リカエーナと瓶詰め
手の空いてるカインリーダーとサトナカさんには野菜を買ってきてもらうことにした。市場は私も行きたいが明日にしよう。
エリザには瓶詰め用の広口の瓶を買ってきてもらう。余ってる肉の瓶詰め熟成を試したい。肉の処理をルイさんとやっておこう。
「あの……」
「ハイッ!?」
突然後ろから話し掛けられてビックリした。この子は勇者ヒカリの被害者のリカエーナとかって名前の女の子だっけ。まだ手を出してはいないらしいが目のハイライトが消えてて怖い。人のことは言えないが。
「私も……何かお手伝いを……」
「あ、うん。じゃあエリザが戻ってきたら瓶詰めを作ってみようね」
「はい」
ん、少し明るくなったかな。美味しいものたくさん食べさせてあげよう。
この世界の食べ物は薬草とか不味いのは安いけどトマトとか美味しいのは高い。更にそれを料理するセンスが低い。塩トマトも珍しがるレベルだ。
メシマズ世界とは言われてたけど酷すぎる。
ただ、どうも私が作ったらそれを他の人が真似するとかは出来るみたいだ。そのうち女神様の言ってた呪いが解けるのかも知れない。私の料理にはそういう魔力が有るのかも。
そこだけ切り取ったら聖女っぽいのに!
とりあえず卵や牛乳、出来れば乳製品を確保したい。明日は何としても市場を見に行かないとね。冒険になかなか行けないけど、まあそれも怖いし良いかな。
あの包丁ちょっと威力が有りすぎて私の場合同士討ちが怖い。ちょっと訓練をしておかないととても冒険は出来ないだろう。
それにしても私はともかく勇者や魔王がいるんだから誰かにお客さんとか来そうだよね。良くない感じのお客さんとか来たらどうしよう。
リカちゃんにお肉の塩漬けを作らせながら私は今ある香辛料でソミュール液を作っていく。お酒とか有ればなあ。リーダーの白ワインを後で拝借しよう。
リカエーナちゃんの塩漬けはしっかり塩漬ける感じだ。少し塩を少な目にさせる。燻製にするつもりだしね。
脂身は少ない方が熟成に向く。脂身は空気に触れていると酸化して行くし、緑色になったらもう食べられない。凄まじい未知の不味さになるよ。過去にはまとめ買いした食材を冷凍せず、塩漬けにして保存してもいなかったので腐らせたこともある。
市販の豚の脂であるラードとかは酸化防止剤が入ってるんだよね。ビタミンCが良く使われる酸化防止剤だ。完全に酸化を防げるならむしろ脂身が多い方が美味しいよね。
例えば旨味成分は鶏肉、豚肉、牛肉の中では鶏肉が一番多く牛肉が一番少ない。牛肉が一番人気があることを考えれば、つまり脂が旨味に作用しているんだろうと言うのは分かる。なので熟成した赤身肉に新鮮な脂を挟み込むような手法も有るくらいだ。単純に旨味が強ければ美味しいわけでも無いしね。味のバランスは本当に大切。
失敗は多い。けどそこからみんな学んでるんだけどね。失敗するのはチャレンジしてるのだから当たり前だと割り切ろう。むしろ失敗に学べるなら失敗はたくさんした方が良いんだ。
ちなみに熟成庫代わりの小さい倉庫には床に氷を作ってもらって冷却してる。湿度が高いのが問題で、カビが怖いのだけれどそれも魔法で浄化してもらった。そういうとこ、魔法便利だよね。科学じゃ出来ないことが出来るからこその魔法なんだろうけど。
「サン~、頼まれた物買ってきたぜ」
「サンが望むような葉野菜と根菜を各種幅広くバランスよく揃えてきたつもりだ。確認してほしい」
さて、野菜を買いに行ってもらってたカインとサトナカさんが帰ってきた。でもどれもこれもデカイ!
