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やっと自己紹介

 鍋料理作るよー、となったところで私は卑怯(チート)にもスキルを使います。せっかくもらってるスキルなんで積極的に使っていきたいですよね。


 私がスキルにより食材を召喚するとやはり珍しいスキルなのか、みんなの目の色が変わる。ん、なんか皆の目付きが変わったような…………ちょい怖い。


 すみません、このスキル今のところ一日に一回、一キロまでなので食料を大量には出せません! 無限に出せたら戦争に連れていかれたりしそう。最強の輜重兵だしそりゃ目の色も変わるよね! 残念ながらこのスキルで出せるのは今の所、一日一キロです! しかーし!


 私が呼び出したのは熟成牛バラ塊肉(ブロック)一キロ!


 無敵でしょ! この世界の肉を知らないけど物は地球日本産なんだから悪いわけ無いよね! 美味しいの食べさせますから奴隷として戦争に行かされるのは勘弁して下さい!


 さて、それはさておき調理です。


 一キロの牛肉を半分だけサイコロカットにしてトマトを微塵切りにして入れた鍋に白ワインと投入します。まずは弱火でじっくりことこと煮込んで行くよ。


 最後に味は塩で調節して香りを立てるために強火にすると良いよ。スキル卑怯だな~と思わなくもない。実際魔物食材の味は良いらしいので要らなかったくらいだ。


 ピンチには助かるけどね。


 余った肉はやっぱり煮込みの時間稼ぎにサイコロステーキにする。胡椒は無いけど肉が良いから弱火でじっくり火を通して味付けが塩だけでも余裕です。味見に一口、うん、良い肉だ。肉汁じゅわーって来る。美味い。


「うめっ……なんじゃこの肉」


「ミノタウロスか……?」


「うわー、ワインに合うよこれ~っ!」


「エリザ飲みすぎだろ! 俺にも寄越せ!」


「うむ、芳醇な香りを放ち甘味も深く、肉の味自体が良い。私はもう少し硬い肉が好きだがこれは脂がすんなり溶けて独特の食感、旨味がある。何の肉かは分からないが気にならないレベルの旨さと食を誘う香り、恐らくは一流の肉なのであろう」


「サトナカ説明ながーい! きゃはははは!」


 ミノタウロス食う世界なのねー。なんかコントしてるな。面白いパーティーみたいだ。野営で飲むのは危ないぞ。まあ一日で酒が抜けてしまう人は良いんだけどね。


 硬い肉って噛む時間が長いしカロリーも低いし旨味も強いし、お酒飲みには良いんだよ。じっくり煮込んだスジ肉とか美味しいよね。おでんのふわとろな牛スジとか大人から子供まで大人気だし。


 仕上げに薬草を入れて鍋を煮込んでるところで、そう言えばと思ってみんなと自己紹介し合うことにした。


 名前も分からないままじゃ協力体制も築けないもんね。


「俺はこのパーティーのリーダー、カイン=リゲル、探索者をやっている。お前の飯は美味いな」


「なんだカイン、口説いているのか? 私は見た通りのエルフの狩人、ルイスだ」


「ルイはいつもは無口だけどそんなに悪い奴じゃないよー。肉好きだし。私はエルフの魔導師、エリザだよ~! よろしくね~っ!」


「私はエッジ=サトナカ、サトナカでいい。剣士をやっている。故郷のシフォンから美味いものを求めて旅をしてきた身だから美味いメシは大歓迎だ。君の飯は私の好みに何故かピッタリ合ってるから、これからもよろしく頼む」


「お、おおう、私は、木砂(こずな)(さん)です。サン=コズナ? サンが名前ですのでサンと呼んでください」


 リーダーのカインさんにエルフのルイスさん、女の子エルフはエリザさん、サムライ青年はサトナカさんだね。覚えた。


 どうでもいいけど昔から木砂さんと呼ばれるとわざわざフルネームで呼ばなくても~、とか心の中で突っ込んでた。小学生の時は男子がよくフルネームで呼んできてたんだよね、木砂さんさんさーんとか阿呆みたいに言ってたよ。私はお淑やかで臆病だからアルゼンチンバックブリーカーくらいでしか仕返ししていない。


 お陰で目付きで人を殺せるように……なってないです。なるわけないですね。


 この世界では目付きで人を殺せるようになったりするんだろうか、殺気とかで。新たな扉を開いてしまいそうだ。


 みんなに自己紹介したところで牛肉のビーフシチュー風トマト煮込みを振る舞います。香辛料すら無いので自分的には不満足だけど、白ワインも足せたので、まあなかなか美味しい。野宿で食べるご飯のレベルではないね。


