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海の幸への期待

 私たちのホームタウン、シェスタから海の町エルダへ向かう。四時間で着くと言うがそういえばカインリーダーたちは私と会った時には片道一週間、ほぼ荒野を旅していたらしい。それに比べれば、この道のように途中に村を一つ挟むのに片道四時間で着くのは楽な旅だろう。


 カインたちが私をあっさり受け入れた理由が分かる気がするな。私がいれば飢えが軽減されて、しかも美味しい物が食べられたら心も体も軽くなる。実際に魔法なのかなんなのか私のご飯を食べると力が倍になったり魔力が同じく増えたり、古傷まで塞がるらしい。

 それでカインたちはその時点でほぼ疑い無く、私を聖女だと認識したんだとか。うーん、確かに力だけは聖女らしいかも知れない。


 でもなあ、私が聖女とか無理があるんだよね。ジャージだし、頭にタオルだし、目付きは私を含めて満場一致で人殺しって言い切られるレベルで悪いし、武器が包丁だし性格はおっさん臭いし色気無し、体型も上から下までストーンとした寸胴だし、髪型はショートのボサボサ頭で自然に焼けた茶髪、肌の色も白くはないしこっちに来てからずっとスッピン、そんな外見だから下手したら少年に見えるし、料理しか出来ないし、趣味はご飯、山歩き、サバイバル。……聖女の匂いもしないね。


 うん、外見とかで落ち込むのはやめよう。どうにもならない。初めて馬車の御者さんと目を合わせたらやはり怯えられた、とかは記憶から消すのだ。


「大丈夫、サンは可愛いから」

「そうだよ! ペロペロしたいくらいだよ!」

「貴様は体目当てだろ!」

「そうだが?!」

「滅びよ!」

「滅び?!」


 エリザとヒカリは褒めてくれるが男性陣は、うーん、みたいな顔をしている。良い度胸だ、今日は飯抜きだ。少し遅れてリカエーナちゃんも可愛いです、とか褒めてくれた。……飯に釣られたね?


 まあ今日は海の町に着けばあまり時間も無いので有り合わせで……青椒肉絲でも作ろうかな。筍とか無いしハムを焼いても良い。竹ノ中ヒカリは筍だろうか?

 野菜ものはピクルスとか付け合わせになるけど良いかな。野菜は量だよ、兄貴!


 短時間の移動なので生野菜もいくらかある。数日なら野菜も日を当てたりしなければ、暑くなければそうそうは腐らない。風通しが悪いとエチレンガスで傷むけど。根菜なら、かなりキツい条件でも保つからそれ自体を保存食として輸送するのも良いかも。

 ただ、この世界の野菜はでかいのが難点だ。今回はヒカリとグランくんに持ってもらえるが、私もやはりアイテム保存ボードなるものを手に入れたい。家と張る価格らしいからかなり先になりそうだが。


 それにダンジョン内で熟成するならやはり普通のバックパックとかも必要になるだろう。荷物持ちは大変だ。


 ダンジョン内での熟成で一番有力なのがアルコールやニンニク、もしくは玉ねぎ等を肉と一緒に瓶詰めするやり方だ。これなら最初の旅のような脂が酸化をしてカビが生える可能性があるような無茶な熟成はしなくて済む。むしろご飯が楽しみになるだろう。ポリ袋さえ有れば、とは何度も思わされる。小麦粉とかを召喚すると入れ物としてポリ袋も召喚できるので、それを有効活用するしかないかな。


 まあ最初から料理の魔術師と言われるくらいには期待されていたけど。これって俺TUEEEEって奴かな? やってしまったな! この世界がメシマズなだけだよね……。頑張ろう。目指すは飯UMEEEEか?


 やがて馬車はシェスタ、エルダ間の村リンネを通り抜ける。本当に通過地点でしかないみたいだね。この辺りなら村と町の間隔が狭くて魔物もいないし山賊も出たらすぐに討伐されるらしい。

 少し寂れた村の様子を見て村興ししたい気も起こってくる。うーん、でも余計なお世話な気もするな。それでもこの村に住んでる人には意味が有るんだろうから。


 寂れた村を通り抜け、馬車は進む。景色を改めて見ると、緑が多くて本当に良い景色だ。都会暮らしの身としては虫の多い田舎暮らしは辛い部分も有るけれど、それでも田舎で暮らしたい気持ちは分かるなあ。


 風を浴びながら外を見ていると、ふと、潮の香りを感じた。幼い頃に父に連れられ、海に釣りに行った記憶が甦る。


 私の両親は私が高校一年生の時に、事故で死んだ。私はそれから一人暮らし。高校を卒業してからは家を売って両親の保険金とバイトのお金で暮らしてた。


 人生終わってた。出会いなんか私の見た目で有る筈もなく、ただ美味しい料理を食べる事ばかり考えていた。ダイエットだってモテる為なんかじゃない、美味しい料理を沢山作るためだった気がする。山登りも趣味だったから、太って動けないと困るしね。油もの好きだし。


 森を眺めていると緑色の樹木の列は唐突に割れて途切れ、そこには白い石畳が真っ直ぐ貫いた茶色い地の果てと白い砂浜、そしてエメラルドのように輝く海、白い巨人を連想させるような入道雲、最後に遠く、遠く、深く青い空が広がっていた。


「うーみー!」


 可愛らしい声で聖女な外見のヒカリが叫ぶ。私も心の中では叫んでいた。


 うみのさちー! うみのさちー! ってね!


 そう叫んでいた。魚介は大好物だ。

 うーん、何から作ろう。赤身魚に白身魚、海老、蟹、貝、イカ、この辺りは外せない。タコも有るのかな~。

 昆布や鰹節も作らないと。この二つが有るだけで醤油や味噌がなくても和食作れるしね。カビを使う本枯れ節は無理だけど茹でてから燻製を繰り返すだけの荒節は作れるし。


 ああ、私の得意メニューの和出汁のチーズリゾットも作れるなあ。和出汁で作るとさっぱりしてチーズの美味さが引き立つんだよね。お米も有るし一番に作ってやろう。昆布が有ればだけど。

 お刺身も食べたいなあ。フライパンで叩きも作れるし、うわー、凄い夢が広がるなあ。

 この世界ならではの海の幸にも期待が大きい。

 ウニやアワビみたいな珍味も有るんだろうか?

 楽しみだ!






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