ジャージのアイデアを売りました
アンナちゃんにまた来ると告げて退席。エリザに冷蔵庫とか提案しながら宿に移動する。そのうちパーティーハウスを買う予定もあるそうだ。お金がたくさん掛かるね。確か保存ボードとか言うのも買うんだよね。
どちらも同じくらいの価格らしい。保存ボード高いな! まあ入れた物が腐らないそうだし冷蔵庫より便利だから高くても仕方ないのかな。でも冷蔵庫なら熟成もできるのに。
「そう言えば私って皆のパーティーに入れてもらって良いのかな?」
「もちろんよ!」
「もうパーティーだと思っていたけどな、俺は」
「えっ」
「なんだそのえっ、は!」
「図々し……いや、何でもないよ、気にしない!」
「図々し、まで言うなら最後まで言えよ!」
「図々しいなあ」
「本当に言ったー!?」
言えと言ったり言うなと言ったりどっちなんだい?
まあ私もうっかりこのパーティーに馴染んでいたけど。やっぱり挨拶は必要だよね。
「これからお世話になります。サンと呼んでください」
「よろしくね!」
「頼んだ」
「サンはポーターとしても料理人としてもとても頼りにしている。よろしく頼む」
「……全く。よろしく頼む」
これで私も正式にこのパーティーの一員となれた。しばらくは冒険者として料理を広めたりしよう。いつかはお店も持ちたいけれど、優秀な従業員を雇って育てないとね。
やっぱり王道だと奴隷なんだろうか。裏切らない仲間なんてなかなか難しいよね。
それにしてもトマトも意外と高かったし一つ小さい銀貨一枚になったからね。売値でそれだから買値は更に高いはずだ。小銀貨一枚で服が買えると言ってたから少なくとも三倍の値段はするだろう。服三着で二十センチくらいのトマト一個か……。魔物だから傷みにくいらしいけど使い勝手悪そうだし切り売りとかは流石にしないだろうし、この世界のご飯は本当に大変そうだ。
宿では小さい銀貨一枚で泊まれるらしい。ご飯は別だけど。トマトの木にはトマト五つくらい生ってたから一匹で五日泊まれるな。ご飯は一食大銅貨三枚。九百円くらいかな? セットでボリュームもあるから安いかも。
ちなみに小銅貨一枚が一グリン、小銅貨十枚で大銅貨、十枚毎に小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨と変わるようだ。
金貨は一般にはほとんど使わないみたいだね。仮に小銅貨一枚三十円とすると小金貨で三十万円になるもんね。そりゃ使わないわ。トマト一つは買値で約一万円……。メロンかよ。そりゃメシも不味くなるわ。
ちなみに宿では薬草スープとかオーク肉の塩焼きとか出てきた。試しに食べてみたのだがしょっぱくて不味い。一応魔物肉は柔らかいが血抜きの不手際か保存の不手際か臭い。
料理をどこでやろうかな……。加工とかも場所が必要だし。やっぱり野でやるしかないのかな。
冒険者用の高級な宿には料理も作れるキッチンがあるし燻製施設まで備えている所もあるそうだ。お金が必要だね。
さて、この後はエリザとお買い物である。まずは服屋でジャージを作ってもらおう。流石にファスナーは無さそうだからすっぽり着るタイプで。普通の服はめんどい。女としては終わってるけどね。冒険者なんだからジャージで。
服屋さんはエリザの馴染みの店らしい。うーん、けっこう大きいお店だ。看板には「フクール・シェスタ店」と書いてある。フクール……。服売る?
昔の勇者が名付けたんだろうか? チェーン店らしいし有り得る。
エリザは店を見上げている私を見てクスクス笑いながら店に入っていく。私もそのヨーロッパ的な装いの店を見上げたまま入って段差に躓いた。バリアフリーはこの世界にはまだ無かったようだ。
「ミレーナさーん」
「あら、エリザちゃんいらっしゃい! その後ろの娘は……大丈夫? 派手に転けてたけど」
「……丈夫なので平気です」
鼻は痛いが、受け身はギリギリ取ったので鼻だけで済んだ。胸? 当たるものがなかったわ。はっはっは。笑えよ、カインリーダー……。居ないけど。
「珍しい服を着てるのね、あらあらまあまあ」
「ジャージ珍しいですか?」
「ジャージって言うのね。この服のここ、どうなってるのかしら?」
「ファスナーですね」
恰幅の良い四十後半から五十代に見えるおば様が、ジャージを見てあらあらまあまあ言っている。ファスナーを下ろしたら驚いて更にあらあらまあまあやりだした。
「こんなに細かい細工は錬金術師の先生に頼まないと無理そうね」
「ファスナーを付けないタイプのジャージもありますよ」
「あらあらまあまあ。ねえ、このジャージのアイデアを売っていただけないかしら?」
「こんなもので良ければ。ついでに私のも幾つか作ってくれますか?」
「良いわよ! これは冒険者向きにも売れそうね」
「寝間着にもなる優れものです」
「あらあらまあまあ」
儲け物だ。自分のアイデアではないが別に売っても良いよね。ジャージ欲しいし。しかしあらあらまあまあが気になる。
「アイデア料だから売れた分だけ利益になるわよ? 最初の二着は無料で貴女に作ってあげるからね」
「あらあらまあまあ、良かったねサン」
「あらあらまあまあ、エリザったら移ってるよ口癖」
「サンもね」
「あらあらまあまあ」
なんか人の癖って移っちゃうよね。あらあらまあまあ。
服は作ってもらえることになったのでその後はサイズを測られたり下着も見られたし靴も見られた。ずっとあらあらまあまあ言われて耳に残っちゃったよ。あらあらまあまあ大変だ。




