燻製しよう
翌日は皆が二日酔いで倒れてる中、私は仕込みを開始。魚を燻製だ~! いや、魚は汚物ちゃうけど。
ん? 私もちょっとだけ飲んだけど、私はあれくらい飲んだ程度では二日酔いにはならないね。ドワーフのオジサンが飲み比べを挑んできたけど勝ったよ。オジサンはおつまみが美味しかったからか、大分飲んでたみたいだしね。
飲みながら料理に感謝されてた。やはりメシマズは嫌なんだろうね。他のお客様も何故か酒をあおる私に聖女コールしてたよ。
だから聖女感! 何もしてないのに聖女感を抹殺してしまいそう! 次に来る聖女が哀れだよ……。聖女はジャージで酒が強くないと駄目とか言われたら可哀想だな。気楽だと喜ぶ人もいるか?
鰹節はなまり節作りから始まる。茹で揚げた赤身魚のブロックを同じ魚のパテで成形して一回だけ燻製して干した物で、長期保存は出来ないけど美味しいよ。そのまま叩きやシーチキンみたいに食べられるみたいだね。そのままいくらか油漬けしておこう。
鰹節……て言うか謎の魚を鰹節サイズのブロックにしたものだけど、それを煮込む。端が残ってても一緒に煮込もう。鰹節にする物に半端な物を磨り潰してパテにして塗り込み、なまり節の形を成形しないと駄目だからね。
茹でてると皆が何を作ってるのか見に来る。これは一週間くらいかかると言ったのだが何故か女将さんのイレッサさんやマーメイちゃんを中心に作業を見ている。外から何人か漁師の奥様方らしき人たちも来てメモを取ってるので色々と説明していく。
ほとんどの質問が鰹節以外だったのが面白い。どうやらこの宿で飲んでた漁師の奥さん達らしく、美味しい物を食べられなかったと悔しがっていたので、お昼に昼食会をすることにした。
パスタとかお刺身は広めて欲しいしね。お米も食べる人が多い方が需要が高まって供給も増えるだろう。
ミニ丼とかパスタを中心にスープ物、焼き物とかも美味しい作り方を教えてついでに食べてもらおうかな。そう言ったら奥様方大歓喜。
ここは南国フルーツも多いからデザートもシロップ漬けとか食べてもらおうか。火を通すと食べやすくなるし、コンポートも教えよう。ジャムは有るんだけど何故かコンポートは無かった。これも瓶詰めにしておこうかな。
コンポートには薄く砂糖と水を加えよう。クエン酸も酢酸も煮詰めると酸っぱくなるんだよね。だから甘味と水を足す。言うならば果物は調味料なんだ。肉も野菜も調味料なんだ。それをバランス良く調えるのが料理の基本だよね。
煮込んだ鰹節を成形していく。イレッサさんやヒカリ、エリザも最初だけ見ていたけど二本目からそれぞれ自分でやり始めた。成形した物を燻製室に入れていく。これから一週間、燻製と乾燥を繰り返してカチカチにしていくよ。
余った赤身の塊を炙って、氷水で冷やす。本当は水に浸けないで冷蔵庫に入れた方が良いと言う人もいるけど、速いし臭みも抜けるから別に浸けたら良いと思う。水気はしっかり拭き取ろう。水気でタレの味が薄まってしまうからね。
厚くスライスして玉ねぎとお酢と魚醤をかける。鰹っぽい巨大魚の叩きだよ。
試食した奥様方はにんまりしてた。エリザは飲み始めたよ。昼間から飲むな、とは言うまい。冒険者はフリーダムな方が私も好きだ。
海老の酸っぱいスープの準備をしながら魚を焼く。スープはトムヤムクンぽいの。辛くしてニンニクも使うよ。
焼き魚は丸ごとの二十センチくらいの魚に最初に塩をたっぷりまぶして炙っても良いし切って焼いてから味付けしても良い。
今回は切り身を、この世界の生き物は総じて大きいから切り身料理の方が広がりそうなので、切り身に塩胡椒して小麦粉をまぶし、叩く。
それを肉の脂を使ってしっとりと焼いていく。ムニエルだ。普通はバターで焼くんだけどね。
でも香りが良いなあ。コンソメを使うか熟成して焼くかしたい所だけど、まあ簡単な物から広めて行こう。
仕上がりに焦がしたタイムと黒胡椒。味見が出来ないのが痛いが、最初に塩気はこの世界の標準より薄いけど強めの塩をかけておいた。質量に対し二パーセント強ほどの塩をかけておいたので焼く課程でこの世界の人にとって美味しい塩加減になるはずだ。
エリザには塩気に注意して味わってもらおう。何故かヒカリが混ざって飲み始めた。おい、未成年……じゃないのか、この世界だと十五才で成人だし、成人してなくても赤ちゃんでもお酒飲めるし。
ヨーロッパの都市部では水質が硬水なのでアルコールを混ぜないと井戸水が飲めなかったらしいね。お酒が水より安い世界だよ……。現在だと普通にミネラルウォーターを買ってるらしい。
昔はお酒は飲み物だけど水は飲めないとされていたそうだ。実際にはどうだったんだろう。この国の水は魔法で水を出せるけど召喚されるものは何故か軟水だ。超純水じゃないんだよね。超純水じゃ飲めないからかな。
「塩気バッチリ! って言うかやっぱりお酒に合う! サンの店は居酒屋にしよう!」
う、うーん、吝かでは無いし、お金はエリザたちが出すからそこは最初はパーティーの結論に従わないとね。でも庶民向け定食屋や高級レストランみたいに手を広げて行きたいんだけど……この世界の貴族どんな人たちなんだろう。不安だなあ。
まあ居酒屋で良いか。私もそちら方面のレシピの方が多いし。枝豆とか無いかなあ。大豆を若いうちに売ってもらえば良いんで割と有りそうだけど……、この世界魔物が一番の食料なんだよねえ……。農業が発展しない訳だよ。
さて、ご飯をフライパンで炊いてみる。ここでもお米は食べるみたいだね。スープ状で……超不味い。せめてお粥にしてって言いたくなる料理ばかり。
なので炊いてる途中の米を奥様方にかじらせて芯が有るのを感じさせる。強火で水を飛ばし、水を足す。硬さが程よくなった所で味わってもらう。奥様方ふんふんと頷いた。……私の料理に対する舌は良いよね、相変わらず。やっぱりこのメシマズ具合は呪いの類いなんだろうね。ただ、女神様が呪った証拠は実は無いらしい。変な悪魔の類いがやったのかも知れない説も有るんだって。
まあでもその呪いを解きに来たんだと思えば良いよね。皆に美味しいの食べさせてあげたいな。私の料理レベルで申し訳ないけど。
炊いたご飯を小皿に入れて刺身を並べ、お酢と砂糖、塩で作ったすし酢風のタレに魚醤を少し入れて、辛子を溶いて回しかける。丼の基本は具材の美味さとタレの美味さでご飯を美味しく食べるのが目的だと思ってる。
でもご飯物って好き嫌い分かれそう。スプーンで食べてもらうけど私はサトナカさんが用意してくれた箸で食べる。どうやら箸に興味を持つ人もいるね。
そもそも漁村だとそんなに塩気の強いご飯じゃなくても皆塩気には困らないんだよね。薄味でも行けるのかな。
ミニ丼は意外と受けが良かった。忘れてたけど私の料理には魔力がリアルに宿るんだよね。それで受け入れやすく、美味しく感じられるのかも。
生パスタの打ち方、トマトソースの作り方も教えたので、将来ここはメシウマ地域になることだろう。うん、仕事した。




