海の宿は完璧でした
私が出会った女の子、マーメイちゃんは海際の宿の娘さんらしい。十歳くらいで銛突き漁をするとはなかなか見込みがあるな。
しかも燻製所のある宿の娘さんらしい! 貴女が女神か!
早速彼女の宿に赴く。魚は八匹ほど突いたよ。大物を狙えるのが銛突きの良いところだよね。鯛とかヒラメっぽい魚も突いた。
ちなみにカインリーダーたちは銛突きにハマってまだやってる。宿には女性陣だけで帰ってきたから後で迎えに行かないと駄目かも。
ちなみに一番たくさん突いたのは何故かリカエーナちゃんで最下位は何故かボウズ(何も獲れなかった)だった勇者ヒカリだったよ。魚が泳いでるのをひたすら見てたら可哀想で突けなくなったらしい。軍隊は殲滅したくせに。成り行きで勇者になったらしいけど凄い勇者向きな性格だよね。多分女神様の計算通りなんだろうなあ。私も聖女向きなのか?
無いな。殺人犯の目で銛突きを楽しむ聖女なんか居ない。
マーメイちゃんのご両親が経営する宿、「太陽の飛び魚亭」と言う名前の宿に着いた。店主は女将さんのイレッサさん。旦那さんは遠洋漁業でなかなか帰ってこないらしい。マグロとかも有るのかなあ? そもそも遠洋漁業が出来る船舶が有るのか。魔物に沈められたりもするのでかなり危険だけどお金は儲かるらしい。蟹工船も有るんだろうか……。
マーメイちゃんの家の宿、太陽の飛び魚亭は古風な白い壁と木の柱で、どこか懐かしい雰囲気のある宿だ。この辺りの家はだいたい同じように白い壁だね。でも宿は四階建てで部屋数は多く、敷地も広く、設備も多いのが分かる。高級宿だけれどせっかくなので今回は勇者と魔王に支払いを任せよう。次は自腹で泊まりたいね。二人には痛くも痒くもない値段らしい……ブルジョワめ……。
「いらっしゃいまし、あらあらまあまあ、マーメイがお客様を連れてきてくれたの?」
あらあらまあまあってこの世界の標準なんだろうか。あらあらまあまあ。
女将さんは前にジャージを作ってもらったミレーナさんに似ている太った四十代後半の女性だ。
聞いてみれば親戚では無いらしいが知り合いなのだとか。マーメイちゃんのお母さんにしては、少し高齢かも。
「お世話になります。厨房や燻製所を貸して頂けると聞いて来ました」
「あら、料理人さんですの?」
「はい」
イレッサさんはやはり料理人と言う言葉に眉をひそめたが、私はニヤリと笑う。私の作るご飯は美味しいよ。私の目付きがヤバイのは気にしないで欲しい。
「あ、ああ、じゃあ作ってみると良いよ。私も女神様の聖女様を迎えるために魔石コンロとか燻製所を用意してる口だからね! 美味いものを作れると言うなら作ってみれば良いさ!」
おう、なんか攻撃的だね。どうもこの世界の人は美味しいご飯に飢えてるあまり料理人に攻撃的になってる気がする。見せてもらった魔石コンロは火力調整が出来る普通のコンロじゃん! これは勝てる!
聖女を迎えるために。そうか、この世界に色々と調理器具やカトラリーが作られているのは、いつか来る予定だった私の為なんだ…………。全ては最初から決められていたのかも知れないね……。これは半端な料理は出来ないよ。
でも海に来て、魚も獲った。海鮮が大好きな私が美味しいご飯を作らない訳がないね!
まずはサラダだけど、鯛風の魚を使ったカルパッチョにしよう。スライスした鯛に塩と酢、レモン汁、オリーブオイルに胡椒を使ったドレッシングをかけるだけだけど、美味しいよ。彩りに緑の薬草も添える。トマトもミニトマトが有るなら添える。無ければ種を抜いたトマトを小さく切る。
幸いにも港町の人は生魚に忌避感は無いらしい。リーダーたちはちょっと怯んだけど食べたら美味しそうだった。やはり冒険者の血が騒いだんだろう。
魚は酢に浸けたら少し締まるまで待った方が美味しいよね。酢漬けは大好き。その間空気に触れにくくしないと駄目だけど。ラップが欲しい。
メインはヒラメのムニエルね。コンソメを加えたいけど無いので焦げ目を少し付けて塩胡椒、最後にトマトソースをかける。昆布とか有ればすりおろしてソースにしてかけるんだけどね。バターもまだ無い。私はバターはあんまり使わないけどね。カロリーが気になる……。
みんなお酒が進んできたところでおつまみに小魚を焼き魚に。普通? いや、塩加減バッチリの焼き魚は最高の料理だよ。炭火で脂を落としながら焼く。少し味が淡白になるけどこれがお酒には合うんだよね。
とどめに鍋。コチとかの白身の魚を中心に、ホームタウンのシェスタから持ってきた熟成肉のスライス、レッサーコカトリスの肉団子、薬草とか野菜も入れて寄せ鍋にするよ。白滝もこの際召喚するか?
宿に有ったエビとか蟹もいただいて投入。最後に投入するためのご飯も炊いておく。
最後にこのご飯と少し召喚した味噌も入れるよ。雑炊は締めに最適だね。ラーメンやうどんも美味しいけど、お酒の後は炭水化物だもんね。
「サンは勇者の私を殺すつもりらしい」
「う、うわあー! 美ー味ーいーぞー! 我も死ぬー!」
「いや、飯で勇者と魔王に勝つなよ」
「これなら勝てる」
「ワイン、ワイン増やして! ガンガン持ってきて!」
「……すまん、流石にここまで色々と入れられると感想が難しい。サラダ風の魚料理もカリカリの焼き魚も、普通の焼き魚も、どれも素晴らしく美味い。しかし海鮮と野菜の旨味が凝縮されたスープに私の故郷の味である味噌と米を加えられた最後の鍋は私の魂を震わせるに相応しい料理だった。サンに感謝を」
「サトナカさん長いです……。ううっ……これも、それも、美味しいです……」
うん、概ね好評のようだ。まあ鍋で失敗する方が難しいんだけどね。出汁は具材から取るのが一番良い。昆布とかも有れば良かったんだけどね。
うーん、海鮮はまだまだ有るし、これから加工もするつもりだからエルダには長く滞在する事になりそうだね。
しかしまだだよ、今宵はまだまだ私の魚料理が火を噴くよ!