 いつもなら、ここに出汁やら香辛料やら砂糖やら醤油やらニンニクやらと色々加えるんだけど、まあ無い物ねだりだ。縛りが無いならもっと美味いの作るし、でも出来ないなら私が得意な引き算レシピと言う発想も有るんだよ。


 だけど、今回は皆これだけでも満足そうだ。


「うーん、肉がたっぷりだからか、それ以外にはトマトと薬草しか具が無いのに何故か満足だ」


「うんうん、ワインにも合うよ~!」


「う、エルフの、……故郷(ふるさと)の味がする……」


「トマトの酸味と甘味、旨味が煮詰めることによってより濃縮された結果、酸味と甘味が調和してまろやかになり、少し加えられた塩味により更にその甘味、旨味が引き立っている。肉の旨味がスープに溢れつつも何故か肉自体のジューシーさも損なわれてはいない。完璧な調理の成せる技か」


 剣士(サトナカ)さん解説長い! でも分かってるね! つかそこまで分かるの?! メシマズ世界の住人なのに!


 あ、あー。そういう呪いか。美味しいものはわかるのに作れないんだ。


 スープを一旦冷まして時間を置き、再加熱するのがポイントだよ。そうすると余熱で火が柔らかに加わり、肉から出た旨味とトマトの旨味が交換され、味が染み込んだ肉とスープを味わえるんだよ。その結果酸味や塩味なんかも肉に染み込むし、全体的に味もマイルドになるんだね。


 食材には水分が多いから煮詰めると水分が減り、味は濃縮されるんだよね。水分の管理は料理の肝の一つだよ。


 そう言えば狩人(ルイス)さんいるんだからなんか肉を獲ってきてもらえないだろうか。ちょっと呼びつける形になってしまったが頼んでみる。


 人付き合いが少なかったから多少吃りながら、食べられる肉を獲ってきて欲しい、と凄いいい加減な依頼をしたんだけど、すぐさまルイスさんは「了解した」って言って森に走っていった。イケメンは行動早いよ。リーダーイケメン(カイン)お姉さん(エリザ)と酒飲んでるけどね。


 ちなみにエリザって十六、七にしか見えない銀髪碧眼美少女なんだけど、四十過ぎてるらしい。異世界マジック。私も若返りたいわ。まあチビだから子供に見られるけどね。二十四だと言ったら全員どう言う意味かは分からないけど嘘ーって言って動揺してた。


 年上に見られてないことを祈ろう。日本では成人してるのに小学生と思われたことが有る。失礼な、身長は辛うじて百五十を超えてるのに……数ミリ。


 ちなみにカインは金髪茶眼で無精髭を生やしてるイケメンだけどちょっと髭が汚いリーダーだ。ルイスさんは金髪に眼はなんと緑! エルフで狩人のお兄さん。サトナカさんは着流し風の服を着て刀を二本腰に差してる黒髪黒目の人で、サムライ風お兄さんだね。


 年はルイスさんが百を超えてる他、エリザさんも四十四歳、サトナカさんが三十歳丁度でリーダーが二十八。意外にもリーダーが一番若い。


 さて、一晩野宿です。ルイスさんはまだ帰ってこないな。大丈夫なんだろうか。


 狩猟についてはジビエが食べたくていくらか勉強したけど、割と熊に遭遇したり、猪とかに突撃されて死ぬ人はいる。野生は怖いよ。


 猪を家畜化した豚は牙を抜かれてるんだよね。


 豚が野生化して猪と交雑するとイノブタって言う本当に魔物みたいに大きい豚が生まれるらしい。日本でも災害避難地区で発生して困ってるらしいよ。猪と豚は親戚みたいなものだから簡単に交雑してしまう。


 話がそれたけど、つまり狩りって本当に死と隣り合わせなんだよ。知識や経験を持って注意していてもそれでも死ぬ時は死ぬ。


 ……私にはできないなあ。そんなとこにルイスさんを行かせてしまったのだろうか。


「なんだぁサン、ルイスの心配してんのか?」


「そりゃするよ。狩りは命がけだよね」


「アイツが何年故郷の森で狩りしてたと思ってんだ。心配するのも失礼だぜ」


「そんなにベテランなの?」


 カインさんはやっぱりリーダーなんだろう、信じて待つ姿勢のようだ。ルイスさんは百年超えて生きてるらしいし大丈夫なのかな。まあ日本人の経験を積んだ猟師でも不覚を取ることは有るので心配は尽きないが。


 だけどルイスさんはそんな私の気持ちを嘲笑うように大きな豚? ウサギを引きずって帰ってきた。


 平気そうなルイスさんの様子を見て、引きずると肉が傷むなあ、とか、私も呑気に迎えてしまうのであった。






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