏ハムとか作る時は熟成してから湯煎すると良いよ。湯煮と言うのも有るけどビニール袋とかに空気を入れずに詰めて湯煎した方が味が想定しやすくて良いね。


 自家製鶏むね肉のハムは塩度を濃くするか薄くするかでまた悩むんだけどさ。塩が多いのは保存用、少ないのは美味しく食べる用だ。塩抜きは洗い落とすのと水に漬けるのが有るけど、そのものを調味料として使う方法も有るよ。


 ベーコンやハムの塩度は四から五パーセントが美味しいんだけど保存には十パーセントの塩分が必要だ。塩度が多いのは塩抜きしてスープか調味料として野菜炒めが良いと思う。料理全体の塩度が一パーセント、正確には0・9パーセントになるのが理想。


 表面の塩度は高くても中の塩度は低いので全体の塩度は三パーセントくらいになるだろうか? 二倍量の野菜を使うとかすれば丁度良くなる計算だ。


 鶏ハムにジャガイモと茄子を使った炒め物が美味しいんだよね。茄子は火が通りやすいし油を凄く吸うので鶏ハムとジャガイモに十分に火を通してから仕上げに茄子を入れよう。


 分量は鶏ハムは市販のむね肉の半分で二週間ほど熟成して作り、塩はぬるつきが解けるまで洗ってスライス、ジャガイモと茄子を一個ずつくらいで作ると美味しい。仕上げは胡椒で十分。切り方は全部細切りで、ジャガイモは少し崩れるくらい火を通そう。


 ……今回はウサギモモ肉を塩分控え目、推定五パーセントでまぶし美味しく食べるのを目指すんだけど見た目だと多そうに見えるくらいの量だ。濡れた布を巻いて日影……鞄の中で熟成することにします。なんか説明で疲れたわ。


 熟成が済んだ肉の病原菌を安全に減らすにはトリミングが有効だ。焼肉屋さんではトリミングしなければいけない肉をトリミングしてなくて営業停止になったケースがあるね。


 トリミングとはブロック肉の表面を包丁で削ぎ落とすことで、あらゆる雑菌は外から付着するのでとても有効な手段である。だがそのやり方はとても面倒臭い。この肉をトリミングする時に説明したい。


 これから人の住む町まで四日かかるらしいんだけど、私としてはこの四日間が私がこの世界のメシマズを滅ぼせるかどうかの試金石になるんだろうな。なんかそんな風に思えた。


 ウサギモモ肉の塩蔵の課程でブツブツ独り言を言ってたせいか、リーダーのカインが「お前は料理の魔術師だな」とか言ってきたけど、これくらいまだまだだよ!









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