勇者召喚(ヒカリside)
私はどうやらトラック事故に巻き込まれて死んだらしい。
私の前でジョギングをしていたお姉さんも跳ねられて、いや、踏み潰されてミンチになっていたから間違いなく死んだだろう。他にも何人か巻き込まれたはずだ。なんて迷惑なトラックだろう。
そして謎の空間。ピンク色の綺麗な空間に私は立っていた。いや、立ってるの? 浮かんでる感覚がある。まあ死んだので感覚があると言うのも変な話だが。
目の前に古い中二病を形にした女の子が現れて、勇者として召喚されたので行ってきて、と、言われた。ええ、そこは普通聖女じゃない?
私の見た目は、性格と違って真っ直ぐな黒髪、純情そうな、睫毛の長い黒目、ほっそりとした体型に大きめの胸。白い肌の、守ってあげたくなる女の子と良く言われるけど。
実際は人を刺しても多分平気なサイコ気味の女だったりする。
しかし、どこからどう見ても聖女なのだ、見た目は。性格はこれだ。名前も竹ノ中ヒカリだし、いずれ月に帰りそうなお姫様な名前だ、が、性格は殺人鬼に近い。あんまり感情が動かない人なのだ。恨みとか怒り以外。趣味は食べることだ。フードファイターを目指したいくらい食べるのは好きだ。
しかしまあ死んだのだから仕方ない。勇者になって魔王を倒せば良いのかな? え、魔王は良い子だから倒したら駄目? 頼まれても殺すな? その代わりあらゆる病気や呪いに掛からない?
それは助かるけど。でも魔王を倒さない勇者をなんで送り込むの?
え、成り行き? 運命は人のもの? 文句は呼び出す奴に言え?
私自身は新しい人生を好きに生きたら良いらしい。勇者は実は他の子がやる予定だったけど嫌がったので聖女にしたらしい。それも嫌がったけど無視したんだって。この女神様は割と最悪。ちなみに私には聖女になる権利は無いそうだ。その人が持っていったらしい。会ったら一発殴ろう。
勇者の力で殴ったら死ぬかも知れないか……。そもそもあのクソな女神様のせいだろうし許してあげようか。
そして、呼び出された。
うん、そこにいた貴族らしき人たち、一目で吐き気を催すくらい全員が傲慢そうな目で私を見下ろすように睨み付けてくる。何人か殺して出ていきたいくらいだ。殺るか。
この国は人族至上主義の国、ウェーリアル王国であり、現在は魔王国と戦っているそうだ。うん、魔王と結託して滅ぼそう。
この国では女神様への信仰は有るものの、好き勝手に改編して貴族に都合が良いものにしているそうだ。うん、滅ぼそう。
あとで聞いたら勇者や聖女を縛り付けることも国際条約で禁止されていてこの国も批准してるらしい。もろ違反だ。滅ぼそう。
ちなみにそれらを教えてくれた女の子も奴隷らしく、太った貴族に抱かれて連れ去られそうになっていたので貴族の首をもらいたての聖剣で叩き斬って女の子も連れて逃げた。
私はどちらかと言えばレズビアンだ。しかも真性のロリコンで薄い体型の女の子でなくては受け入れられない。
彼女はバッチリ好み! いただきます!
奴隷は主人が死んだら新しい主人の持ち物になるらしい。だから殺してでもうばいとる、が成立するそうだ。まあ奴隷がたくさんいたらそれはそれで大変そう。殺して奪って解放すれば良いかな。たくさん貴族を殺しておこう。どうせこんな国滅びるんだから。
呼び出した勇者を奴隷とする魔法陣も仕込まれていたらしいが女神様の力で防がれたみたいだね。当たり前かも知れないけど、女神様グッジョブ! 本当にこの国は滅ぼそう。
拐った娘はリカエーナと言う名前らしい。早速その日の内にペロペロして……まあそれは落ち着いてからで良いか。怯えてるし。私はノンケを無理に食べる趣味はない。
聖剣を振るえば魔物は死ぬ。リカエーナちゃんが、これは食べられる、と言うのでトマトの怪物トメィトゥをかじったら美味かった。高級品らしくリカエーナちゃんは泣いていたよ。
残ったトメィトゥ……トマトで良いか、トマトを売ってそのお金で料理を買ってみる。クソ不味い。日本人の舌になんて毒物を流し込みやがる。私の性格で料理をしたことなど無い。せいぜい他人のレシピかお母さんの料理を私が作ったことにして提供するレベルだ。ちなみにお母さんのご飯はほとんど冷凍食品な。
だからかも知れないが、私は美味しい物に飢えている。
あー、このメシマズ世界滅ぼしたいわ~。
魔王に会ったら協力間違いなしだな!
そう思いつつ襲い掛かる貴族を軍勢ごとバッタバッタ薙ぎ倒し……この力をくれたのは流石に女神様に感謝。バッタバッタ薙ぎ倒しながらもうほとんど国が国としてやっていけないレベルまで破壊して奴隷は片っ端から解放して革命が起きそうな状況まで掻き回してから魔王国に入った。
リカエーナちゃんは私が何をやっても「流石は勇者様ですわ! さすゆう!」としか言わない機械みたいになってしまった。あれ、こんな娘だっけ? 目のハイライトが無いぞ。誰かにレイプされたかのようだ。許しがたいな、そいつは!
魔王国に入ってから魔王国の貴族とかに会ったけど普通に復興作業に自分から出ていくようなタイプばかりで戦闘は一切無く、そもそも魔人族と人族の確執は有るものの、多くの魔人族は長生き故に恨みを捨てようと言う人が多かった。そもそも人間なら数十年単位だけど彼らは人生が数百年単位だからやってられないのかも知れないな。
うーん、やっぱり引っくり返してウェーリアルだけでも滅ぼしておこうかなあ。
ただ、リカエーナちゃんの目が本気でヤバイのでやめた。人を殺しそうな目をしている。私は殺してるけど清純な目のままだ。見た目詐欺師ですね。
魔王との謁見はすんなり叶った。他の待ち人も多くいたようだが外国からのお客様と言うことで最優先で通してくれたらしい。本当にこの国は人が善すぎるな! 先を譲ってくれた人たちもどうぞどうぞと送ってくれるし。そして……。
「我は魔王、グラン=デリス。勇者よ、何が望みだ?」
「このメシマズ世界を滅ぼしたい!」
「同士!」
ガシッと握手する。一瞬で魔王と仲良くなった。
ちなみに魔王は羊みたいな巻き角が生えた黒髪赤目のショタだったよ。ショタは守備圏外だ。残念無念。