キャベツはスタンダードなのはキャベツの酢漬けだけど酢が無いし塩で浅漬けにしようかな……。
キュウリなのかな、謎の、緑色で身長ほどもある長い野菜も有る。キュウリは栄養価が低い上に毒素も有るんだよね……酢に漬けたら防げるらしいけど。ウリなら塩漬けにすれば十分だけどピクルス試してみたいなぁ。メロンみたいな甘い瓜も有るだろうし、やっぱりお酢を召喚したいけど明日だ。明日もやること多いなあ。
料理も、そろそろ晩御飯か。巨大なジャガイモをフライパンで焼けば良いかな。衣が作れるならコロッケにするのに。白パン探そう。
油は先程の牛の魔物の脂身がしばらくは使えそう。酸化しないように保存しないとね……。どうするべ。むしろ酸に漬ける手もある。
腐食と酸化の違いもややこしいな。菌や化合により有毒な物質が発生するか、逆にタンパク質が分解されてアミノ酸、特に旨味成分が発生するかと言うのが大事なんで言葉の違いはそんなに重要じゃ無いんだけどね。科学は自然に対するアプローチなんだし。
油漬けにするために植物油を探しに行こうかな。
そうして考えているうちにエリザが帰ってきた。瓶詰めも色々足りないから出来ないや。トマトソースとか瓶詰めしとくか。トマトは大人気でみんな狩ってくる。リカエーナちゃんの瓶詰めは塩漬けか香辛料と塩水のソミュール液に漬けるばかりになってる。塩抜きが大変そう。
夕飯のメニュー、前菜はキュウリとキャベツのサラダを白ワインベースで牛脂を使ってフライパンで熱して作ったドレッシングで食べてみよう。美味しそうだ。
メインは残った肉を何とか食べてみるかな……。玉ねぎっぽいのも有るし……あれやってみよう。
肉を玉ねぎのみじん切りと合わせる。肉は包丁で粗挽きミンチ!
そして倉庫に氷と共に保存。玉ねぎはタンパク質を早く分解してくれるし色々健康にも良い野菜だ。一度に食べ過ぎると死ぬけど。
他にはパイナップルや蜂蜜にもタンパク質分解酵素は入ってるよ。使い方が難しいけどね。
蜂蜜にはボツリヌス菌が入っていて乳幼児が食べると死んでしまうので気を付けよう。ボツリヌス菌は熱してもなかなか死なない奴なんだよね。耐熱性の殻を作っちゃう凄い菌だ。
さて、夜も更けて勇者ヒカリと魔王グランくんが帰ってきたので晩御飯を作りますか。
「おおっ、新しい料理だな!」
「ハンバーグだあっ!」
この二人も勇者や魔王らしくないよね。ただの食いしん坊だ。食いしん坊は美味しそうに食べてくれるから好きだけどね。
サラダをお皿に盛ってハンバーグを焼いて、残り油にワインを入れて熱してドレッシングにして塩で調整してから味見して、ドレッシングをサラダに。ハンバーグは塩でも良いけどこのドレッシングにトマトを足して更に煮詰めてソースにしても良い。温度管理に気を付けよう。なんならソースが出来た時点で肉を温め直しても良いよ。
ワイン入れたけど、アルコールってなかなか飛ばないんだよね。長時間沸騰させるか口の広いフライパンで沸騰させるとより早く飛ぶんだけど。まあ料理全体のアルコール度数が低ければそう問題にはならない。
長時間煮沸すると臭みは抜けるけど食材の香りも落ちる。ワインだと煮詰めるとクエン酸が残るから酸っぱくもなるよ。
つまり普通に調理して沸騰させてアルコールを抜ききるのは難しい。ただ薄まれば酔うほどの量は残らないけど。心配ならアルコールの無いみりん風調味料を使った方が良いかもね。
お酢も揚げたりしたら飛ぶんだけど水と煮れば酸味は強くなるから味付けに気を付けよう。スープ料理やソースはしっかり味見だ。糖質を加えれば酸味は緩む。トマトのクエン酸は焼かない限り残るのでこれもソースにするなら種を取ったりした方が良い。栄養価は下がるけど味は落ち着く。煮詰めてから水とか出汁を足しても良いかもね。
酸味は栄養として健康に良いけど料理で扱うのは難しいね。甘味を加えてまろやかにする方法もあるけど。栄養がある料理と美味しい料理には差が有るんだよねえ。私は健康より美味しいものが食べたい。人生は楽しんでなんぼだと思ってる。




