メシマズ世界の理由
なんか急に女神様の声が聞こえてスキル使用回数が一回増えた。でも総召喚量は一キロで変わらないらしい。百グラムスパイスを召喚して九百グラムお肉を召喚するような事ができるので無駄ではない。むしろ手が増えて有り難い。
そもそもこの世界に有る食材を積極的に使って行かないとメシマズ世界を救えないからね。召喚に頼りすぎるのはやめておこう。
カインリーダーたちと勇者と魔王を連れて宿に帰ろうとしたら勇者と魔王がお金を出してくれたので別のかなり良い宿に替われた。厨房も借りられるのでまた騒ぎを起こさなくて済むね。
……この人たち、魔王とか勇者なのに私たちのパーティーに入れるのか?
なんか勇者は私にはあはあするし魔王は飯飯言ってショタ可愛さ全開だし、態度は悪いがほとんど私の召し使いのように振る舞う。良いのかあんたら。しかもお金持ち。責任とか無いのだろうか。
勇者に詳しく話を聞くと虐殺の話が出てきたので黙らせた。何やってんねん。魔王の方も職務捨ててた。メシマズ世界で数百年単位で生きてたらしい。そりゃ辛いわ。
私はカインリーダーたちに助けられた義理が有るから彼らを助けるつもりだが……カインたち本当に幸運な冒険者だな。どこの冒険者が勇者と聖女と魔王をおまけ程度の感覚で連れ回せるんだろう?
まあパーティーハウスとかは彼らの夢なので助けるつもりは無い。そんなのつまらないよね。自分が努力してきたことを他人があっさり叶えてくれたりしたら私なら嫌な顔をすると思う。努力の否定だもんね。何もする気が起きなくなるよ。
努力でどうにもならないことなら神にもすがるけどね。すがったところで神様は助けてくれないし、助けてくれないでも良いとも思う。叶わないと思っていてもやっぱり挑戦していたい。
勇者の付き人っぽい可愛い女の子、リカエーナちゃんがなんかやる気を出してカインたちのパーティーに入った。ロリコンの被害者かな? 私はロリじゃない。ロリじゃない。
「なんか一気に賑やかになったわね」
「本当だねえ」
一気に三人パーティーが増えたからね。
エリザとため息を吐く。私もこんなことになるとは思わなかったね。なんで勇者や魔王と冒険の旅に出る聖女になってるのか分からない。
そもそもジャージを来た荷物持ちで頭にタオルを巻いた包丁で戦う殺人犯の見た目の聖女がナッシングだと思うんですが。むしろ呪術師。藁人形が似合います。
回復魔法を殺人犯の見た目の人が唱える物語。うん、聞いたこと無い。面白そうだけど。
「それでね、彼らがポーターしてくれるならパーティーハウスを思いきって購入しようと思ったんだけど、サンは料理を広めないと駄目でしょ?」
「うん、その予定」
「だからね、いっそサンに商人ギルドに入ってもらって店舗兼住宅に入ろうかと思うのよ。その方が安くつくのね」
なるほど、それなら私の目的も達成できるし彼らも自力で目的を果たしたことになるね。別に彼女らが商人ギルドに登録しても良いわけだし。
良い選択かも。
「サンさんハンバーグ作れる?」
「いくらでも作れるよ。材料が揃えば」
「シチューも行ける?」
「オリジナルシチューは自信があるよ。何の話?」
なんか勇者ヒカリちゃんが色々メニューを聞いてくる。洋食店を起こせって言われたら起こせる程度のレシピは持ってるよ。私の趣味じゃないけど。
「私も修行するからレストラン開こうよ。まかない食べたい」
「後半が目的か」
まあ皆に美味い飯を食わせるのが私の目的だから良いけどね。ただ私の料理は私の好きな料理で、一般的なレストラン向きじゃない。
ファミリーレストランに辛口カレーとか万人向けじゃないメニューを置くと在庫の問題で潰れてしまう。結局はお金儲けだからね。
食料は腐るから貯めておけないし需要が無い在庫は不良債権みたいなものだ。そう言う意味でも料理屋は難しい。
そして高級レストランもまた私の道にそぐわない。一般の人が食べられないのでは料理を広められないのだ。
痛し痒しってやつだね。
そもそもなんでこの世界がメシマズなんだろうか、その理由が分からない。料理レシピが誰かの任意で消し去られているかのようなメシマズ具合なんだ。
「概ね間違ってないわよ。昔ある聖女様が殺されて、星の女神様の怒りを買い、全ての料理の記憶が消し去られたらしいの。これは子供とかに語られる伝説の話なんだけどね……」
その昔、女神の遣わした聖女を愚かな人間が殺害した。
その事が女神の怒りに触れ、全ての人は料理の記憶を失い、また新たな料理を作る感性を殺され、泥のような食事で日々を過ごすことになった。その事が人々を疲れさせ、文明もまた衰退していった。
やがてそれを哀れと思った女神は聖女を再び遣わせると約束された。
その聖女はこの世界に新しく料理を広める。その時までカトラリーや食器を用意して待つように、と。
「つまり、全部あの女神様のせい?」
「聖女様を殺したクソ野郎のせいだよ。その一族は今も世界のどこかで生き地獄を味わってるらしいよ」
ちなみに伝説なので事実かどうかは分からないらしい。もう一つは神を呪う邪神が人々に呪いを広めたとかなんかとんでもない話だった。でも私も殺されたくないからそうやって間接的にでも守ってもらえたら嬉しいね。神様はやっぱりあんまり世界に手出しをしないんだろう。神様のお陰で何でも自分の思い通り、そんなのつまんないもんね。
スキルは神様の慈悲な気がするけどスキルを持とうが悪人になるのは人の勝手だし、やっぱり私たちが努力しないと力を増やしてくれない訳だし、そこは感謝すべきかな。努力して結果が出るなんて実は素晴らしいことだもんね。
そしてみんながお皿とカトラリーを持ち歩いているのはその伝説のせいなんだろう。私はちょっと納得した。




